--------------------------------------------------------------------------------------
「うん・・・うん、そういうことだから、パパが警戒怠るなって。・・・え？来なくていい？ま、そう
つれないこと言いなさんなって。どうせ来るなって言われても行くんだし。んじゃまた後で。」
一方的にそう言うとシェリーは電話を切った。
「そんじゃ、ユエリのアポも取ったし行きますか。」
「・・・取れてた？今ので。」
隣にいたアーサーが少し呆れた調子で言う。
「いいんじゃない？とりあえず通告はしといたってことで。」
笑いながらシェリーが言う。そんな二人のやり取りを遠目に見て、マークはニコと笑った。
「相変わらず仲良さそうだな。」
「ええ・・・」
話をふられたリビアは苦笑まじりにそう答えた。それを見てマークは席を立ち、アーサーに
声をかける。
「アーサー。」
「はい？」
「これはオレの直感だが・・・今シェリーが言っていたユエリってのが、お前が道場で話して
いた相手か？」
「！！・・・なんて言うか・・・信じられない勘してますね。」
心底おどろいた顔でアーサーが答える。そんなアーサーに、マークは「年季が違うさ」と笑っ
て答えた。
「どんな顔してるか、見てみたいモンだな。」
１００％興味本位でマークが言った。すると横からシェリーが割って入る。
「うん、一度会うことをオススメするわよ。なんてったって、平行世界から来た私たちの異母
兄弟だもん。」
「・・・平行世界？・・・・・・異母兄弟？？？」
「うん。もっと具体的に言うと・・・」
「シェリー、アーサー、行くぞ。」
玄関から少しイラついたエヴィンの声が聞こえてくる。それを聞くとシェリーたちはあわてて
方向転換した。
「ま、細かいことは後で話させてもらうわ。それじゃよろしく！マークさん！」
「ああ、任せとけって。二人とも、親父にいらん手間かけさせるんじゃねえぞ！」
マークはそう言って、早足で歩いていくシェリーとアーサーを見送った。
「ダークファルスとドンパチ二度やって、今度は平行世界だあ？・・・つくづく厄介事に巻き込まれ
てんなこの家族・・・って、よくよく考えたらウチもヒイ爺さんから始まって似たようなモンか・・・」
心の中でそうつぶやきながら、マークは自嘲気味に笑った。
--------------------------------------------------------------------------------------
「まったく・・・一方的にも程があるわよ。」
電話を切られたユエリはそう言ってため息まじりに受話器を置いた。
「でもマレジアさん、たしかにシェリー・・・って言うよりエヴィンの言うとおりかもしれない。連
中、今晩もう一回ここに来るかも・・・」
「たしかに、ありえる話だな・・・」
ユエリの話を横で聞いていたピーターが頷く。だが、他人事のようにそう言うピーターを、ユ
エリはムッとした目で見た。
「あなた・・・そもそも事の発端は自分だっていう自覚ある？」
「・・・・・・」
ユエリの言葉にピーターは不満げな視線でこたえる。そして二人の間に一触即発の空気が
流れたまま、いくらかの時間が過ぎると「パン！」という乾いた音が遠くから聞こえてきた。
「何？今の音！？」
「銃声だ！間違いねえ！」
血相を変えてピーターが叫んだ。
「しかしこんな街中で銃だと！？一発で罪が重くなるぞ！相当常識の無いヤツが来たか！？」
ガタと音を立ててピーターが立ち上がる。その間にも銃声はさらに数発続き、そして周囲の
住民の悲鳴も音に加わっていった。
（どうしよう・・・）
外の騒ぎ声に、ユエリはすぐにでも駆け出して行きたい衝動に駆られた。敵がいる、敵が自
分達のいる場所に押し寄せようとしている、外には怪我人がいるかもしれない、応急処置程
