丸一年守り通した皆勤賞のこと、後で先生にしなければならない言い訳、そんな事は、今の
彼の頭にはこれっぽっちも残っていない。胸騒ぎがする、すごく悪い予感がする、ただそれだ
けでアーサーは、ユエリの住んでいる教会までの道を全力で駆け抜けた。
「ユエリ・・・ユエリ！」
心の中で何度もそう思いながら走るアーサーはやがて教会への最後の角を曲がる。そして
アーサーは息を切らしながら足を止めた。
「・・・・・・？」
教会に隣接する司祭の家は玄関の扉が開きっぱなしになっていた。しかも教会の前庭には、
ここにはおよそ似つかわしくない、十人は乗れそうな黒塗りの大型ワゴン車が止めてある。
そして家の中からは、複数人の気配が感じられた。
「何かヤバい！」
そう思うやアーサーは家のドアをくぐった。中はひどく荒らされている。しかも廊下には、見知
らぬ男が一人倒れこんでいた。
「こいつは・・・」
アーサーは男のことを覗き込んだ。土足で上がりこんでいることから当然客ではない。しかも
防護服に覆面なんかをつけているところを見ると、ただの物盗りでも絶対にない。
「ユエリ！いるか！！」
大声でアーサーは叫んだ。するとそれに呼応するかの如く、上の階からズカズカと階段を降
りる足音が聞こえてくる。
「誰だ！」
階段の途中で立ち止まり、アーサーを見下ろしながら相手は言った。覆面をしていて素顔は
見えないが、年齢は二十代から三十代前半と思われる、ガッチリとした体つきの男である。
アーサーはその、侵入者にしか見えない男を睨みつけ、そして叫んだ。
「この家の人はどうした！」
「なんだあ？」
覆面の穴から、奇妙な物を見るような目を男は覗かせた。そんな男の後ろから、さらにもう
一人の足音が聞こえてくる。
「おいどうした？」
前の男よりさらに少し大柄な、やはり覆面をした男が後ろから言う。だがその男を見た瞬間、
アーサーは目を見開いた。
「ユエリ・・・！」
その男が肩に荷物のようにしょっていたのは間違いなくユエリだった。手は後ろ手に縛られ、
ぐったりしていて意識があるのかどうかはアーサーの位置からでは分からない。けれど彼女
のそんな姿を見た瞬間、アーサーは腹の底から声をあげて叫んでいた。
「何やってんだこのバカ！」
と・・・
「・・・・・・？」
アーサーの言葉に男達は呆気に取られた。けれどアーサーは構わず罵りの言葉を続ける。
「散っ散ヒトのことコケにしておいて、挙句がこれかよ！」
「情けないったらありゃしない！」
「よくそんなんで大口叩いてられたな！」
「やっぱり僕に勝ったのはマグレなんじゃないかよ！」
「さっさと顔洗って出直して来い！」
完全に言いたい放題である。そんなアーサーに、侵入者２人の目は点になる。
「なんだ・・・あいつ？」
「さあ・・・こいつの彼氏・・・とかですかねえ・・・」
「・・・・・・誰が・・・・・・・」
「ん？」
急にボソと聞こえてきた声に男二人は顔を見合わせる。
「お前・・・何か言ったか？」
「いんや？」
「なら・・・」
より大柄な方の男がそう言いかけた次の瞬間、至近距離から頭突きを喰らった彼の身体
は階段を転がり落ちていた。
「誰が誰の彼氏ですって・・・」
「貴様！意識を！」
もう一人の男はそう言いながら慌てて懐からナイフを取り出す。しかし一瞬にしてそれを
蹴り払われると、さらに次の瞬間には彼も階段から転がり落ちていた。
「あ、あだだ・・・」
転がり落ちた二人組みは頭を抱えながら立ち上がろうとする。けれど二人とも、背後から
延髄目がけて見舞われた強烈な蹴りを喰らうと、完全に失神してしまった。
「まったく・・・万死に値する暴言だな。」
