夢幻之学園（仮）
| さて、昼休み。 リナとシェスはいつも一緒に屋上でお弁当を食べるのだが（大抵ライルやルディが乱入して くるけど）、今日はルイセとリンも誘う事にした。 ルイセを連れて隣のクラスへ行くと、リンは開いたかばんの前で何やら考え込んでる様子。 「リン、どうしたの？」 「ああ、シェスか・・・どうやら、弁当を忘れてしまったようだ」 「購買部には買いに行かないのですか？」 「ルイセさん、昼の購買部と学食の恐ろしさを知らないのね・・・４時間目の授業が終わった 瞬間、およそ百数十人がなだれ込み、さながら地獄絵図なのよ」 「・・・・・・」 「リナ、それは少し大袈裟ではないか？」 「いや、大袈裟じゃないぞ」 後ろから会話に割り込む人物が一人。 「兄さん、もしかして弁当を持ってきてくれたのか？」 「大当たり。何故か今日に限って忙しいから持ってくるのが遅くなったけどな」 彼の名はレイン・ノ・サテラ。名字がオリジナルと違うのは、こういう設定だから。 一応生徒会の副会長で、適当にまじめで適当にノリが良く女子にもかなり人気があるのだが、 本人は自覚があるのか無いのかよくわからない。周りはみんな友達ってタイプ。 「あ、あの・・・せっかくですから一緒に食べませんか？」 ルイセが声をかける。 「そうよ。たまには『美女に囲まれてシアワセなひととき』を味わってみたら？そうそう、 こちらは私のクラスメートのルイセ・ケイ・エシルさん」 シェスは、今まさにスレイが屋上でそういう状況を満喫している事を知らない。 「はじめまして、レイン・ノ・サテラです。・・・いやぁ、非常に魅惑的なお誘いはとっても うれしいけど、今すぐ生徒相談室に行かないとアーミア先生に文字通りシメられるもので」 「そう、ですか・・・」 「あ〜、泣かせた。いっけないんだ〜」 泣いてない泣いてない。ルイセはがっかりしているだけだ。 「ま、まあ、それはまたの機会にって事で・・・まずい、もうこんな時間だ・・・そうだ、 シェス、放課後の生徒会会議忘れるなよ・・・それじゃあ！」 レインは疾風の如く去っていった。 「忘れるわけないわよ・・・それにしても、ルイセも意外と大胆ね〜」 「え・・・？そ、そうね・・・わたしってば、は、はしたないことを・・・」 ルイセの顔が真っ赤になっている。 「はしたないということはないと思うが・・・」 「それはそれとして、早く屋上に行かないと、食べる場所なくなっちゃうわよ」 「ホントだわ。じゃ、行きましょ！」（Ｂｙすずしろせり） |
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| レインとリナ達が、教室で会話している頃、屋上ではスレイが「美女に囲まれたシアワセなひとと き」を、一見、満喫しているように見えた。しかし、彼の表情を注意深く観察すれば、その瞳は笑っ ていなく、また周りのどの女の子の姿も写していないことに気づいただろう。もちろん、話し掛けら れれば、笑顔で答えるのだが、それが終わると、すぐにまた憂いを帯びた表情で、ぼんやりと空を眺 めてしまう。周りのグルーピーのような女の子達の多くは、「そういうところが、カッコイイ」とで も言うのだろうが、シェスならば、スレイの顔を両手で押え込んででも、自分のほうに向かせようと するだろう。（本当に実行出来るかどうかはともかく）それと、あともう一人の女性も・・・・ スレイは、高等部に進学して以来、「自分のお弁当」というものを持ってきたことがない。スレイ の両親が二人とも、バリバリの会社人間で、彼が高等部に進学する頃に、それぞれ別々のところへ、 単身赴任してしまったからである。それで、高等部に入りたての頃は、学食等を利用していたのだが、 それにひとつの転機が訪れることになる。 |
