PhantasyStar 〜時の交差〜

第十五話 闇の者の末路

「アリスがどうしてもコイツを殺さなければ気が済まないって言うのなら、コイツは
 オレが殺す・・・どうするアリス!」
自らの傷口を手で塞ぎながら、あえて怒鳴るような口調でアレンは言った。そして
その言葉の前にアリスはただ体を震わせるばかりで、何も答える事ができない。
しばらくの沈黙の後、アリスがやっとの思いで目を涙ぐませながら小さく首を横に
振ると、その瞬間にガルムの体は青黒い炎のような物に包まれ、その姿は皆の
前から消え失せていた。

「消え・・・た?これは一体・・・」
「今ガルムが消える瞬間、恐ろしい邪気を感じました。あの感覚・・・間違いない!
 ダーク・ファルスの物です!」
千年前の忌まわしき思い出を思い出し、眉間にしわを寄せ、不安な表情を浮かべ
ながらミューは言った。ダーク・ファルスの実態について知る者は、ミューをおいて
はいない。しかしミューのそんな不安よりも、今は村の消火と救護が先決である。
怪我人は多く、家屋の損傷も激しい物が多いが、まだ早朝で全力でやれば夜まで
には寝床の確保程度の修理は何とかなりそうだという事と、死者がいなかったのが
何よりの幸いだった。

「ふぅ〜、何とか、夜は越せそうだな。」
椅子に腰掛け、心底疲れた様子でアレンは言った。全員、疲れた顔をしている。
そして深い理由もなく、ただ憂さ晴らしのためにこんな事をしたガルムの事を思う
と、怒りがこみ上げてきた。しかしアレンにとってそれ以上に気になるのは、やはり
バイオプラントの事・・・それは見ておかなければならない、いや、この目で本当に
そんなものがあるのか確かめたい、アレンは強くそう思った。
しかし今の切羽詰まった状況で、そこまで調べに行く事を仲間が許すか不安だったが
その提案は意外に簡単にみんなに認められた。皆が自分のことを気づかってくれて
いるというのもそうだし、そんな物を政府が作っているという証拠を掴めば、政府を
相手に戦う上でも随分有利になるからである。しかしその正確な位置は分からず、
それを探る唯一の方法は「モニター」と呼ばれる千年前の道具を使うことで、それは
ミューの家の物置にあるらしい。だから翌日、村の復興が何とかなりそうだという
のを確認すると、アレン達は来た道を戻り、ミューの家へと戻ることにした。

無事に家にたどり着くとミューは鍵を開け、物置にあるモニターを取りに走った。
そしてミューが戻ってきたらここに長居はせず、すぐにでもバイオプラントへと
向かう予定だったのだが、「忘れ物がある」と言って自分の部屋へと行ってしまった
アリスがいくら待っても戻って来ない。やむなくアレンがアリスの部屋に行き、
アリスの部屋のドアをノックしたが、妙なことに何も返事がない。

「お〜いアリス・・・聞こえてないのかな?そんなハズないと思うけど・・・」
アレンは再度ドアをノックする。やはり返事がない。それからアレンがドアノブを
ひねると、鍵はかかっておらずドアは簡単に開いた。そして部屋の中でアリスは、
ベッドの上でうつぶせになって眠っていた。
「おいアリス、起きろ・・・」
アレンはそう言いながらアリスを揺すり起こそうとした時、ハッとした。体がとてつも
なく熱いのである。恐らく40度はあるだろう。アレンは急いで下に降り、その事を
皆に告げる。そしてミューがぐったりとしたアリスの体の汗を拭き、寝間着に着替え
させて毛布をアリスの体の上にかけた。