度のことなら、自分でも十分にできる。外に出てできることはあるが、これが敵の陽動だと
いうことも分かっている。
（今、私にできることは・・・）
自分に言い聞かせながら、ユエリはツインロッドを手に取った。
「迎撃に出るつもりか？罠だぞ。」
武器を持ったユエリを、意外そうな目で見ながらピーターが言う。
「玄関で様子を見るだけよ・・・あなたは司祭さんと一緒に、中で待ってて。」
ユエリはそう言うと、ピーターの制止も聞かず飛び出して行った。
「小娘が・・・好き勝手しやがって。」
イラついた声でそう言うと、ピーターは再び椅子にドカと腰を下ろした。そんな彼の視界に、祖
母の姿が入る。
「・・・・・・・・・」
マレジアは無言のまま、意外なほどに落ち着いていた。手には、本物のシンボルマークが握
られている。ピーターが、文字通り喉から手が出るほど手に入れたがっていたものだ。
（今なら邪魔はいねえ・・・）
この状況に、彼の欲望は再び芽を出し始めた。彼の右腕がピクリと動く。と、それとほぼ同時
に、マレジアは席を立った。
「婆さん？」
どこに行くのかと思ったピーターだったが、その答えはすぐに分かった。自分の所だった。マレ
ジアはピーターの前に来ると、手にしていたシンボルを音も立てずにピーターの前に置く。
「婆さん・・・？」
「ピーター、あなたがこれを持っていてくれませんか？」
「え？」
虚を突かれたピーターは、ゴクリとつばを飲んだ。
「正気かよ婆さん・・・猫に魚の番をさせるようなモンだぜ・・・？」
「ええ。」
穏やかな笑みを浮かべながら、マレジアはコクリと頷く。
「だから逆に、彼らもあなたが持っているとは思わないでしょう。」
「・・・・・・」
「いざとなったら、もって走ることもできるでしょうし。」
「・・・・・・」
「お願いしていいかしら？」
「・・・分かった・・・」
そう言うとピーターはシンボルをズボンのポケットに入れた。
--------------------------------------------------------------------------------------
「やっばぁい・・・なんか始まってるよ！」
エヴィンらが現場のすぐ近くに到着したのは、銃声が響くのとほぼ同時のことだった。一発の
銃声で、三人の顔色が変わる。けれどエヴィンの関心は、銃声その物よりも音の方向から来
る気配そのものにあった。
「（この雰囲気・・・この感覚・・・）シェリー！アーサー！！」
「「なに？」」
異口同音に二人が言う。
「絶対に、パパのそばから離れるんじゃない・・・近くに、危険そうなのがいる・・・」
そう言うとエヴィンは即座に駆け出した。
「ちょっ・・・言動不一致なんですけどぉっ！」
四十代半ばとは思えないスピードで駆け出すエヴィンにシェリーとアーサーは慌てた。それで
も二人は、とりあえず父の後をついていく。そんな二人をうしろに従え、エヴィンは角を一つ
曲がる。そこには、二人の警察官が向き合っていた。一人の表情は見えないが、後姿から察
するに年は三十代中盤、対面しているもう一人の警官は五十代前半というところだろう。年配
の警官は完全に慌てふためいているのが、エヴィンたち全員から見て取れる。
「お、おい！リッツ！」
「・・・・・・」
中年警官の声にもう一人の、リッツと呼ばれた警官は何もこたえない。そして無言のまま、腰
にさげてある拳銃に手をかけた。
「リッツ！貴様上司に銃を向けるとは何事のつもり・・・」
（くっ・・・間に合え！）
そんな二人からまだ数メートルは離れている場所で、エヴィンは右腕を突き出した。
（ワイヤーモードっ！）
エヴィンが生まれたときから持つ闇の力、それが長いワイヤー状になって掌から放たれた。
闇夜の中で放たれた黒色形の闘気、しかもエヴィン自身が陰になっているので後ろにいる
二人からはそれは視界に入らない。闇のワイヤーは瞬時に拳銃を持った腕に絡みつくと、
