〜始まりの終わりとなる日々に〜

第二部第十二話 不縛者二人(前編)

「思ったよりやるじゃねえか・・・」
シェリーとゴーツ、二人の勝負が始まり三分ほど経った時点でゴーツが言った。お互い、ク
リーンヒットはまだ一撃も相手に入れていない。
「ボクシングなら1ラウンド終了って所だ。この俺相手に、三分もった相手は殆どいねえ。」
「その言葉、そっくりアンタに返すわよ。」
「フフフ・・・」
「フフフ・・・」
少し狂気を含んだような笑いを浮かべながら二人は視線を合わせた。
「続けるわよ。」
「ああ。」
ゴーツがそう言うと同時に、シェリーは一気に間合いを詰めた。そんなシェリーに、ゴーツも
また、真正面からぶつかって行く。
「ふんっ!」
ゴーツの肘撃ちがシェリーの脇腹を掠めた。しかし掠めただけなので、傷は浅い。シェリー
はそこから大地を踏みなおし、全身の筋肉を弓矢のように引き絞った。そしてそこから音速
拳の一撃を放つ。だが、完璧なタイミングで頬を捉えたのにゴーツの身体は微動だにせず、
むしろ岩でも殴ったかのような痛みがシェリーの拳に残った。
「うそ・・・」
「もらったぁっ!」
腕を大きく後ろに引いて放ったゴーツのボディアッパーがシェリーの腹部に深々と突き刺さ
った。強烈なまでの威力と拳の重さにシェリーの顔は苦痛に歪み、身体は「く」の字になって
浮き上がる。そしてそこから続けざまにショルダータックルを貰うとシェリーはピンポン球の
ように弾き飛ばされ、後ろにあった木に叩きつけられた。

「くっ・・・」
「今のを喰らって倒れなかったのはかなり意外だが・・・勝負はあったな。」
足をフラつかせながら踏みとどまるシェリーを見ながらゴーツは言った。
「重い・・・それに、音速拳が、全然・・・」
「拳がどんなに速くても、互いのウェイトに30キロは差があるんだ。勝てねえよ。」
満面の余裕を顔に浮かべてゴーツは言った。
「俺とマトモに勝負したきゃもっと食って、せめてあと15や20は体重増やさないとな。」
「あんたね・・・結構苦労してんのよ。この体形維持するの。」
「・・・大変だな、女ってのは。ま、さっきも言ったが、女をいたぶる趣味は無え。負けを認め、
 俺の仲間連中に頭下げるって言うのなら、勘弁してやる。」
「冗談でしょ?」
ゴーツの言葉をシェリーは鼻で笑った。
「勝負の線引き、勝手に決めないでくれる?第一・・・」
「第一?」
「負けられないのよ。アンチェインの名に賭けてね。」
「アンチェインだと・・・?」
シェリーの言葉にゴーツは心底意外そうな顔をした。
「珍しいこともあるモンだな。俺と同じ二つ名のヤツと、こういう風に会うってのは。」
「へえ・・・」
「本当のアンチェインってのがどんなモンか、教えてやるよ。」
(・・・来る!)
さっきまでより更に勢いを増したゴーツの突撃にシェリーもまた、真正面からぶつかって行
った。ダメージはまだ足に来ている、相手もそれをわかっている。だからこそと思っての突
撃。と、周囲から複数の人たちの、ザワザワとした声が響いてきた。
「おいおいケンカだぞケンカ!」
「どこの誰だよ!?」
「分かんねえ!けど、すげえレベル高いぞ!!」
「何かの撮影じゃないのか?」
「だとしたら、それはそれで嬉しいじゃねえか!」
「チッ・・・」
周囲の声を耳にして、ゴーツは舌打ちをした。
「仕切りなおしだ。また来る。逃げんなよ。」
それだけ言うとゴーツは一瞬で暗闇の中に溶け込むかのように消えて行った。
「ゴーツ・ドーシュ・・・」
シェリーもまた、暗闇に紛れて寮へと戻って行った。

