〜始まりの終わりとなる日々に〜

第二部第三十話 重い一日

「どうだ?それでも君は、私について行きたくないか?」
 キースの問いかけにジニーは一瞬黙るがすぐにコクリと頷いた。そして僅かに震えが残
る指先をグッと握り締めると
「お願いします」
 と言葉を返した。自分でも不思議に思えるくらいに、はっきりした口調で。

 ジニーを突き動かしたのはアルケミストへの恋心だけじゃなかった。愛されてはいるが頼
られてはいない、その言葉も、ジニーの心を深くえぐっていた。中学生になって自分の意思
を主張したくなってきたジニーに、その言葉は強く響いた。エヴィンやシェリー、アーサーが
何かと戦っているのに、何の役にも立てない自分を歯がゆくも感じていた。

「上の兄弟に力で勝てないと思うのなら、それ以外の何かで超えることを考えればい
い。人生は一度でも、道は1つじゃない…可能性を、自分で否定するな」

 ユエリも自分にそう言ってくれていた。その道が、やっと目の前に見えてきたのかもしれな
い。そう思うと、これまでの自分が持ったことのない不思議な気持ちが、前に進もうとする意
思が、ふつふつと湧き出してきた。

「それでは行きましょうか、ジニー」
 キースは優しい笑顔でそう言うと、まるでワルツの相手の手を取るように、そっと右手を差
し出した。ジニーはもう一度コクリと頷くと、自分もそっと右手を差し出し、手のひらを重ねる。
 その瞬間、キースの掌が緑色に光った。その光にジニーは驚き、“あっ”と声をあげそうに
なるが、その一言も言い終える前に、彼女の意識はブラックアウトしていた。立ってはいるも
のの首はうなだれ、腕はだらりと下がっている。瞳は開いているが、生気を無くし虚ろだった。
 そしてそんなジニーを見て、キースは意外そうでかつ嬉しそうな顔をした。
「一発で私のテレパスに波長を合わせることができるとは…思っていた以上に力を求める心
が強かったらしい…そして、思っていた以上に、君と私は相性がいい」
 手を離したキースの口元から歪んだ笑みが自然とこぼれる。やがて彼は顔を元に戻すと右
手を左の腰に添えて、深く礼をした。
「ジニー・ハランツ…いえ四代目ライア…貴女がその名に恥じぬ存在となるようにこのキース、
全力を尽くしましょう…」
 そして、狭い廃ビルの一室に、狂気の笑い声が響き渡った…



 その事件から一晩が明けた。この家が始まって以来最も沈んだ夜明け。リビアの顔は憔
悴し、アーサーも普段の彼とは別人のように落ち着きがない。眉をひそめ、リビングのソフ
ァに腰掛けて、いつもはそんな癖は無いのに爪を噛んでいる。
「母さん…少し、横になった方がいいよ」
 昨日から一睡もしていない母を気遣いアーサーは言った。だがそう言う彼自身も、昨日か
ら一睡もできていない。エヴィンは警察の調査協力か何かが長引いているようで、朝になっ
ても戻ってこない。
(きっと父さんも、一睡もしていないんだろうな)
 窓から射しこむ朝日に目を覆いながらアーサーは思った。
(こんなときこそ、僕がしっかりしないと…でも、どうすればいい?)
 こんなとき、何て言えばいいのか、どう振舞えばいいのか、考えれば考えるほどアーサー
は不安になった。ソファの上で固まったまま、身動きが取れない。彼はただ、無為に時間を
過ごすことしかできなかった。



