「レヴィン・サ・リーク・・・当時二歳だったリーク王朝の第三王子が革命の時の
ゴタゴタで行方不明になった、って話は聞いた事があるけど・・・」
「まさかそれがギゾだったなんて・・・・・・テオさんは知ってたんですか？」
アリスの問いかけに、テオはコクリとうなずいた。
「もっとも、最初から知っていたわけではなかったけど・・・父が武術大会のために
首都に行き、その時にティーズ・ド・フランの、今の総督のクーデターが起きた。
そして騒ぎが収った直後、町の様子を見に出かけた父は、首都の中心街の赤
煉瓦でできた橋の下でギゾを見つけた。家に連れ帰ってからログさんの調べで
それが王家の第三王子だという事に気付いて、でもかくまう事に決めて、それ
からしばらくして私が生まれて、それから両親が亡くなる直前までの十八年間、
私達は兄妹として育てられていたの・・・」
テオはやや小さな声で語り続けた。
「だからギゾがリークの人間だったとかそういうの以前に、血がつながっていない
って、最初そう言われた時は、そりゃあ二人ともびっくりしたわ。しばらくお互い
口もきけなかったし・・・それからしばらく、何とも言いようのない、気まずい関係が
続いて、でもまた二人の気持ちが、より強い形で近づいてきて・・・互いの気持ちを
本当の意味で確かめあって結婚を決めたのは今から一年前だったわ・・・」
「ネオカミニートの中心街、赤煉瓦でできた橋の右下・・・間違いない・・・」
テオの話の中の、ギゾを見つけたという場所を聞いてうなずきながらガズニは言い、
そしてギゾの方を向いた。
「一つ聞く、お前はリーク王家再興のために戦っているのか？」
「そんな事は考えた事もないな、俺にとっての家族はテオとそのオヤジとおふくろ、
それにログ爺さんだ。それ以外は考えられん。」
「そうか・・・ならば良いのだが。」
ギゾのその一言に嘘がない事をすぐに見抜いたガズニは、その場にドカと座り込み
そして彼の過去の記憶について長い話を話し始めた。
「ワシとティーズとは・・・いや総督とは古くからの付き合いでな。彼は昔からある種の
カリスマがあり面倒見が良く、７つ下のワシにとって一番の親友だった・・・
それから月日が経ち、学校を卒業したワシは軍隊に入隊し、大学院の法科を主席で
卒業した彼は政界入りを果たした。しかしワシらがそこで目にしたのは王家の傀儡と
化し、王家の贅沢のために如何に民衆から新たな名目で税を搾取をしようかしか考え
ない議会と、それに反発する民衆を如何に世間の目に晒されぬよう取り締まるかだけ
考えて他の治安の事など全く考えない王家の走狗と化した軍隊だった・・・」
と、ここまで言うまではガズニは比較的静かな口調だったのだが、ここから急に声の
ボリュームを上げた。
「ワシらは憤慨した！こみ上げる義憤を抑えられなかった！腐敗には気付いていたが、
これほどまでとは思わなかった！！ワシらは何とか内部改革を推進しようとしたが、
上層部は王家より多額の賄賂を受けており、それに毒された体質を変化させる事は
ワシやティーズ、それに他の有志の者がどう足掻いても所詮は多勢に無勢、改革など
土台無理だった・・・だから野蛮な手段と知りつつも、強攻策を取るしか方法が無か
ったのだ・・・」
と、ここでガズニの口調はまた元に戻った。
「それからワシと総督は反体制の人間を集め、クーデターを起こした。拙速も厭わぬ
電撃作戦によってまず武器庫を占領、その成功もあって多くの者がワシらに付き従い
三日で王朝の主要機関を全て制圧、残すは王城のみとなった。そこでワシらは王城を
取り囲み投降を勧告したが、やはり王家の人間が下級士官と下級議員をトップとする
集団に降伏する事は自尊心が許さなかったのだろう。彼らは逆に我らの方に降伏と
服従を要求してきた。そして攻城戦はそのまま膠着状態に陥りそうになったが、幸い
王城内で内部崩壊が起き、わずか三日後に攻撃を再開、ワシは中尉として二十人余り
の選り抜きの兵を預かり、第四部隊の長として突撃した・・・
王城の突入に成功したこの段階で、もはや戦局は半ば決定していた。しかしそれでも
なお抵抗を試みる者達は皆、王家のためなら死をも厭わぬ者ばかり、我が軍も相当な
犠牲と損害を被り、大乱戦となった中でワシは部下達とはぐれ、一人敵と戦いながら
王城内をさまよっていた。そしてそうこうしているうちに一室を見つけた・・・
部屋の中に入ると、うつぶせに倒れている数人の女性と、それに囲まれるようにして
ベビーベッドの中で泣きわめいている一人の子供がいた。ワシは駆け寄ってすぐに、
女性達は皆、既に自害して事切れてる事を知り、またそのうちの一人がリーク王妃だ
という事に気づき、だとすると他の者は彼女付きの女官であろう事も想像がついた。
そして唯一の生存者である子供のベッドのそばに一通の『反乱軍の者へ』と書かれた
封書を見つけたワシは、迷うことなく封を切った。そしてその文面にはこのように
書かれてあった・・・」