言いながらアーサーは階段を上ると、足元に落ちていたナイフを手に取った。
「縄、切ってやるよ。」
ぶっきらぼうな声でアーサーは言う。その言葉に、ユエリは珍しく素直に腕を差し出した。
アーサーは器用にナイフを使い、すぐにユエリの拘束を解く。しかし彼がその直後に受け
たのは、ユエリ渾身の「頭突き」だった。
「うぐ・・・」
「よくよく好き勝手言ってくれたわね・・・ヒトが気を失ってると思って！」
「な・・・だって事実だろうが事実！」
額を右手で押さえながらアーサーが反論する。
「まったく・・・心配になって来てみたら・・・」
「心配？・・・・・・あなたが・・・？」
「ん？あ、いや・・・」
アーサーはプイと視線をそらした。
「ごめん・・・ありがとう・・・」
「あ、ああ。」
後ろから聞こえてきた声に、アーサーは小さな声でそう返事をした。けれどそれからすぐ、
ユエリの声は切羽詰ったものに変わる。
「アーサー！この家にいたのってこいつら三人だけ！？」
「あ、ああ。とりあえず他に人の気配は無かったけど・・・」
「！！十人はいたのに・・・まさか！」
アーサーの返事にユエリは階段を飛び降りる。そして大声でマレジア司祭の名を叫んだ。
「・・・司祭がいない・・・アーサー！マレジア司祭見なかった！？」
「！？」
ユエリの一言にアーサーの顔色も変わった。
「教会の庭に黒いワゴン車があったぞ！」
アーサーが叫んだ。
「分かった！すぐ行く！引きとめてて！！」
「お前はどうするんだよ！」
「武器取ってくる！」
そう言うとユエリは、また別の部屋へと駆け出して行ってしまった。
「丸腰なのはこっちも同じだぞ・・・まったく人使いの荒いことで！」
右の拳で左の掌を軽く叩きそう言うと、アーサーは表に飛び出した。
「！？」
表に出たアーサーは、いきなりワゴン車に乗り込もうとする男と出くわした。背格好は
さっき、家の中にいた連中とほぼ同じでフルフェイスのヘルメットをかぶっている。
「司祭はそこか！」
とっさに口から勝手に出た出まかせだった。けれどその言葉にサングラスの男は反
応し襲いかかってくる。
「チッ・・・」
アーサーは相手の突きを中段の回し受けで捌くと、サッと横に回った。
「！？消え・・・」
「アホか！」
敵の姿が視界から消え、あわてふためく相手に対し、アーサーは即座に膝蹴りを叩き
こんだ。
「まったく・・・メットしたままマトモに戦えるワケないだろうが。」
うずくまる相手を見下しながらアーサーは言った。
（しかし・・・こいつら一体なんなんだ？とりあえず、調べてみるか・・・）
そう思うとアーサーはうずくまる相手の首筋を抑えると手刀を叩き入れ、完全に気を失
わせた。そしてそれとほぼ同時に、家の方から、両手にロッドを持ったユエリがやって
来る。
「なんなんだ？こいつら・・・何か、知ってるか？」
駆けつけたユエリにアーサーは尋ねた。
「分からないわ・・・締め上げれば、何か分かるかもしれないけど・・・」
「そうか・・・んじゃあ早速・・・」
しかしそう言いかけるアーサーの肩を、ユエリはグッと掴んだ。
「来るわ・・・」
「来るって・・・！」
アーサーはそこで口を止めた。彼ら二人に対し、教会の中から六人、今まで倒してきた
相手の仲間が湧き出してくる。
「この小娘！」
「麻酔弾で眠らせたんじゃなかったのか！？」
「しかも一人増えてるじゃねえか！」
口々に彼らは言った。そんな彼らの接近を前に、ユエリとアーサーは言葉を交わす。
「私が４人であなたが２人・・・これでＯＫ？」
「却下。」
「それじゃあ５対１？ずいぶん自信ないのね。」
「違う。」
苦々しい顔でアーサーは言った。
「そう・・・じゃあとりあえず３：３で・・・」
