目的と役割によって区分された７つのドーム型区画から構成され、それぞれのドーム自体が、
下手な都市よりも広い面積を持っている。
今から三十年前、ダークファルスにある意味導かれる形で惑星ネオアリサに接近、その後は
独立国家同士として国交を結び、交流を続けながら現在に至る。
そんなネオパルマにダークファルスを崇拝するカルト教団「深遠の探求者」の本部はあり、そ
して最高幹部の一人「パペットマスター」もそこにいた。薄暗い六畳一間ほどの部屋の中では
邪神ダークファルスを崇める祭壇が蝋燭に照らされ不気味な彩りを持ち、また室内にはお香
の渋い香りが充満している。そして祭壇の前にいる、部屋の主人と思しき者の顔は暗くてよく
見えないが、中高年の男性だと言っておけば、間違いはないように感じられた。そして彼の背
後には、まだ十代半ばと思しき髪の長い少年が立ち、パペットマスターとシェリーのやり取り、
その一部始終を見物していた。
「珍しいことをされますね。パペットマスター。」
シェリーとの戦いが終わってから少年は言った。
「あなたはいつも、傀儡にした相手はもっと極限まで使い、最後に自害させていた。情報の漏
洩を防ぎ、敵に対し心理的なプレッシャーを与えるために。それなのに今回は・・・」
少年はそこで一度言葉を止めた。しかしすぐに、自分の言葉を再開する。
「ヤルムはあなたの弟子の一人。不出来な弟子ほど、ということですか？」
「・・・・・・」
少年の言葉にパペットマスターは何も答えない。けれど、彼の醸し出す雰囲気の中に、少年
は「否定」を感じ取った。
「それでは・・・」
少年はまた、口を開きかける。と、そこでパペットマスターは初めて口を開いた。
「大木も、苗木のうちは弱い・・・」
「大木・・・ああ、ハランツのお姉さんのことですか。」
暗がりの中で少年は言った。
「たしかに、すくなくとも身体能力に関しては良いものを持っていそうでしたね。しかし・・・」
そう言いかけたところで少年はハッと何かに気づいた顔をし、口元に邪笑を浮かべた。
「なるほど・・・そういうことですか・・・よくよく貴方も、自らの呪縛から逃れられない人ですね。」
丁寧な、しかしいかにも底意地の悪そうな口調で少年は言った。
「アルケミストよ・・・手出しは無用だぞ・・・」
「了解いたしました。あのお姉さんがネオパルマに来るまで、しばし待たせていただきます。」
パペットマスターにアルケミスト（錬金術師）と呼ばれた少年は、一礼してそう答えた。
「それでは失礼いたします。本日は、良い物を見せていただきました・・・」
少年はそう言うと、静かに部屋から立ち去ろうとする。だが、そこで少年はまた、パペットマス
ターに呼び止められた。
「一つ・・・聞きたいことがある・・・」
「・・・なんです？」
「今、若い世代では牛と蛙が流行しているのか？」
「牛と蛙・・・？」
パペットマスターの問いに、少年は一瞬答えに詰まる。だが相手の言葉の意味を理解すると、
彼は思わず吹き出した。
「手人形を使用したコメディアンですよ。最近少し流行っている。・・・それでは失礼します。」
言い終えると少年は、今度こそ部屋を出て行った。
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「ピーター。」
パペットマスターの気配が消えると、シェリーは騒ぐヤルムを再び気絶させ、ロープで縛り上
げる。そして間もなく外から別の人間が近づいてくる足音が聞こえてくるとシェリーは口を開
いた。
「今のパペット何とかっていうヤツの話・・・誰にもするんじゃないわよ。」
「誰にもって・・・お前一体何を考えて・・・」
ピーターが言いかける。と、礼拝堂の扉が開いた。
「シェリー！？」
「あらユエリ。」