「どう?アリスの具合は・・・」
何度目かのアリスの体の汗拭きを終え、戻って来たミューに心配そうにアレンは尋ねた。
「今は寝てるわ・・・でも苦しそう・・・熱も全然下がらないし・・・」
「アリスのヤツ、随分ムリしてたからなあ・・・使い慣れてない「力」の乱発、それに
 昨日も一番一生懸命にケガ人の面倒みたたし・・・あいつはいつもそうなんだ・・・
 全然平気な時はやたらと苦しがって、本当に大変なときは何にも言わなかったり、
 それどころかかえって元気そうに振る舞いやがる・・・その事はこっちで会ったとき
 から感付いてたけど、だからといってそれを指摘するとあいつの決心に水を差すよう
 で、だから何も言うことができなかった・・・」
「そうか・・・でもアレン、だったら、最後まで水を差すなよ。」
落ち込み気味にそう話すアレンに対し、目を合わさず、冷たい声でギゾは言った。
「え?どういう・・・意味だ?」
「お前もアリスの力の凄まじさは見ただろう、自然物を意のままに操る能力・・・
 これから何が起きるかわからない状況で、あいつの力は不可欠と言っていい。」
「そ、そりゃそうだけど・・・・・・」
「お前は、もうアリスには戦わせたくないと考えているんだろうが、そうはいかないだろうな。
 結構騒ぎもデカくなっちまったし・・・」
「でも!でもアリスは!!」
「アレン!お前何が起きてるのか確かめたいんだろ!お前の親父とお袋に会いたいんだろ!!」
「そ、それは、もちろんだけど・・・」
「だったら、やるしか無いだろう。本当に両親の事が心配なら、な。」
「・・・・・・アリスの氷のう取り換えてくる」

ギゾの言葉に明確な答を返せず、アレンは部屋を出た。両親の無事を確かめたいという
のはもちろんだが、そのためにはアリスを戦闘に引っぱり出さなくてはならない。いや、
「ならない」とまでは言えないかもしれないが、それでもアリスの能力が多少の戦力差は
余裕でひっくり返せるほどの物だというのは承知している。「それなら自分が守ればいい
だろう」無責任な人は軽々しくそう言うかもしれない、けれどその難しさも、アレンは
十分に分かっていた。アレンは考えをまとめられぬまま、アリスの部屋の前に来た。が、
ドアの前に来た瞬間、アレンは部屋の内から恐ろしいまでの殺気を感じた。

冷たい、氷のような殺気・・・そして強大な魔力、アレンは部屋の中に誰がいるのか、すぐ
理解した。二度までも自分と死闘を演じた事のある相手の気配なんか、忘れたくても忘れ
られない。アレンは一瞬息を潜めた後、ドアを蹴破って中へと突入した。

「預かり物は、もう少し大切に扱ってほしいものだな、アレン・ハランツ。」
「ルラキル・・・」
部屋の中にいたのは、やはりルラキルであった。その右腕には、かつて彼が自分の元に
残していった長剣握られており、そして長剣の鋭い刃はルラキルが左腕で抱え込んでいる
アリスの首筋に当てられている。アレンは、その場から一歩も身動きが取れなくなった。

「お前と会うのもこれで三度目か・・・しかし残念だな、もう少し強くなれるかと思っていたが、
 どうやらそれは私の見込み違いだったか・・・」
「見込み違いなのはこっちだ!」
「ほう・・・何が?」
「ルラキル、たしかにあんたはアリスをさらったり、ダーク・ファルスと一緒に総督に取り
 入ったりした!でもオレと戦うその瞬間は正々堂々としていた・・・けれど今は熱で身動き
 が取れないアリスを人質に取ってオレと戦おうとしている!元オラキオの民の頭領としての
 プライドとかはどこ行ったんだよ!!」
アレンはルラキルにそう吠えかかったが、しかし当のルラキルはアレンの罵声に対しても何ら
感情を動かさない。それどころかアレンの無知を嘲るかのような素振りさえ見せた。
「相手の弱点を突き、最小の労力で最大の効果を上げる、これが兵法と言うものだ!」
次の瞬間、ルラキルの腕から超圧縮された糸のような細さのバータがアレンの左足を貫き、
アレンは片膝をついた。そしてそこに放たれたもう一撃のバータが、今度はアレンの右腕の
付け根を貫いく。アレンはうめき声を上げたが、しかし部屋には誰も来なかった。

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声が聞こえる

一つはいつも聞いている声、そしてもう一つの声も一応聞き覚えがある。

頭が痛く、目は閉じているが脳味噌がぐるぐると回っているような感じがするし、喉も灼ける
ように熱い。調子は、悪いなんてモンじゃない。しかもベッドに寝ていた筈なのに、何か宙に
浮いているような、誰かに抱えられているような、そんな感覚がする。

