それから間もなくして、二人は屋敷へと戻っていった。
他の仲間もすでに起きているらしく食堂でみんなの話し声がする。
「昨日はよく眠れましたか？」
食堂のドアを開けるとテオがそう二人に話しかけてきた。
「いやぁ、どうも緊張しちゃって。テオさん達は？」
「まぁまぁかしら？それなりの睡眠はとれたと思うわ。
ところでさっき二人を起こしに行ったらいなかったけど？」
「え？あ、ああ。目が覚めてそこらを散歩してたらたまたま
アリスと会って、そこから二人でここに来たから・・・」
「ふ〜ん、ところでアレン」
「ん？何か？」
「なんでお前の唇の所にアリスの口紅の色がついてるんだ？」
「え・・・・・・」
ギゾにそう言われ、アレンの顔は火がついたみたいに赤くなって
あたふたと慌てだした。
「ちょっとアレン！私口紅なんてつけてないでしょ！！」
アリスが一瞬後にそうフォローをしたのだが時既に遅し、である。
その場にいた全員がこの事の意味を理解していた。
それから数分後・・・
「だ、だから俺が悪かったって言ってるだろうが・・・」
アリスの『照れ隠し』の一言で片づけるにはあまりに強烈な往復
ビンタだのひっかきだのの連続攻撃を喰らって傷だらけの顔を
さすりながらギゾは言った。
「まったくデリカシーって物が無いって言うか・・・アレンもあんな
カマかけに簡単にひっかからないでよね！」
「ご、ごめん・・・」
「まぁそう怒るなってアリス。それがお互いの気持ちなんだろ？」
「ま、まぁ・・・そういう事になるんだろうけど・・・でもこれは別！」
「ぐ・・・く、首を絞めるな・・・おいテオ、こいつ何とかしてくれよ・・・」
「い〜え、今のは二人に大人げないからかい方をしたあなたが悪いん
ですからね、ケガの手当ても自分でしてください。」
「ぐ・・・は、薄情な・・・」
「やれやれ、元気なものだな。」
アリス達のケンカをやや遠巻きに見ながらガズニとミューは言った。
「ええ、これから戦いに行くのを忘れてしまいそうになるくらいに。」
「まあ、あまりガチガチに堅くなられるよりはマシだがな。」
「そうね・・・かといってあんまり緊張感が無さすぎるのも問題だけど。
それに、あんまりのんびりもしていられないし。」
ガズニとミューはそう言うとアリスとギゾを引き離し、作戦会議を
開始した。
「まず、一番の問題はどうやって潜入するかだよな・・・」
「ああ、本当は前回のでカタつけたかったんだけどな。でも生憎それ
ほど敵さんも甘くなかった、と。」
「じゃあ例のログさんの機械・・・ヘリコプターって言ったっけ？を使って
また行くとか・・・」
「いや、あんな目立つ物の侵入を二度も許してくれるとは思えない・・・」
「じゃあ、どうすれば・・・」
そうして皆が考え込んでいる所に、食堂のドアをノックする音がした。
「おぉ全員揃っておるな。」
「ログさん？」
「うむ、ちょっとこの写真を見てみんか？」
そう言うやログは今し方自分の諜報部が送ってきた写真を六人に見せた。
その写真はたしかに首都のビルの物である。しかしビル全体に蒼い、ツタ
とも触手とも言えぬ物がはびこり、周囲の建物も何軒か炎に包まれている
ようであった。
「こ、これは・・・」
「どうやら、ダーク・ファルスが本格的に活動しだしたみたいね・・・」
「で、今付近の住民は一斉退去の命令が出ており、かなり首都は混乱
しているとの事じゃ。攻め込むなら、今じゃぞ。」
「ああ、周りの人間にゃ悪いがこっちにしてみれば願ってもないチャンス
到来ってワケだな。」
ギゾの言葉に、全員がうなずいた。
