フレオから再びネオアリサへ、その道程はガズニの乗ってきたシャトルに
乗って行った。機械兵を百機近く搭載できるだけの事はあり、さすがに
その大きさは相当な物であるし、内装も行きに乗った物の比ではない。
そのシャトルの中でアレンは椅子に座り、しきりに考え込んでいた。
「どうしたのアレン？」
後ろからアリスが声をかけた。
「いや、ちょっと考え事をな。」
「・・・おじさん達の事・・・？」
「いや、それもそうなんだけどな・・・昨日のガズニさんの機械兵との戦いで
思い知らされたんだ・・・全員の中で、オレが一番弱い・・・」
「そんな事・・・」
「あるさ・・・アリスみたいな天賦の才も無けりゃ他のみんなみたいに長年の
実績に裏打ちされたものも無い、ルラキルとの戦いだってあいつがみんなと
戦った疲れがあったから勝てたようなもんだ。それでもこれまで何とかやって
来られたけれど、これから先は下手したら皆の足を引っ張る事にもなりかね
ない・・・ただ、さっき言ったみんなが持っている物ってのは一日二日で身に
付くモンじゃないから、それをカバーできる何かを考えないと・・・」
「それで、『必殺技』でも考えてらっしゃるんですか？」
「テオさん？」
アリスとそう話しをしている所に後ろから急にテオに声をかけられたアレンは
多少驚きの色を見せながらテオの方に顔を向ける。そしてそこで見たテオの顔
にはいつもより厳しいものが感じられた。
「もし図星ならやめておきなさいアレンさん。今そんな事を考えても百害こそ
あれ一利もありませんよ。」
「なんで・・・」
「アレンさんが今まで練習に練習を重ねた技を自分の決め技とするのなら
何の問題もありません、しかし急ごしらえに威力の高い技や連携を考え
てるならそれは所詮奇策、付け焼き刃、敗者の策とでも言うべき物です。
そしてそういった物は往々にして実戦での有効性が低いばかりか使用者が
それを意識に置く事によって普段の連携にも支障をきたすというケースを
私はこの目でいくつも見てきました・・・アレンさんには、そういう失敗
だけはしてほしくないんです。」
「テオさん、じゃあオレはどうしたら・・・」
「アレンさん、あなたは自分が思っているほど弱くはないですよ。自信を
持つ事です。今のアレンさんに勝てる人は、そうはいないんですから・・・」
テオはアレンに優しくそう言うのだが今のアレンにはそれは慰めにしか聞こえ
ない。アレンのそんな心情を察したテオは、もう一言付け加えた。「そんな時
のために、仲間はいるんですよ」と・・・
それからしばらくして一行はネオアリサに無事着陸し、そしてその首都で
ある「交わりの都」ネオカミニートの中心へと入っていった。しかしそこ
の空気は気のせいかどことなく重苦しい。道にはゴミ一つ落ちておらず、
道路なども完全に整備されている。だが首都なのに人通りが少なく、たまに
通りがかる人も何か忙しそうで無表情、心に余裕が無いように思えた。だが
そんな町の風景の思いを馳せる間もなく一行は行政機能を一手に司る
巨大な建物、通称「セントラルタワー」へと到着し、そしてそこの最上階
の長い廊下の先にあるやや大きな朱色の扉の前にやって来た。
「ガズニ・プライム大佐、入ります！」
アレン達五人を後ろに引き連れ、ガズニはその朱色のドアをノックした。
五人の手には一応手錠がかけられているが、引っ張れば簡単に外れる
仕組みになっている。部屋のドアが開くとガズニは椅子に座っている
総督の前で敬礼をし、数歩前に歩み出た。
「任務ご苦労だったな、大佐。」
ネオアリサ総督、ティーズ・ド・フランは席を立ち、ガズニの方に歩み寄り
そう言った。
年齢は五十歳前後であろうか、青をベースに真ん中に黄色いストライプの
入った服を着て、髪はもうだいぶ白い。しかし体つきはがっしりとしており
そこには彼の年齢を感じさせないものがあった。彼はガズニと握手をして
その労をねぎらい、そして言葉を続けようとしたがガズニはそれを遮った。
「総督！」
「どうしたガズニ？えらい剣幕じゃないか・・・」
「どうしたもこうしたもありません！閣下はフレオのバイオプラントの事を
ご存じなのですか！！」
「・・・・・・」
「私があれを見た瞬間、閣下から預かった機械兵が”機密保持”と言って