あっけらかんとした口調でシェリーは言った。
「司祭さんは？」
「家で休んでもらってるわ。ただでさえ緊張する夜だったし、私の手当てとかで疲れてたみた
いだったから。」
「そう。ま、それがいいわよね。そう言えば服も着替えてきたんだ。ボロボロだったもんね。あ
んたのカッコ。」
表で見たときと服装が変わったユエリを見てシェリーは言った。その言葉にユエリは無言で
コクリと頷く。
「とりあえず着替えて正解よね。もうじきアーサーも来るだろうし。ボロっちい恰好は見られた
くないでしょ？」
「・・・関係ないから。」
不機嫌そうな顔と声でユエリが言う。そんなユエリの反応にシェリーは、期待通りだと言わん
ばかりにニヤリと笑った。
「ま、戦った相手の戦力なら、たぶんあんたが相手にした方が私のより上だったし。ところで
ユエリ、あんたがさっき言ってた『中に一人入った』っていうのはこいつのこと？」
「ええ。」
シェリーの質問に、ユエリは再度うなずく。
「でも、ほんの短い間だけどこれとは別の・・・すごいプレッシャーを礼拝堂の方から感じたん
だけど・・・いったい何があったの？」
「え？いや別に。やりあったのはこいつとだけよ？」
ユエリの問いにシェリーはサラッと答えた。だがシェリーの答えに、ユエリは瞬時に顔を険し
くさせて「嘘！」と言い返す。
「あのプレッシャーは普通の物じゃなかった・・・何て言ったらいいか分からないけど・・・底冷
えするような物があったわ・・・」
「疲れてたんでしょ？」
「そんなのじゃない！」
話を流そうとするシェリーと、それに食い下がるユエリ。そしてそれを脇から「ま、そりゃそう
なるわな」と冷めた視線でボーッと見るピーター。そんな三人の空気の中、さらに数分が経
過。と、外からまた複数の足音が聞こえてきた。
「どうやら、みんな無事だったみたいだな。」
「パパ・・・」
礼拝堂の中に入ってきたエヴィンの姿に、振り返りながらシェリーは言った。
「表は、大体片付いたよ。洗脳みたいになってた警官は父さんが全員なんとかしてくれたし、
外で騒ぎを大きくしようとしていた連中も倒しといた。」
「アーサー・・・」
エヴィンの後ろから、続いて入ってきたアーサーの姿にユエリもつぶやく。そしてユエリは、
そのままエヴィンの方へ駆け寄っていった。
「ねえ・・・あなたはさっき何か感じなかった？」
「何か・・・？」
いぶかしげな表情でエヴィンが聞き返す。
「うん・・・何か底冷えのするような、恐ろしい感覚・・・」
「私は、そんなの気のせいだって言ってるんだけどね。聞かないのよ、この頑固娘が。」
ため息をつきながらシェリーが言った。
「ふうん・・・」
二人の言葉を聞きながら、エヴィンは礼拝堂の中をくまなく見渡す。それから何か、独り決
めにウンウンと頷くとシェリーの方に視線を向けた。
「帰るぞ。」
「え？あ・・・うん。」
「アーサーもだ。」
「え？いいの？」
シェリーもアーサーも、エヴィンの言葉にポカンとした顔つきになる。けれど去り行くエヴィン
にとりあえずついて行こうとするが、そんな三人の前を、ユエリは咄嗟に塞いだ。
「ちょっと待ちなさいよ・・・」
「ユエリ・・・」
睨みつけるような顔で立ちふさがるユエリを、エヴィンは心中複雑そうな面持ちで見る。
「こっちの質問に答えもせず、立ち去ろうとしないでよ・・・そりゃ、横にいるピーターあたり
あとで締め上げれば大体分かると思うけど・・・あんた達、何を隠そうとしてるの・・・？」
「・・・・・・」
エヴィンは無言のままユエリの顔を見た。そして静かに、右手をユエリの肩に乗せる。
「済まないな・・・どこから話をはじめればいいのか、僕自身もまだ分からないんだ・・・」
「・・・・・・」
「時が来たら、君にもちゃんと話す。だから・・・」
「だから・・・？」
