「最初に言っておくと、ボクらの姿が見えること自体が資格がある証拠なんだ。
候補に選ばれる人間は数万人に一人しかいない。つまりとても稀少で名誉な
ことなんだ。まずはこれを大前提として知っておいてもらいたい」
「選ばれる基準はボクらの世界の魔道具を扱う力があるかどうか。キミの場合、
あの靴を作り上げるような技術への理解、呑み込みの良さと作り上げるまで根
気強く作業を続けられる精神力が認められた要因だとボクは考えてる」
「ボクらと契約するとまず変身用のアイテムが支給されるんだ。アイテムはカッコ
いい変身ベルトか両端にハートがついた可愛らしいステッキ（マジカルピース）の
選択式、キミは男の子だからベルトかなと思うけど、それは任せるよ」
「そして変身すると機敏に活動できるように１７歳くらいの外見になるんだ。そして
キミはさらなる魔道具を駆使して並みいる悪を討ち倒す！街の人はみんなキミの
噂で持ちきりになって一躍ヒーローさ。もちろん、お金は一切かからない」
「ただ、ボクもこの世界にとどまれる時間は限りがあるから契約できるのは残念だ
けれど今日一日しか無いんだ」
「ボクは、そしてボクらの世界は、キミの勇気ある決断を待っている！」
「以上で、ボクからのプレゼンは終了なんだけど、何か質問はあるかな？」
うん、典型的な悪徳商法の手口だね
「ふぁっ！？！？！？」
僕の一言は、この青いヒヨコにはずいぶん衝撃的みたいだった。なんか目が白
目になって、口があんぐりと開いて、背景にベタフラッシュが走ったのが見えた。
わざとやっているのかとも疑っていたけど、どうやらそうじゃなかったらしい。
「そんな、今の説明のどこが悪徳商法と」
「全部だよ！」
思わずこっちの声のボリュームも大きくなった。
「あなたは選ばれた人ですアピールから始まって、持ち上げてモノで釣って無料アピ
ールまでして、デメリットの説明何もしないで契約急かして！どこからどう見ても悪徳
商法の手口そのものにしか見えないんだけど！」
「う、うう〜」
青ヒヨコは今度は目を涙ぐませて、すがるような視線で僕を見つめてきた。次は
泣き落としにかかるつもりなんだろうか？
「デメリットについて説明しなかったのは謝るよ〜。だってこれ言うと、イヤだって言
うお客さんが多くって」
いや、デメリットってそういうものだし。しかしどんなデメリットなんだろう。
たとえば変身するたびに自分か他人の寿命を吸い取るとか？
「い、いやそれは無い！誓って無いから！」
魂削るとか？
「そんなこともしないよ！て言うかそれ、さっき言ってたのと同じだから！」
じゃあ、むしろ魂と肉体が強制分離されて、体はゾンビ状態になるとか？
「こ、怖いこと言わないでくれる？」
「じゃあ、どんなこと？」
否定ばっかり続けるから、僕も一歩にじり寄ってさらに問い詰めることにした。
「ボクらの世界からこっちに来るには、片道２０時間くらいの時間と相応のエネル
ギーが必要になるんだ。それでも活動できるのは丸一日が精一杯。それ以上の
時間をこの世界にとどまって活動を続けるには、契約者から生気を分けてもらう
必要があるんだ」
…なんかやっぱり、怖い話が出てきたんだけど。
「あ、別に魂とか寿命とか吸い取ることはしないよ？ただ契約者が経口摂取した
養分の一部を活動源として分けてもらうだけ」
なんかあえて難しい言葉使ってるみたいだけど、要するにこっちが食べた栄養
がそっちに行くってこと？
「そうそう、けれど変換効率があんまり良くないから契約者には一日あたり２０００
キロカロリーくらい今より余計に取ってもらわないとならなくなるんだ」
「………」
その言葉を聞いた瞬間、僕はなにかものすごい脱力感に襲われた。と同時に、
何かものすごく納得した。その条件、嫌がる女の子すごい多いでしょ。
「そうなんだよそうなんだよ！魔法少女って言うと目を煌めかせて乗り気だったの
が、この条件一つでテンション地の底まで堕ちて断る子の報告がやたら多くて。
養分はこっちに行くから別に太ったりはしないよって言っても聞かないんだ」
まあ、そうなるよね。クラスの女子とか僕でも驚くくらいの小さなお弁当箱持って
きてるし、それが食事量一気に、強制的に倍増とか精神的に絶対キツイ。それを
聞いて喜ぶのはフードファイターな人達くらいだろうし、たぶんそれが原因で、女の
子だけだと必要な人数に足りないんだろうな。それじゃあ次にだけど、魔法少年を
辞めたいと思ったときは？
「いつでも辞められるよ。魔法少年だったときの記憶は全部消させてもらうし、二度
と魔法少年になれなくなるけど」
それは普通だね。思ったとおりと言うか。それじゃ、あとひとつなんだけど
「え？まだ聞きたいことがあるのかい？」
もちろんあるよ、むしろこの質問が定番だし本題だ。
「正体がバレたときはどうなるの？」
「ああそれ？それなら大したことないから大丈夫」
大したことはないってことは何もないっていうのとは違うみたいだね。で、どんな
デメリット？
「ボクらみたいになるだけだよ」
特大のデメリット来たあ！て言うか目の前のナマモノ、元人間！？
「そうだよ〜、つい身バレしちゃってねえ。まあ、この姿の生活も楽しいよ？朝は