「おかえりシェリー。」
部屋に戻ってきたシェリーを見てジェニファーが言った。
「なんか服が汚れてるけど・・・どうしたの?」
「汚れてる?」
「ええ。とくに背中のあたりとか。木にでもぶつかったかのような汚れが。」
「え、えらく状況限定的な言い方ね・・・」
ジェニファーの言葉にシェリーは苦笑いで誤魔化した。
「ま、着替えがてらシャワー浴びてくるわ。今日、おフロまだだったし。」
シェリーはそう言うと、洗面器にタオルと着替えを入れて足早に部屋を出た。

「うわ・・・」
シャワー室に入り上着を脱ぐと、ゴーツの攻撃を受けた所が真っ赤に腫れていた。肌が白
いから、打撃の跡が余計に目立つ。痛みもまだ消えておらず、腫れを指で押すとズキンと
痛んだ。
(本当に強い・・・それに・・・)
(パパと勝負したときはどこかに安心感があった・・・負けても大丈夫、きっと私をおぶって、
 部屋まで運んでくれる。シーレンさんと戦った時も、似たような気持ちが、どこかにあった
 ・・・けど、今回は・・・)
(・・・・・・)
(負けを覚悟するのは三度目・・・けど生まれて初めてね・・・負けた後の事気にしてケンカ
 するなんて・・・)
痛いくらいに勢いの強いシャワーにその身を打たせながら、シェリーは拳を握り締めた。

「おかえりゴーツ。」
校門の外に戻ってきたゴーツを見てカークスが言った。
「どうだった?シェリー・ハランツは。」
「思っていたよりもだいぶ強いが、所詮俺の敵じゃねえ。今日のところは邪魔が入ったが、
 次に会ったときにはきっちりとカタつけてやる。」
言いながらゴーツは胸ポケットからタバコを取り出した。箱から一本取り出し、口に運ぼう
とする。だがそこでゴーツは口の中にある異変に気づいた。口内にある異物をベッと吐き
出す。何かと思い拾い上げるとそれは彼の奥歯だった。
(顔面に一撃喰らった時のか・・・)
内心驚きながらゴーツは自分の歯をじっと見る。
「どうしたの?ゴーツ。」
「何でもねえよ。歯医者に行く手間が省けただけだ。」
ゴーツはそう言うと、茶色い穴の開いた歯をポイと投げ捨てた。

「シェリー、早く起きないと、朝食の時間終わっちゃうわよ。」
「うん・・・」
ジェニファーのその一言で、シェリーは眠たい目をこすりながらベッドから起きた。
「ジェニファーは?」
「もう済ませてきたわ。シェリー、起こしても起きないから。」
「そう・・・ま、それじゃゴハン行ってくるわ。」
そう言ってシェリーは部屋を出ようとする。だが直後、ジェニファーの「ちょっとシェリー!
寝間着!寝間着!!」という言葉に呼び止められた。
「大丈夫?なんか心ここにあらず、って感じがするけれど。」
「そう?」
あらためて服を着替えながらシェリーが言う。
「ええ・・・らしくないって言ったらいいのかしら?昨日の晩、何があったの?」
「・・・ちょっとね。」
「例の赤い髪の男の人と会ったの?そう言えば服の汚れ・・・それに少し動きが辛そうだ
 ったけれど・・・」
「あれは、ちょっと石につまずいて転んだだけ。」
「石につまずく?あなたが?」
あからさまに不審げな顔をしてジェニファーが言う。シェリーはそんな彼女の反応を適当
に誤魔化しながら食事をすると言って部屋を出た。
「世話が焼けるわ。」
扉の向こうで慌しく遠ざかるシェリーの足音を聞きながら、ジェニファーはそう言って微笑
んだ。

