「あんたの右腕に・・・？オレが・・・？」
「そうだ。」
ティーズの言葉の真意が理解できず唖然とした表情のアレン、
そんな彼に対し真剣な顔でティーズは尋ねた。
「アレンよ・・・お前はこの星が好きか？」
「な、何を言ってるんだ？オレにあんたの右腕になれと言ったり
今度はこの星の事を聞いたり・・・」
「好きかと聞いているのだ。イエスか？ノーか？」
「好きに決まってるだろ！この星が好きで！それをダークファルス
なんかにメチャクチャにされたくないから、オレ達はここまで
来たんだ！」
「そうか・・・私もこの星を心から愛している。」
アレンの答えに満足そうな顔をすると、ティーズは静かに言った。
「ティーズ、あんた一体、何を考えているんだ・・・？」
ティーズの言葉の真意を、アレンは未だ掴めない。そんなアレンに
対しティーズはスクと立ち上がり、言葉の語気を強めた。
「アレンよ、我らの祖先がダーク・ファルスにより母なる星パルマ
を破壊されてからここ、ネオアリサに行き着くまでに何年の月日
を要したのか知っているか？二千年だぞ二千年！そしてその当時
宇宙船アリサ三世の人口は千人にも満たなかったのに今の人口は
億に近づこうとしている・・・」
「ああ・・・オレだってそれくらいは知ってるさ・・・」
「そして、この星の人口はこれからも増え続けるだろう。特定の
種の行きすぎた数の増加はその種族の滅亡を速め、しかもその
者が住む住居の寿命をも狭める・・・」
「だから人類を滅ぼそうとしたって言うのか！邪神の力を使って！！」
「滅ぼす？誰が滅ぼさせるものか・・・ダーク・ファルスとて用が
済んだら再び封じ込めるまでの事・・・優秀な者が多くいれば、
それが決して不可能な事ではないという事は歴史が証明している。
それに、この星の環境の維持のためには人類の力も必要不可欠なの
だからな。優秀な管理者がいてこそ素晴らしい環境は維持できる・・・」
「ティーズ、あんたはそこまで人間の力や可能性を認めていながら、
しかし人間を排除しようともしている・・・矛盾じゃないのか？」
「矛盾？矛盾なものか・・・極めて合理的だよ・・・人はいずれ死ぬ。
そして同じ死ぬのなら無意味な生を貪ってからよりそうなる前に
その者達はその衣食を優秀な人間の分にまわした方が役に立つ・・・
それだけの事だ。」
ティーズは眉一つ動かさずそう言った。そしてアレンも、その間一切
表情を変えず、ティーズの言葉が終わるのを待って口を開いた。
「ティーズ、オレは自分の一番好きな授業は理科、特に植物関連
だけど、歴史もその次に好きなんだ。」
「・・・？、どういう意味だ？」
「知ってるんだよ！そういうのは選民思想って言うって！歴史上
誰も成功した事がない、一部のインテリがたまにやらかす、思い
上がってる上に間違った考えだって！！」
ここでアレンは急に声のトーンを変えてティーズに怒鳴りつけた。
だがティーズはそれに対してアレンをあざけるような、不敵な笑み
を浮かべてみせた。
「選民思想・・・そう、たしかに選民思想だよ。これの難しさは
お前の言うとおり歴史が証明している・・・しかし、それも今
までの話だ。」
そう言うとティーズは右手はネイソードを抜き払い、左手からは暗黒
の波動を噴出させた。
「私は今、こうしてネイソードと闇の波動、相反する力を使いこなし
ている、これは有史以来誰も成しえなかった事だ、だからこれから
先の人類の歴史も！有史に無かった物を私が作り上げる！！
神にも！悪魔にも祝福されたこの私が！」
言うやティーズは左の掌から黒い波動をアレン目がけて放つ。アレンは
間一髪でそれをかわしたがその瞬間ティーズは既にアレンの目の前に
やって来ていた。身を屈め、低い体勢から払い上げるようにアレンを
斬りつけにかかる。アレンはそれもバックステップでかわすが、胸に
軽い切り傷を負った。
