PhantasyStar 〜時の交差〜

第十六話 血を受け継ぐ者

あれから数分後、アレン達は家に戻り、そしてルラキルのために墓を建てた。

薄い板でできた粗末な墓である。材料が無いから、それくらいしか作りようが
なかった。

「近いうちに、もっと立派な物にしないとな・・・」
アレンはそう思いながら、しかしそれはルラキルの意に反するのではないかと
も思った。自分のことを「闇に堕ちた者」と言っていた彼は、上質の石で作られ
た立派な墓など嫌がるのではないか、と・・・ただ、そうでもしないとアレンの彼
への気持ちが収まらないようにも思えた。

「でも、それより先にやることやらないと!」
アレンは今一度自分にそう言い聞かせると、墓に一礼をして家へと戻った。アレン
自身の気持ちとしては、すぐにでもバイオプラントへと向かいたかったのだが、全員
ルラキル戦で少なからざるダメージと疲労を受けていのである。そんな状態でバイオ
モンスターの巣窟とも言えるバイオプラントへと乗り込むのは自殺行為だ。だから
その日一日は家に帰ってゆっくりと休み、プラントへと出かけたのは翌日、太陽も
すっかり上りきってからになってしまった。

ミューの持つモニターを頼りに歩き続ける事約三時間、時折襲いかかってくる敵を
蹴散らしながら、一行はモニターの示す、巨大なエネルギー反応を示す所へと辿り
ついた。しかしそこにあるのは、一軒のみすぼらしい木の小屋であった。

「これが・・・ガルムの言っていたバイオプラント?」
目の前にある、小さな小屋を前にしてアレン達は拍子抜けもいい所という風に立ち
尽くした。距離も方角もガルムの言っていた物と一致するし、モニターもこれに対して
大きな反応を示している。しかしどこをどう考えても、これがそれだとは思えない。
アレンはミューに機械が壊れているのではとなじり、もう少し他の所を探そうと
提案したが、他全員の「一応調べておおいた方が良い」という意見にしたがい、
アレンは渋々小屋のドアに手をかけた。そしてその瞬間、アレンの表情が変わった。

「・・・木じゃ、ない?」
アレンはドアノブに手をかけ、扉を開けようとしたが、そこで初めてこの扉が一見
木製に見えるが実はそうでない、何か金属的な物でできている事に気づいた。そして
まずは試しに何度かドアをノックしてみるが返事はない。また扉は固く閉ざされて
おり、押しても引いてもビクともしなかった。

「くそっ!ここまで来て入れねえのかよ!」
アレンに代わりドアを押したり引いたりしてみたがやはり何の反応もなく、微動だに
しない扉をギゾはムシャクシャ混じりに蹴り飛ばした。とその時、ドアは今までの
重さが嘘のように、いとも簡単に鈍い音を立てて開いていった。

「開いた?でも、なんで急に?」
「気をつけろよアレン。今、俺の蹴りで開いたんじゃねぇ・・・勝手に開いたんだ。
 絶対、中に誰かいる・・・なぁアリス、得意の”能力”でちょっと探れねえか?」
「え?私の力で?どうやって?」
「ほら例えば空気と話をして誰かいないか聞いてみるとか、いるんだったら先に
 一撃喰らわしたって構わねぇ。」
「なるほど・・・やってみるわ。」
ギゾにそう言われ、アリスは空気と交信する事で部屋の中の気配を探った。しかし
何の反応もない。ミューの持つ熱感知機能も同じだった。五人は恐る恐る小屋の中
へと足を踏み入れる。やはり誰もいない。そして全員が小屋の中に足を踏み入れた
その瞬間、彼らの足下の床が「パカ」という音とともに開いた。

「落とし穴!?」
「やばい!!」
足下が開いた瞬間はどこまで落とされるのか、また下には何があるのかと思った。
しかし予想に反してわずか2メートルほど落ちただけで足は地面を踏み、それと
同時に部屋に照明がともる。そしてアレン達の目の前には雲霞の如き機械兵と、
アレンがよく知っている人物が立ちはだかっていた。