「ふう・・・ジェニファー、何のかんので良い勘してるわ・・・」
ため息まじりの声でそう言いながら、シェリーは食堂へ歩いていった。時間は8時45分、
15分あれば朝食には十分間に合う。食堂に入ったシェリーは食券と引き換えに朝食セ
ットを受け取ると窓際で空いていた席に座った。冷めたトーストをかじり、サラダ、それに
スクランブルエッグとベークドビーンを気だるそうにつつきながら、昨晩の出来事をもう一
度思い返す。一晩寝たので、昨日より頭はだいぶ冷静になっていた。
「ゴーツ・ドーシュ・・・それにレネゲイツ・・・」
「・・・・・・」
「よくよく考えれば、共闘できそうな相手よね。情報源はすごくほしいし。」
「それに向こうも、仲間やられちゃ不機嫌にもなるわよね・・・私も火に油注ぐようなこと言
 っちゃったのも事実だし・・・・・・・・・向こうの態度も、相当にいただけないけど。当たって
 るから余計に腹が立つって言うか。」
そこまで考えるとシェリーは瓶詰めの牛乳を一気に飲み干し、テーブルにドンと置いた。
「とりあえず向こうが来るの待つしかないわね。それでまずはきちんと誤解を解いて・・・」
そう考えながらシェリーは食べ終えた食事のトレイを手に席を立とうとした。が、その瞬間
コーラの缶がシェリーの顔面めがけて一直線に飛んでくる。
「!!」
反射的にシェリーは身を引いてそれをかわした。コーラの缶は窓ガラスを割り、外へと転
がる。空き缶ではない、しっかり中身の詰まった缶だった。
(誰!?)
シェリーは缶が飛んできた方向を見た。今の一件で食堂はかなりザワつき、皆の視線が
一方向に向いている。そして彼らの視線の先にいたのはゴーツ・ドーシュだった。
(ゴーツ!)
睨みつけるような視線のシェリーを見ると、ゴーツは無言のままバカにしたかのようにニ
ヤリと笑う。そして彼を取り押さえようとする食堂のスタッフ数人を瞬く間に蹴り倒す。更に
椅子を振り回し、周りにいた数人を巻き添えにすると食堂のテーブル上を走り表へと出て
行った。シェリーもゴーツを追いかけ、表へと駆け出して行く。だがそんな彼女の行く手を、
ゴーツの仲間と思しき数人が阻んだ。全員ナイフや鉄パイプなどで武装している。が、元
よりシェリーの敵ではない。
「邪魔っ!」
という一喝とほとんど同時に、地べたへ叩き伏せられる。しかしその隙にゴーツはバイク
に乗り、その場から離脱してしまっていた。
(逃げたか・・・でも・・・)
食堂から人が集まってくるのを横目に見て、シェリーも即座にその場を離れた。そして彼
女が倒した連中も、散り散りになって逃げて行く。食堂の周りは一時騒然となったが、間
もなくそれも静まった。