襲いかかってきました！あれは総督の意志なのですか！？」
ガズニは総督にまくし立てるようにそう言った。総督も最初は彼の言葉を
黙って聞いていたのだが、やがて静かに口を開いた。
「そうか・・・ならば、お前だけでなくここにいる六人は全員、あれを見たと
いう事なのだな・・・」
総督の口からその言葉が発せられた瞬間、彼の文字通り目の色が変わりった。
赤い、人間とは思えない目である。そして彼の目の色の変化を見たその瞬間、
アレン達の意識は一瞬にして消え失せ、ばたばたと床に倒れ伏した。
「いつまで、狸寝入りをしているつもりだ？」
「さすが、お見通しってワケね。」
他の五人と同様に床に倒れていたミューだが、総督にそう言われるとムクリと
起きあがり、手錠を外し服の中に忍ばせていたクローを装備しながら言った。
「アンドロイドにイービルアイが効くとは思っていないのでな、ミュー・タイプ
Ｓ２・・・失われた古代技術で作られた最高のアンドロイドにして千年前の
大戦時の最大の功労者よ。」
自分の技が効かなかった事を当たり前のように受け止めながら総督はミューに
言った。やはり落ち着いた、重い声である。そしてそんな総督に対しまくし立
てるような口調でミューは彼に尋ねた。「ダーク・ファルスを知っているのか」
と・・・
「知っているとも・・・彼は大いに役立っているよ・・・」
ごく当たり前のように、平然と彼は答えた。
「役立つ？何に！」
「この世界の浄化のために。」
「浄化？ダークファルスを利用しているつもりなの？ダークファルスは破壊
本能と邪心の塊！人の手に負える代物じゃないのよ！」
「ほぅ？手に負えないと？ダークファルスを倒した者の口からそういう言葉を
聞くとは思いもしなかったぞ・・・」
「ダークファルスは敵対した者より味方につけた者の方が確実に滅んでいる！」
「それは過去の話だろう？私は違う・・・」
「とにかく、あなたの暴走はここで止める！」
ミューはそう言うとティーズ目がけ突進し斬りかかる。しかしティーズは自分
に向けて振り下ろされた腕を難なく左手で握り止めた。
「止めた！？」
「フ〜ム、スピード、攻撃力、ともに我が軍のいかなる機械兵をも凌駕してる
ようだな。さすが古代技術の結晶、見よう見真似で作られている物とは格が
違うというわけか・・・しかし、私を倒すにはまだ足りんな。」
そう言うとティーズはおよそ人間とは思えない、まるで万力か何かのような
握力でミューの腕を締め付け、そして右腕でフォイエを放とうと掌に力を溜め
はじめた。ミューはそこから脱出しようと腕をつかまれた状態から体を後方に
回転させ、サマーソルトキックで総督の顎を蹴り上げると総督が怯んだ隙に
更に頭めがけてもう一発、今度は体を横に回転させて回転蹴り叩き込んだ。
それもミューの狙い通りに直撃し、総督は吹き飛ばされて本棚に体を強く叩き
つけられ、本棚の本が何冊か崩れ落ちる。しかし当の総督は平然とした顔で
起きあがるとミューに向けて２、３回拍手をした。
「いい蹴りだ・・・お前の戦闘方法で警戒すべきはクローを主軸とした物のみと
思っていたのは、どうやら認識不足だったようだな。ならば私も、それなりの
戦いをさせていただこう・・・」
ティーズはそう言うと机の横にたてかけてあった剣を手に取り、鞘をはずした。
その刃は黒く、しかし水晶のように輝いている。総督が自信満々に抜き払ったその
剣はミューが初めて見る物ではない。ミューはその剣に強い驚きを感じた。
「そ、その剣は・・・」
「見覚えがおありかな？」
「ネイソード・・・」
「そうだ。」
総督はミューの言葉をすぐに肯定する。しかしその肯定はミューに安心感こそ
与え、恐怖は一切与えなかった。ミューは、総督にむかい断言した。
「あらかじめ言っておくわ、その剣はあなたには使えない！」
「ふ・・・それはどうかな？」
「！？消え・・・」
言葉と同時に総督の姿がミューの視界から消える。しかし最初の一撃は何とか
読みが当たって回避した。しかし彼の動きをミューが見切ったわけではない。
「（次はどこ・・・？前・・・後ろ・・・左・・・左後方４５度！！」
「残念、真正面だ・・・」
「え・・・」
完全に無防備な体勢のミューに総督の持つネイソードが襲いかかる。それを