 場所は変わりティリアの市中心部にある警察署、そこではエヴィンとマークが昨日の事件
についての聴取を受けていた。お役所仕事的な手際の悪さも相まって、実質ニ時間足らず
の聴取に丸一日拘束された。
 それでも何とか聴取が終わり、二人は警察署を出る。
 そしてエヴィンが大きく伸びをしたところで、マークが口を開いた。
「すまない…エヴィン」
「仕方ないよ」
 頭を下げるマークにエヴィンは静かにそう返した。
「予想できるわけがない」
「そう…オレにはあれは、完全に考えの範疇外だった。けど、お前はどうなんだ?」
「…どういう意味?」
 マークの言いたいことは分かっているがあえて聞き返す。
「ジニーちゃんのことだよ。あの子は何か、とんでもない力を秘めている。そのことにお前、
気づいていたのか?」
「何か持ってるってことくらいにはね」
 そう口にした瞬間、エヴィンの顔に後悔の念が強く浮かんだ。
「これがシェリーだったらどこでスイッチが入るか気が気じゃなかったけど、ジニーは大人
しい子だ。自分から火の中水の中に飛び込む性格はしていない。だから僕もリビアもちょ
っと安心してた」
「けど、白服の男がそれを嗅ぎ付けたんだろうな…どこで嗅ぎ付けたのかは分からんが」
「ああ。けど、どこで嗅ぎ付けたかなんてどうでもいい、大切なのはジニーを無事に取り戻
すこと、そして犯人に報いを受けさせること、その二つだけだ」
 そのときエヴィンが見せた表情に、マークは息を呑んだ。後悔と同時に、犯人に対する
鬼気迫る怒りと、憎しみがあった。
「エヴィン、オレに偉そうなことを言う資格は全く無いが…抑えろよ。お前が人を斬ったり
したら、ジニーちゃんが悲しむ」
「…大丈夫、僕にもそれくらいの分別はあるさ」
 心配そうなマークに軽く笑いながらエヴィンは言った。
「ところでこのこと、シェリーには話したのか?」
「いや、けど最前線にいるんだ、話が通じてないとマズい。帰ったら大学に行く前に状況を
まとめてメールしておくよ。ネオパルマとの時差は十二時間、ちょうど良い頃合だろう」



「ちょっとシェリー!なんのつもりよ!」
 ジェニファーがちょっと席を外した隙に、シェリーは部屋からいなくなっていた。机には一言、
“家に帰る”
 という書き置きが残されている。
 ジェニファーは慌ててシェリーの後を追い、スペースポートのチケットカウンターで順番待ち
をしているシェリーに追いついた。そして開口一番で、上の言葉が口をついた。
「どうしたもこうしたも無いわよ、書き置き残したでしょ、ウチに帰るって」
「どうして急に!?」
 ジェニファーの問いかけに、シェリーは声を潜めた。
「…パパから連絡があったのよ、妹が誘拐されたって」
「妹…あの、ジニーとか言ってた子?」
 言いながらジェニファーは、シェリーが見せた家族の写真を思い出した。顔立ちは少しシ
ェリーに似た、けれど性格はずっと大人しそうなクセっ毛の女の子。笑顔のシェリーに両手
を肩に乗せられ、視線を姉の方に向けながら少し照れくさそうに笑っている、小学生くらい
の女の子だった。仲の良さが伝わってくる写真だったから、シェリーが取り乱すのも分かる。
「それで、これまでこっちでやってきた事はどうするのよ」
「無期限中断よ。私のチケットはオープンだから日程変更はきくハズ、カウンターでゴネれば、
電話口より無理が通りそうだしね。それにジニーはパスポートを持ってないから、ネオアリサ
にいるとしか考えられない。自分をマトにして、向かってきた連中を片っ端から締め上げてや
るのよ!」
 一息にそう言うとシェリーは前に進む列と歩調を合わせた。ジェニファーはそんなシェリー
の行動を“何か違う”と思いながらも、それをうまく言葉にすることができない。
 だが、いよいよシェリーの順番が回ってきたとき、あてもなく視線を泳がせていたジェニフ
ァーの動きが止まった。
「シェリー、あっちにいるのって…」
「何よ、話なら後に…!!!」
 そう言いかけてシェリーの動きも止まった。視線の先にいるのは二人がよく知る、金色の
髪をした少年、しかも付き人と思しき男二人に荷物を持たせ、入国カウンターがある方から
歩いてきたし、格好もどう見ても旅帰りにしか見えない。シェリーは反射的に列を抜け、少年
の元に駆け出していた。
「アルっ!」
「これはこれは…どこの誰かと思えばハランツのお姉さんじゃないですか」
 びっくりした顔のシェリーとは対照的に、氷のように冷たい瞳をアルケミストは向けた。
 彼の周りには今、他の教団員もいる。今の口調と表情はそれを慮ってのことだということ
は分かる。だがシェリーは、自分がアルに対してどんな口調で話すべきかは分からない。
いやそれ以前に、どこから話を切り出すべきかさえも分からなかった。
「ハランツ…!」
 シェリーの顔はすでに、教団に十分すぎるほど割れている。アルの荷物持ちをしていた男
二人は即座にシェリーの前に立ち塞がり、懐に手を入れた。
 だがそんな二人を、アルケミストは軽く制した。
「よしときなよ、ハランツのお姉さんも、その後ろにいるお姉さんも、どっちも君達に勝てる相
手じゃない」
「しかしアルケミスト様…」
「いいんだよ、どうやら向こうも今戦う気は無さそうだしね。ここでの揉め事は厄介だ」
 見透かしたような視線でそう言うと、アルケミストは不敵な笑みを見せた。
「ずいぶん優しいのね。次に会うときが決着をつけるときじゃなかったの?」
「変なこと言う人ですね。いつ僕が、そんなことを言いました?」
「まだ、二日と経ってないはずなんだけど?」
「ますます意味不明ですね」
 アルケミストは手を軽く広げ、『やれやれ』のポーズをした。
「こっちはネオアリサから帰ってきたばかりで疲れてるんです。片道二十時間は、ファースト
クラスでも疲れますしね。来年くらいには完全個室のスイートクラスってのができるそうです
から、それにすれば少しは楽かもしれませんけど。それでは、疲れているので」
 軽く左手を挙げてそう言うと、アルケミストは立ち去っていく。ただ最後に彼は、クルと後ろ
を振り返り、シェリーに向かってウインクをした。