「あ、そうそう。お前さん達全員に渡しておく物があったんじゃ。」
そう言うとログは懐から小さな黒い物体を六個取り出した。何かの機械で
あろうか？手のひらサイズの黒い箱のような、七色の小さなボタンがついて
いる。
「なんです？これ。」
「小型の無線機じゃよ。しかも特別に高性能のな。横にボタンがあるじゃ
ろう、そのボタンによって話し相手を変えられる。緑はギゾ、青はテオ、
水色はアレンで黄色がアリス、赤がミューで黒はガズニじゃ。髪の色と
覚えておけば間違いない。あと一番下の白いボタンが全員との会話じゃ。」
「へぇ、こりゃ助かるな。じゃ・・・行くぞ！」
「ああ・・・これが、最後の戦い！」
「準備は・・・いつでもＯＫよ！」
「この星に巣喰う者共に目に物見せてくれる！！」
「断ち切ってみせるわ・・・この呪われた千年紀を！」
「そして、この星の未来を！！」
ギゾのかけ声にアレン、テオ、ガズニ、ミュー、そしてアリスが続く。六人
はそれぞれ右腕を差し出し手のひらを重ね合う。そして一声気合いを入れる
と、ログのヘリに乗り込んでいった。
それから小一時間・・・
「なんだ、これ・・・」
「なんて、まがまがしい・・・」
首都の都心部から少し離れた空き地でヘリから降り、人混みをかき分けて歩き
そしてセントラルタワーへとやってきた。たしかにビル全体が蒼いツタのよう
な、また触手のような物で覆われており、またそこから感じられる妖気はただ
そこにいるだけで圧倒されそうな物がある。
「でも、ここで立ち往生していても始まらないからな。とにかく入ってみようぜ」
「ああ・・・そうだな・・・」
そう言って六人は中へと入った。建物の中は荒れ果てて最高の技術をもって
建設し、いつも塵一つ無く掃き清められているビルの面影はそこにはない。
そしてそんな中をしばらく、総督室目指して歩いていると忽然と数人の人間
がアレン達の目の前に姿を現した。人間・・・たしかにその姿形は人間の
それである。しかし目は本来の輝きを失い赤く光り、彼らから感じられる
のはただただ殺気ばかりである。
「なに？この人達・・・人間みたいだけど、でもこの妖気・・・」
彼らから発される気味の悪い威圧感に一歩後ずさりをしながらアリスは言った。
「気をつけてください！彼らはダーク・ファルスの細胞から産み出された
生命体や先のガルム同様ダーク・ファルスに魅入られし者達！その力は
今までの敵とは比較になりません！！それと・・・」
そのミューの話が終わらないうちに彼らのうちの一人である紫色の古風な服
を着た女性がミューめがけて襲いかかってくる。ミューは敵の一拳を防御
すると、躊躇なくその喉笛を引き裂いた。
「彼らは既に死にて葬られるしか魂の安息を得られぬ者達・・・皆さんも、
人の姿をした敵が相手では躊躇もあるでしょうが、どうか理解して・・・」
「・・・・・・わかった・・・」
アレンは目をつぶり、やや浅めの深呼吸をするとそう言って剣に手をかけた。
「行くぞ・・・」
次の瞬間、アレンの剣が敵のうち数体を斬り捨てる。そして逃げる敵を更に
追おうとしたその瞬間、彼らの立っていた地面が音を立てて崩れ落ちた。
「・・・くっ・・・痛たたた・・・」
巻き起こる埃に少し咳き込みながらアレンは言った。辺りを見回すと
横の壁は崩れたコンクリートで厚く塞がっているが、目の前には一本の
道がある。アレンがそこに沿って進もうとした時、彼の懐からギゾの声が
響いてきた。
「お〜い！みんな無事か！？」
「ん？あ・・・無線か・・・はい、こちらアレン。」
「アレンか？よし、お前の周りに誰かいるか？」