「久しぶりだな、アレン君・・・」
「ガズニさん・・・」
「初めて会った時は、前途有望な子だと思っていたが、それがこんな事をするとは
 残念でならない・・・」
「・・・・・・」
「不法渡航一件に公務執行妨害二件、そしてそれに伴う傷害事件も多数・・・なお
 ガルムの辞職はお前に公務を邪魔され失敗した責任によるそうだが・・・ともあれ
 見てのとおりワシが彼の管轄であった機械兵を一時預かる事となったのだ。」
ガズニの言葉を聞き、アレンは「あれ?」と思った。ガルムが辞職?ガズニはガルム
とルラキルが死んだ事を知らないのだろうか?と。
「正直、辞職したガルムという男をワシは好きではなかった。獅子身中の虫とはあの
 ような者の事をいうのだろう、とな。しかしガルムの人間としての是非は別問題、
 政府の人間として法を犯すお前をワシは逮捕せねばならぬ!だが・・・」
そこまで言うとガズニは目を潤ませ、肩を震わせ、絞り出すような声になった。

「頼む・・・素直に自首してくれ・・・お前達の騒動で我ら政府としてもこちらも相当な
 損害を被ったが、幸いなことに政府側に死者は出ておらんのだ。だから罰もお前達
 が思っているよりは軽い筈だ・・・ワシも出来る限りの弁護を約束する、今自首を
 すれば懲役はせいぜい四〜五年、いくらでも人生をやり直せるぞ!!・・・・・・
 頼む・・・・・・お前が見込みがあると見たワシの目をふし穴にさせないでくれ・・・」

ガズニの言葉にはアレン達の未来を気づかう真心がこもっていた。彼の言葉に従えば
彼は全身全霊をもって自分たちの弁護をしてくれるだろう。だけどそれは、到底従う
事の出来ないものである事は、全員がわかっていた。ただ、断れば戦う事になる、彼の
心を踏みにじる事になる、断る以外に道は無いのに、その言葉が言い出せない。そして
アレンが何も言えずにいると、後ろからギゾがアレンを手で遮りながら前に出てきた。

「お前は?」
「ギゾ・ウェンフィールド、ガズニ大佐、あんたの名前は聞いている・・・」
「ウェンフィールド・・・ニーヤのウェンフィールド格闘術の者か?」
「ああ。」
「なるほど。道理でオータムでワシの部下達を蹴散らしたその実力はただ者ではない
 と思っていたが・・・お前が今の師範か何かか?」
「いや、継いでいるのはこっちのテオの方だ。俺のは我流の技も少なくないんでね。」
ギゾは自分の後ろにいるテオのことを親指で指さしそう言うと、再びガズニの方に
その目線を向け直し、そして言った「ここにいる全員、誰一人としてあんたと戦う
事は、これっぽっちも望んじゃいない。」と。

「それでは、ワシの投降の呼びかけに応じてくれるのか?」
ギゾがそう言った時、ガズニはその顔に一瞬だけ安堵の表情を浮かべた。しかしギゾが
それをも否定すると、再び険しい顔に戻ってギゾに問い詰めた。
「言っておくが、総督に仕え、法に仕える者として”見逃す”と言う選択肢を選ばせる
 事はできんぞ。」
「・・・ガズニ大佐、ダーク・ファルスを知っているか?」
「ああ、千年前の伝説の邪神だろう?しかし今はそんなおとぎ話について話をする時間
 ではないぞ!」
「いや、それが、どうやら単なる伝説じゃないかもしれないんでね・・・」
「ほぅ?あれは単なる旧リーク王家の作り話ではないと?」
「ああ・・・しかもそれが今の総督に、あんたの主君に取り憑いている!」
ギゾがそう言うと、ガズニはサッと顔色を変え、背中にぶら下げてある銃を抜きギゾの
方に向けた。かなり巨大な銃である。デザインも普通見る銃とはどこか違って見えた。
「ワシへの罵声ならまだ許す!しかし総督閣下に対する侮辱は、戯れでも許さんぞ!」
「戯れじゃない・・・俺達はそれが事実か確かめるために、ここに来た。」
「なんだと・・・」
「どうせこの軍勢相手じゃかないっこないんだ、逮捕まで少し時間をくれないか?少し
 だけ、ここを調べさせてくれ。」
「・・・よかろう。ただし一時間だ、それ以上は待たん。」
ガズニはそう言うと腕時計の針を確認し、機械兵数体に命令を出し出口を固めさせると、
その場にあぐらをかいて座り込んだ。

