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「納得してるから私と戦う…」
エレナはエヴィンの言葉を繰り返し言い、そして笑った。
「本当に、エヴィン君らしい理由ね」
「そうですか？そう言われても、なんて返せばいいことやら」
困ったような顔で、エヴィンは肩をすくめる。けれどそんなエヴィンを見るエレナの目は
すでに笑っていない。
「大したものね」
笑わない瞳のままエレナが言う。
「全身から感じる気力の充実、素人目にも分かる隙の無さ、そして相手を包み込むかの
ような威圧感…正直、三十年前よりも手強い感じさえするわ…でもそれ、あと何年続けら
れると思う？」
「正直、今がギリギリだと思ってますよ。何とか間に合ってくれた、そうとしか言えません」
少し照れ臭そうに、そしてちょっぴりほっとした顔でエヴィンは答えた。
「それなら、この戦いがあと数年遅かったら…」
「そのときは、きっとシェリー達が何とかするでしょう」
そう答えるエヴィンの言葉に迷いは見られなかった。その表情に、エレナは思わずため
息をつく。
「予想してた以上の親バカね」
「冗談じゃありませんよ」
エレナの言葉に、エヴィンは少しムキになった。
「子供の頃は、大きくなれば大人しくなると思っていた。ネオパルマに行ったら、すぐに
諦めて帰ってくると思っていた。でもそんな僕のささやかな期待を、あのバカ娘はいつも
裏切ってくれる。けどね…」
今度はエヴィンの顔から笑いが消えた。
「そんなバカでも大切な娘です。傷つく姿は見たくはない」
「…それが、今のあなたに力を与えているのかしら？」
「そうかもしれませんね。エレナさん、さがっててください」
「エ…」
「………」
エヴィンの言葉にエレナはなおも何か言おうとした。けれど、そんな彼女の前にシーレン
が無言で進み出る。
「シーレン、あなたからは何もないの？」
「ありません」
「そう言うと思いました。それでこそ、シーレンさんらしい」
変わらない無機質な声を聞いて、エヴィンは懐かしそうに笑った。
「………」
シーレンの両足大腿部が横に開く。シーレンはそこから二丁のハンドガンを無言で取り
だした。
「拳銃？」
シーレンが使う武器としてはエヴィンが初めて見る代物だった。
もっとも一口に拳銃と言っても銃身は６０センチほどもあり、口径もエヴィンの目分量で
２０ミリ以上ある（※現在拳銃の最大口径でも１３ミリ弱）。普通の人間では撃つことどころ
か構えることさえ不可能な“拳銃”、シーレンはそれを両手に一丁ずつ構えていた。
（厄介な武器だな）
見た瞬間エヴィンは思った。このサイズ、銃というより取り回しの良い小型ミサイルポッド
と言っていい。
「ネイショットは？」
「今は、必要ない」
言うやシーレンは、二丁拳銃を連射しながらエヴィンとの距離を一気に詰めた。
（接近戦！？）
エヴィンは一瞬、完全に虚を突かれた。けれど体勢を立て直す時間は無い。
（それなら！）
相手の動きを見て、エヴィンも前に踏み込んだ。間合いを取り直したところで、飛び道具が
豊富な相手に有利しか与えない。
「シールドっ！」
闇の防御壁を展開しながら、エヴィンは更に敵との距離を詰めた。銃弾は防御壁に防がれ、
落ちる。だが威力が威力である以上、力の消耗も激しい。
「うぉおおおっ！」
エヴィンは一気にシーレンの懐に飛び込んだ。左手、そして右肘でシーレンの両腕を外側に
弾き飛ばす。
「………」
瞬間、シーレンの左手首が人間ではありえない角度で動き、銃口をエヴィンの頭に向けた。
だが、その手首にはエヴィンの放った闇のワイヤーが巻きつけられていた。エヴィンは頭を
後ろに引きながら、シーレンが引き金を引いた瞬間にワイヤーもグイと動かす。
ガガガガガ！
シーレンが左手に持っていた銃は自身の右手を蜂の巣にしていた。同時にエヴィンは闇の