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| それは、スレイが一年生の頃の５月の末頃のことだった。かれが、その日の授業を終えたものの、 真っ直ぐ家に帰ったところで、誰も待っているわけではないので、校内をぶらついていたときに、彼 女「ライラ・ブラングウェン」と、初めてまともに会話したのは。 「さて、日も暮れたことだし、そろそろ家に戻ろうか」 と、スレイが、校庭の裏を通りがかった時にそうつぶやいた。その時、 「危ないっ！ 伏せなさい！！」 背後から鋭い声が飛ぶ、スレイは振り替える時間さえも惜しいことを直感的に判断すると、言われた 通りに地面に伏せた。背後から高速で飛んでくる物体が通り過ぎた・・・かと思ったら、空中で旋回 して戻ってくるので、再度スレイは慌てて地面に伏せることになる。 「大丈夫か、君」 声から判断すると、女性のようだが、伏せているスレイには顔が見えない。ようやく起き上がって、 相手の顔を見る。（この学校の生徒のようだ、何処かで会ったことがあるな）とスレイは思った。ちょ っぴりキツメだが、なかなかの美人だ。はて何処で会っただろう。 「おいおい、私の顔をじっと見つめてどうした、『君の瞳に吸い込まれていたんだ』なんて台詞は 私には効かないぞ」 「え、え〜と、ライラ・ブラングウェンさんだっけ」 「そうだよ、なんだ、単に忘れていたのか。一応同じクラスなのだが、スレイ・ウォルシュ君」 「そっちだって、さっきは『君』だなんて呼んでたぜ」 「伏せていては、誰だかわからない」 「それもそうか、そうそう、俺のことはスレイでいいぜ。それより、さっき投げていたもの、あれ は何だい」 「スライサーだ。主に女性の護身用の武器でね、ブーメランに刃の付いたものってところさ。まあ これは練習用だから、刃は付いていないが。それで、私はこの学校に女子スライサー部を作ろうと思っ て練習に励んでいるのさ。顧問には、アーミア先生を考えているんだけどまだ、人が集まらなくって ね。あ、私のこともライラで良いよ」 「そうか、練習の邪魔をしちゃ悪いな、教室ででも、また話をしようぜ」 「ああ、良いよ」 それ以来、二人はやがてお互いが気になる存在となり、付き合いはじめた。ライラが、スレイのため に、「お弁当」を作ってくれるようになるまで、時間はかからなかった。 しかし、スレイが、ライラのためと思って、公約の一つに「女子スライサー部の設立」を掲げて、 会長選挙に出馬し、見事当選し公約を実行したことが、お互いの関係を阻害にしてしまった。生徒会 長としての責務にスレイは専念しなければならなかったし、部長と主将の兼任しているライラもそう であった所為である。二人にとって、責任を放棄して「二人の時間」を作ることは出来なかった。そ んなことをすれば、相手が自分を嫌ってしまうだろうと、二人とも考えていたのであった。そして、 どちらからともなく、別れ話を切り出したのである。今、スレイの周りにいる女の子達は、彼が生徒 会長になった後で、校内で有名になってから集まってきたのである。 |
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| 「どうしたんですか、ウォルシュ先輩」 スレイはライラ以外の女性に名前で呼ばせはしない。本人にとっては、深い理由はないようだが・・ 「いや、なんでもないぜ」 と、作り笑顔で答えるスレイ。と、その時、 「スレイ」 と彼を呼ぶ声がする。 だから、俺のことは、名前で呼ぶなと・・・ん、ライラ」 二人が別れて以来、彼女が昼休みに屋上に上がることはなかった。だが、いまはいる。どうして、と スレイは思った。 「相変わらずね、スレイ。今度のインターハイが終わったら、いや、やっぱり後で良い。」 「何、言ってるのか良く分からないよ」 「何でもない。それよりね、私、怒っても、後悔してもいないから・・・それじゃね、スレイ」 「ライラ・・・・」 ライラは、泣きそうな顔を見せまいと後ろを向くと、階段を降りていき、スレイはやはり空に向かっ てぼんやりとしていた。（ＢＹ Alex=Lezar) |
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| 「ですから、ここの回路からこちらへバイパスしてやれば・・・」 「お、ホントだ、信号行ってんじゃねーか。さすがだなー、機械のことは機械に聞けか」 放課後の校庭でなにやら大きな機械をいじっている生徒二人。ひとりは３年生のパイク、機械部の部員である。もう一人はフォーレン、やはり機械部の３年生で、生徒会では書記も請け負っている。立候補ではなく、同じクラスだったスレイの推薦で抜擢された経緯がある。 「顧問のカインズがいなくて良かったぜ。