回避する余裕はミューには全くなかった。ティーズの、いやネイソードの一撃が
ミューの体を切りつけるとミューは前のめりに地面に倒れ込み、立ち上がる力
どころか意識を保つ力さえも、もはや残されたはいなかった。
「なんで、ネイソードが・・・」
それが意識を失う前にミューが考えられる全てだった。
「閣下、何事ですか！？」
騒ぎを聞きつけ部屋に駆けつけてきた衛兵の一人がティーズに尋ねた。
「ちょっと、連中が暴れただけだ、心配はいらん。そんな事よりこの六人を
地下の独房にでも叩き込んでおけ。」
「六人・・・ガズニ大佐もですか？」
衛兵は不審そうに尋ねた。
「そうだ。」
「わかりました・・・しかし今は人数分の空きがありますかどうか・・・」
「牢番の裁量に任せておけ。」
「はっ！！」
衛兵は総督に敬礼してそう言うと何人か仲間を呼んでアレン達六人を部屋の
外へと運び出していった。
それからしばらくの後・・・
・・・
・・
・
「う・・・うん・・・」
「気がついた？アレン？」
ようやく眠りから覚めたアレンの前に、アリスの顔が飛び込んできた。まだ
意識もはっきりせず少しぐらつく感じの頭を抱えながら、アレンはアリスに
話しかけた。
「あ、ああ・・・どこなんだ？ここ・・・」
「見たところ、どうやら牢屋みたいだけど・・・」
「ギゾやテオさん、ミューさんやガズニさん達は？」
あたりを見回しながらアレンはアリスに尋ねたが、アリスは首を横に振った。
「わからないわ・・・皆目見当がつかない・・・」
「なんだったんだろう、あれ・・・総督の目の色が変わった瞬間から、意識が
全然ない・・・催眠術、みたいなものだったのかなぁ？」
アレンは不機嫌そうにそう言いながら起きあがると辺りを見回した。コンク
リートでできた、煎餅布団が一枚かけてあるベッドが一つあるだけの狭い
部屋である。どうやら本来は一人用の独房にアリスと二人して押し込められた
らしい。湿っぽい部屋の天井には裸電球が一つあり自分の目線と同じくらいの
高さの所に小さな開閉不能のガラス窓がある。アレンがそこから外を覗くと若い
牢番と思しき男が一人、行ったり来たりいるのが見えた。また牢の扉はやたら
頑丈にできていて、しかも内側には鍵穴が無い。
「なぁアリス、お前のテレパス能力で鍵とか開けられないのか？」
「ちょっと無理ね・・・アレンが寝ている間に試したけど。私のテレパス能力は
あくまで生きている物が対象だから、こういうドアとかには通用しない・・・」
「ふ〜ん・・・地震を起こしたり竜巻を起こしたりはできるけど鍵一つ開けられない
ってのも何だかなぁ・・・難儀な能力。」
「アレンこそお得意のオーバードライブで扉を蹴り破るってのは無理なの？」
「お前なぁ・・・こんな分厚い鉄の扉、どうにかできるワケないだろ。そんな事
してもオレの足の方が折れるだけだ・・・・・・どうしたらいいものか・・・」
そう言って二人はしばらく考えこんだが、突然アリスがポンと右手の握り拳で左の
手のひらを叩いた。
「ねぇアレン、あれを試してみない？」
「あれ？」
アリスの言葉の意味が理解できず、アレンはオウム返しにアリスの言葉を繰り返した。
「うん、こういう時によくやるっていう・・・」
「ちょっと待て・・・それって、まさか・・・」
目を笑わせ、口元の笑いをかみ殺しているアリスの顔を見て、アレンは顔を引き
つらせずにはいられなかった。
「ふぁ・・・」
アレンとアリスが良からぬ企みをしている表で牢の見回りをしている男は、退屈そうに
一つ、大きなあくびをしながら伸びをした。
「まったく・・・何が悲しくてこんな退屈な牢番なんかしなくちゃならないんだか。
もっとこの俺に見合った職場を与えてほしいよな。あぁ〜あ、こんな事言っちゃあ
不謹慎だけど、どこぞ俺の管轄外の牢から凶悪犯でも脱走してくれないモンかね？
そいつをこの俺がパパッと片づければ一躍昇進も夢じゃないのに・・・ん？なんで
ここの部屋の電気が消えてるんだ？」
牢番の男は不審そうにそう言いながら鉄の扉の表にある電気スイッチをいじった。
何の反応もない、そして右手をあごのあたりに手をやると、中から女の子と男の子の
声が聞こえてきた。
「ちょっと！何するのよアレン！！」