「今の連撃をかわすとはな・・・やはり私が見込んだだけの事はある。」
自分の奇襲がかわされた事に対して意外そうな表情や不満そうな表情は
一切見せず、ティーズはただただ満足そうな表情を見せた。
「ティーズ、今のオレはあなたの眼鏡にかなうだけの力を持っている
のかもしれない・・・だけど、ほんの一ヶ月前までのオレは、普通の
高校生だった・・・人は、成長するんだ。その前にダーク・ファルス
の力なんかを使って”粛清”なんてしたら、未来への可能性までも摘み
取る事になる・・・お前のやろうとしている事は！目の前の結果だけを
見ているにすぎない！！」
「そう思うか？」
「・・・え？」
「総督の座にあって二十年、この星に住む者がどのような者か、大体の
調べはついている。それにその者が才能があるかどうかは、大抵その
者のデータを見れば想像がつく・・・」
「その想像やデータからはじき出された結論が間違っていたらどうする！」
「大きな改革を行う過程において少々のミスや誤差はつきものだ。そう
であった場合は、適正を持った他の者を見つけだして教育を施せば
よい・・・それに改革に伴う痛みを恐れて改革を行わない事による
損失の方がよほど大きいのだ・・・」
「メチャクチャだよ！そんなの！！」
「どうしても、私の考えが理解できぬと？」
「できるわけないだろ！そんなの！！」
「交渉決裂か・・・ならば残念だが仕方がない・・・死ぬしかないなアレン！」
そう言うとティーズは再びアレン目がけて斬りかかっていった。しかし
今のアレンには今まで以上に空気の道ははっきり見えるし、その流れ
から派生するティーズの攻撃も大体の予想はついていた。そして案の定
ティーズの動きはそれに寸分違わず沿って動いてくる。しかし、最後の
一瞬でティーズの体はその流れのどれとも違う動きへと変化し、そして
ネイソードをアレンの体目がけ振り下ろした。
「なにっ！？」
ティーズの予想外の動きにアレンは戸惑いを見せた。もしこれが流れに
沿っていない動きであると言うのならば、これほどまでの攻撃力と速度
を持っているとは考えづらい。いや、もし自然な流れから外れてのこの
動きならばアレンには１００％勝ち目は無いので、敢えてその考えは頭
の隅へと追いやろうとした。
「今回のは流れを見誤ったんだ・・・次こそは！」
アレンはまた全神経をティーズの動きと空気の流れ、そして大地の振動
に集中させる。今度は、これ以上はないというくらいにティーズの動き
がはっきりと見て取れる。しかしそこから繰り出した一撃は、ティーズ
の体をかすめはしたがかすり傷程度の傷しか与えられず、次に彼が自分
の方へと向かって来た時にはまた”流れ”から外れた動きを見せ、しかし
的確にアレンの脇腹を貫いた。
「ぐっ・・・」
「どうした？そんな物かアレン？」
傷口を手で押さえながら苦しそうな表情をするアレンに対し、余裕の
表情でティーズは言った。アレンは、回復関連のテクニックを使えない。
しかしそんな事はお構いなしにティーズはアレンに息をつく暇も与えぬ
連続攻撃を繰り出してくる。その攻撃でアレンの傷は更に増え、出血も
おびただしくなり、足の動きも鈍くなってくる。そしてついに、ティーズ
の渾身の一撃がアレンの体を袈裟斬りに切り裂くと、アレンはうめき声を
上げる事さえできず、目を見開いたまま冷たい床に前のめりに倒れ伏した。
「（ダメだったか・・・）」
薄れゆく意識の中で、アレンは思った。今の一撃は間違いなく致命傷
だった。自分の周囲は自らの血液で朱に染まり、指の一本を動かす事
さえできない。頭の中を今までの思い出が走馬燈のように巡り、やがて
アレンは静かにその瞳を閉じ、目の前に迫っている己の死をほとんど
無抵抗に受け入れようとした。
と、その時だった。
自分の意識の奥底から、何か自分に語りかけてくる声があった。
「・・・ゃん！」
「・・・ん？」
「・・・ちゃん！」