力を再びその身に納め、そして刀を持つかのような手を作り、それをシーレンの腹部に押し
当てる。
「ゼロ射程セイバ…」
だが刹那、エヴィンはシーレンの両目が光を放っていることに気付いた。
（間に合うか！？）
動物的な反射神経で出しかけた技を止め、エヴィンは再び力を防御に集中させようとする。
だがそれよりも速く、シーレンが放った熱光線、フレアショットがエヴィンを襲った。
ビィンッ！
エヴィンの体は大きく後ろに弾き飛ばされた。瞬間、エレナは息を呑む。
だが、吹き飛ばされながらもエヴィンは体勢を立て直し、片膝さえつかずに踏み止まった。
「驚いたな…思っていたより頑丈らしい」
袖を焦がし、腕に重度の火傷を負いながらもエヴィンは言う。闇の力での防御は間に合わ
なかったが、それでも腕はまだ動いた。
「私にとっては想定の範囲内だ」
エヴィンのダメージを見てシーレンが言う。そして今度は、その背中から二門の砲塔が露
出した。
「バーストロックシステム、起動」
轟音とともに数発の砲弾が上空へと打ち上げられた。それらは空中で破裂し、炎に包まれ
た鉄の雨となってエヴィンめがけて降り注ぐ。
「随分…手数が増えてますね！」
シーレンの攻撃に対し、エヴィンはあえて防御壁を展開しなかった。攻撃ときに発生する空
気の流れ、大地の震動、それらを五感で感じ取り、生身でその間を掻い潜る。
「行こう！ネイソード！」
踏み込みながらエヴィンは、この戦いで初めてネイソードを鞘から抜いた。漆黒の刀身は唸
りをあげ、シーレンに襲いかかる。
「………」
だがシーレンはその一撃を、手にしていた拳銃で受け止めていた。無骨な外観に相応しく、
恐ろしく硬い。
ブンッ！
そのままシーレンが腕を振うと、エヴィンの体は大きく後ろに弾き飛ばさそうになる。
だが、エヴィンの身体は上空で停止していた。その背には、闇の翼が姿を現している。
「エアレイド！」
加速をつけた上空からの斬撃、シーレンは再び拳銃を盾にそれを受けようとするが、今度
はエヴィンの技の威力が勝った。銃身は半分に割れ、引き金から先の大部分が地面に落下
し、刺さる。
「もう一撃！」
気合いとともにエヴィンはネイソードを振り上げた。ただそれはかわされ、シーレンは残った
もう一丁の拳銃で相手の動きを牽制しながら距離を取る。
（シーレン…）
そんな二人の戦いを、エレナはとても複雑な面持ちで見つめていた。
シーレンは自身の感情の存在を、心の存在を否定している。けれど本当は感情があり、心
もある。エレナにはそれがとてもよく分かっている。
そしてそんなエレナから見た今のシーレンは、彼女がネオパルマに来てから初めて、楽し
そうだった。
（それはエヴィン君と会えたから…？全力をぶつけて戦うことができるから…？それとも…）
だが瞬間、エレナは目を見開き、そして叫んでいた。
「シーレン！危ないっ！」
「オヤジィッッッ！！！」
瞬間、銃を構えたシーレンを真横から蹴り飛ばす影があった。不意を突いていたとは言え
その蹴りは数百キロあるシーレンの体を横に弾き飛ばす。
「いくら待っても来やしねえと思ったら…大丈夫かよオヤジ！」
「オヤジって…」
戸惑いながらエレナは相手のことを見た。そしてエヴィンは、同じ相手に不機嫌極まった視
線を向ける。
「…何度言えば分かるんだ？僕は君に、父親呼ばわりされる筋合いは無いと」
「なあに、いずれそうなる」
（あれは…たしかゴーツ・ドーシュ…レネゲイツのリーダーね）
エレナがその名を思い出すのに少し時間がかかった。けれど相手が誰かを思い出すと、彼
女は内心胸を撫で下ろす。
（一瞬焦ったわ、あんなのがエヴィン君の子供だった日には…）
「シーレン、立てる？」
「ダメージゼロ、全機能、異常ありません」
気を取り直したエレナの言葉にそう答えるとシーレンはスクと立ち上がる。しかしすぐに仕掛