(どういうことなの?)
 アルケミストが立ち去ってから、シェリーはしばらく呆然としたまま身動きが取れなかった。
 彼はたしかにネオパルマにいた。自分を牢から救い出し、ダブルフェイスを倒したあとに
話もした。ついでに、思い返せば思い返すほど、トチ狂っていたとしか思えないセリフを彼に
向かって吐いたりもした。
 それが今から大体三十時間前、そこからネオアリサを往復するには、どこをどう考えても
計算が合わない。
(まさか別人?)
 しかしシェリーはすぐに自分の考えを否定した。彼ともそろそろ付き合いが長い。あのとき
のアルと今のアルは間違いなく同一人物だった。
(これで、アルケミストにはアリバイができたワケね。そうでないと、捕虜の脱走を助けたなん
て、さすがに重罪だろうし)
 呆然としたシェリーの横でジェニファーは冷静に考えを巡らす。そしてシェリーの肩をポンと
叩き、彼女を我に返した。
「どうやら、教団は移動手段も色々もってるみたいね。あくまで、ごく一部ででしょうけど」
「そうね…うん、そう考えないと説明がつかない」
「それならシェリー、あなたはここにいた方がいいわ。たぶんそれが、教団に対する牽制にな
る。ネオアリサに戻ったりしたら、相手の思うツボよ」
「うん…そうね」
 しばらく考えてから、シェリーはそう言ってうなずいた。
「けれどいいの?私が自主的に帰れば、あんたの任務も完了だったのに」
「不思議と、ここで任務切り上げちゃうのもつまらない気がしてきたのよね」
「フフ…ありがと」
「じゃ、寮に帰りましょうか。まずはやりかけの、明日の宿題片付けに」
 シェリーの肩をグッと掴むと、ジェニファーはニヤリと笑った。