自分を抱えている人だろうか?何か自分のすぐ近くで怒鳴り声がして、ただでさえ痛い頭を
更に痛くさせる。

「甘・・・甘・・ぞアレン!」
アレン?自分を抱えている人は、アレンの名前を言っている。しかしその声はギゾ、テオ、
ミューのいずれの声でもない。アリスはうっすらと目を開いた。

寝起きの上に熱を持っているので、視界はぐるぐると回って安定しない。しかし、自分を
抱えているのが誰なのか、それはすぐに分かった。

「ル・・・ルラ・・・」
「フン・・・目が覚めたか。」
アリスはその手から抜け出そうとし、ルラキルの腕を振り払おうとした。しかし体に力が入らず
ピクリとも動かすことができない。アリスはルラキルの腕に思いっきり噛みついたが、それでも
ルラキルは眉一つ動かさなかった。そしてアリスはルラキルに頭を掴まれ、真正面を向けさせ
られる、するとそこには両腕両足から血を流し、うずくまっているアレンがいた。

「い・・・いや・・・」
「あの男をこうさせたのはお前だライア!アレンはお前を庇うために我が前で無抵抗を貫き、
 こうして身動きが取れなくなっている、己の能力を御しきれず、却ってそれによって肉体を
 支配され、病床に臥しているお前を守るためにな!!」
「あ・・・・・・」
「次の一撃でアレンは死ぬ・・・お前は放っておいても解放された魔力を御しきれず、それに
 よって取り殺される・・・」
「そ、そんな事・・・」
ルラキルにそう言われると、アリスは青白い顔を更に青くさせ、ミュー達の名を叫んだ。
しかし、その声も虚しく、誰も来る気配はない。
「いくら大声を出そうと無駄な事・・・この部屋にのみ結界を張っておいたのでな・・・この
 部屋で起きている事は外からは何も見えないし聞こえもしない・・・」
ルラキルは自信満々、余裕の笑い声をあげながらアリスに言った。

「な、なら私が・・・何とかしないと・・・でも、どうやって・・・?」
実際の所、アリス本人は昨日のことをあまり明確に覚えていない。ただ、ミューらの言葉から
テレパス能力を使い、空気や雪と言った自然物とコンタクトを取ってそれを操り敵を倒した
「らしい」という事は聞かされている。そしてアリスは少しだけ練習した事のあるテレパスを
実践するため、気持ちを集中させようとした。しかし頭がグラグラとする上に、その「自然の
声」とやらも何も聞こえては来なかった。

「(ダメ・・・何も聞こえない・・・)」
「今更慌てて力を使おうとしたか・・・しかし、どうやらムダだったようだな。」
そう言うルラキルの腕から再度バータが放たれる。その一撃はアレンの腹部を貫通し、アレンの
体から更に多くの血が流れ出した。
「!!」
その瞬間、アリスは自分の中からドス黒い感情がルラキルに対して沸き上がってくるのを感じた。
昨日、ガルムに対して持った物と同じ感情である。けれど胸の内から湧き出してくるその感情は、
同時に昨日、ガルムを殺そうとした自分を身を挺して止めたアレンの顔をも思い浮かばさせた。
「私が”力”を暴走させたら、またアレンを傷つける・・・前と同じじゃダメ・・・」
アリスはそう自分に言い聞かせ、ルラキルへの殺意を無理矢理押し込め、そして大声で叫んだ。

「私が空気や大地・・・自然物と話す力があるって言うのなら、空気や大地にも話す力があるって
 事でしょ!あるって言うんだったら答えてよ!!アレンを守りたいから、力を貸してよ!!!」
半ベソを掻きながら、ルラキルの腕の中でアリスは叫んだ。ルラキルはその声を耳障りだと言わん
ばかりにアリスの頬をひっぱたく、それでもアリスは言葉を続けた。
「お願い!何もかも破壊するような力なんかいらないから!アレンを守る事ができるだけの力を!」
「黙れ!耳元で騒ぐな!!」
そう言ってルラキルはまたアリスの頬を叩く。そんな事が幾度となく繰り返され、そしてついに、
アリスの呼びかけに小さな声が返事をしてきた。