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「わずか一週間前には、こんな光景を見る事になろうとは、夢想だにしていません
でした。我らに牙をむく兵士と民の声が、この手紙を書いている時もひっきりなしに
聞こえてきます・・・
家来の者は『外にいるのは所詮統率の取れていない、王家の雑兵にも劣る者共、すぐ
蹴散らして王妃様の心の煩いを取り除いてみせます』と言うけれど、実際の戦況が
我らにとって如何に絶望的な物であるのか、私にも想像がつきます・・・
反乱軍の兵よ、私は今罪無くして死んで行きます。しかし革命の名の下に我らを裁く
者を私は許しましょう・・・しかし三男の、末子のレヴィンだけは、哀れと思うの
ならば、これから民の上に立ちたいと思うのならば、どうかその一命を助け、どこか
の家で普通の子としての一生を送らさせてくださいますよう・・・」
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「その文面には、所々涙の跡があった。そしてその文を見てワシは迷った！たしかに
リーク王家は人々の生活と政治を省みずに贅沢に走り、忠臣を退け奸臣を近づけ、
狡猾極まりない手段で人々を苦しめてきた。王妃の文も、あまりに世間を知らない
物と言わざるを得ない。しかし、この子供に何の罪があるのか、と。だがたとえこの
子供に罪が無くとも、その存在が世に知れると、王家の者を根絶やしにしろという
声の他、将来この子を担ぎ上げ、王朝再興を旗印に反乱を起こそうとする者の発生
を防ぐという意味でも、たとえティーズが許そうとしても世間が許さず、生かす事
はかなり難しくなる。そうなるとワシがこの子をどこか安全な場所へと逃がすしか
この子を生かす道はなく、そのチャンスは大乱戦が繰り広げられている今しかない。
だがそれをやるとワシは敵前逃亡者となり、軍法会議での重罰は免れられない・・・」
「でもやはりワシは、その子供を見殺しにする真似はできなかった。見殺しにすると、
自分が自分でなくなるような気がしたワシはそこの窓枠にロープをかけて城を脱出、
子供を包んでいた布も王家の高級品から自分のバッグに入っていたタオルに取り換え
子供の体に泥を付け、貧しい家が口減らしのために捨てた子供のように見せかけると
後の事は無責任ながら天にゆだねる事としてその場を後にし、戦線に戻ろうとした。
しかし城の方を見ると既に王城に我が軍の旗が揚がり、点呼も始まっていた。そんな
所にのこのこ戻ったら罪を問われる事は明白だと思うと情けない話だが怖くなってな、
そのまま逃げだして郷里を離れた山奥に引きこもり、そこで静かに一生を過ごす事に
した。だが、そんな暮らしが一年ほど続いたある日、既にネオアリサ総督として広く
善政を敷き勇名を馳せていたティーズが私の前にやってきたのだ・・・」
「ワシはてっきり敵前逃亡、更にはリークの王子を逃がした事が発覚した物と思い、
体中に冷や汗が走った。しかし彼は少し困った顔をしてワシに言ったのだ『どうも軍
の管理が上手く行かん、手伝ってくれるか？』と・・・正直、その時には彼の真意が
どこにあるのか全く分からず、ワシは総督に何と言って良いのか分からなかった。
そんなワシに総督はこう言葉を続けた・・・『世のためを思えばこそ、お前の力が必要
なのだ。敵方の母親の願いさえ裏切る事のできなかったお前だ。我が子を兵として
送り出した母親の気持ちを裏切る事はあるまい』と。その時ワシは総督の度量の広さ
と如何にワシを評価してくれているのかを理解し、永遠に変わらぬ忠誠を総督に誓い、
何とか総督のため、人々のためと思い必死に働き、今日に至った・・・」
ガズニは自分の昔話をこう言って締めると、今度はバイオモンスターの入っている
ケースと、自分たちに銃を向けた機械兵の残骸に目を向けた。
「正直、ここまでの物を見せられても、しかも総督直々にワシに預けた機械兵に銃を
向けられても、ワシにはこれを総督がお前達の言うように、邪神に操られて世界を
滅ぼすために作ったのだという事はどうにも信じきれんのだ。それよりも自分の力
不足を嘆きたくなる・・・だが、政府の人間として、一体何が起こっているのか、この
事が本当に総督の意志で行われた物なのかを総督に問いただし、この目で真相を
確かめねばなるまい。ところでアレン？」
ここでガズニはアレンの方を向き、アレンに向けて話をし出した。
「真相うんぬんを言うのならばアレン、お前もこれが本当にお前の親御さんである
ケビン殿やマリア殿の作った物なのかその真相を確かめたいのだろう？」
ガズニの問いかけにアレンはコクリとうなずいた。
「ならばワシがお前さん達を首都に、ネオカミニートに案内しよう。もっとも、そこに
何が待っているのか、このワシにさえ想像がつかんがな・・・」
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