「う、うるさい！どうせ死刑になるんだ！だったらこの世の名残に・・・」
「そんな・・・そんなの・・・」
中から聞こえてくる二人の声に、牢番の男は思わず窓を覗き込んだ。しかし部屋の
中は暗くて何も見えない。男は腰にぶら下げてある鍵の束に手を伸ばしかけた。
「罠かも」とも思うには思った。極めてありがちな罠だと。しかし中にいるのは所詮
子供、自分に扉を開けさせようとする罠だったとしても何を恐れる事があろう、そう
思い牢の鍵を開け、慎重に少しだけ牢の扉を開けた瞬間・・・
ドォン！！
「ぶっ！！」
凄まじい勢いで開いた、鋼鉄製の扉に頭をぶつけ、そのまま倒れて後頭部を強く床に
打ちつけた牢番はあっさりと気絶してしまった。
「んっふっふっふ・・・大成功！名演技だったわよ、アレン。」
完全にのびている牢番を前にアリスは満面の笑みを浮かべ、アレンの方にウィンクを
しながら右手の親指を突き立てて言った。しかし当のアレンは右手で頭を抱えながら
首を横に振っている。
「・・・まさか本当にこんな古典的でお約束でベタな手段にひっかかるとは・・・」
「だから言ったでしょ？案外上手く行くんじゃないかって。」
「ま、上手くいくにしてもこれっきりにしてほしいモンだな。言ってて恥ずかしいっ
たりゃありゃしない・・・第一こんな真似しなくても、部屋の中でボヤ騒ぎを出して
牢番に鍵を開けてもらうとか、同じ常套手段ならせめて仮病とかさあ・・・」
「・・・・・・ま、それはそれって事で。」
二人はそう話をすると牢番の男を縛り上げて牢の中に入れて鍵をかけ、そしてその
鍵を持ったまま慎重に内部の探索を始めた。
「とにかく、新手が来る前にギゾ達を探さないと・・・」
二人は慎重に、物音を立てないように歩いた。数メートルの範囲内だったら人間が
いないかどうかはアリスの能力を使えば大抵分かる。そして二、三分ほど構内を歩き
まわったところでアリスの顔色が変わった。
「どうしたアリス？」
「なにかこっちに来るわ・・・一直線に！しかもすごく速い！」
「えっ？」
そして目の前の廊下の角の影になっている部分から何者かがアレン目がけて飛び
かかる。事前に来ることが分かっていてもなお見切れないほど鋭い動きと一瞬息が
止まるほどの強烈なタックル、それを食らったアレンはそのまま床に押し倒され、
アリスはアレンを助けようと横から攻撃準備をしたが、直後にアレン、そしてアリスは
己の目を疑った。目の前にいる人物は年齢わずか十歳くらいの少年・・・いや、この
ような子供がこんな所にいる事も十分驚くに値するのだが、もっと驚いたのはその
容姿が幼い頃のアレンに瓜二つなのである。
「ねぇ！アレン兄ちゃんでしょ！！」
その少年はアレンの顔をしばらくじっと見つめた後、笑いながら興奮した口調で言った。
それにさっきの”タックル”もこの少年にして見れば”抱きついた”と言う方が正しい
表現だったようだ。
「へ？ひ、人違いじゃなくて？」
「間違いないよ！だって僕と同じ匂いがするもん！だからここまで来たんだ！！」
いくら似ているからといっても、一面識もない子供に兄呼ばわりされ、挙げ句「自分と
同じ匂いがする」などと言われても返事のしようがあるハズがない。アレンはただ答え
に窮するばかりだった。そしてそんなアレンに助け船を出すべく、アリスが横からその
男の子に声をかけた。
「ねえ、ぼく？」
アリスが膝を屈め、その子と同じ目線で話しかけると男の子はクルとアリスの方を振り
むいた。
「ん？お姉ちゃんは？」
「あ、私はアリスって言うの、ボクの名前を教えてくれる？」
「うん！僕はリック！リック・ハランツ！！」
「え？リック・・・・・・ハランツ？」
「そうだよぉ〜、いくらしばらくぶりだからって、弟の顔忘れるなよぉ」
リックと名乗る少年は不満そうにアレンに言った。
「（あ・・・アレンって弟いたっけ？）」
「（いや・・・）」
「（じゃあケビンおじさんとマリアおばさんがこっちに来てからの子供とか？）」
「（そんなワケないだろ・・・父さん達がこっちに来たのってたかだか三年前だぞ？
一歳二歳の赤ちゃんならまだしも、こんな大きいのが・・・養子か？）」
「なにブツブツ言ってるんだよ！こっち来てよ！パパとママにも知らせなくっちゃ！」
