「家についたよ！ベルト渡して！さあ早く！！」
「わ、分かったよ。分かったからそんなブンブン振り回さないｄ」
ヒューイはそう言うけれど、待てるわけがなかった。だってあれから二分も経って
るんだよ！？て言うかそんなベルトやステッキなんて持ってるように見えないけど
どこに隠してるの？四次元ポケット？ちょっと音が鳴るかジャンプしてみて！
「はいはい落ち着いてちょうだいよ。不良の恐喝みたいなセリフ並べないでさ。まっ
たく色ボケ小僧が」
…なんかまた、イヤミを言われた気がするんだけど。
「まあ、それはともかくだ。これからキミに契約の証を渡すから。契約が先だから」
契約の証？なんかやっぱり仰々しい…と、そう僕が言いかけたとき、ヒューイの
頭に生えていた２つ触覚、その左先っぽについていた赤い玉がコロンと落ちた。
「食べて」
…え？
「た・べ・て」
「………」
僕は目の前に転がっている赤いピンポン球のような物を見て、それからもう一度、
ヒューイの顔を見た。これを…食べるの？
「うん」
「………」
ああもう迷ってる場合じゃ無い！これはミニトマトだ、ミニトマトなんだ、どこにでも
ある、胡散臭いヒヨコの頭に生えてた何の変哲も無いミニトマトなんだ！これを食べ
て、はやくシェリ姉を助けに行くんだ！
ゴクン
舌の上すら一瞬で通過させて、噛まずに飲み込む。喉につっかえることを覚悟し
たけど、案外スルリと通り抜けた。味は…分からなかった（そもそも味わいたくなか
った）
「これで、キミとボクは一心同体だ」
「いやだから…って、え？」
ヒューイが光りだした！？光って、どんどん小さくなって、それで、ベルトの…バッ
クルみたいなモノに…
「驚いたかい？」
ってまたヒヨコに戻った！
「ボク自身が変身アイテムに変身するってワケさ。ただそれは、契約者じゃないと
波長を合わせられない。左の玉ならベルト、右の玉ならステッキ。じゃあまたベル
トになるから、腰に当ててごらん」
そう言ってヒューイはまた光ってバックルになった。銀色の横幅が１０センチくらい
の楕円形で、よくわからないけどキレイな模様が刻まれているバックル。言われた
とおりに腰に当てると、眩しく輝いて僕のベルトと一体化した。
「また驚いた？」
ってヒューイ！？
「この状態なら声に出さなくても、脳と直接話ができるからね。敵の前で話をする時
とかに便利だよ？とにかくこれで準備は完了。さあ後は想いを言葉にするだけだ」
あとは？想いを言葉に？？
「決まってるじゃないか。ポーズを決めて“変身！”って叫ぶんだ！」
…予想はしてたけど、やっぱりそれかっ！わかってるよ！ここまできたらやるしか
無いってことくらい！
「中途半端はかえって恥ずかしいからね！やるからには元気よく！」
ああもうウルサイ！とりあえず両手を大きく振り上げて
「変身っ！」
誰かがいたら不味いんだけど、誰もいない中で叫ぶのもそれはそれで恥ずかしい。
そんな気まずさで硬直していると今度は僕の体が光に包まれた。で、なんか背が伸
びてきて、光が段々洋服に、白いズボンと朱色のジャケットみたいな形になって…
「これが…僕…？」
「さあ行くよ、急ぐんだろう？」
鏡に映っていた自分の格好に言葉をなくしかけた僕だったけど、ヒューイの一言で
我に返る。うん、サポートよろしく。
「まかしといてよ。あ、ベルトはあるけどバイクは無いからね？」
そんな言葉が聞きながら、僕はまた家を飛び出した。
それから三分後には、僕は銀行の裏口から忍び込んでいた。この服の持っている
ステルス機能『緑の隠者』、それを使って、拍子抜けするくらいに簡単に。ただ何だろ、
ちょっと疲れる。
「このチカラを使っている間、キミの魔力も使っているからね」