「え？いや、誰も・・・そっちは？」
「こっちにはミューとテオがいる。となるとアリスとガズニだな。おぉ〜い
ガズニ大佐！アリス！聞こえているなら返事してくれ！」
「おう、ワシだ。」
ギゾが無線でそう怒鳴るとすぐにガズニの声が聞こえてきた。
「ガズニさん！？アリスはそっちにいませんか？」
「その声はアレンか？アリスならこっちにいるぞ。ちょっと気を失っている
みたいだが、大したケガは無さそうだ。」
「そっか・・・良かった・・・」
「良かったじゃねぇよアレン！て事はお前だけ一人なんだぞ！！」
「あ・・・」
ギゾにそう言われ、アレンは今更の事ながら自分の置かれている状況の
重大さに気がついた。
「どうするんだよアレン！」
「どうするったってなぁ・・・とにかくこうして完全に分断されてて、
お互い先に道があるんだったら、行くしかしょうがないだろう。」
「あ、アレン・・・アレンなの？」
アレンとギゾが無線で話していると、横からアリスの声が割り込んできた。
「アリス？気がついたのか？」
「うん・・・」
「ガズニさんと一緒なんだろ？あんまり迷惑かけないようにな。」
「うん、でもアレンは・・・」
「ああ・・・ちょっとヤバいかな・・・でもとにかく、やれるだけの
事はやってみるさ。こんな所で死にたくないしな。」
「あ、アレン・・・死なないでね・・・絶対に・・・アレンの事、
大好きだから、絶対に死なないでね・・・」
そう言うアリスの声が段々と涙ぐんでくるのは、少し雑音が混じる無線
の声からも聞こえてとれた。アリスのそんな言葉を聞くとアレンも涙が
出そうになる。しかしアレンはそれを何とか堪え、なるべく平静で静か
な、諭すような口調でアリスに語りかけた。
「わかった・・・アリスのためにも生きてみせるから、アリスも絶対に
死ぬなよ・・・」
「うん・・・」
「それじゃあ、通信を終わるぞ・・・ガズニさん、アリスを頼みます・・・」
「おお、任せておけい。」
アリスから無線機を受け取りそう言うと、ガズニは無線のスイッチを切った。
「ほれ、いい加減泣きやまんか。」
ポケットからハンカチを取り出し、渡しながらガズニは言った。
「ありがと、ガズニさん・・・」
「アレンの事はお前さんが一番良く知っているのだろう？そのお前さんが
アレンのヤツの勝ちを信じてやらんでどうする・・・」
「うん・・・分かってる・・・」
「しかし無線であんな事言って、またギゾあたりと騒ぎを起こさんで
くれよ。」
「え？じゃあ、もしかして・・・」
「うむ、あの時全員との通話ボタンが押しっぱなしだったからなぁ」
ガズニの一言でアリスはまた顔を真っ赤にする。しかし今回はその
顔もすぐにいつも通りの顔色に戻り、ガズニと目を見合わせ、そして
即座にお互いの背中を合わせあい攻撃態勢を整えた。
「ガズニさん！」
「ああ・・・わかっておる・・・」
そういう二人の前に多数の敵が出現する。今回の敵はさっきのとは違う、
やや小型のより怪物的な恰好をした敵が主体であった。ただしその数は
玄関口で自分達が戦った敵の比ではない。
「いくぞアリス！」
「はい！」
そう言うとガズニはネイショットではなく昨日ログの武器庫から見つけ
出してきた大型の銃を構えた。音波による衝撃波で敵を倒す「パルス
バルカン」という名の銃で出力・火力はネイショットに遠く及ばないが
複数の敵を同時に攻撃できるので敵の数が多いこの状況ではうってつけ
であると言えた。
「獅子身中の虫どもが・・・消えろ！」
ガズニが引き金を引くと、強烈な衝撃波とともに敵のうち数体が倒れる。