「いや・・・１人が３人ずつじゃない・・・２人で６人だ。オフェンスは任せる。」
「へえ・・・」
アーサーの提案は、ユエリにはかなり意外だったらしい。
「大丈夫？私・・・速いわよ。」
「ついてってみせるさ・・・」
「・・・・・・いくわよ！」
「上等！」
そう言うと二人は、眼前の敵群に向かっていった。
「まず頭を潰す・・・向かって右から二番目のヤツだ！」
「分かってる！」
アーサーの言葉にそう返すと、ユエリは一歩先行した。相手の６人、その中でリーダー
格と思しき相手に狙いを定め突撃するユエリ、そんなユエリ相手に、男は懐から拳銃型
の小型麻酔銃を取り出した。
「もう一度眠れぇ！」
「冗談！」
言いながらユエリは左のロッドで麻酔銃を弾き飛ばし、右のロッドで、相手の喉仏を突く。
「ぐふぉ・・・」
「トドメっ！」
呼吸が止まり苦しそうな相手のみぞおちに、ユエリは休むことなく右ひざ蹴りを入れる。
そしてトドメにもう一発、頭部にロッドの一撃を入れると、相手は完全に気を失った。
「アーサー！」
ユエリは後ろを向いた。見るとアーサーは、３人の敵を相手に攻撃を防いでいる。そん
な敵を相手に、ユエリのロッドが再び唸りをあげた。
「ぎゃっ！」
「ぐかっ・・・」
アーサーに気を取られていた彼らに、背後から来た突然の攻撃を対処する暇はない。
左右のロッドの一撃ずつで、彼らのうち２人は一瞬で叩き伏せられ、残る一人もユエリ
に気を取られた瞬間、アーサーの放った裏拳からハイキックのコンビネーションで地面
に倒れ伏した。
「これで、あとは２人と・・・」
ユエリとアーサーはそう言って残る面子を威嚇した。数の有利が一瞬で無くなってしま
った彼らの顔が青ざめているであろうことは、覆面越しにも余裕で察することができる。
そんな空気を感じ取ってか、彼らはチッと舌打ちをした。
「取るべきモンはもう取ってるんだ！引き上げるぞ！」
「ああ！」
２人は前にあるワゴン車目がけて走り出そうとした。しかしユエリとアーサーが、そんな
彼らの行く手を塞ぐ。
「・・・逃がすわけないでしょ・・・」
「降伏するなら、警察に引き渡すまで暴力はしない・・・どうする？」
「るせえ！」
「ガキどもが・・・調子に乗るなぁ！」
アーサーとユエリの言葉に、彼らは完全に逆上した。ポケットから刃物を抜き、アーサー
らを挟み撃ちにするような格好で切りかかる。
「やれやれ・・・予想通りだ！」
アーサーは前に一歩踏み込みながら、相手の突き刺しに対し身体を少し横にずらして
かわした。そしてそんなアーサーの体勢は、そのままカウンター気味のショルダータッ
クルとして相手の顔面に当たり、脳を揺らす。
「タイミングと連携・・・まるでなっちゃいないわね。」
ユエリもまた、アーサー同様に嘲りの言葉を吐きながら、頭上に振り下ろされた短剣を
ロッドで受け止めた。
「そんなんじゃ、私の命は取れないわよ！」
睨みながらユエリは言うと、防御に使っていた二本のロッドを下に振り下ろす。短剣を
力ずくで振り下ろそうと下方向に目一杯力を入れていた男は、急に自分の「支え」が無
くなると体のバランスを崩し前のめりに倒れ、そして倒れかけた所でユエリの膝蹴りが
相手の顎先を蹴り上げた。
「ぐわ・・・」
「うぐ・・・」
それぞれがカウンターの一撃を喰らった敵の足がフラつく。そんな彼らに対し、アーサー
は身体を滑り込ませ一本背負い投げの姿勢をとり、ユエリは自身の両腕で相手の両肘
間接を極め、身動きできなくさせた。
「ユエリ！合わせろっ！」
「上等！」
アーサーの掛け声にユエリも答えた。そしてアーサーは、ユエリのいる方向目がけて敵を
全力で投げ飛ばす。
ゴッ