あいつがいたら何作っても壊しちまうからなあ。大体あんな異常な才能持ってる奴が機械部の顧問なんかすんなっての！もっともお前の弟までいなくて、人手不足で長びいちまったが」 フォーレンの弟、シーレンも機械部の部員だ。 「どうも彼は最近自律プログラムが不安定で・・・兄として心配です」 「あればっかりはどーにもなー、完全に熱あげてっからなー」 「そういえば確かに最近オーバーヒートが多いですね。冷却装置に異常があるなら修復してやらないと」 「・・・いや、そーじゃなくて・・・うーん、お前にも分かる日がくっかなー？」 「なんです？」 「いや、いいや。めんどくさいから（笑）。それより、執行部会行かなくて良かったのかよ？」 「この実験の事を話したら、スレイが今日はたいした議題じゃ無いからいいと言ってくれて。念のため代理にコマンドボールを出動させておいたので、あとでソレから情報を収集します」 「アレか。また暴走して誰かの顔に特攻しなきゃいいが（笑）・・・しかし、５代様も悪いウワサ多いよな。殆どはやっかみらしいが」 「何故か教頭にも目を付けられているようだし・・・実際つきあってみるといい人なんですが、言動が独特なので誤解されやすいようです」 「有名税ってヤな言葉があったっけなあ。よし、つながったぜ。動かしてみっか？」 機械部設計・製作の自動車、「ランドマスターＡＸＶ−２５」の最終組立が終了した。創立以来２４台の製作に挑戦し、ことごとく失敗した自作マシンの２５台目のテストである。 「今度は大丈夫だろーなー、頼むぜブーブー様！」 「そのブーブー様って呼び方やめませんか？」 「そーさな、幾ら作っても走らねーってついた蔑称だしなー。毎度爆発するんで一部では”メギド部”とか言われてっし・・・まー、成功すりゃ全て返上だ！エンジン掛けるぞ！」 パイクがスイッチをいれ、エンジン音が響いた。フォーレンが横に乗る。 「はっしんっ！」 ２５号機は軽快にスタート、校庭を猛スピードで駆け抜けた！ 「うおー！やったじゃん！これで悪名ともおさらばだ！」 「爆発もしませんね。期待できます」 校庭を横断し、校舎玄関から校門へつながるロータリーへ近づくマシン。 「外へ出るのはまだまずいですね。引き返し・・・パイク？」 不思議そうにのぞき込むフォーレン。パイクは・・・元々蒼い顔をミッドナイトブルーに染めて、両手を上げた。 「まさか・・・」 ロータリーに突入、減速しないまま、中央にある銅像に激突！ ・・・四散。乗っていた二人は、散らばる部品と共に銅像の足下にひっくり返っていた。 「・・・へっへっへえー、ばくはつじゃねえぞおー・・・今日からメギド部改め”ファースト”部だあー・・・」 「・・・銅像が非常識に丈夫でよかった・・・故・ハナ肇ではこうはいきませんでしたね・・・」 モタビアンとアンドロイドの、長い一日が終わった。 「・・・言うべきじゃなかったかな・・・あたしらしくもない・・・」 「よー、姉貴！何沈んでんだよ？」 夕暮れの道を歩きながら、鬱々と考えていたライラに声を掛けたのは、ルディだ。 実はルディは一人っ子で、両親もいない。昔事故で亡くなったらしく、以降は親戚やご近所の暖かい協力のもとで育ってきた。本人はそのことを気にしているわけでは無いが、やはり「家族がいない」という事実が彼を寂しくさせるのか、親しくなった者を勝手に兄弟呼ばわりするクセがある。ライラもライル同様近所づきあいの結果「姉貴」にされてしまった者の一人だった（ライラとライルの名前が似てるのは単なる偶然）。 「なんだルディか。悪いけど考え事してんだ。一人にしてよ」 「似あわねーなーおてんば（死語）ライラが。明日は流砂かな」 「・・・人をなんだと思ってんの」 「いっちゃえばいーのに。一緒にいたいってスレイに」 「・・・！てめっ」 「うおーっと！人に向かってヴォルテックスはいけませーん」 「このガキ！何もわかんないクセに」 「スレイとつきあってる頃の姉貴、たのしそーだったなー」 「・・・！」 「近所に暗い顔してる奴いると伝染すんだよねー、迷惑だねまったく・・・自分の意志を優先する、不条理なワガママ込みで。それがライラの信条じゃなかったっけ？」 「・・・・・・」 「もたもたしてっと何も出来ずにおわっちまうぜ!やられる前にやれ！」 「意味ちげーだろがっ！」 