「・・・・・・?声・・・?小さな声・・・ルラキルとアレンには聞こえてないみたい・・・ミューさん達の
 声でもない・・・もしかして、これが自然の声なの?・・・私に、力を貸してくれるの・・・?
 ありがとう・・・行くわよ!」
「ええいさっきから何を一人でブツブツと・・・なにっ!?」
突然、無数の真空の刃がルラキルの全身をを切り刻む。ルラキルが怯み、手を離した瞬間、
アリスはその腕から逃れ、アレンの方へ走り、そしてアレンに回復テクニックである「サン
フォース」をかける。そんなアリスをアレンは不安そうな目で見つめたが、しかし今のアリス
には昨日自分に見せた鬼神の如き表情は無く、アレンが知っているアリスの顔であった。

「大丈夫?アレン」
サンフォースをかけながら不安そうな声でアリスがそう言うと、アレンはニコと微笑んだ。
「だ、大丈夫なわけないだろ・・・でも、よかった・・・」
「ごめんねアレン・・・ここは、私に任せて!!」
アレンの応急処置が終わるとアリスは立ち上がり、ルラキルの方を向き直した。
「ほぅ・・・ついにライアの力を我が物としたか・・」
「ええ・・・でもルラキルあなたは・・・」
アリスはルラキルに向かい何かを言おうとした。しかしルラキルはそんな事には全く構わず、
アリスの体をつかむと窓の外めがけ思いっきり投げ飛ばした。
「甘いぞアリス!言葉を言う暇があったら攻撃の一つでもしろ!そうでないと如何に力を得ようが
 私の敵ではない!」
「アリス!!」
アリスを追ってルラキルと、それに続きアレンも表に出る。しかしアリスにしてみれば、攻撃材料が
揃っている外の方が遥かに戦いやすい。しかも表はルラキルの「結界」の範囲外である。騒ぎに
ようやく気がついたギゾとテオ、そしてミューが次々と表にやって来た。

「どうしたアレン!大丈夫か!!」
「ギゾ!それにテオさんにミューさんも!!」
「ったく、不可抗力って言えば不可抗力だけど・・・遅いんだよ来るのが!」
アレンとアリスは目をうるませながら、駆けつけてきた三人の名を呼んだ。それから五人が戦闘
体勢を整えるまでルラキルは腕を組んだまま攻撃を仕掛けようとしない。そして彼らの攻撃態勢
が整ったのを見ると、手にした剣を構え直した。

「仲間がいればとか、条件が不利だったから負けたと言われたくないのでな・・・五人一緒に
 かかって来い!所詮貴様等一人一人ではこのルラキルの相手は出来ぬ!!」
言うやルラキルの闘気は爆発的に膨れ上がり、その闘気はオーラ状となって体から吹き出し、
目で見える程となった。五人が五人、息を呑む。それからしばらく膠着状態が続いたが、攻撃の
口火を切ったのはアリスだった。

「これでも・・・喰らいなさいよっ!!」
アリスの合図とともに無数の鋭い氷柱が大気中に突然と現れ、ルラキル目がけて襲いかかる。
それをルラキルは余裕の笑みとともにマントをひるがえし、全弾叩き落した。しかしその動作の
隙を突き、ミューとギゾ、そしてテオが斬りかかるる。だがルラキルは三人を前にして退く様子は
全く見せず、それどころか高笑いをし、向かってくる一人一人に問いかけをしながら彼らを
迎え撃った。

「久しぶりだなミュー!主家の堕落と滅亡を見届けた、貴様の千年はどうだった!!」
「そりゃ、嬉しい事より嫌なことの方が多かったわ・・・でも、今は仲間がいる・・・主人で
 なく、頼れる仲間が!そんな人たちと出会えた・・・私の千年は、それで十分よ!!」

「ギゾ・ウェンフィールド!貴様は何を考え政府と、そして我が神に抗う!!」
「政府や神に抗う?そんな大それた事考えた事ねぇよ。ただ、アレンがアリスだの親父だの
 お袋だのを助けたいって言うんで手を貸してるだけだ!」

「テオ・ウェンフィールド!お前は夫のギゾの意志に従っただけか!!」
「ギゾが行くから私も行く・・・それの否定はしないわ、でも、総督はリークを滅ぼした!何千年
 も続いたリークを!そしてその彼らが作る未来がダーク・ファルスとかいう者による闇の世界
 なら、私個人として、ウェンフィールド格闘術の継承者として許すわけにはいかない!!」