寝床でグーグーグーだし試験も学校もないし。ちなみにキミの場合は」
元人間のヒヨコはそう言って僕の姿をカメラっぽい道具でパシャと写した。する
と今度は空間に、青い鳥が映し出される。あれ、なんかこの鳥、体毛の色が眼鏡
かけてるように見えるって言うか、心なしか目つきが僕に似てるって言うか
「たぶんこんな感じだね。ブルージェイって鳥の一種。ボクほどじゃないけど、カッコ
良い方だと思うよ？」
いや、そんな比較論で語られても困るんだけど。とにかく
「悪いけどお断りするよ。他を当たってもらえるかな」
「そ、そんなぁ〜、そこを何とか」
「湿っぽくお願いされても引き受けられないよ。僕だって自分の生活あるんだし」
けれど僕がそう言いかけたときだった。窓の外でパトカーがサイレンをけたたま
しく鳴らして、同時にアナウンスを流しているのが聞こえてきた。なんだろう？後ろ
で騒いでいる鳥は放っておいて、とりあえず窓を開ける。
「近隣の皆様にお知らせいたします。ただ今商店街のＡＷ総合銀行にて強盗事件
が発生しました。犯人は銃器で武装しており、ただ今警察が犯人の説得を行って
います。事件解決まで自宅にて待機し、いかなる用事であろうとも外出は固く控え
てください。繰り返します。ただ今商店街のＡＷ総合銀行にて…」
瞬間、シェリ姉が別れ際に“銀行行ったり”と言っていたのを思い出して、心臓が
ドクンと鳴った。シェリ姉の携帯を鳴らしてみる…出ない！
（落ち着いて…今度はシェリ姉の自宅に…）
震える手で携帯電話をいじってシェリ姉の家に電話しようとしたとき、僕の手の
中で急に電話が鳴り出した。ビクッとして携帯電話を落としかける。
「うわっと！」
何とか落とさずに済ませて画面を見る。シェリ姉の自宅だ…僕はドキドキと鳴り
止まない心臓の音を抑えながら、通話ボタンを押した。
「…もしもし？」
「あ、アルくん？シェリーそっちに来てない？？？」
リビアおばさんだ…
「う、ううん、来てないけど…」
「そう…アルくんも、今の放送聞いた？」
「う、うん」
「あの子、携帯鳴らしても出ないから心配で…銀行にいないといいんだけど」
「だ、大丈夫だよ。シェリ姉、しっかりしてるから」
「そうだといいんだけど…アルくんも、絶対外に出たりしちゃダメよ？」
リビアおばさんはそう言って電話を切った。そして僕は、銀行に向かって一直線に
駈け出して行った。
銀行のまわりには警察がとっくに集まって、さらにそれを取り囲むように野次馬や
僕と同じく知り合いを探す人たちが二重三重の人だかりを作っていた。
「危ないですから近寄らないで！犯人は銃を持っていますから！！」
お巡りさんたちは叫ぶような声でそう言って彼らを遠ざけようとする。このままじゃ
とても近寄れそうにない…銀行もカーテンが全部下がって、中の様子なんて確認で
きない…どうすれば…
「おやおや、お困りのようだねえ」
帰ってなかったのか、青ヒヨコ。
「そんなイヤそうな顔をすることないんじゃないかな？せっかくキミが必要そうな情
報も取ってきてあげたんだよ？」
必要そうな、って…シェリ姉！
見せてきた写真にはシェリ姉の姿がハッキリと映ってた。覆面をして、銃を持った
強盗が５、６人、行員や客は隅っこの方で、手を後ろ手に縛られて地面に座らさせ
られてる。人質は全部で１５人くらい。その最前列の一人に、シェリ姉がいた。
「言っとくけど、合成じゃないからね。さっきのカメラ、普通の写真も撮れるし。それ
に言ったろ？ボクの姿は資格者以外には見えないんだ。ついでに言うと…」
ついでに言うと？
「銀行の方角をよく目を凝らして見てごらん？何か見えるかい？」
「何かって…え？」
何か、黒いモヤみたいなのが見える…少しだけど、銀行を包み込むようなモヤが。
「やっぱりキミは素質があるねえ。未契約なのに今の言葉だけで見えるようになる。
あれはボクらが黒い波動って呼んでる現象だよ。あれが発生してるってことは、相手
はただの強盗じゃないね。ボクが見たところ、何者かに操られてる。警察に手に負え
るかどうか」
「ヒューイ」
このとき僕は、初めて目の前の青くて胡散臭いヒヨコを名前で呼んだ。
「これは君の自作自演じゃないんだよね？」
「誓って言うよ、ボクはそんな外道なマネは決してしない。まあ、渡りに船だと思って
いるのは否定しないけど」
信じるからね、その言葉。後半の本音は嫌な感じだけど、それが逆に僕を信じる
気持ちにさせてくれる。
「それで、変身ベルトとマジカルピース、どっちがいい？」
やっぱりちょっとイラッとさせるような笑顔を向けながら、ヒューイは僕にそう聞い
てきた。
アル：主人公。ようやく契約を決意。第１話よりツッコミが厳しくなって元の性格に
ちょっと近づいてきた？
ヒューイ：ようやく主人公に名前で呼んでもらえました。これからはパートナー
リビアおばさん：シェリーの母親、基本的な性格は本編と同じだけれど、過去に
戦いに巻き込まれたりしてないので本編より少しおっとり。やっぱりちょい役
シェリ姉：本編のヒロイン。一般人です（再度強調）
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