けようとはしない。そのまま動かず、エヴィンとゴーツの会話を眺めていた。
「一対一の勝負に割って入るのが君のやり方か？」
「普段は嫌いなんだけどな、今回はちょっと事情が違ったモンで」
「事情？」
「色々あってな。空気読まないこと言うようだが、代わらせてもらうぜ」
「…本当に空気読めてない発言だな」
「なんせアンチェインなモンで」
「…シェリーと同じような台詞を…」
「それに相応の理由もあるんでな」
軽く頭を抱えるエヴィンに、ゴーツはそう言い放った。
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「エヴィン・ハランツとトライデントのところの鉄人形、結構激しくやり合ってるみたいですね」
空を見上げていたアルケミストがそのままの姿勢でシェリーに言った。ゴーツが乱入してき
たことも見ているけれど、あえてそれは伝えない。
「どうして分かるの？」
「フィノが教えてくれるんですよ。上空からずっと、情報を送らせてるので」
「そう…で、どんな感じ？」
「とりあえず、鉄人形の方は実弾使ってますね。けれどエヴィン・ハランツの方もそれに十分
対応できるだけの動きをしている。やっぱり手強い人だ、そう思いますよ。あ、気になるのな
ら加勢に行ってもいいんですよ？方角は…」
「やめとくわ」
アルケミストの言葉を遮りシェリーは答えた。そして“ねえアル”と言葉を続ける。
「パパとエレナさん、それにシーレンさんは昔、一緒に戦ったことがあるんだって。あるときは
敵として。そしてあるときは味方として」
（………！）
「それに私、シーレンさんはすごく優しい人だと思ってる…まあ、正確には人じゃなくてアンド
ロイドだけど」
「…何が言いたいんです？」
「何となく思うのよ。パパとシーレンさんはきっと、お互い信頼してる。全力をぶつけ合っても
大丈夫だって、そう思ってる。さっきからずっと他人行儀な誰かさんと違って」
「心外ですね」
その一言にアルケミストはかなりカチンと来たようだった。
「戦闘は僕の本職じゃありません。必然、攻撃よりも防御に重点が置かれている、それだけの
話です」
「それならなおさら」
不満げなアルケミストの顔に、シェリーはニコと笑って返す。
「もうちょっと、ドンと来てくれたら嬉しいなって」
「ドンと…」
その言葉にアルケミストはしばらく考える。だがゆっくりと首を横に振った。
「遠慮しておきますよ」
穏やかな頬笑みを浮かべアルケミストは言う。
「なんで？」
「ちょっと不安がありますから。それに、そんなことしなくても十分勝てますから」
「それって、さっきの動きのこと？」
「そうですけど？」
「だったらダメね。悪いけど、もう見切ってるから」
「へえ…言いますね！」
瞬間、アルケミストの姿がまたその場から消えた。今度は側面から、シェリーの懐に潜り
込もうとする。その手には、ごく短い麻酔針を持っていた。
（血管に直接打ち込めば、舌を噛む時間もなく眠る…それで、終わり！）
それがアルケミストの狙いだった。そしてシェリーの手の甲に麻酔針を打ち込もうとする。
だがシェリーは、いとも簡単にそれを防いでいた。
「…え？」
「ほらね」
アルケミストの右手を中段で受け流しシェリーが笑う。
「くっ！」
一度間合いを取り、今度はさらに速度を上げ、後ろに回り込もうとした。けれどシェリーは
それも読み、顔には余裕の表情さえ浮かべながら相手の動きを制する。
「切り札は見せるな、戦いの基本よ？」
もう一度間合いを離したアルケミストにシェリーは言った。
「アルのそれって、スピード上げるだけでしょ？ジャンプ力も、反応速度も伸びていない。つ
いでに言うと、戦術（タクティクス）にも変化はない。それなら捌くのは簡単だわ」
（………）
図星だった。今アルケミストが使っているのは時計を媒体とした時間の加速、今彼の周り