「頼ってくれとまでは言わない・・・けど、信じてほしい・・・」
右手をユエリの肩に軽く乗せたままエヴィンは言った。するとエヴィンの手に、ユエリの肩
が震えているのが伝わってくる。
「ふざけないでよ・・・」
「・・・ユエリ？」
「ふざけないでよっ！」
肩に乗せられた手を振り落とすとパンと振り払うと、ユエリは一喝とともにエヴィンの首筋
にハイキックを放った。エヴィンはそれを、微動だにせずに受ける。鈍い音がして、エヴィ
ンの足元が少しふらついた。
「パパでもないのに、親みたいな目で私を見て・・・なんでも知ってるような顔をして・・・」
「ユエリ・・・」
「だからそんな目で私を見ないで！」
今度はユエリの平手打ちが、エヴィンの頬に飛んだ。そして感情任せにもう一回振り上げた
ユエリの腕を、アーサーが後ろから掴む。
「いい加減にしろよ！ユエリ！！」
諭し半分怒鳴り半分の声でアーサーは言った。技術やスピードはともかく、単純な腕力なら
さすがにアーサーの方が強い。手首を掴まれたままユエリは数回、涙目で荒く呼吸する。
そして息が整うと、安心で握力が弱くなってきたアーサーの腕を振りほどいた。
「ごめんなさい・・・」
頬と首筋を赤く腫らしたエヴィンに、ユエリは静かに頭を下げた。そして頭を下げたまま、上
目づかいにエヴィンの表情を見るが、その表情は無表情に近かった。怒っているのかいな
いのか、それさえもよく分からなかった。やがて、そんなユエリの頭上からエヴィンの声が聞
こえてくる。
「ユエリ・・・」
「・・・・・・」
ユエリは無言のまま、エヴィンの顔を正視した。やっぱり怒っているのか怒っていないのか
分からない。あえて言うのであれば「困っている」ような顔に見えた。
「君も・・・一緒に来るかい？」
ゆっくりとした口調でエヴィンは言った。そんな問いかけにユエリはしばらく考える。そして
やがてゆっくりと、首を横に振った。
「そうか・・・」
相変らず静かな言葉でエヴィンは言った。それから彼は瞳を閉じ、軽く息を吸いこむ。それ
から吸い込んだ息をゆっくりと吐き出すと、エヴィンは目を開き、ユエリにもう一度問いかけ
た。
「一つ、教えてほしい・・・お父さんのことは好きかい・・・？」
「好きよ・・・」
ゆっくりと、そして絞り出すような声だったが、答えそのものは即答だった。
「大好き・・・優しくて・・・でも苦しんでて・・・」
ユエリが何か話せば話すほど、声が涙声になってきているのが場にいた全員に分かった。
「わかった・・・ありがとう。」
「・・・・・・・・・」
エヴィンがそう言うと、ユエリはフラフラと、どこへともなく去って行ってしまった。
「おい・・・一体どういう関係なんだよ・・・本当にお前ら、単なるイトコや親戚か？」
「・・・もうちょっと複雑。」
エヴィンとユエリから数歩はなれた場所で、小声で聞いてくるピーターにシェリーは答えた。
「じゃあ、どういう・・・」
「言っても理解できないわよ、きっと。清く正しい、そのクセ普通じゃない関係だから。」
ピーターの問いにシェリーは素っ気無く言った。そしてそのままアーサーの方へ歩き、弟の
背中をポンと叩いた。
「なに？姉さん？」
「なにじゃないわよ。」
呆れ果てた声でシェリーが言う。
「ボケッと突っ立ってないで、ユエリのところにいってあげなさいよ。あの子、今ちょっと錯乱
してるから。」
「なんで僕が・・・」
「いいから。て言うかあの子、今なら下手すりゃ車に引かれそうだし。あ、ピーター、あんた
は司祭のところにいてあげなさいね。まだ討ち洩らしが外ウロついているかもしれないし。
最低それくらいは、なんとかなるでしょ？」
「・・・そりゃ、できるけどよ・・・」
舌打ちして不満げな口調でピーターが言う。しかし「なんでお前が仕切るんだ？」と言いかけ