そう言うやリックと名乗る男の子はアレンの腕をひっぱりだした。アレン達にしてみれば
今、こんな子供の相手をしている時間は全くない。しかしアレンの手首をつかんだ握力が
やたらと強く振りほどけない上に彼の大声で脱走に気付いた他の牢番達の声と足音が
あちこちから響いてくる。こうなるとアレンもアリスもリックと名乗るその少年に
ついて行くしかなくなり、走る事数百メートル、牢を抜け地下道を通り、鋼鉄製の扉の
前まで連れてこられた。
「ここにパパとママがいるんだ！」
少年は笑いながらそう言うと壁にある、フレオのバイオプラントにあった物と似た形の
機械に数字を入力する。するとドアは簡単に開き、中にいてアレン達に背中を見せる
形で本を読んでいた白衣の男性はその事に気がつくとくるりと振り向いた。
「リック！なんで勝手に研究所を出たりして・・・・・・・・・！？」
ケビンはそう言ってリックを叱ろうとしたが、彼の後ろにいるアレンを見てそこから先の
言葉が続かなかった。またアレンの方も三年ぶりに会った父に対して何も言い出す事が
できない。ただ一人リックだけが、その様子を不思議そうに眺め、明るい声で二人に話を
するようせかしたてていた。しかしそんなリックも、ケビンが机の上に置いてある小さな
機械を手に取り、それのボタンを数回押すとバタリと倒れ、死んだように動かなくなった。
「！？」
「寝かしつけただけだ。心配はいらん・・・」
ケビンはそう言いいながらリックをベッドに横たえさせるとアレンの方を向いた。
「久しぶりだなアレン・・・実に三年ぶりか・・・大きくなったなぁ、横にいるのはアリス
ちゃんか？二人とも、元気そうで何よりだ・・・」
実に三年ぶりの再開、息子の目から、父は少し痩せたように見えた。そして父の目から
息子は、年齢以上、体格以上に成長したように感じられた。
「父さんこそ・・・最近連絡が全然無いからどうしたのかと思って・・・それで夏休みだしと
思ってアリスと遊びに来ようと思ったんだけど、話がそれで済まなくなった・・・」
「・・・らしいな・・・大体の話は聞いている・・・」
「オレ、フレオに行ったんだ。そこで色んな、普通の自然界にはいないモンスターとでも
言うべき連中を沢山見て、しかもそれを作っている工場みたいな所まで見た！その上、
ガルムってヤツがそこの管理責任者が父さんだって言った！そんなの、嘘だよな・・・
父さん、あんな化け物作ってないよな！！」
「いや・・・紛れもない事実だ・・・」
父が自分の言葉を否定する事を心から願いつつ、顔に焦りを色濃く浮かべるアレンと対照
的に、やたらと落ち着いた声でケビンは言った。
「私と母さんは、ここに来るなり生物兵器の研究開発を命じられた。どうやらそれは数千年
の昔、我らの先祖がアルゴルに住んでいた時に盛んだった技術らしいのだが、二度に渡る
戦乱などによってそれらは一部の資料を除いてすっかり失われてしまっており、残された
わずかな資料からそれらを現代に蘇らす事が私達に与えられた仕事だった。そして研究の
結果、自然界の生物よりも戦闘能力が高く病原菌等にも強い抵抗を持つ生物兵器『バイオ
モンスター』を再び現代に生み出す事に成功した・・・」
ケビンが言葉を続ければ続けるほど、アレンは自分の顔から血の気がひくのを感じずには
いられなかった。しかしそんな事はまるで構わない、という感じでケビンは淡々と話を
続けた。
「しかしバイオモンスターは戦闘能力においては通常の生物を遥かに凌ぎ、知能も低くは
ないものの、所詮ベースとなっているのが知能が高いとは言えない生物ゆえに特に命令
系統に多大な限界があった。故により多角的な作戦を遂行でき、あらゆる状況に対処が
可能な新たな生物兵器の作成が望まれた・・・そして研究につぐ研究の末ようやく成功した
そのプロジェクトの実戦レベルでの完成体第一号こそがそこに眠っているリック、この
子はお前の遺伝子情報を元にクローニングという技術で・・・分かりやすく言うならお前の
髪の毛を元に生み出され、そして戦闘用に特別な強化を施された、もう一人のお前だ・・・」
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