「ギゾ、ありがとう・・・」
「なに、大佐には俺もちょっと借りがあるんでね。」
「え?どういう・・・意味だ?」
「その事については後で話す。今はこの場を切り抜けるために、ここがバイオプラント
 だという証拠を探す事が何よりも先決のハズだ。スイッチ、隠し扉、何でもいいから
 とにかく注意深く、手分けして探す事んだ。」
ギゾはそう言うとスタスタと行ってしまった。そして五人は手分けをし、前後左右の各
壁ごとに一人、そして床一人と手分けをする事にした。そしてだだっ広い敷地内を探し
まわる事五十分、ガズニが腕時計を気にし始めた頃、アリスは壁に小さな扉があり、
その中に何やら見慣れない機械がある事に気がついた。

「なに?これ・・・変な機械に変な文字・・・」
アリスは壁の中のスイッチに目をやった。メモ帳ほどの大きさの機械である。その上の
部分はガラスでできており、その下には0〜9までの数字の書かれたボタンと、あと
数個のボタンがある。また扉の裏側には、かなり古ぼけた紙に、大なり小なり書き方や
文法が違う、短い文章が書かれてある。ミューはそれを見るとすぐにこれが何物か理解
したらしく、他の四人に向かい説明をしはじめた。

「パスワードの入力装置ね。だいぶ前、これと同じタイプの物を見たことがあるわ。
 このタイプはたしかプロテクトがすごく頑丈で、パスワードを一回で正確に入力を
 しないとダメだったハズ・・・しかもパスワードは一度設定すると変更は不可能、
 しかも装置はここの壁との一体型で横に彫ってあるメーカー名のアナハイムという
 のはもう何百年も前の会社・・・だからパスワードは昔と同じと考えてよさそうね。」
「じゃあ、こっちの文字は?なんか、妙に読みづらい文字だけど。」
「これ、何百年か前の文体ね。えっと・・・『人の上に立とうとする者は、却って人に
 仕える者となりなさい。それでこそ、あなたは世界を動かす者となるでしょう・・・』
 多分、これがパスワードのヒントだと思うわ。入力文字数は・・・五文字くらい?」
ミューは目の前にある装置についてそう説明した。

「で、そのパスワードを正確に入れられればどこかの扉が開くなり何なりするわけ?」
「ええ多分・・・それで、もし入力ミスをしたりしたら・・・」
「したりしたら?」
「警報が鳴るなり爆発が起きるなり・・・タダでは済まないでしょうね。」
ミューの説明に、アリス達は食い入るように聞き入った。もしミューの推測が正し
ければ、チャンスは一回きりという事になる。しかも残された時間は少ない。五人
は何とかして、しかも数分以内にこの壁の言葉とパスワードの関連性を見つけ出さ
なければならなかった。そしてその意味についてアレン達が考え出そうとしたその
直後、ギゾがミューに話しかけた。

「でもさ、確かその言葉、オラキオの民の家訓だろ?ログ爺さんの所の本で見た事
 あるぜ。」
「そうなの?ミューさん。」
「ええ・・・そしてその家訓を旗印にしたのが・・・」
「オラキオの民の”歯車の紋章”だろ?」
「ええ・・・知っているんですね。」
「ま、これくらいはな。こう見えても歴史は割と好きだったんだぜ、なあテオ?」
「え?え〜と・・・まあ、そう言えない事もないような・・・」
「・・・なんかはっきりしない返事だな。」
「だってあなたが好きだったのって軍記物ばかりだったでしょう?学校の成績は
 お世辞にも良いとは言えなかったけど?」
「う、うるせぇ!年号の丸暗記ってのが嫌いだっただけだ!関係ねぇだろあんなの!」
「でも、確か文化史も苦手だったような・・・」
「・・・わかった、もういい。時間がないんだ。本題に戻るぞ本題に!!」
どうも話の風向きが自分にとって思わしくない方へと行きそうなので、ギゾはこれ
以上テオに余計な事を話される前にさっさと話を本筋に戻そうと思い、アレン達の
方を向き再び説明を始めた。