だけ、五倍の速さで時間が動いていた。その原理までは分からないまでも、シェリーはその
本質を見切っていた。
「そんなこと…それでもこれなら！このスピードなら！」
アルケミストは自身の速度を十倍に上げた。さっきまでよりさらに倍の速さでシェリーに迫
る。
「うそっ！」
そこからの攻撃を、シェリーは防ぎはしたが体を大きく後ろによろめかせた。そんな相手の
様が、アルケミストの目にはまたとない好機に映る。
「もらうっ！」
即座に追撃を仕掛けるアルケミスト、だが次の瞬間、よろめいていた筈のシェリーの両足は
大地をしっかりと踏みしめていた。
「！？」
「かかったわね！」
刹那、シェリーの放った音速拳がアルケミストの脇腹を撃ち抜いていた。ただし今回のは拳
を握りしめてのパンチではない。指を全て真っ直ぐに揃えて突き出す、貫手だった。
「う…ぐ…あ…かはっ…」
信じられないというような面持ちでアルケミストは数歩後退し、尻もちをついた。そして激痛と
呼吸困難に、面子も恥らいもなく苦しみの声をあげる。
「あ…ぐ…ぐぁあああっ…い…痛い…痛いっ…！」
「バカね、アル…」
腹部を抑えてのたうち回るアルケミストを見下ろしシェリーは呟いた。
「あなたのスピードが上がれば当然、私の出す技の相対速度も上がる。貫手にしたのは少し
でも空気抵抗を減らすため、のけぞったのはあなたの深追いを誘い、同時にバネで加速を
つけるのを隠すため…そうやってスピードを上積みしていけば、アルの服が硬化するよりも
速く、拳を打ち抜くことができる…」
言ってシェリーは拳をグッと握りしめた。アルケミストを撃ち抜いた右の指先、今はそれが酷
く痛い。父エヴィンを殴ったときの痛みと同じか、それ以上に痛かった。手のひらから血が滲む
くらいに拳を強く握りしめても、指先は痛いままだった。
（こんな感覚、もう味わいたくない…でも…）
心でそう言い聞かせ、シェリーは語気を強めた。
「私の勝ちよ。回復の時間をあげる気はないし、何より今の一撃であなたの防護服には綻びが
できた。あなたがその綻びを守ろうとするのなら顔を、顔を守ろうとするのなら綻びを、これから
私は容赦なく狙う。手負いのあなたに、両方同時に守れやしない！」
「………」
「…それでも…それでもまだ続けるっていうのなら…容赦はしないわ」
「ふ…フフフ…」
よろよろと立ち上がったアルケミストはしかし、そんなシェリーの言葉に力なく笑った。
「そういうことは、鏡でも見てから言ってくださいよ…」
「え…？」
「そんな…泣きそうな顔で言ったって…」
「…！」
何とか立ち上がり、そばにあった木にもたれかかるとアルケミストは言葉を続ける。
「やっぱり手強いですね…今なら分かる気がしますよ。なんでパペットマスターがあなたを認め
たのか、なんでダブルフェイスがあなたに破れ去ったのか、なんでバードがあなたに不覚を取
ったのか…ただ分からないのは、なんで僕が、こんなにも…」
瞬間、シェリーの心臓がドクンと鳴った。けれどアルケミストは、そこで言葉を止める。
そして彼は、着ていた上着を脱ぎ捨てた。
「目に見えた弱点なんて、邪魔になるだけだ…」
「アル…」
「僕は、あなたに勝たないといけない。それも力で、勝たないといけない。頭で勝ったって、意味
はないから」
「…今、サラっと失礼なこと言わなかった？」
「去年のセンター試験、全科目満点だったのなら取り消しますよ…新聞に載ってたあれ、徹夜
明けの暇潰しにやってみたけど古文で一つミスりましたから…とにかく」
そこでアルケミストは一回呼吸を整えた。
「夢なんですよ。シェリー・ハランツ…あなたとボイスの二人と、一緒にいられる世界が…」
（アル…って、ぼけっとしてる場合じゃない！）
何か危険なものがくる、直感的にそう感じとると、シェリーは走り出していた。けれど彼女の