「痛てててて・・・くそ、なんだあの女・・・容赦ねえ・・・」
その場から離脱したメンバーの一人は、シェリーにやられた腕をさすりながらそう愚痴を
言った。そしてそのまま敷地を抜けて外に出ようと思っていたのだが、そんな彼の足は目
の前にいるシェリーを見てピタリと止まる。
「心外ね。思い切り容赦したつもりだったんだけど。」
「シェリー・ハランツ・・・なんで貴様が先に・・・」
「言わなきゃ分からない?」
腕を組み、相手を完全にバカにした顔と声でシェリーは言った。
「学内のルートは、私の方が詳しいに決まってんでしょ。さっきの攻撃はわざと威力を抑
 えたの。人目の多い食堂まわりより、人気の少ない場所でとっ捕まえた方が、尋問もし
 やすいからね。」
「・・・・・・」
シェリーの言葉が進むほど、男の顔は青くなっていった。そんな相手を、シェリーは指と
首の関節を鳴らし、ジリジリと摺り足で間合いを詰めて威嚇する。
「ま、何分の一かの確率で当たっちゃったのはウマにでもはねられたと思って諦めてもら
 うとして・・・レネゲイツのこと!ゴーツのこと!知ってるだけ話してもらうわよ!」
「ぐ・・・」
追い詰められながら、男は周囲をチラと見回した。そしてあたりに人気がないことを確認
すると、ニヤリと笑って右手を突き出す。
「喰らえ!バータッ!!」
「!!」
男の掌から発せられた水の槍がシェリーの顔面を狙う。回避が間に合わないくらいの至
近距離、しかしその攻撃はシェリーに当たることなく、見えない壁にぶつかった水風船の
ように弾けて消えた。
「え・・・」
「隙あり!」
シェリーは呆気に取られる男の腕を取ると、あっさり背後に回り関節を極めた。腕を曲が
らない方向に少しずつ動かしながら尋問を開始する。
「私もサディストじゃないから、関節が外れる前に教えてくれると助かるんだけど。」
「わ・・・分かった!言うよ!」
「え・・・」
拍子抜けするくらいあっさりと男は言った。とりあえずシェリーは警戒しながらも技を解く。
「ずいぶん素直なのね・・・」
「だって最近のあの人、ついてけね〜もん。」
再び腕をさすりながら男は言った。
「あの人・・・ゴーツのこと?」
「ああ。滅多に俺らと会おうともしね〜し、会えば会ったでやたら不機嫌だし・・・今回の件
 だって正直嫌々だ。関係のない人間をあんな風に巻き込むなんてレネゲイツの戦い方
 じゃねえ。何とかしてほしいぜ全く。」
「ふ〜ん・・・?」
男の言葉にシェリーは眉をひそめた。どうもおかしい、そんな考えが頭から離れない。
「でも私と勝負したときは、そんな風に見えなかったけど?」
「・・・マジでか?」
「うん。あ、そうだ。だったらこれから一緒に、ゴーツの真意を問い質しに行かない?」
「おう、それもそうだな・・・って、何で敵方の人間をアジトに連れてくんだよ!しかもいつの
 間にかゴーツさんのこと呼び捨てだし!!」
「・・・バレたか。」
イタズラを見透かされた子どものように、チョロっと舌を出してシェリーは言った。
「て言うか私、別にアンタ達の『敵方』って決まったワケじゃないんだけど。」
「嘘つけぇっ!それじゃあ貴様と、アルケミストとの関係は何だ!!」
「う〜ん・・・友達?」
「そんな言い訳が通るとでも・・・」
「思ってないけど、あなたも私から逃げおおせられるとも思ってないでしょ?」
「ぐ・・・だがそれでもレネゲイツの一員として仲間を売るようなマネは!」
「ちょっと待って!」
無謀にも再度自分に向かって来ようとする男をシェリーは言葉で止めた。学校の敷地内
には不似合いな、バイクのエンジン音が聞こえて来る。シェリーとレネゲイツの男は二人
してエンジン音の方を見る。遠くからバイクで接近してくるのは、間違いなくさっき逃げて
行った筈のゴーツだった。