スライサーを投げるそぶりを見て慌てて逃げ出すルディ。一人残されるライラ。 「・・・そーかな、やっぱらしくないかあ・・・」 「で？お前はそれでいーのかよ」 何とかライラの射程距離から離脱したルディに、電柱脇から話しかける者がいた。ギョッとして振り向くと、いたのは・・・ライル。 「・・・おどかすなっつの。聞いてたのかよ、趣味悪いぜ」 「お前と同じ程度にはな。全くなにやってんだか・・・お前の好きなのはライラじゃなかったのか？」 確信をつくライル。・・・ルディの表情が、切なげに変わる。 「・・・オレの思いは、姉貴が弁当作り始めた時にもう負けてるんだよ・・・みっともない横恋慕するよか、姉貴の幸せ祈ってやるほうがかっこよくない？」 「・・・好きにしろ」 照れくさげに去っていくルディを見送りながら、ライルは考えた。 「人のフリ見て我がフリ直せか・・・？オレもなんだかなあ」 昼間スレイに言われたことが、頭をよぎっていた。 「もしもし、あ、シードおばさん！ファーストですーどもー。・・・え？海外勤務？わー大変ですねー・・・え？えー！ホントに！？とんでもない超歓迎ですー！明日ですね！はい！どーもー」 「・・・んぬわにぃおねーちゃん・・・ＺＺＺ」 「寝る前からねてんじゃねーよお前わ！あのね、シードおばさんが急な海外勤務で数年帰ってこれないから、ファルあずかってくれって！」 「えー！ファルちゃん来るのお！ほんと！？」 「明日ウチの学園に転入手続きしに来るんだって！」 「ひゃほやー！！また３人で遊べるねー!」 「よろこべー！はにゃはにゃはにゃはにゃ」 「へにゃほにゃひにゃふにゃ」 新しい出会いのありそうな明日であった。（以上ＰＯＮ、長々と御免！） |
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| そして、次の日（やっと一日が終わったぜー！）。本日の天気、くもり時々雨。 ファーストとセカンドは、ファルを迎えに行くべく、駅に向う。到着予定時刻は、１０時。 「うにゅ〜、ねむいぃ・・・」 「昨日あたしより先に寝て朝御飯の支度もさせといてギリギリまで起きないくせに・・・」 「おーい、ファースト、セカンド〜〜〜」 後ろから声をかけてきたのは、ルディだった。 ちなみに、このあたりに住んでいる夢幻之星学園の生徒はほとんどが自転車通学である。 故に、３人とも自転車に乗っている。 「おはよ、ルディ。あんたがド遅刻だなんて、珍しいわね。」 「う・・・まあ、その、なんだ、・・・寝坊しちまったんだよコンチクショー！」 彼の目標である皆勤賞はたったの１ヶ月半で挫折せざるを得なかった。 「そんなにヤケにならなくてもいいのに〜」 「でも珍しいのはお互い様だぞ。セカンドが寝てたっていつも置き去りにするじゃないか」 「今日はちょっとね・・・そうだ、あんたにも遅刻ついでに私たちの用事に付き合って もらいましょ」 「あ、い〜わねそれ」 「お、おい、勝手に決めるなよ・・・」 「つべこべ言わない！」 「あ〜れ〜（笑）」 こうして、３人は待ち合わせのピアタ駅に向かった。 ピアタ駅は、規模としてはかなり大きく、『アイードデパート』をはじめ、数多くの店が 並んでいる。 駅前の待ち合わせ場所としては最適なラッピーのオブジェの脇に、ファルがいた。 前の学校の制服と思われる公立高校ライクなブレザーを着ている。 「ファルちゃ〜〜〜〜〜ん！」 「あ〜、ファースト、セカンド、ひっさしぶり〜」 従姉妹同士であるからか、とっても良く似ている。 「あれ、この人はどなた？」 ルディを見て、ファルが言う。 「こいつは、うちの近所に住んでいるルディ・アシュレって奴。ルディ、この人は私らの 従姉妹のファル・バースバレー。いろいろあって、こっちに来る事になったんだ」 「はじめまして！ファル・バースバレーです。これからよろしくね！」 「は、はじめまして、ルディ・アシュレです」 「ルディってば緊張してない〜？」 「ん、んなことないって！それより、このまま学校に行くのか？」 「あったりまえよ。というわけだから、あんたの自転車の後ろにファル乗せてあげてね」 「お、俺が？」 心なしかルディの顔が赤い。 「んまー、せっかくおいしいシチュエーションを用意してあげたのにその態度・・・罰として 『ナウラ』のケーキセットおごらせちゃる！」 ファースト、目が本気。 「あ、あそこのケーキってすっごくおいしいって評判なのよね！私も食べたい！」 「うわ〜、ルディ、ありがと〜」 「な、なんでそうなるワケ〜？」 ３人にケーキセットをおごる約束を無理矢理取り付けられてしまったルディ。哀れよのう。 っていうことで、４人は学校へと向かっていった。何のかんの言って、ファルはルディの 自転車の後ろに座っていたとさ。（Ｂｙすずしろせり） |