またアリスはテレパスで空気を振動させ、真空の刃で敵を切り裂いた。
それは単発で使った場合あまり威力の高いといえる物ではないのだが、
しかし全方向にいる敵を相手に攻撃できるのが何よりの強みである。
アリスの攻撃もガズニの攻撃も、いずれも一撃で相手を仕留める
のには力不足であるが両者が一体となれば十分な攻撃力を持っていた。
「ひとまずあと十体って所ね・・・ガズニさん、銃のエネルギーは大丈夫？」
「うむ・・・今の戦闘で三分の一くらい使ったな・・・」
「それなら私に任せといて。これくらいの数なら一撃で片づけてみせるわ。」
アリスは笑顔でそう言うと、大きく息を吸い込んだ。
「いくわよ・・・半径２０ｍ！クリスタルスプラッシュ！！」
アリスのかけ声とともに空気中の水分が一気に凝縮され、無数の水晶の
如き輝きを持つ氷のつぶてへと変化する。そしてそれは見た目と裏腹に
一発一発が強力な貫通力を持ち、全方向から飛来する十数体の敵を片っ端
から蜂の巣とすると、また元の、大気中の目に見えない水分となりアリス
とガズニの前から消えていった。
「ふぅ、とりあえず第一陣は片づいたみたいね。」
額の汗を拭いながらアリスは言った。
「凄いんだなそのテレパスってのは・・・しかし疲れないか？」
「うん、最後のが少し疲れたけどこれくらいならまだ大丈夫。空気って
いうのは普段から活発に動いているから、ちょっとした干渉ですぐに
動いてくれるの。逆に大変なのは大地とかかしら？地震とか起こすと
結構疲れるわね。あと石みたいにがっちりくっついているのとか。」
「なるほど・・・」
「ところでガズニさん、今朝思ったんだけど・・・」
「なんだ？」
「ミューさんの事どう思ってるの？」
「ん？どういう意味だ？」
「いや、何となくね。今朝とか妙に気が合ってるみたいだったから、
どうなのかな〜って。」
「う〜む、彼女を非常に尊敬しているとは言えるがな。千年も主家への
忠誠を貫いた誠実さ、国への愛情、そして人間としての器の大きさ、
いずれもこのワシなんぞの及ぶ所ではない・・・」
「ねぇ、でも同じ誉めるんだったらそういう堅苦しすぎる言い方よりも
もっと優しい言い方の方が良いと思うんだけど・・・」
「そうか・・・実は昨日、本人にもそう言われたのだ・・・敬意を表して
言った言葉が相手の不興を買ってはどうしようもないし、正直何を
どうすればいいのか分からんのだ。」
「フフ、そう言う事なら、私が協力してあげるわよ。」
「そうか？すまんな・・・」
「でも、とりあえずここから生きて出た後だけどね！さぁ、第二陣が
やってきたみたいよ・・・」
アリスとガズニはそう言うと身構え、再び戦闘態勢を取った。
そしてそれと時をほぼ同じくして、ギゾとテオ、そしてミューの三人も
目の前の道をひたすら進んでいた。
「どうしたんだテオ？人の顔を見たりして。」
「いえ、あなたがあの無線を聞いた後すぐにアレンさんとアリスさんに
からかいの無線を入れなかったからどうしてかなと思って。」
「バカ言うなよ。いくら俺だって敵と遭遇しているかもしれないような
非常時に茶々入れの無線なんか入れるかっての！それに・・・」
「それに？」
「よく言うだろ？楽しみは後に取っておくモンだって。ただ、今度は
あらかじめモノメイトを大量に用意しておくがな。」
「・・・・・・生きて帰れればね。」
「二人とも！来たわよ！！」
ギゾとテオの会話を遮るようにミューが言う。彼らの前には二十体ほどの
中型の敵が待ちかまえていた。
「よし・・・早速ネイスピアのお披露目といくか！」
開口一番ギゾが敵陣に突っ込んで行く。そしてテオとミューもそれに続いた。