三人はルラキルの問いかけに、叫ぶように答えながら波状攻撃を加える。ルラキルはそれに
よってかなりのダメージを受けながらも、しかしついには全員を弾き飛ばした。

「アリス・ランフォード!ライアとしての使命の全てを受け継ぐ覚悟はできたのか!!」
「冗談じゃない!千年前の使命や運命なんかの奴隷として戦うつもりはないわよ!でも!
 ・・・・・・私の大好きな友達や家族!ティリアの家や町!それをどうこうさせはしない!!」

そう言いながらアリスは手にしたネイボウから矢を放つ。それはルラキルの右肩を貫いたが
ルラキルは怯まない。それだけでなくアリスのそれに続く連続攻撃もほとんど全部喰らい
ながらアリスとの間合いを急速に詰める。そして手にした剣をアリスめがけ振り下ろしたが、
それを受け止めたのはアレンの剣だった。アレンはそのままの体勢でルラキルの剣を押し
戻そうとしたが、ルラキルの怪力はそれを許さない。アレンはルラキルのみぞおちに蹴りを
入れ、ルラキルとの間合いを離した。

「今までの四人は、実にたわけた事を、実にいい声で吠えおった・・・ならばアレン・ハランツ!
 貴様はどうだ!この仲間達とどのような道を歩む!!」
「オレにここまで付き合ってくれたみんなだ・・・一緒にどんな道を歩もうと後悔はないけど、
 でもこんなみんなとの未来なら、悪くなるハズがない!!」
言いながらアレンは上段に構えた剣を思い切り振り下ろし、ルラキルも上段に構えた長剣を
ほとんど同じタイミングで振り下ろした。二本の剣がぶつかり、火花を散らす。そしてその体勢
のまましばらく二人剣を押し合った。それから二人は再び間合いを離し、また間合いを詰めて
斬りかかる。そんな事が十回以上続いた。その戦いは一見互角のように見えたが、先に体力が
尽きたのは四人との連戦を終えたばかりのルラキル方である。呼吸が乱れ、動きも鈍くなる。
そしてこのまま戦い続ける事の不利を悟ったルラキルは、残った力の全てを込め、全力でアレン
へと突進する。そしてアレンもオーバードライブの力を最大限に引き出し、ルラキルを迎え撃った。
「うおおおおぉぉぉぉおおおおっ!!!」
空中で剣と剣が、今までと同じようにぶつかり合う。しかし今回の結果は今までの物とは違った。
アレンの剣がルラキルの剣を叩き折り、ルラキルの体を袈裟掛けに斬りつけたのである。ルラキル
の体からおびただしい血が流れると、彼は膝をつき、そして仰向けに倒れた。しかしその顔に
険しさは無く、どこまでも満足そうだった。

「フ・・・ようやく決着がついたか・・・強くなったな、アレン・・・」
「いや・・・みんなの助けがなかったら負けていた・・・」
「命がけでお前に助けを与えてくれる者がいる事も強さのうちだ、恥じる事はない・・・しかし
 不思議なものだな、人間というのは・・・愛する者を守ろうとする心・・・己の故郷を守ろう
 とする心・・・それによって遥か太古の昔から、そう、我らが祖先がパルマという名の星、
 アルゴルという世界に住みし時から、多くの困難を退けてきた・・・己より遥かに強大な者からも・・・」
「ルラキル、あなたは・・・」
仰向けに倒れたままアレンと語るルラキルの元に駆け寄り、アリスは何かを言おうとしたが、
ルラキルはそれを止め、そして初めて優しい微笑みを見せた。

「あの世で叱られたよ・・・妻に、子に、そして弟にな・・・しかし私は贖罪のためにもそれに
 耳を貸すわけにはいかなかった。もっとも弟たちはその 事に薄々気づいて、途中からは
 その上であえて私を責めているようだったがな。そして千年近くの時が過ぎ、復活のための
 力が蓄えられてきたダーク・ファルスはそんな私に再び声をかけた。『その怨みの力、再び
 我に預けよ』と・・・そしてまだ復活しきれていないダーク・ファルスは、先に私にライアと
 オラキオの血を根絶やしにするよう命じた・・・ライアの血を引く者は 人為的に埋め込まれた
 潜在能力ゆえにすぐに探し出せた・・・そしてライアより時間がかかったが、オラキオの、
 我が弟の血を継ぐ者も・・・」
「フッフッフ・・・ルラキィ〜〜〜〜ル!!我らが神を裏切るかぁ〜〜〜?」
ルラキルの言葉を遮るかのように、下品な声が辺りに響き、そして青黒い炎が立ち上る。
そしてその炎が消えると、ガルムがその姿を現した。しかし今回は今までと違い、手下の
機械兵は一機も連れていない。そしてその顔は憔悴しきっていた