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４人が駅から学校へ向いながら色々話をしている途中，ファーストが突然，何かに気づいたように自転車を止めた。 「ねぇ，そう言えばナウラのケーキ屋さんって，この通りから行けなかったっけ？」 「そうなの〜？姉さん」 何故か，こういう事に詳しいファースト。ファーストは良いことを思いついたって感じの笑顔をして，ルディの後ろに乗っているファルを見た。 「ねぇファル。今日は学校に手続きしに行くだけだよね〜。なら，ケーキ先に食べに行っちゃおうよ〜。このルディ君がせっかくご馳走してくれるって言ってるんだから〜」 言いながらルディを肘で突っつくファースト。 「ちょ，ちょ〜っと，危ないって〜。ファルちゃんも乗ってるんだから〜」 いつもは笑いながら躱すルディだったが，珍しくファーストに反論する。 「あれれ？ルディ，ファルには何か優しいよね〜」 「ほんと，ほんと〜。あれ，なんか赤くなってない〜？」 息もぴったり冷やかすネイ姉妹。赤くなるルディ。 「そっ，そんなこと…」 「心配してくれて，ありがとうございます。ルディさん」 つづいて後ろからファルの鈴を鳴らすような声が聞こえてきた。なんとか取り繕おうと思っていたルディは，その甲斐むなしく完全に舞い上がってしまった。 ファルはシード母さんが海外勤務になって寂しい思いをする覚悟をしていた。ただ現在は従姉妹のネイ達のおかげで，何か楽しい毎日を過ごせそうな気がしていた。 ありがとう。シード母さん。 シード母さんのはからいに感謝をするファルであった。 「あっちゃ〜，こんな時間なのに人がたくさ〜ん」 ケーキ屋についた４人だったが，あまりの客の多さに嫌っそうな顔をするファースト｡ 「ひとまず今日の所は退散ってのは〜？」 ルディのそのかすかな一言は残り３人同時の「却下！」の一声でかき消された。 ついでに順番待ちまでさせられるルディ。ただファルの「ごめんなさいね」っという声とはにかんだ笑顔を見られただけでも，まだましだと思えたルディであった。 「あれっ？あのバイク」 ケーキ屋の前に止まっていた一台のバイクを見るセカンド。そこには毎日のように見ているバイクが置いてあった。そしてハンドルにはよく自分がかぶっているヘルメットがつり下げてあった…。 どうして，あのヘルメットもあるの？お兄ちゃんのとは違うはずなのに… セカンドは何か嫌な予感がするのを感じていた。 「！！もしかして，あれってユーシスさん！？」 ファルがケーキ屋に隣接しているオープンカフェを指差す。 ファルの指差した日当たりのいいテーブルでは，ユーシスと誰か赤い髪をした女性が座っていた。そして凄く楽しそうに話をして，セカンドの好きな笑顔をその赤い髪をした女性に向けていた。 「本当，ユーシスだ。ん？隣の女の人って，保健のアンヌ先生じゃないの？」 ファーストはセカンドに話しかけるが，すぐには反応が返ってこなかった。セカンドは表情を強張らせたまま，立ちすくんでいた。（Ｂｙ狐） |
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「あ・・・あのぉ、大丈夫ですか？」 涼やかな女性の声とともに、パイクと一緒に倒れているフォーレンに、白い手袋をした小さな手が差し伸べられる。 見上げると、黄色いワンピースを来た小柄な女性が立っていた。 「はい、私のボディは耐久性能が高いですから。」 フォーレンが起きあがりながら答える。 「ところで、貴女は？」 彼女は一礼して、答えた。 「私は、付属大学工学部のフレナともうします。高等部の近くまでお散歩していたら、大きな物音が 聞こえたので、参りましたの。」 淡いグリーンの長い髪をさらりと振り、フレナはあたりを見回す。 