「いいか、この家訓、ひいては歯車の紋章がここと関連があるというのはまず間違い
 ない。いや、と言うかそれ以外の方向に考えを巡らす時間はもう無い。」
「でもギゾ、数字みたいだぞここのパスワード。」
「アレン、こういう考え方はできないか?アルファベットのAを1、Bを2、という
 風に言葉を数字に置き換えて、歯車を表す言葉、"gear"にあてはめたら・・・
「え?えっとgが7でeが5で・・・75118?」
「な?五桁になるだろ?」
「でも、それが違ったら・・・」
そこでアレンはまた考え始めたが、ちょうどその時、ガズニの「あと一分だぞ」という
声がした。どうやら、もう待ってくれそうにないらしい。アレン達は、ギゾの推理に
賭けるしかなかった。
「どうやら、やるしかないみたいだな・・・でもその前に!」
さあこれからボタンを押そうかという時、ギゾはガズニに声をかけ、こっちに来るよう
にと促した。
「なんだ・・・?」
「いや、万一の事があった時、ここにいた方が安全だと思ってな。」
「安全?どういう意味だオイ!」
「問答無用!75118エンター!」
ギゾはガズニに質問の隙を与えず、素早くパスコードを入力する。すると数字が表示
されていたガラスの文字盤に「パスワードOK」の文字が表示されて、目の前の壁が
鈍い音とともに、ゆっくりと開いていった。そして奥から大量の巨大な、人が入れる
ほどの大きさの試験管のような形をしたガラスの筒と、その中におぞましい姿をした
生き物達が見え始めたその時、後ろから何やら機械音が聞こえてきた。

「なんだ・・・?」
後ろの音に気がつき、後ろを振り向いた六人はそこで目を見張った。ガズニが連れて
来た機械兵達が動きだし、六人の方に向かってきているのである。
「ターゲット・・・六メイ・・・フレオ星バイオプラントノ機密保持ノタメ、処分スル・・・」
「馬鹿な!操作ミスか!?攻撃命令は出しておらんぞ!しかも機密保持だと!?」
ガズニは驚きの表情とともに懐からロボット達を操作するリモコンを取り出し、停止
命令を出した。しかし機械兵達はその命令に何の反応もせず、それどころか人型の
機械兵のうち一機の手首がパカと開き、そこから光線が発射されてガズニの持って
いるリモコンを撃ち落とす。そして銃や刀で武装した機械兵達は、何の躊躇もなく
アレン達に襲いかかってきた。

「おい!攻撃をやめろと言っておるだろうが!」
ガズニの制止を無視し、機械兵達は容赦なく襲いかかってくる。ガズニは己の目を
信じる事ができなかった。しかしガズニは冷静だった。状況は理解できない。がしかし
このままではアレン達に危害が及ぶと判断すると先程の巨大な銃を手に持ち、機械兵の
群れを目がけてそれを放つ。その威力は凄まじく、密集した三、四体の機械兵を一瞬
にして鉄屑に変えさせていた。
「五人ともこっちに来い!こいつらはワシが片づけてやる!」
「ガズニさん・・・」
「勘違いするなよ・・・容疑者の無事護送は最低限にして最重要な任務だからな。」
そう言うとガズニは再び銃口を機械兵達に向け、一撃を放ち、また鉄屑の山を築き
あげていた。
「凄い・・・なんて威力だ・・・」
ガズニの銃の破壊力を目の当たりにしてアレン達は呆然とした面持ちでそれを眺め
ていた。しかしミューだけはそれを他の者とは違う驚愕の眼差しで見、そして叫んだ。
「あの形と威力・・・間違いない・・・あれこそが行方不明だった最強の銃ネイショット!」
「え?あれが・・・」
「ええ・・・私がフレオに来るとき、その威力の高さゆえにソードとショットだけは
 持ち出しが許されなかったの。それが今ここに・・・」
「でもミューさん、いくらそのネイショットでも機械兵全てを相手にするのはどう
 考えても無理だ!加勢しないと!!」
「ええ、そうしましょう!機械兵の対処の方法は私が指示する!!」
ミューはそう言うと戦況を見ながら他の全員に行動を指示しだした。