…そうなの？
「初の実戦なんだし、解除できるときはしておいた方がいいよ？キミの姿が見えない
と強盗も混乱して、所かまわず銃を乱射する危険がある。ケガ人出したくないだろ？」
それはそうだ。でもそれだと僕の姿が敵に見られちゃうよね？
「それは心配しないでいいから」
そういうものなんだろうか。もしかして、解除しても多少は隠れていられるとか？
「！何者だ貴様！！」
って、解除した瞬間に見つかっちゃったんだけど！ライフル銃持ってる相手に！！
パンッ！
ぐ…やられ…てない？当たったハズのライフル弾が、地面に転がってる…？
「言ったろ？ボクらの世界の繊維で作られたアイアンスキン、バズーカ砲だって耐え
られるって」
いや、そこまでは言ってないと思うけど。
「とにかく今度は、前に突進しながらジャンプ！相手を飛び越す感じに！」
ここまで来たらもう、とりあえず従っとくしかなかった。目の前の敵に向かって突進
する。まるで足に羽根が生えたような、フワリとした感覚。自分で作った靴と似ている
けれどはるかに速くて、しかもコントロールが効く感じがする。
「なぁっ！？」
強盗の叫び声を聞きながら相手を飛び越し、背後に回る。ヒューイ、次は何をすれ
ばいい？
「右のシャツについてるカフスボタン、それを相手に向けて念じてみて」
「これか…」
ワイシャツについている、薄紅色の菱型のカフスボタン、空中で相手にそれを向け
て、ヒューイの言うままに念じてみると…敵の、動きが止まった？
「き、貴様、何をしやがったぁ！」
「効いてるねえ。あのカフスに封じられていたのは物理攻撃の全てを封じるナイトの
テクニック、これで相手はデクノボーさ」
なるほど…これなら何とかなるかもしれない。
「そりゃなるさ。こんな素人相手だったら何人だろうと。ただ気をつけて。絶対どこか
に、こいつらの親玉がいる」
わかった。とりあえず身動きの取れなくなったこの人は、たぶん手錠がわりに使っ
ていた結束バンドで縛って掃除用具入れにでも押し込んでおこう。それで…
そこから立て続けに３人、同じように強盗をやっつけた僕らは、ついに銀行の受付
前までやってきた。さすがに緊張する。心臓がバクバク言っているのがわかる。
「せっかくみんなにお披露目するんだ、バシッと決めてみようよ」
聞こえてくるヒューイの声に、僕は小さくうなずいて息を吸った。
「動かないで！」
鍵がかかっていたわけじゃないけど、わざとドアを蹴り開けて僕は思いっきり叫ぶ。
ちょっと声が上ずった。
「奥にいた４人はもう僕がやっつけた！」
残っている相手はあと４…５人。シェリ姉は…よかった、無事だ。
強盗も人質も、みんながいっぺんに僕のことを見た。シェリ姉と目が合いそうになっ
て、慌てて視線を強盗に向け直す。ちょっと見ただけだけど、少し疲れてる顔だった。
（シェリ姉…すぐに助けるから）
「なんだぁ？兄ちゃんよぉ」
…兄ちゃん？
「なにキョロキョロしてやがんだ！テメエのことだよテメエの！」
え？僕？？
「他に誰がいるんだよ！」
そういえば今の僕１７、８歳くらいの見た目になってたんだった。ゴメン、大人の人に
兄ちゃんなんて言われたのは生まれて初めてだからてっきり誰か他の人のことかと。
「どっかの衛兵みたいなカッコしやがって、何者なんだって聞いてんだよ！」
「さ、せっかく向こうがそう言ってるんだから、ちゃんと名乗らないと」
なんかヒューイがまた横からと言うか下から言ってきてるんだけど。まあ、名乗るなら
名乗るよ？けど、その前に
「ナイト！！」
「うぉっ！？」
「カラダが、動きやがらねえ…」
「どうなっていやがるんだ…」
作戦成功。流れ弾が他の人に当たったりしたら大変だからね。
「俺達をペテンにかけやがったなぁ！」