銅像の前には大破したブーブー様、完璧に無視されてるパイク・・・・・・ 彼女はそれらを一瞥したが、すぐにフォーレンに向き直った。 「マシンは大破しましたが、おけがはないようですわね。よかったですわ。ところで、 あなた方は何をなさっておいででしたの？」 「私たちは機械部の者です。新作のランドマスターをテストしていたのですが、今度も失敗でした。」 「まあ、それは残念ですわね。でも、いつかきっと完成しますわ。残骸を見る限りでも、フレームは しっかりしてますし・・・・ごめんなさいね。私、ソフトウエア工学専門だからあまり、機械のことは わからないのに、知ったかぶってますかしら。」 「そんなことは、ありませんよ。フレナさん。」 名を呼ばれてフレナははにかんだように微笑んだ。しばらくうつむいている・・・・ そして、意を決したように言った。 「あの・・・・私、また見に来てもよろしいかしら。私、機械が大好きで、少しでも知りたいのです。」 「ええ、もちろんですよ。今度は部室もお見せしますから。」 はたと気づいたようにフレナは時計を見る。 「あら、いけませんわ。もうすぐ講義ですの。それではごきげんよう・・・・」 フレナは小さく手を振ると小走りにキャンパスへと向かっていった。（by セレーネ） |
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| ・・・フォーレンは、昨日のそんな出来事をぼんやりと思い出していた。 今は昼休み。部室でランドマスターを組み立て直しているところであった。 「どうした、フォーレン。いつもより組み立てるペースが遅いぜ。・・・はっはー、さては 昨日のフレナさんの事を思い出してるなー？」 横からパイクが声をかける。 「よくわかりましたね・・・ですが、それが何か？」 「いや、別に」 まだ自覚はしてねーんだなー、と心の中でつぶやくパイクであった。（Ｂｙすずしろせり） |
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| それから数時間後、大学の３限である。工学部の校舎の一室では計算機数学の授業が行われていた。 「というわけで、先週証明した定義に基づき、この代数式を変換すると・・・・」 深紅の髪を機能的なセミロングに切りそろえ、白銀のスーツをまとった美人助教授サイレンは プロジェクタ上に数式を打ち込みながら、講義を展開していた。 いつもは最前列に座るフレナだが、今日は後方の席でうつむいている。 ＜・・・・私、昨日からどうしたのかしら。胸のあたりでエネルギーが今にも暴走しそう。 お昼休みに看護婦のミューンさんに保守点検してもらったけど、回路のどこにも異常はありませんでしたわ。 それに、感情プログラムの様子もおかしい・・・・嬉しいような、それでいて哀しくて寂しい・・・＞ 「では、この論理式を展開せよ、フレナ！」 名を呼ばれてフレナはあわててスクリーンとサイレン助教授の顔を見上げる。 「はっ、はい。あ・・・・あの含意を除去して・・・あっ違う、先に・・・」 フレナはしどろもどろしながら答えようとした。 サイレンは指示棒でフレナを指しながら冷ややかに言う。 「わからないのなら、先にこの真理値表で演算しなさい。」 フレナは卓上のコンソールに演算値を入力し始めた。 あいかわらずの無表情ながら、やや語気にいらだちを含め、サイレン助教授は注意した。 「オラキオ教授もおっしゃってたぞ、フレナ。午前の基礎工学の授業でもぼんやりしていたそうだな。」 「すみません・・・・」 キータッチの手を動かしながら、フレナは助教授を見上げると軽く頭を下げた。 何とか問題を解いたところでチャイムが鳴った。 「では、ここまで。次週までに演習課題を提出するように。」 サイレン助教授は、プロジェクタをオフしながら終業を告げた。 フレナはふっとため息をついて、立ち上がった。 「今日も、行きましょう・・・フォーレンさんとの約束ですもの」 （ｂｙ セレーネ） |