た時点で妙な殺気を感じ、彼は口を動かすのをやめた。
「お前・・・こんな姉貴で苦労しないか？」
隣のアーサーに、シェリーに聞こえないような小さな声でピーターは言った。そしてその言葉
にアーサーは、ため息まじりに頷くと、ユエリを追って外に出て行った。
「そんじゃパパ、帰ろう。」
アーサーとピーターがいなくなり、ガランとした礼拝堂の中でシェリーは言った。
「ん？ああ・・・アーサーはどこに行ったんだ？」
「ユエリのとこに行かせた。」
「そうか。すまんな。」
シェリーの言葉にエヴィンは少し安心した様子で頷く。そして二人はそのまま教会をあとに
した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人はそのまま無言で家までの道を歩いていった。時間は深夜の一時過ぎ、調査中の警
官を途中で何人か見た以外に人通りはほとんどなく、その人影も教会の周囲２００メートル
ほどの区画を抜けると全くと言っていいほど無くなった。たまに犬や猫の鳴き声が聞こえて
きたり、夜風が草木を揺らす音が聞こえてくる以外、周囲に音はほとんどない。けれど二人
が小さな公園の前を通り過ぎようとしたところで、エヴィンの足はピタリと止まった。
「シェリー。少しここで話をしていかないか？」
「・・・ここで？」
「ああ。」
キョトンとした顔のシェリーに、エヴィンはそう言ってうなずく。
「いいわよ。家に戻る前に、私もちょっと、パパと話したかったし。」
そう言うとシェリーは公園に入り、古ぼけた木製のベンチに腰をおろした。エヴィンもまた、
その古ぼけたベンチに、シェリーの隣に腰を下ろす。
「お前の戦った相手・・・原理までは分からないが遠隔操作系の術者だろう？しかも、かなり
高度な技術の使い手だ。」
「・・・なんで分かるの？」
びっくりした顔でシェリーは言った。そんなシェリーとは対照的に、エヴィンは淡々とした言葉
でその理由を説明する。
「あそこでノビていた相手は、どう見ても大した使い手には見えなかった。けれどお前は、そ
んな相手に対し手加減なしの攻撃を加えていた・・・そこから来る、答えは一つだ。」
「・・・・・・」
父の推察は完全に当たっていた。エヴィンが自分のことを、弱い相手を必要以上に叩きの
めすことはしないと信じてくれていたのは少し嬉しかったが、今はそんなこと、割とどうでも
いい。それよりも、それを見抜いた洞察力と思考回路の方に関心がいった。
「ねえ、パパ・・・」
「・・・なんだ？」
「なんで、そこまで分かるの？なんで、『遠隔操作系の術者』なんて単語が、当たり前みたい
に出てくるのよ？」
震える声でシェリーは言った。その口調は、次第に熱を帯び強さを増して行く。
「連中・・・パパのこと知ってた・・・私の名字を聞いて、三十年前がどうこうとか言ってた・・・」
「・・・・・・！！！」
「教えてよ・・・ユエリが前に口走ってた、ダークファルスがどうこうとかいうのも含めて・・・」
「シェリー・・・」
シェリーの言葉が終わると、エヴィンは深く息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。それ
からしばらく、頭の中で言葉を選ぶ。やがて選択を終えると、エヴィンはゆっくりと視線をシェ
リーの方へ向けた。その瞳には、少し厳しさがこもっている。
「お前はそれを知って何をしたい？」
「何を、って・・・」
「今回の黒幕、カルト教団『深遠の探求者』、彼らに戦いでも挑むつもりか？」
「・・・・・・」
エヴィンの問いかけにシェリーはクックと笑った。
「思考が飛びすぎよパパ・・・いくらなんでも私がそんな無茶。」
「するつもりだろ？」
「エラく即答ね・・・根拠は？」
「お前の父親だからな。娘の無鉄砲さはよく分かっている。それに・・・」