「アーサー」
 時間にしてそれから少し後、登校したアーサーにユエリが心配そうに声をかけた。
「ジニーちゃんのこと、私も聞いたわ」
「ああ」
「警察は何て言ってるの?」
「分からない」
「お父さんは…」
 そう言いかけたところでユエリは言葉を止めた。今のアーサーと話をしても彼にとって負担
にしかなりそうにないし、助けになる方法も思いつかない。そしてそれは他のクラスメートや
教師も同じで、窓際の席に座るアーサーが一人上の空でも誰もあえて彼に話しかけようとし
なかったし、先生達も彼を指そうとはしなかった。

 帰宅しても、家はいつになく静かだった。エヴィンは大学から警察にまた何か話をしに行く
とかで帰ってきていない。夕方五時半を回ると、疲れが出たリビアは少し横になると言った。
「悪いわね、夕飯の支度もしてないけど…」
「いいよ。自分で何か作るから」
 アーサーはそう言って冷蔵庫を開けるが、冷蔵庫の中もわりと空に近い。
「何か買ってくるよ」
 そう言い残してアーサーはまた家を出た。

 季節は五月、日が暮れるのもまだそれなりに早い。出かけたときは沈みかけていた太陽
もアーサーが商店街に来たときには完全に暮れ、アーケードの照明だけが煌々と輝いてい
る。
「グラタンとサラダでも買ってこうかな、母さん好きだし」
 商店街の入り口でアーサーはつぶやいた。だがその直後、彼は息を呑む。
「ジニー…」
 10メートルほど先で一人で立っているのは、間違いなくジニーだった。ジニーの方もこっち
を見ている。だが、アーサーが駆け寄ろうとすると、ジニーは背を向けて歩き出した。
「おいジニー!!」
 何考えてるんだという声を喉元で抑えてアーサーは走り出した。だが追いつけない。ジニー
と自分の脚力を考えたら数秒で追いつけるはずなのに、いくら追いかけても全力疾走のアー
サーと、ゆっくり歩くジニーの差は縮まらず、しかし広がりもしなかった。
 本当なら、そこで何か変だと思うべきだった。だがそう思ったり、エヴィンやマークに連絡を
入れるような冷静さは、今のアーサーからは消し飛んでいる。
 夕食時で混み合うアーケードを無我夢中で走り抜け、息を切らしながら妹を追う。アーケー
ドを抜けてもまだ、アーサーは走り続けた。
 そしてようやく距離が詰まり、手を伸ばし、曲がり角を曲がろうとするジニーの肩を掴んだと
思った瞬間、彼の手は空振り、人気の全く無い袋小路に来ていることに気づいた。
(ここは…どこだ?)
 暗いし人はいないし今自分がどこにいるのかも分からない。それだけでも十分気味が悪い、
しかも瞬間、彼は背後から殺気と言っていい気配を感じ取った。
「!!」
 反射的に身を翻した横を、何者かが振り下ろした刃が切った。あのまま突っ立っていたら、
今頃致命傷を貰っていただろう。アーサーはそのまま後方に飛び、足元に仕込んでいた折り
畳み式トンファーを素早く取り出し、敵の姿を見た。
(…デルセイバー?)
 敵の姿にアーサーは絶句した。黒紫色の骨格だけのような身体、右手は蛮刀と一体化し、
左手は紫色の怪しい光を発している。首は無く黄色い瞳と剥き出しの歯を見せてこちらの様
子を伺っているその相手は、間違いなく文献で見つけたデルセイバーだった。
(なんでそんなのがここに…いや、ユエリはカオスソーサラーと、姉さんはカオスブリンガーと
戦ったって話だ、こういうのがもう何種類かいても…って!)
 デルセイバーは跳躍し、一気にアーサーとの間合いを詰めて斬りつけてきた。
(考えるのは後だ!)
 アーサーは気合を入れなおし、デルセイバーに対峙する。だが彼がトンファーを構えた瞬間、
背後からもう一体のデルセイバーがアーサーの背中を斬りつけてきた。
(くそ…二体いたのか!)
 完全に不意を突かれた一撃だったが、幸い致命傷にはなっていない。だが右肩の傷は深く、