「この卑怯モンがぁ！！」
…いや、銀行強盗に卑怯者呼ばわりされたくないんだけど。て言うかむしろ感謝して
ほしい。発砲するのとしないとじゃ、懲役が１年くらいは違うかもしれないから。銀行強
盗の刑期って１５年くらい？撃ってたら１６年くらいかな？
「そういうの、こっちの世界じゃ“五十歩百歩”とか“焼け石に水”って言わないっけ？」
…ごもっとも。
それから僕は、残っていた結束バンドで強盗全員の両手と両足を縛り上げた。人質
だった人たちはポカンとしてたり、まだ何が起きているのか分からないというか信じら
れない顔をしてる。無理もないんだけど。
（この人たちを解放するのはお巡りさんに任せた方がいいかな。長居はしない方が）
「いや…ちょっと待ってよ」
ヒューイ？もしかしてまだ僕が名乗ってないの気にしてる？？
「それもそうなんだけど」
そうなんだけど？
「さっきも言ったろ？大将が残っている筈だって。キミも見ただろう？外から銀行を見た
黒い波動、アレの持ち主だよ。ボクらが銀行に近づくのに合わせるように波動が消えた。
勝手に消えるモノじゃないからね」
（………）
危なかった。緊張と妙なハイテンションで、最初のそのことを完全に忘れてた。敵が、
まだいる…？
「…なるほどな」
（………！！！）
さっき縛り上げた強盗の一人だ、急に雰囲気が変わった…
「魔力を感じたので追っ手かと思ったが、動きが素人だ。事態に驚いて慌てて契約を
交わした地元民、そんなところか」
（ん？そう言うってことは…）
「手ごわいのが来たかと思って隠れてたってこと？」
「…戦力の確認を優先しただけだ」
（！姿が…！！）
「黒い法衣に銀色の長髪、あいつもしかして」
震えたみたいなヒューイの声が耳に響いてくる。
「我が名はジュザ、暗黒の眷属なり」
「やっぱり！推定レベル１５の魔術師！！」
（ヒューイの声がさらに引きつった。推定レベル？ＲＰＧのレベルみたいな物？だとした
ら契約したての僕はどう考えても…）
「フォースフラッシュ！」
（！！！）
ドンッ！
何か光ったと思った瞬間、爆風みたいなのに吹き飛ばされていた。おまけに壁に叩
きつけられて、アイアンスキンのおかげで気絶してないし骨も大丈夫そうだけど、それ
でも痛い。泣きたくなるくらいに痛い。
「けど、これくら…」
立ち上がろうとしたら、今度は首根っこを何かで掴まれた。
「触手…！」
「このまま絞め殺してやろうか」
（ぐ…苦し…）
「アイアンスキンは意識を集中させれば糸をワイヤーみたいに打ち出せる！それで切
って！」
（ヒューイ、わかっ…）
意識を失わないように必死にこらえながら袖口に意識を集中させる。袖からキラキラ
光る糸が一本、意識を持っているみたいに伸び出てくる。こいつを触手に巻き付けて…
「切るっ！」
「ほう…」
な、なんとか切れた…細い糸なのに、切れ味は刃物みたいに鋭い。けど、相手は全
然驚いてない。ヒューイ、他になにか武器は？
「今用意してる。ちょっと時間を稼いで！またさっきの攻撃が来るよ！」
「！！」
ジュザの腕がまた光った。僕はそれをギリギリのところでかわす。するとまた光って、
それをよけて…よし、少しコツが掴めてきた。三発目はわりと余裕でかわせた。
「準備できたよ！カフスの魔力属性、変更完了！」
カフス？あれ、なんかさっきまで薄紫の菱形だったのが、緑の星型に変わってる。
「物理を封じるナイトから魔力を全部封じるフォールに変更したよ！」
サンキュ、これで敵の力をってことだね。喰らえ！
・
・
・
「…それが、どうかしたのか？」
「…え？」
「私の法衣は、ナイトやフォールと言った術は全て遮断する。それより後ろを見てみる
がいい」
「後ろ…？！！！」