「それに・・・？」
シェリーはいぶかしげな顔でエヴィンを見た。そんな顔で自分を見るシェリーに、エヴィンは
少し、苦笑いの入った笑顔を見せる。
「その無鉄砲さは、間違いなく僕の血だからな。」
「パパも・・・」
「ああ。アレンおじいちゃんも含め、血筋って言っていいかもな。」
軽くそう言うと、エヴィンはまた笑った。そんなエヴィンの顔を見てシェリーも少し笑うが、すぐ
にその目は真剣なものになった。
「だったら話は早いわ。パパ、私、ネオパルマに行く。」
「ネオパルマ・・・そうだな、たしかにあの教団、本拠地はネオパルマだ。」
うなずきながらエヴィンは言った。
「だが、父さんが許すと思うか？そんなムチャ。」
「ううん、全然。」
ニッコリと笑いながらシェリーは言った。
「でも、とりあえずパパには言っておこうと思って。心に決めた、その日のうちに。」
「フフ・・・」
シェリーの言葉に、エヴィンは相手を小馬鹿にしたような笑い方をした。
「馬鹿娘馬鹿娘と思っていたが、ここまで不勉強だったとはなあ・・・」
「ど〜ゆ〜意味よ。」
かなり不機嫌そうな声でシェリーは言った。するとエヴィンは、勝ち誇った笑顔をシェリーに
見せる。
「未成年者は、申請書に保護者のサインなしだと旅券を申請できない。」
「え゛・・・」
シェリーの額が、少し青くなった。
「いくらお前でも、ネオパルマに行くのに何が必要かくらい分かるだろ？」
「それは・・・」
シェリーは開いた口がふさがらなくなった。言うまでもなくネオパルマは外国、そこに行くには
パスポートがいる。そこまではさすがに分かっていた。けれど未成年云々という法律について
は、シェリーはまったく知らなかった。
「まあ、そういうことだ。帰るぞ、そろそろ腹もすいてきた。母さんやジニーも、心配してる。」
笑いながらそう言うと、エヴィンは席を立とうとした。けれど、そんなエヴィンの手首を、先に立
ち上がったシェリーがグッと掴んだ。
「じゃあ、どうすればその申請書にサインしてくれる？」
「シェリー・・・」
「お願い・・・正直、すごくイヤな予感がするし、すごく気になる・・・行かなきゃ絶対に後悔する
ことになる気がするのよ・・・それにパパは仕事があるから、自由に動けていざとなったら戦
えるのって私しかいない・・・」
「・・・いざとなったら戦えるだと・・・？」
その一言とともに、エヴィンは掴まれた腕をブンと振った。途端、シェリーの身体が宙を舞う。
「！？！？！？」
一瞬で３〜４メートルも上空に投げ飛ばされ、しかも天地が逆さまになったシェリーは何が何
だか分からなかった。それでもシェリーは、状況が分からないなりに空中で回転し、両足でし
っかりと着地する。
「今・・・一体なにが・・・パパ？」
びっくりした顔でシェリーは父の顔を見た。目つきはこれまでシェリーが見たことのない、日常
生活で怒られたときとは全く異質な厳しさを宿していた。
「シェリー、お前をパパの手が届かないところで危険な目に遭わせることはできない・・・させる
つもりもない。」
「パパ・・・」
半ば茫然とした口調でシェリーは言った。得体の知れない、底の知れない何かがシェリーを圧
迫しようとする。それに簡単に呑まれてしまうシェリーでもないが、それでもかなり調子は狂わさ
れていた。
「だが、言葉だけではお前の気がすまないと言うのであれば・・・」
そこで言葉を止めるとエヴィンは自身の右腕をゆっくりと前に突き出した。そして手の平を上に
向けると人差し指と中指をそろえて立て、クイ・クイ、とシェリーを手招きした。
「全力でかかってくるといい・・・父さんは、何が何でもお前を止める・・・諦めさせる。」
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