直後、鈍い衝突音が響いた。全力で投げ飛ばされた男とそれに頭からぶつかった男、彼ら
２人はそれで、完全に気を失った。
「これで全員か。ま、楽なモンだったな。」
服についた埃を払い落としながらアーサーは言った。
「そうね・・・って司祭！」
言うやユエリは慌て顔で彼らのワゴン車に駆け寄った。しかし中から人の気配はするもの
の、鍵がかかっていて開けることができない。
「鍵する方が悪いんだからね・・・」
ユエリはそうつぶやくと、ロッドで窓ガラスを叩き割った。
「司祭！」
ドアを開け、マレジア司祭の姿を見ると、ユエリは安堵の声をあげた。気は失っているよう
だが、呼吸もしているし命に別状は見られない。ついでに彼女の孫、ピーターも気絶した
状態で中にいたが、それについてはユエリは気にもとめなかった。
「よいしょっと・・・」
ユエリはマレジアを優しくおぶると車から出た。
「アーサー、悪いけどあと少し手伝ってもらえる？」
「ああ、別に構わないけど・・・」
ユエリの頼みにアーサーは即答した。しかし、意識が戻った彼らのうちの１人が、２人を
見てクククと笑う。
「おめでたいモンだな・・・」
「・・・？」
「俺らは第一陣だ。第二陣もあるんだよ・・・人数は俺らと同じだが、俺らよりも強い先輩
方で構成されたなあ！」
「・・・どうするよ・・・なんか言ってるけど。」
「叩きのめすしかないでしょ。」
呆れ果てた声でユエリは言った。
「ケケケ・・・強がるのも今のうちだ・・・俺らの帰りが遅いから、もうじきここに来るぜえ・・・」
と、そこまで言いかけたところで男の懐から、無線機の呼び出し音と思しき音が聞こえた。
「なんで無線機・・・携帯電話全盛のこのご時勢に・・・」
驚き半分、あきれ半分の顔でユエリが言う。
「たぶん、盗聴されないようにだろうな。周波数を小まめに変えれば防止できるから。」
「なんでまたそんな・・・」
「さあね・・・単なる誇大妄想か・・・それとも、母体は本当に危険な集団なのか・・・」
「ククク・・・これで形勢逆転だな。」
話をする２人を横目に見ながら、ニヤついた笑みを浮かべた男は無線機を手にした。
「ハイ、こちら第一部隊・・・へ？」
無線機の向こうから女性の声が聞こえてくると、男の表情は一変した。
「あ？第一部隊さん？第二部隊は全滅しちゃいました〜。よって救援は不可能ですぅ〜。
どうぞぉ？」
「な・・・」
「『アンチェイン』を自称する、すっごく可愛い女の子一人に、完膚なきまでに叩きのめされ
ちゃいました〜」
「・・・ユエリ・・・無線の向こう側から聞こえてくるあの声って・・・」
「・・・たぶん・・・て言うか間違いなく・・・」
アーサーとユエリは、そう言って顔を見合わせため息をついた。その間も、無線の会話は
２人の耳にひっきりなしに飛び込んでくる。
「貴様・・・何者だ！お前がその『アンチェイン』なのか！？」
「ま、そ〜ゆ〜こと！」
「そんなバカな・・・て言うかお前が一人で！？先輩方を！？！？！？」
「ま、ね。余裕余裕。あ、代わろうと思っても無駄よ。今頃きっとランチタイムだろうから。
取調室でカツレツのね。」
「き、きっきっききき・・・」
「あら〜？さっきまで人と喋ってたつもりなんだけど・・・いつの間にかサルと代わった？」
「貴様ぁ！今どこにいる！！」
「どこにって・・・」
無線の話し相手がそう言った次の瞬間、男の上に屋根からドサと、柔らかいものが落ちて
きた。
「強いていうならあんたの上なんだけど、分かるかしら？」
「姉さん！」
目の前にいるシェリーの姿に、アーサー達は改めて驚きの声をあげた。
「もしもし？もしも〜し・・・ダメね。通じなくなっちゃったみたい。」