腕を地面に向けて固定させた。
「・・・・・・？」
拳銃を持った警官は無言のまま、押さえつけられた機械的に腕を上げようとする。だが彼が
そうしている間に、エヴィンは彼のすぐ後ろに近づいていた。そんな状態からエヴィンは、両
手の拳をまるで剣を持っているかのような形にし、警官の背中に押し付ける。
（狙うはコントロール部分のみ・・・ゼロ射程セイバー！）
「・・・・・・・・」
闇の力が身体を突き刺すと同時に、警官の動きが止まった。全身から力が抜け、ガクリと
その場に膝をつく。そして彼の胸元から、黒色の鶏卵のような物がポトリと落ちた。
「あれ・・・部長？」
すぐに意識を取り戻したその警官は、不思議そうな目で眼前にいる警官を見る。だが、そん
な彼を待っていたのは、彼が部長と呼んだ警官の拳骨だった。
「いきなり殴ることないでしょう部長！」
「黙れ！お前こそいきなり上司に拳銃を向けるとは何事だ！」
「け、拳銃・・・？」
まるで他人事のような口調でリッツは言う。すると『部長』はまた怒鳴った。
「そうだ！」
「・・・お取り込み中恐縮ですが・・・」
二人の堂々巡りにしびれを切らし、エヴィンが割って入った。
「この地域で警戒中の警官はどこに何人配置されていますか？」
丁寧な口調でエヴィンは部長にたずねた。部長はそんなエヴィンに戸惑いの様子を見せる。
「君は・・・民間人か？」
「ええ。」
「ならばこの一帯の警備状況など話すわけが・・・」
「いえ、話していただきます。」
静かな、しかし凄みの入った顔と声でエヴィンは言った。エヴィンのその気迫に、警官たちは
一瞬で気圧される。二人は間もなく、周辺の警備状況を喋りだした。
「ねえアーサー。」
エヴィンと警官のやり取りを見ながらシェリーが言う。
「今・・・パパが何したか分かんないけど警官の人から何か落っこちて、あの人正気に戻った
わよね？」
「うん、たしかにそう見えたけど・・・」
「つまり、それを埋め込んだヤツがいて、そいつが張本人ってアンタも思うでしょ？」
「そうだね・・・理屈からすれば。」
「ええ、彼らは利用された陽動・・・私は先に張本人の所に行ってるわよ！教会でマトモに
戦えるの、ユエリしかいないし！」
「え？ち、ちょっと姉さん！？・・・父さん！」
「っ・・・シェリー！」
アーサーの言葉にエヴィンは即座に反応し、闇のワイヤーを出した。しかしそれがシェリーの
足首を捉えようとしたその瞬間、シェリーはパッと足を引いてそれをかわす。そしてそのまま
走り去ってしまった。
（完全に死角からだったが・・・偶然か？・・・いや、かわしたんだ・・・本能的に、後ろも振り返
らずに・・・）
心底意外そうな顔を浮かべながらエヴィンは思った。その顔には、感心にも似たものが少し
見える。
「父さん・・・どうするの？追いかける？」
「いや。」
「アーサーの問いにエヴィンは首を横に振った。」
「今は、周りの騒ぎを被害者が出る前に食い止めるのが先決だ。それに・・・」
「それに？」
「あれは滅多なことじゃやられそうにないしな。情報は教えてもらった。行くぞアーサー。」
そう言うとエヴィンは再び走り出した。
--------------------------------------------------------------------------------------
教会の前に一人の男が来ていた。年齢は二十代後半で身長１７０ｃｍ強、やや痩せた体格で
ある。髪の色は深い蒼で、前髪は眉、後ろ髪は首筋に届く程度に長い。黒いローブを身に着
けたその男は、付近の騒ぎ声を耳にしながらニヤリと笑った。
「さあて、武装した警官を使った陽動も済んだし、手下にも街の混乱の助長その他させるよう
指示もした。これで・・・」
「・・・これで、どうするつもりなのかしら？」
そう言って男の前に立ちはだかったのはユエリだった。二本のロッドを構え、鋭い眼光で目の