「アリス!ここの空気の密度と湿度をできる限り上げて!連中のうち何体かが持って
 いるのはレーザー兵器って言って、濃い空気の中では威力が半減するの!」
「わかった!」
「武器を持っているギゾさんとアレンはリーチの長そうな敵を相手して!残る連中
 は私とテオさんで何とかする!」
「了解!」
「それじゃあ・・・行くわよ!」
ミューのかけ声とともに全員は動いた。テレパスに集中するためアリスだけ攻撃に
参加できないが、しかしその甲斐あってレーザービームが体に当たってもせいぜい
服に小さな焦げ目をつけるだけである。四人は安心して機械兵に斬りかかった。

「行くぜデカブツ!」
自分の体の数倍の大きさはあろうかというデスアーマー系の機械兵を前に嬉々とした
表情でギゾは言った。そして振り下ろされた腕の一撃を軽くかわすとその腕に飛び
乗り、槍をやや短めに持つとその頭部からボディにかけてをメッタ突きに突き刺した。
「俺の十八番、針串刺しの刑!アーンド・・・」
デスアーマー相手に槍を十数回突き刺すと、ギゾは既に機能を停止した敵の背後に
回り込み、ジャンプすると敵の後頭部を両手で掴み、そして首の部分に全体重を乗
せた両膝蹴りを喰らわす。すると敵はそのまま倒れ込み、小型の虫型ロボットを数体
下敷きにし、破壊する事に成功した。
「カーフ・ブランディング(仔牛の焼き印押し)・・・どっちもウェンフィールド流
 格闘術に元からある技じゃないがな。ま、早い話が余所からパクったワケだ。」
一撃で数体の機械兵を倒した事に満足そうな顔をしてギゾはアレンに言う。そして
その光景を苦笑しながら見ているのがテオだった。

「まったくあの人は・・・父は武術としての型と徒手(=素手)格闘である事を重んじる
 人でした。そんな父がが彼に師範の地位を継がせなかったというのも何か分かる
 気がしませんか?」
「え?ええ、まあ何となく・・・」
テオの突然の問いかけにややたじろぎながらミューは言った。しかしそうこう話を
しているうちに別の大型機械兵の一撃がテオ目がけて迫っている。テオはそれを
前にしても何一つ動じず、相手の突きだしてきた拳を掴むと軽々と投げ飛ばした。
「今のは?」
「相手の力を利用しただけですよ・・・こういう風に!」
テオに投げ飛ばされた後もすぐに立ち上がり、自分目がけて突進してくる相手に
テオは自らも突っ込んで行き、そして相手の懐に潜り込むと相手の上半身と下
半身をつなぐ、最も細い部分目がけ蹴りを放った。その蹴りはテオの目論見通り
敵のロボットの上半身と下半身を分断し、そして真っ二つにされたロボット兵は
間もなくその機能を停止した。

「たしかに、父は格式を重んじ、新しい技を外部から露骨に取り入れるのは好き
 ではありませんでした。でも、それがウェンフィールド流格闘術を戦闘能力の
 無い、形骸化した物にしてはいないという事をご理解いただけましたか?」
「ええ、でも格闘技の講釈は後でゆっくりと聞かせていただくわ。」
ミューはテオに笑いながらそう言うと両手のクローを構え直し、猛スピードで
突っ込んで行った。

「機械兵は大抵分厚い装甲を持ち、そこを崩すのは容易ではない。けれどメイン
 のCPUを停止させればすぐに機能を停止する!」
ミューはそう言いながら斬りかかったのだが、その言葉が終わらないうちに二体
の機械兵のメインコンピュータと動力部をつなぐパイプを切断しその機能を停止
させていた。時間にすれば二秒とかかっていない。また敵の動力パイプを瞬時に
切断するのも、ミューのスピードならではと言えた。