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さらに時間が過ぎて、高等部の放課後。ルディは校門の前でうろうろしていた。今日の昼にファル に会ったことが頭から離れず、また会えないものかとこうして待っているのである。しかし、ルディ は、ファルが「今日は手続きだけ」で帰ってしまっている事を知らない。あるいは，聞いていても忘 れてしまっている。昼の時に、舞い上がってしまわずに、少しは落ち着いていたら、今みたいな怪し い行動をしていないだろうに。 「全く、校門でそわそわしながら、周りを見まわしているなんて『怪しい人』か『恋人を待ってい る』みたいで、誰か知っている奴に見られたら恥ずかしいぜ」 と、ルディはつぶやく。心配するな、みんな帰るのに忙しくて誰も見ていないから。でも、ファルが またここに来る可能性は少ないぞ。しかし、前を良く見ないで歩いていたので、お約束道理に人にぶ つかってしまった。 「すみません、人を探しているので」 と言ったのは、ルディではない。ぶつかった相手の方である。 「いえいえ、こちらこそ」と言ったきり、ルディは相手の顔を見て、固まってしまった。看護婦の 制服に身を包み、肩まで届く赤く長い髪の女性は、ルディが今まで探していた女性と雰囲気がよく似て いた。 「あの、本当に大丈夫ですか」 ファルと同じような優しい眼差しで見つめられただけで、参ってしまいそうな表情をルディは引き締 めると、 「大丈夫です。それより誰を探しているんです」 と言った。それに対して彼女は、あごの下辺りに手を翳すと 「身長はこれぐらいで、緑色の髪に黄色いワンピース姿の付属大学工学部の女性で、名前をフレナ と言いますがご存じないですか」 「その女性なら、ここから部室棟の方に歩いていきましたけど」 「有り難うございます！え〜と」 「ルディです。貴女は」 「付属大学病院で看護婦をしています。ミューンと申します。すみませんが、先を急ぎますので失 礼します」 と言うと、ミューンは去り、ルディはしばらくその場で、ぼんやりとしてしまうのだった。まだまだ 恋に恋するお年頃のようである。 |
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さて、そのころ機械部室では、パイクとフォーレンが新しいランドマスターを作っており、フレナ がその説明を受けていた。もっとも、片方の説明をフレナがほとんど聞いていないのは言うまでもな い。それで肝心の二人は時折、フォーレンとフレナの手が触れ合った時に、お互いがショートしてし まったかのような錯覚を感じ、二人で再度、そろそろと手を伸ばし、そしてまた引っ込めるなどと言 う事を繰り返しているのだった。パイク君すっかり蚊帳の外。 「あ〜あ、ま、目の前がこういう状態だと退屈と言うか、なんというか」 とパイクがぼやくと、ドアをノックする音が聞こえた。 「ん、今日は来客が多いな。は〜い、開いているから入っていいよ」 静かにドアが開かれると、そこにはミューンが立っていた。 「すいません、ここにフレナさんが・・・あっ｣ とミューンがいうと、フレナは自分の名を呼ばれた事に驚いて振り向いた。 「これは、あの、その、お願いですから、オラキオ教授とサイレン助教授には黙っていてください。 申し訳ありません」 フレナは何故か悪い事をしているわけでもないのに謝ってしまう。その様子を見て、ミューンは納得 したようにクスリと微笑むと、 「落ち着いて、フレナさん。私がここに要る理由は、オラキオ教授とサイレン助教授が今日あなた が、元気が無いのを心配して私に相談してきたのです。それで、私も昼間の保守点検時に異常がなかっ たのにおかしいと思いまして、あなたを探してここに来たのです。でも、その様子なら心配無いよう です。お二人には私からうまく伝えておきます。大丈夫、フレナさんの悪いようにはいたしませんよ」 ミューンはそう言うと、ドアを閉めた。 「フレナさん。特定の誰かを深く愛する感情は、アンドロイドには不要とサイレンや私が封印してし まったもの 。恋愛感情は時として心に深く傷を作る事もあるかもしれない。でも、あなたには頑張っ て欲しい。それは、私たちアンドロイドが『創られる』のではなく『産み出される』事の証明に繋が るのだから」 ミューンはそうつぶやくとため息をついた。そして、 「私が人間なら、こういう時涙を流すのでしょうか・・・・オラキオ様」 ミューンはそういった次の瞬間には悲しみの表情を消すと、大学の方へ足を進めた。 （以上、Alex=Lezar.長々とごめんなさい） |