前にいる相手を睨みつけている。
「・・・君が、朝の部隊を返り討ちにした一人ということですか・・・」
ユエリを小ばかにしたような笑みを浮かべながら男は言った。
「ええ・・・そして今は、あなたを返り討ちにする！」
「！！」
その言葉とともにユエリは踏み込んだ。自分の予想を上回るユエリの速度に、男は大きく後退
する。
「逃がさないっ！」
ユエリは跳躍し、そのまま蹴りを放った。男はそれをも何とかかわしながら、ローブの中に腕を
入れる。
「あなたに関わっている暇は無いのでね！」
言いながら男は、ローブの中から取り出した小さな金属片のような物を宙に投げた。
「！？」
男が投げた金属片は、空中で強い光を放ち始めた。ユエリは片手で光を遮りながら、何とか
それを見ようとする。だが間もなく発光はおさまり、それと引き換えにユエリの前には一人の
異形の者が立っていた。茶色いフードつきのローブに薄汚れた黄緑色のマント、そしてガス
マスクのような仮面に銀色の杖・・・おとぎ話に出てくる悪い魔法使い、それをそのまま形に
したような相手だった。
「何？これ・・・」
目の前に突然現れた相手にユエリは息を呑む。
「次元の剣の破片を使い召還した！お前の相手はこの『カオスソーサラー』だ！」
「な・・・ふざけ・・・」
しかし、敵を追おうとするユエリの前に、カオスソーサラーは立ちふさがった。
「邪魔をしないでっ！」
眼前の敵めがけ、ユエリは左のロッドを思い切り振り下ろした。しかしその瞬間、敵の姿はユエ
リの視界から消える。
「！？」
ユエリは周囲を見回した。そして自分のいる場所から５、６メートル離れた教会の前庭に相手が
いるのを確認すると、ユエリは相手に向かい駆け出して行く。
「今度は・・・逃がしはしない！」
しかしユエリが敵に追いつくより先に、カオスソーサラーは杖を上空に振り上げた。そしてそれ
と時を同じくして、ユエリの足元の地面が赤く変色し熱を持つ。
「えっ！？」
異変を感じたユエリは咄嗟に身体をひねり、大きく飛びのいた。そして次の瞬間、地面が破裂
するかのように起きた爆発と炎がユエリを襲った。
「うぅっ！」
咄嗟の跳躍で直撃は避けたユエリだったが、元よりその程度で完全に防ぎきれる攻撃ではない。
爆発の威力に巻き込まれ、ユエリはかなりのダメージを受けてしまった。衝撃に弾き飛ばされ、
教会の壁に身体を強く叩きつけられる。
「くうっ・・・わ、私を・・・」
自分の言葉で自身を叱咤激励しながら、フラついた足取りでユエリは立ち上がった。身体が熱
い、呼吸が荒い、けれどユエリは武器を強く握り締めて相手に向かって行く。
「なめるなあっ！」
「・・・・・・・・」
鬼気迫る表情のユエリに向けて、カオスソーサラーは再度杖を振りかざした。
「そう何度も！」
次に自分を襲うであろう炎を予測し、ユエリはカースソーサラー目がけ跳躍した。しかし、次に
敵が放ってきたのは、杖から発せられる無数の氷塊だった。
「！！」
ユエリは身体の前で腕を交差し、防御を固めた。跳躍し空中にいる今は、これ以上の防御を取
ることができない。完全に的になったユエリ目がけ高速で飛んでくる、何十もの拳のような氷塊、
それをほぼ全弾、ほぼ真正面から喰らったユエリは、大きく後ろに飛ばされながら地に倒れた。
--------------------------------------------------------------------------------------
「・・・結局教団から買った道具を全て使ったか・・・傀儡の魔球が五個で１２５００メセタ・・・次元
刀の破片が１００００メセタ・・・絶対に元を取り返さねば・・・」
言いながら男はクン・クンとまるで犬のように鼻を嗅ぐ仕草をした。
「こっちか・・・」
言いながら男は、礼拝堂の方へと歩いて行った。
「始まりの終わりとなる日々に」トップに戻る
オンライン小説のコーナーに戻る
トップページに戻る