やられた…いつの間にか、人質になってる人たちの真正面に立たされていた。敵の
攻撃をよけていたつもりが、完全に誘導されていた。
「さあ、さっきみたいに逃げ回ってみるがいい！フォースフラッシュ！」
「！！！！！」
ドォンッ！
「殊勝だな。避けるどころか守りも固めない。腕を広げて、身を挺する」
「何やってんだよ！早く逃げないと！」
うる…さいなヒューイ…そんなことしたらシェリ姉に、みんなに当たっちゃうだろ…
「何発で息絶えるか試してやろう。フォースフラッシュ！」
「がはっ…」
マズイな、意識が吹っ飛びそうになった。でも…
「フォースフラッシュ！！」
「うぁっ…」
大丈夫、吹っ飛ばされてない…まだ両足は踏ん張れてる…
「フォースフラッシュ！！！」
「………」
「起きて！ねえ動いて！死んじゃダメだって！！」
…なんか、ヒューイの声が聞こえるな…そっちは無事なんだ…でも…
「フォース」
「ダメぇっ！！！！！」
………え？
何か聞き覚えのある声が聞こえて、敵の技名が途中で切れた。技は上に逸れたみた
いで、天井から瓦礫が落ちてくる。
（あれは…）
爆煙の中から隙を突いたらしいシェリ姉が、ジュザに体当たりをしていた。両腕は後ろ
に縛られたまま、全身で突っ込むように。
「小娘が！邪魔立てするな！」
「あうっ！！」
「先に死にたいのなら、貴様から…！」
その一瞬で、力が湧き出してきた。相手の右腕を糸で止める。怒りで、痛みがどこかに
吹き飛ぶ。
「誰をひっぱたいてるんだよ…誰を撃とうとしてるんだよ…お前の相手は、この僕だろ…」
「フン…死に損ないに何ができる？」
「分かってると思うけど、今の隙にお前の腕に僕の糸を一本巻きつけた」
「ああそうだな、それで、これが私の腕を切れるとでも」
「思ってないさ！」
縮め！ワイヤー！それに靴の浮力を活かして跳躍！こいつらを合わせて突っ込む！
「体当たり！？無意味だよ！ただ相手にぶつかったってマトモにダメージなんか！」
分かってるよ！それが目的じゃない！こいつの目的は…
「フォール！！」
「うをぉあああっ！！？ち、力が、押さえつけられる…！？」
「はは…今度は、効いたみたいだね…」
コイツは、法衣が防いでるって言ってた。だったらゼロ距離で、相手の首筋あたりに直
接カフスを押し当てて技を使えばいい。ワンチャンスだったけど、うまく拾えた。
「調子に乗るな！小僧ぉっ！」
また触手！けどっ！
ビシャァッ！
ちょっと生々しい、イヤな音をさせながら、僕の糸は触手を断ち切る。
「触手しか来ないって分かってたら、読めるよ…マッハ２０とかでもない限りは」
「ぐぅ…」
「これで決める…ありったけの力で！倍返しだぁっ！！」
両腕を広げ、意識を集中させる。両袖から１００本くらいの糸を出して、それを周りに
散乱している瓦礫や、こいつらが盗んでいこうとしていた硬貨が入った袋、それに札束
が入ったアタッシュケースに結びつけて、それを上空で１つの、両手を広げたくらいの
直径の隕石じみたカタマリに凝縮させる。
「喰らえ必殺！なんちゃってメテオストライクだぁっ！！！」
「ぬぉぉぉぉぉっ.........」
グシャァンッ！！！
・
・
・
・
「こ、この私が…名も無き小童なんぞに…」
「名も無き小童なんかじゃない」
「なん…だと…」
「僕は錬金の魔術師、魔法少年マジカルバルドだ！！！」
「………」
ジュザは白目を剥いて、受身も取れずに倒れた。僕が言った最後のセリフ、それが彼
の耳に届いていたのかいないのか、どっちとも言えないしどうでもいい。
「とりあえずこいつだけはアイアンスキンの糸を使って縛っておいた方がいいよ。また動
きだしたら危険だから」
（う、うん。でもこいつどうするの？）