「凄いなみんな・・・」
仲間達の戦いぶりを横で見、やや呆然としながらアレンは言った。
「悔しいけどオレにはギゾのような奔放な戦い方ができなければテオさん
 みたいな見切りの上手さもない。ミューさんのようにスピードで相手を
 翻弄する事もできなければ、アリスみたいな常識外れの特殊能力もない・・・
 頼みの綱のオーバードライブも未だ完璧とは言えないし・・・落ち込むな、
 正直言って。」

アレンは少し悔しそうにそう呟いた。アレンは時々、自分の戦い方を、実際そう
ではないのに「芸がない」と称する時がある。彼の得意とする戦法はフェイント
を巧みに利用した徹底的な心理作戦で、手や足、目線の微妙な動きで相手の
攻撃を誘ったり、先に数回相手の攻撃を喰らって自分の血を見せておいて攻撃
する事に夢中になった相手の防御の隙を突く、という戦法も行ってきた。しかし
こういう戦法はやや地味な上に相手が自分の意志を持つ生身の生物を相手にした
時こそ有効であるものの機械を相手にした時にはあまり有効な手段とは言えない。
だから今回のアレンは今までより、また他の仲間達より多くダメージを受けながら
戦う事を余儀なくされていた。しかしそれでも周りの助けを借りる事で何とか持ち
こたえ、そして一時間ほどの激戦の末ほとんどの機械兵を倒していた。

「・・・・・・終わったのか?」
「ああ、どうやらな・・・けどあの人には辛い物を見せちまったかもな・・・」
満身創痍で地べたに座り込んだギゾは、大量の生物兵器の前で呆然としている
ガズニを指さしながらそう言った。

「何故です・・・総督、何故このような物を作られた・・・」
ガズニは肩を震わせながらそう言うと、目の前にある巨大な試験管を思い切り
蹴り飛ばし、そして怒鳴りだした。
「こんな物を・・・こんな物を秘密裏に作らねばならないほど私は無能だったか!
 閣下の心を安んじさせる事ができなかったのか!!」
叫び声にも似た怒鳴り声でそう言うと、ガズニは号泣しだした。何十年も総督に
仕え、一片の曇りもない忠義と誠実さを持って仕えてきたつもりだった。治安の
維持にも全力を尽くしてきたつもりだった。しかし自分の主君は、こんな人外の
物まで、しかも自他ともに認める第一の部下である自分にも秘して作っていた。
そう思うとガズニは、ただ泣くことしかできなかった。

そしてそんなガズニに、完全に破壊されていなかった機械兵のレーザーの銃口が
静かに向けられた。既にアリスのテレパスは解かれており、光線の威力は本来の
物に戻っている。しかしガズニはその事に気付いていない。また、他のメンバー
のうち四人までもが疲れ果てていてその事に気付いていなかったが、ただ一人、
その事にいち早く気がついていたギゾが「大佐!危ない!」と大声で叫びながら
彼のもとに飛びかかっていた。

「なんだ!?」
急にギゾに突き飛ばされ、ガズニは何が何だか分からなかった。しかし次の瞬間
レーザー光線が目の前を通り過ぎて行く。ガズニは我に返り、ネイショットを手
にとって自分を狙撃した機械兵に向けて引き金を引いた。

「・・・大丈夫か?ガズニ大佐・・・」
レーザーに貫かれた脇腹の傷口を押さえながらギゾはガズニに尋ねた。
「お前は・・・ギゾとか言ったか?何故己の命を危険に晒してまでワシを助けた?」
「・・・二十年前のあんたと・・・同じ事をしただけだ・・・」
「なに?どういう意味だそれは?」
「AW4264年、あなたがリーク王城に攻め込んだ時、まだ二歳だった王家の第三
 王子の運命を哀れみ、敵前逃亡による軍法会議での処罰の危機を省みず、幼い
 第三王子を抱えて城を脱出した・・・」
「貴様何故それを・・・ま、まさか!?」
「そう・・・俺がその時の、レヴィン・サ・リーク・・・お久しぶりでございます、
 ガズニ大佐・・・」

第十六話 完

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