「ゴーツ!」
「ゴーツさん!!」
二人は異口同音に相手の名を呼んだ。しかしゴーツは何も言わず、バイクのエンジン全
開でシェリー達の真横を駆け抜けて行く。そして通り抜ける際、小さな金属片をポイと投
げ落としていった。
「???」
相手のしたことの意味が分からず、シェリーは呆気に取られる。だがその金属片は空中
で強く発光し、発光がおさまると彼女の前には異形の者が一体、立ちはだかっていた。
「な、なに・・・?」
シェリーはゴクリと唾を呑んで眼前の相手を見た。下半身が馬型で上半身が人型、体の
色は黒光りし、ボディラインに沿って発光もしている。右腕は大剣のような形状をしており
体躯はシェリーの数倍、異形の者は前足を大きく振り上げると突進し、レネゲイツの男を
弾き飛ばした。男は「ぎゃっ!」という声とともに宙を舞い、レンガでできた壁に叩きつけら
れる。
「!!」
シェリーは慌てて男の所へ駆け寄った。重傷ではあるものの絶命はしていない。その事に
一瞬安堵するが、今は他人の心配よりも自分の心配をする時間であった。
(何なのコイツ・・・)
シェリーは自分に振り下ろされた大剣をジャンプでかわした。だが相手はすぐさま、第二
撃をシェリーに振り下ろしてくる。
「なんのっ!」
シェリーは再びジャンプし、相手の攻撃をかわした。しかし今度の着地点は地面ではなく、
大剣の上だった。シェリーは振り上げられた大剣の上を数歩駆けて跳躍し、右足で敵の
顔面に飛び膝蹴りを喰らわせる。さらにその反動を利用して左足で顔面にもう一発、そし
て最後に右足で人間で言うところの鎖骨のあたりに踵落しを入れた。しかしシェリーの意
に反し、あまり効いている様子は見られない。
「硬い・・・」
相手の様子を見てシェリーは舌打ちした。と、敵は間合いを取って右腕の大剣をシェリー
の方へと向ける。そして剣身は、何かエネルギーが充填されつつあるかのような輝きを
見せた。
(まずい!)
直感的に危険を感じ、シェリーは横に飛んだ。そして次の瞬間、大剣から巨大なエネル
ギー波が出射される。エネルギー波の通り道では、その効果範囲をはっきり示すかの
如く、草も木も蒸発したかのように消え失せていた。
(直撃したら骨も残らなさそうね・・・)
肝を冷やすシェリーに対し、相手は再度剣身を向けた。シェリーは再度横へ跳び攻撃を
かわそうとする。が、そんな彼女の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「シェ、シェリー・・・?」
「ジェニファー!?何で!?!?!?」
相手の攻撃以上に、ジェニファーの声にシェリーは焦った。彼女と自分の間には数メー
トルの距離があり、飛びかかっても間に合いそうに無い。
(正真正銘の神頼みになるけど・・・イチかバチかよ!)
シェリーは敵の方を向き直すと足を開き、地面をしっかと踏みしめた。両腕はピンと前に
突き出し、掌を重ね合わせて構える。そして彼女が
「来いっ!」
と言ったのとほぼ同時に、異形の者の剣からエネルギー砲が撃ち出された。さっきシェ
リー自身が言った言葉を借りるまでもなく骨まで蒸発させそうな巨大な熱量、しかしシェ
リーの両手は、それをしっかと受け止めていた。
「ぐ、うう・・・」
両手は焼けるように熱い。服は今の一撃による衝撃波で、かなりボロボロになっている。
身体も後退し、地面には後ろにずり下がった分だけの靴跡が、しっかりと残っていた。
けれどそれでもシェリーは歯を食いしばり、膨大な熱量の全てを受け止めきっていた。
「返すわよ!」
シェリーは言葉も通じるかどうか分からない相手を睨みつけながら、叫ぶようにそう言っ
た。そんな彼女の言葉と態度に臆したのか、異形の者は踵を返し撤退しようとする。無
論シェリーは相手の撤退なんぞ許さない。言葉にならない言葉を発しながら跳び上がる
と自分が相手から受け取ったエネルギーをそのまま全て叩きつけた。

「ハアッハァッハッ・・・」
異形の者が消え去ると、シェリーは荒く息をついてその場に腰を下ろした。
「うまく行ったけど・・・一歩間違えたらって思うと我ながらゾッとするわね。・・・ってジェニ
 ファーは!?」
シェリーはそう言って跳ね起きるルームメートのもとへと駆け寄った。そして瞳を閉じて
倒れているジェニファーを抱きかかえ、頬を軽く叩きながら名前を呼ぶ。巻き添えでも
喰らったかと心配したが外傷は無く、単に気を失っているようだった。
(無理もないわね。いきなりあんなホラー映画じみたバケモノ目にしたら・・・とにかくケガ
 が無くて良かったわ。)
内心でそう言って胸をなでおろすと、シェリーはすぐにもう一人の気絶している人間、重傷
を負っているレネゲイツの男に呼びかけた。
「えっと・・・生きてる?」
「あ、ああ・・・アンタ、強えなあ・・・けどゴーツさん・・・なんで・・・」
「喋らないで。今、医務室に連絡入れるから。」
「すまん・・・」
「けど、レネゲイツのアジトがどこかはあとで教えてもらうからね。」
「・・・・・・」
シェリーの言葉に、男は仕方無さそうに頷いた。

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