「今日のうちにボクの世界から増援が来る。警察には手を回しておくよ。なんでこいつが
こっちの世界で強盗なんてみみっちい真似をしたのかも気になるしね」
なんか今、サラっととんでもないこと言ってた気がするんだけど。とりあえず言われたと
おりに、こいつは厳重に拘束してと…
「う………」
（シェリ姉…）
ぶたれて気絶していたけど、気がついたみたいだ。この戦い、シェリ姉がいなかったら
間違いなくやられてた…
「よかった、気がついて…」
「え？あ、はい…」
「おかげで勝てた…ありがとう」
「あ、あの、あなたは…」
そういや名乗りは聞こえていなかったのか。それじゃあ改めて
「ねえねえ、バルドバルド」
なに？今じゃなきゃいけないこと？
「そろそろ離脱しないと、変身解けるよ？」
え？
「あんだけ力使って、もう魔力空っぽなんだから。今はボクが何とか食い止めてるけどさ、
それもあと１分が限界だねえ」
こ、こんなところで…たしかにちょっと気を抜くと体が縮みそうなっ！
「あ、後は警察の人達にお任せします！みなさんお大事に！それじゃあ！！」
裏口に通じる扉から一目散に、僕は全力で逃げ出した。
そして、その日の晩…
僕は結局、ハランツ家に夕飯をご馳走になることになった。銀行でシェリ姉が人質になっ
てたことも（噂で聞いたってことにして）話したんだけど、むしろそんなことがあった後だか
らというよく分からない理由で押し切られた。ケガは、ヒヨコ状態に戻ったヒューイが治して
くれた。僕が初めての戦いで格上の相手をやっつけたこと、いっぺんに１００本近くの糸を
使いこなしたこと、どっちもかなり珍しいことらしくて、ものすごく上機嫌だった。
「上機嫌なのはいいけど、くれぐれも静かにしててね。話しかけられても困るから」
「わかってるって。キミにはまだまだ期待できそうだからね」
ニコニコとそう言うヒューイと一緒に、僕は夕食に出かけた（曰く、契約した以上こっちで
離れて行動することはできないらしい）
「アル君、おかわりどう？」
「いいんですか？」
「もちろんよ、たくさん食べて」
リビアさんはそう言って、三杯目のシチューをよそってくれた。ヒューイの言っていたとおり、
ホントになかなかお腹にたまらない。味覚はそのままなんだけど、口に入れた食べ物が喉を
通るときに半分くらい、胃袋に落ちずどっかに消えてなくなっていくような、そんな感じがする。
「それにしてもアル、あんたこんな食べる子だったっけ？昨日の晩はペロリーメイトとバナナ
一本で済ませたって言ってたのに」
「そうなんだけど久しぶりのリビアさんの料理は相変わらず美味しいし、それに安心したら急
にお腹が空いちゃって。携帯つながらなかった時から気が気じゃなかったんだから」
「まあ、あれはね」
当然のように先に食べ終わっていたシェリ姉は、コーヒーを一口飲んで笑う。ホント、無事
でよかった。ちなみに、上のセリフはセリフで嘘は言っていない。
「にしても犯人の怪人、助けに来てくれた人のこと“地元民じゃないか”って言ってたのよね。
けど私はあんな人見たことないし…マジカルバルド…アルは何か心当たりある？」
「いや…て言うか僕が分かるワケないよ」
「それもそうよね〜、その場にいたワケでもないんだし」
（ホントはいたどころの騒ぎじゃないんだけどねえ）
みんなに聞こえてないと思って…魔法カラーヒヨコは黙ってて
「ちゃんと会ってお礼も言いたいんだけど」
「えっと、いや深入りしない方がいいと思うよ？また会うってことは、また危ない目に遭うって
ことになるかもしれないんだし」
て言うか頼めないけど頼むから深入りしないでほしい。じゃないと僕の命が削り取られる。
「ん〜、でも」
「そうよシェリー。アル君のいうとおり」