シェリーはそう言って電源を切ると、スクと立ち上がった。
「姉さん・・・なんでここに・・・」
「そりゃまあ、第六感ってヤツよ。アーサー、アンタが授業サボってここに来てるってのは
さすがに予想外だったけど。」
言うとシェリーはニヤリと笑った。
「て言うか姉さんいつから・・・いや、そもそもなんで屋根の上に・・・」
「そんなの決まってるじゃない。主役は高台からやって来るものなのよ。」
「・・・そうなの？」
不思議そうな顔でユエリは言った。そこでアーサーはまた一つ、ため息をつく。
「まあ、世の中にはそういう嗜好が無いことはことはないけど・・・姉さんの場合、むしろ何
とかとケム・・・ぐかっ・・・」
言葉の途中でアーサーは急にうずくまった。
「あら？どうしたのアーサー？もしかして、誰かにみぞおちでも殴られた？」
「ほ、ホントに・・・」
白々しいセリフを吐く姉に、アーサーは何か抗議しようとした。けれどシェリーは、そんな
弟を無視してユエリの方を見る。
「でも、あんた達けっこう良い連携してたじゃない。」
「そ・・・そう？」
「ええ、特に最後のコンビネーションなんか。アンタらが、何のかんの言って仲が良いって
言うか相性がいいことがよく分かったわ。」
「「違う」」
全く同じタイミングで、２人はシェリーに反論した。そのシンクロ加減も、シェリーにとって
は笑いのタネになる。その空気を感じ取り、アーサーは話題を変えた。
「それで姉さん・・・姉さんが倒した相手ってのはどうしたのさ？」
「とりあえず警察呼んで押し付けて逃げた。」
「お、押し付けたって・・・」
「だぁ〜って面倒くさかったんだもん。なんか教会に先行部隊が行ってるって話だったし。
お巡りさんも全部自分の手柄にしたら、ポイント稼げるんじゃない？連中、ナイフだの
バールだのヤバそうな物いろいろ持ってたし。」
シェリーはそう言うと、カラカラと笑った。
それから三人は気を失っている司祭をベッド寝かし、侵入者を拘束した。さてこれからどう
しようかと話し合っていると、意識を取り戻した司祭が三人のいるリビングへ入ってくる。
「ユエリ・・・シェリーさん・・・それにあなたは・・・」
「シェリーの弟、アーサーと言います。はじめまして。姉がお世話になっております。」
「あらあらシェリーさんの弟さんでしたか・・・ユエリから名前は聞いたことがあるのですが。
申し訳ありません、皆さんにはいろいろと、ご迷惑をおかけしたみたいで・・・」
気を失っていたと言えど周囲の状況を見れば何が起きたか想像がついたのだろう。マレジ
アは三人に深く頭を下げた。
「ユエリ、警察へは・・・」
「まだ連絡していません・・・電話線が切られていたもので。」
「あ、それなら私、携帯電話持ってるわよ。」
２人の話を聞き、シェリーはポケットから携帯電話を差し出した。
「ありがとうございます・・・えっと使い方は・・・」
「あ、１１０を押して・・・これが発信で・・・はいどうぞ。」
そしてシェリーはもう一度、携帯電話を差し出した。
警察とマレジアの話はすぐに終わった。話し終えるとマレジアは携帯電話をシェリーに返し、
三人を見る。
「ユエリ、それとアーサーさんは今からまた学校に行きなさい。今からなら４時間目の授業は
間に合うでしょう？シェリーさんも、しばらくここから離れていただけませんか？」
「え？でも・・・」
「今日の午後四時に、またここに来てください・・・警察には私から適当に話をしておきます。」
静かな、しかし有無を言わせぬ口調でマレジアは言った。
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