「それにライアの小娘とその一行!貴様等のせいで、ワシは・・・ワシは・・・うぐっ!!」
「な・・・なに・・・?」
突然ガルムの右腕が、空気を一気に吹き込まれた風船のように膨れ上がった。そして腕の
皮膚が破れると、中から別の青黒い、怪物のような腕が出てくる。そしてそれは右腕だけに
止まらなかった。左腕、両足、胴体にも同じような事が起き、ついにひしゃげた顔以外体の
全てが化け物のそれとなると、ガルムであった者は悪魔のような咆哮を一声上げた。

「な、何なの、あれ・・・」
目の前で起きている事を理解できず、五人は顔を青ざめさせ、ただ一人ルラキルだけが
変わり果てたガルムを哀れむような目で見つめていた。
「ダーク・ファルスに”芽”を植え付けられたか・・・愚かな、とは言えんな・・・私は
 ヤツなんかとは比べ物にならぬ程の事をしてきた・・・しかしああなると、もう死にて
 葬る以外に道はないか・・・」
ルラキルは立ち上がりそう言うと、折れた長剣をその手に握り、アレン達の方を振り向いた。
「アレンよ!アリスよ!ギゾよテオよミューよ!!私は数え切れないほどの罪を犯し、数え
 切れぬほど多くの者の運命を狂わせ、そしてその命を奪ってきた・・・しかしそんな私でも、
 いや、そんな私だから、お前達に教えられる事がある・・・闇に魅入られし者の末路だ!」

言い終わるとルラキルは、もはや人としての原形を全く止めていないガルムに傷だらけの体を
引きずって立ち向かっていった。直後、ガルムの口から発せられた暗黒の波動がルラキルの
胸を貫き、ルラキルは地に倒れる。ガルムはその翼を羽ばたかせ、上空に舞い上がると、
急降下でルラキルの体をその巨体の下敷きにし、さらに何度も踏み続けた

「ルラキル!」
「来るな・・・来る暇があったら私の末路をその目に焼き付けておけ!!」
「でも!」
「それに甘く見るな・・・これでもオラキオの民の元頭領!こんなヤツに遅れは取らん!!」
ルラキルはそう言うのだが、ガルムのルラキルへの攻撃は更に激しくなる。アリスはそれを
見かね、ガルム目がけて巨大な氷の矢と真空の刃を立て続けに放つ。そしてその攻撃が背中に
命中したガルムは苦しそうな奇声を一声あげると、アリスの方へ攻撃目標を切り替えたらしく
アリスの方へと方向転換をしようと体をひねったがその瞬間、ルラキルはその足を掴んだ。

「冥府へつきあってもらうぞ!ガルム!!」
ルラキルはそのまま体を反転させると、恐るべき力でガルムの巨体を投げ飛ばした。そして
逆さにひっくり返り足をバタつかせるガルムの体に飛び乗り、その心臓部分に自分の剣を突き
刺すと、ルラキルは右腕で剣を持ったまま左腕に膨大な魔力を込める。そしてその魔力は、
巨大な黄金色の球と化した。

「道を、誤るなよ・・・」
その一言が、五人が聞いたルラキルの最後の言葉だった。次の瞬間、ルラキルが光の球を
ガルムに叩きつけると大爆発が起き、二人を中心とした火柱が立ち、アレン達もその光に
目がくらんで目の前で起きている状況を正視できなかった。そして数秒後、やっと目が慣れた
時にはルラキルとガルムの姿は既に無く、あるのはただぽっかりとクレーターのように一部が
空いた雪原だけであった。

「・・・ルラキル・・・」

アレンが無意識にしていたのは「敬礼」の姿勢だった。

涙は出なかったが、アレンはルラキルに対し敬意と、そして奇妙な友情さえ感じ、無言のまま
しばらくの間そのポーズを崩すことができなかった。

第十五話 完

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