リビアさん、ナイス横槍。
「それとシェリー、あなた強盗事件に巻き込まれたとき、ちゃんとおとなしくしてた？」
「え？」
「あなたそういうとき、変に犯人刺激するようなことしていなかったかお母さん心配で」
「や、やあねえ。じっとしてたに決まってるじゃない、強盗に逆らわないのは基本よキホン？」
…シェリ姉、顔の冷や汗がすごいことになってるよ…
「ふうん」
なんかリビアさんの声が冷たい。心なしか、背後からゴゴゴゴゴという擬音が聞こえてきそ
うな感じがする。
「そのときのこと、あとでじっくり聞かせてくれるかしら？」
「え…あ、アル！！ねえ、やっぱり今晩泊まっていかない？ほ、ホラ、まだ見せてないマンガ
とかゲームとかあるから！！すっごく面白いヤツ！！ね！久々に対戦もしたいし！」
「えっと…いや、遠慮しとこうかな。明日まだ平日だし、宿題もまだやってないから」
「は、薄情者ぉ〜〜〜！！！」
ごめんシェリ姉、今晩一緒にいたら絶対に事件の話になるし、何より僕もリビアさんは敵に
回したくないんだ。
それからしばらくして、僕（とヒューイ）は誰もいない我が家に戻ってきた。今頃シェリ姉は
リビアさんに絞られているんだろうか。まあそれに関してはグッドラックとしか言いようがない。
（ものすごく感謝はしているけど）
ともあれ、こうして僕の魔法少年としての日々が始まることになった。
これから僕の日常がどんなことになるのか、また今日みたいに戦わなきゃならないことに
なるのか、それはまだ分からない。
ただ今日の一件だけでも、契約した価値はあったと思う。銀行強盗を退治してみんなを、
シェリ姉を守ることができたんだから。
「やっぱり“シェリ姉”なんだね、この色ボケ小僧は」
うるさいな、勝手に人のモノローグに割り込まないでくれる？
「いやあ気になってるんだよ。キミにとってあの子はずっとお姉さんがわりだったんだろう？
それがいかにして女の子として意識するようになったのか、そのキッカケってヤツが。たしか
中学にあがった頃がどうとかって言ってなかったっけ？」
…そういうの、話すつもりないから。
「いやいやいや、これは業務上大切なんだよ。パートナーの情報を把握するのは、相手の
心理状態を把握し、今後の戦略をより効率的に機能させるためには必要不可欠で」
ごめん、興味本位って顔に書いてある。
「いやあ、青じそラッピーが真面目なこと考えるときはこういう顔になるんだよ。これホント」
（やれやれ…とりあえず、にぎやかになるのは間違いなさそうだ。でもその前に）
僕はカバンを開いて、机に向かって、明日の宿題に手をつけることにした。
アル／魔法少年マジカルバルド：ようやく変身、初戦闘。バルドは本編での本名ですが、こ
ちらの世界の本名というワケじゃないです。変身後の服装イメージは中世のイギリス衛兵。
イギリスな理由は契約のきっかけがお姫様（と言うと語弊があるけどシェリー）を守るため
だったということで。
ヒューイ：魔法生物兼パートナー兼解説役兼変身アイテム。便利なんだけどそろそろ属性
過多になってきたような。たまには足を引っ張らせたい。
ジュザ：千年紀からのゲスト出場。キャラレベル的にものすごくピッタリだったので…触手を
使ったのは身体の中がグチョグチョの化け物だという公式設定資料集準拠。マッハ２０には
到底及びません。
シェリ姉：本編のヒロイン。戦闘力は一般人だけど性格はあんまり変わっていないので、本
編よりもむしろ危なっかしいんじゃないかと思える今日この頃。
リビアおばさん：シェリーの母親、料理上手。怒らせちゃいけない人。
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