ギゾはまず目の前にいた相手に深々と槍を突き刺す。そしてそのまま槍を振り
回し、敵の屍を他の敵に叩きつけた。
「悪いが・・・手加減は一切しないからな・・・死にたい奴は前に出ろ！」
ギゾは鬼神の表情で魔族の群に一喝する。敵はそれに一瞬怯みを見せながらも
ギゾ目がけて襲いかかるが、その攻撃は彼に届く前にテオに遮られた。
「いくぞテオ！」
「ええ！！」
テオは自分の目の前に来た相手の力を利用し、また自身もオーバードライブの
力を加え高く投げ飛ばす。そしてギゾもネイスピアを使い、棒高跳びの要領で
飛び上がると空中でその敵の背後を取り、カーフ・ブランディング（仔牛の
焼き印押し）の体勢で落下、下にいた魔族数体もろとも葬り去った。
「へっへっへ・・・コンビネーションカーフ、成功だな。」
コンビネーション技の成功に満足そうにギゾは言う。もっともギゾが技をかけ
ている間、テオとミューが敵の足止めをしているのは言うまでもない。そして
三人が残り敵を全滅させるのにそれからそう時間はかからなかず、そして三人
はまた歩き出した。
「アリス・・・みんな・・・無事でやってるのかな・・・」
剣を片手に一息つきながらアレンは言った。
あれからどれくらい走り、どれほどの魔族や機械兵を倒して来たか、
その正確な数はもう覚えていない。ただ、リックとの戦いの中で覚えた
「空気の流れに乗る」戦い方、これによって自分のこれまで受けた傷は
驚くほど少ない。そんなアレンの前にまた新たな敵が姿を現した。
「ふっふっふ・・・よくぞここまで来た、と誉めてやろう。」
赤いローブで巨大な全身を包んだ魔導士風の敵が言った。
「・・・あんたは？」
「ふん、この私を”あんた”呼ばわりとは良い度胸だ・・・しかし、我が
神より私が指揮を任された魔族の最精鋭部隊を相手にどこまで
持ち堪えられるかな？まぁ五分がいい所だろうなぁ・・・」
嫌らしい笑い声を辺りに響かせながらその敵は言う。けれどアレンは
そんな敵の話はそっちのけでその場に立ちこめる”気配”から敵の数を
読みとっていた。
「やや大型の敵が１２体か・・・結構、数が多いな・・・けど、それだけか・・・」
異常なまでに落ち着いた声でアレンは言った。今の彼には「空気の道」と
でも言うべき物が感じ取れている。大気の流れにはある一定のリズムが
あり、その流れに乗った時の攻撃が最も速く、また最も攻撃力が高い。
いわゆる達人と呼ばれる人間ほど、それを無意識のうちに行っている。
そしてその流れを感じ取れるという事は、大体の敵の攻撃を予測できる
という事を意味した。もっとも攻撃が予測できたとしてもそれを受け止め
たり回避したりするのには相応の実力が必要となってくるのだが。また
敵がいつもその軌道に乗った攻撃だけをしてくるとは限らないが、そう
いう場合の攻撃はその者本来の力を発揮できていない、不自然な動きで
あるので流れに乗り切った達人の一撃の方が遥かに怖い。ともあれアレン
は瞬時に他の敵の流れから比較的孤立している相手から先に倒す事に決め、
そしてまず一番遠くにいた敵を、瞬時に間合いを詰めて斬り捨てた。
「まず１つ・・・」
リーダー格の赤い魔導士と同系統と思われる緑色の服を全身に着た魔導士
を袈裟斬りに斬りながらアレンは言った。その背後にはイマジオメイジや
鞭を手にし、貴族風の服を着た男、それに鎧を着た二本足の山羊のような
敵等が急速に接近して来たが、それらもアレンは振り返り様に立て続けに
斬った敵の数を言いながら斬り倒した。
「２つ、３つ、４つ！遅いんだよ・・・速さを売り物にオレと戦うのなら