手がアルケミストに届くよりも早く、アルケミストは指先で傷口を拭い、その血をベルトのバッ
クルを塗りつけていた。
「アル！」
シェリーがそう叫ぶのと同時に、アルケミストの体は血の色をした、赤い繭のような物体に全
身を覆われる。
「うっ…うあぁあっ…！」
「アル！アルっ！！」
中から聞こえるうめき声に、シェリーは外から叫ぶ。ただその声も、相手の耳に届いている
のか分からない
「うぁあああ…だぁっ！！」
しばらくして、シェリーが聞いたのはアルケミストの、そんな叫び声だった。目の前の視界が
次第に晴れ、その向こうに人影が見える。
「アル…」
安堵の声でそう言いかけるシェリーだったが、その言葉は途中で止まった。
「アル…あ、あんた、アル、なの…？」
「何を当たり前のことを言って…ってあれ？お姉さん、縮みました？」
「アンタがデカくなったの！」
間の抜けた声を聞き、シェリーは思わず言い返した。
目の前にいる相手は、たしかにアルケミストのようだった。ただ、その姿はシェリーが見慣れ
ている、小柄で年下の少年ではない。
面影こそ残しているが背は２０センチ以上伸びていた。丸くてくりくりしていた目は切れ長の瞳
に変わっている。
足は長く線は細い、七頭身半はありそうな、ファッション誌から飛び出してきたようなモデル体
型、すれ違う人は確実に振り返り、繁華街やテレビ局の近くでも歩いたら間違いなくいくつかの
事務所からスカウトされそうな、そんな青年がそこにいた。
「………」
シェリーは思わず相手の顔を凝視していた。同時に以前、ジェニファーに言われた言葉が脳
裏をかすめる。
「たしかに、あと四年もしたら年増のあなたになんて見向きもしなくなっちゃいそうね。
あの子、すごい美男子になりそうだし」
（…いやいやいや！違うから！！！）
シェリーはブンブンと首を横に振った。
そしてその段階で、アルケミストもようやく自分の身に起きた外観上の変化に気付く。
「へえ…こんなところも変わったんだ」
「こんなところ“も”？」
「だって外観の変化なんて些細なことですから。本当に変わったのは、僕の力。そう…」
そう言うアルケミストの指先から紫色の光弾が五発、散弾のように放たれた。
けれどそれらはシェリーのことをかすめもしない。全部まるで見当違いの方向へ飛んで行き、
後ろにあった木々に当たり、吸い込まれてしまう。
「ん？何のつもり…って！！！」
確認するまでもなく、シェリーは相手の意図が分かった。木の枝が無数に伸び、シェリーに絡み
つこうとしている。樹皮は青黒く変色し、幹には赤い目玉のような物さえ見えた。
「この程度！」
シェリーは素早く身を翻し、その手から逃れようとした。けれど逃げたその先に、更なる魔の手
が待ち構えている。
「操れるのは一本だけじゃないですから」
「分かってるわよ！けどねえ、このくらいじゃあ！」
いつの間にかあたりにあった樹木は全てこの、悪魔のような風貌へと変わっていた。けれどシェ
リーは怯まない。まるで精密なセンサーでもついているかの如く触手化した枝の間をすり抜けて、
アルケミストの眼前に迫ろうとする。
だが次の瞬間、シェリーは前のめりにすっ転んでいた。彼女には珍しく受け身もマトモに取れず、
ビタンという音を立てながら。そしてその足には、地面から突き出した木の根がしっかりと巻きつい
ていた。
「新たなるに生命の輝きを与える黄金色（こがねいろ）のＥＸＰ、ボイスから授かったベルトに秘め
られた力です。悪いけど、勝たせてもらいますよ」
「………」
言っている間に木の枝はシェリーの左手首にも絡みついていた。
けれどシェリーの顔に動揺は見られない。むしろ不敵な笑みさえ浮かべ、下からアルを見上げ
ていた。
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