戦う前から右腕が上がらなくなった。息をするだけで、傷口が痛む。
「………」
 それを理解する知能はあるらしく、デルセイバー二体は執拗に右に回ろうとする。アーサー
は右を取らせまいとフットワークを駆使して間合いを取るが出血は思ったよりも酷い。血の生
暖かさが腰にまで伝わり、視界も不安定になってきた。
(短期決戦を狙うしか無いな…)
 ギッと歯を噛むと、アーサーは低い姿勢で前に踏み込み、デルセイバー二体との間合いを
詰めようと踏み込んだ。デルセイバーは変わらぬ表情のまま今度は逆に二手に分かれて後
退しようとする。アーサーは二体のうち、向かって左側の敵に狙いをつけ、さらに一歩踏み込
みながら左腕を振り上げ、トンファーを打ち下ろした。
 だが、アーサー渾身の一撃はデルセイバーの左手によって阻まれた。逆にデルセイバーは
右手で切りかかり、アーサーの胸部に浅くない傷をつける。
「まだだっ!」
 それでもアーサーは怯まず攻撃を続けた。彼の攻撃はデルセイバーが持っていた左手の盾
を一時的に無力化させるが、同時に疲れでアーサーの膝も軽くグラつく。
「………」
 それを見て、距離を取っていたもう一体の敵がアーサーめがけて飛びかかった。
(来たか!)
 その動きを感じ取り、アーサーは左手のトンファーを手放した。素早く後ろに飛び、デルセイ
バーの着地点から離れる。
「せぇぃっ!」
 跳躍するデルセイバーの背後を取ったアーサーは、一声とともに敵の背中を浴びせ蹴りに
蹴り飛ばした。バランスを崩し、しかしジャンプで勢いのついていたデルセイバーは、そのまま
右手で仲間の身を袈裟懸けに切り裂く。切り裂かれたデルセイバーが膝をつき、音も無く消滅
すると、アーサーは右手のトンファーを左手に持ち替え、もう一体を背後から滅多打ちに打ち
据えた。
「こいつ!こいつ!!こいつっ!!!」
 立ち上がってもいない相手を背後からトンファーで滅多打ち、いつものアーサーでは考えら
れない戦い方だった。
 けれど、そんな平素の理屈は今のアーサーからは吹き飛んでいた。呼吸を止め、相手に反
撃の糸口すら与えない背後からの無呼吸連撃、デルセイバーも右手を動かし反撃しようとし
たが、アーサーはその腕を踏みつけた。
 そしてほとんど動かなくなった相手に渾身の一撃を叩き込み、デルセイバーの姿が消滅した
ところで、アーサーもようやく腕の動きを止めた。
「ハァッハァッハァッ…」
 荒く呼吸をすると同時に忘れていた背中と胸部の激痛が戻り、意識も遠のこうとした。アー
サーはそれを踏みとどまり、周囲を見渡す。
(ジニーは…ジニーはどこに行った?)
 だがその直後、彼の視界に飛び込んできたのは妹ではなく、敵の新手だった。地上に音も無
く現れたデルセイバー三体、退路を塞ぐかのように立ちはだかる敵を前にアーサーは、生まれ
て初めて本気で死を覚悟する。
「いいだろう…でもこっちも、むざむざやられたりはしない!」
 自分にそう言い聞かし、アーサーは決死の覚悟で敵群に突撃しようとする。
 と、そんなアーサーの前に閃光が走った。
 デルセイバーを貫く一条の雷撃、それは一瞬でデルセイバーを消し炭に変える。
 二発、三発と立て続けに雷撃はデルセイバーに落ちた。後には何も残らない。消し炭となった
敵の体は風に乗り、跡形も無く消え去ってしまう。
(何が…起きた?)
「お兄ちゃん…」
「!!」
 その声に反応し、アーサーは首を上げた。声がしたのは人気の無い民家の屋根の上、視線を
瞬時にそちらへ向ける。
「ジニー…」
 右の掌を突き出し、冷たい瞳で自分を見下ろす妹の姿に、アーサーは言葉を失った。

第二部第三十話 完

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