リック以上の速さを持ってからにしろ！！」
アレンはそう一喝するとまた敵の一群目がけて突撃をする。今のアレンに
とって眼前の敵の集団はもはや脅威ではなくなっていた。身も蓋もない
言葉だが、練習台程度にしか思えない。自分に向かってくる空気の流れ、
自分から逃げようとする空気の流れ、それらを全て噛みしめるように、
一つ一つの感覚を全身に叩き込むかのようにしながら戦っていった。
「５つ！６つ！！７つ！！８つ！！！よし・・・敵の動きが・・・見える！」
「・・・な、何故だ・・・データによれば既に貴様は一片の肉塊も残しては
おらぬ筈なのだぞ！！」
「人間は、成長するんだよ・・・それに、絶対生き残って会おうってアリス
とも約束したしな・・・行くぞダメ押し！」
アレンはそう言うと手にした剣を握り直した。
「９つ・・・１０・・・１１・・・これでラストの１２番目！！」
その一声と共にアレンは首領格の赤服の魔導士を除く最後の一人の敵を
斬り捨てる。首領格の魔導士がどのような顔をしているのかは表面からは
全くわからない。ただ彼は呼吸を乱し、非常に狼狽しているという事だけ
は外からも感じ取る事ができた。
「１２人いた我が精鋭が全滅だと・・・ものの５分も経たずに・・・？バ、
バケモノか・・・・・・・・・！？」
「これでも多少は勢いを落としてたんだけど・・・どうやら、保って五分
だったのはそっちの方みたいだな。」
「ひっ！」
次の瞬間、魔導士の虚を突く形でその正面にやってきていたアレンの連斬が
敵を切り裂く。横斬りから縦斬りへの、いわゆるソードクロスの連携から
振り下ろした剣を斜め右上に跳ね上げ、そして最後に相手の胴体に剣を
突き刺すという四連斬を一瞬のうちに行う、アレンが「ブランシングホース
（跳ね馬）」と命名した技である。四回の攻撃全てを真正面から喰らった
敵の魔導士は、音もなく崩れ落ちた。
「あんまり、人を練習台にするような真似は好きじゃないんだけどな・・・
でも、これでコツは大体つかめた・・・」
そう言い残すとアレンは再び歩きはじめた。
そしてそれからは大した敵にも遭遇せず、道も一本道だった。そんな所を
十分ほど歩き続けると目の前に階段があり、そこを上りきるとアレンは大きな
部屋に出た。その部屋には巨大なモニターが何枚もある。そしてそこから
流れる映像は美しい滝や森、湖、それに野生の動物などそれぞれ種類は違う
ものの、どれもこの星の美しい自然の風景を映し出す物ばかりである。そして
それらのモニターの前には一つの大きな椅子と、その隣にそれよりは多少
小ぶりながらやはり立派な椅子があり、そして大きな椅子の方には一人の
男が座り、不敵な笑みとともにアレンに対して拍手を送っていた。
「来たか・・・アレン・ハランツ・・・」
「やっと、本名で呼んでくれたか・・・ティーズ・ド・フラン！！」
「私の圧倒的な力を目にしながら、愛する弟を目の前で失いながら、それでも
立ち向かってきた勇気、多くの命をも惜しまぬ仲間を得たカリスマ、そして
お前の通って来た道が長さこそ最も短く兵の数も最も少ないものの最強の
部隊を配備していたのだが、それをものの五分で返り討ちにしたその剣才・・・
見事と言うしかなく、そのような物を持ち合わせる者はその名で呼ばれるに
十分値する・・・そこでだ、お前に一つ提案があるのだ。」
「提案・・・？」
「そうだ・・・アレン・ハランツよ！我が右腕となれい！！」
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