「誰だ・・・？オレの頭に直接声が響いてくる・・・」
その声は空耳や幻聴といった類の物ではない。たしかに間違いなく
聞こえてくる声である。しかしそれは外からの声ではなく、自分の
内側から響いてくる声のように感じられた。
「アレン兄ちゃんってば！！」
「・・・この声は・・・リックか！？」
そこで一度は闇に堕ちかけたアレンの意識は再び引き戻された。
確かに自分のクローンにして弟、リックの声である。
「そうだよぉ、まったくさっきから話しかけてるのに全然応えて
くれないんだもん、怒るよいい加減！！」
「え？さっきから・・・？」
「そうだよ！でも兄ちゃんが戦いに集中するばかりで耳を傾けて
くれなかったんだろ！」
「・・・そうなのか・・・でも、今オレもそっちに行くからな・・・それから
いくらでもお前との雑談に付き合うよ・・・」
「そっちってどこさ！僕はいつも兄ちゃんと一緒にいたってのに！」
「いつも・・・一緒に・・・？」
「うん！だから、あの世なんて行ったってボクはいやしないよ！」
「・・・・・・」
「よく聞いてよ！あのティーズは、テレパスを使って兄ちゃんの周りの
空気の流れを狂わせていたんだ、だからその流れを頼りに戦ってたら
騙されるんだよ！」
「・・・そうだったのか・・・でも、もっと早く知りたかったな、それ。」
「そんな事言ったって兄ちゃんが戦いの事とか、他の友達の事とか
ばかり考えてるからボクの小さな声は届かなかったんだって！でも
兄ちゃんが僕の声を聞こえるようになった今ならボクの魂と兄ちゃん
の魂は一つになれる・・・そうすれば傷も治るし、誰にも負けないよ！
・・・たぶんだけど。」
「リック・・・」
「魂が一つになるって言っても、ボクの魂が兄ちゃんのに吸収される
ような物だから、そうしたらもうこうして話をする事はできない・・・
でも、そうでなくてもボクがボクでいられる時間はほとんど残されて
いないから心配しないで・・・ねぇ、アレン兄ちゃん・・・？」
「なんだ・・・？」
「一緒に、ティリアに帰ろうね・・・」
その瞬間、アレンの右腕につけられたリックの識別証が眩いばかりの
輝きを放ち始める。そしてその光は次第に収束され、一つの小さな光
の球となると識別証から離れ、アレンの体の中へと入っていった。
そしてそれと同時にアレンの腕の識別証はまるで千年の時が一瞬の
うちに経ったかのようにその輝きを失い、音もなくアレンの腕から
崩れ落ちる。アレンは識別証の残骸に目をやると、無言で涙を流し
ながらゆっくりと立ち上がった。
「リック・・・」
アレンは自分の胸に手を当て、うつむきながら小さくつぶやいた。自分の
中にリックがいる。もう、さっきのような彼の声は聞こえてこないけれど、
言葉で説明する事はできないけれど、しかしその感覚は確かにあった。
傷は完全にふさがり、体はむしろさっきより調子が良い。アレンはその
手に剣を握り直すと、ティーズの方をにらみ付けた。
「息絶えたかとばかり思っていたが・・・不思議な事もあるものだ・・・」
「不思議？不思議なものか・・・リックのおかげで、起こるべくして起きた
事なんだ・・・いくぞ！ティーズ・ド・フラン！！」
そしてアレンはティーズ目がけて斬りかかる。ティーズもそれに真正面
からぶつかり合うように突進してきた。また、空気の流れが見える。しかし
今回のそれはさっきまでの物とは微妙ながら確実に異なっていた。
「・・・空気の流れが、さっきと違う！これが本物か！！」
アレンの斬撃がティーズを襲う。ティーズはそれを間一髪でかわしたが
その顔にはさっきまでは無い動揺が見えた。
「むうっ！？」
「もう、コケ脅しは通用しないぞティーズ！」
「そうか・・・しかしそれでも貴様と私が同じ舞台に立てたという事で
しかないぞ！」
そう言うとティーズは再びアレンめがけて斬りかかる。たしかに彼の言う
通り、その流れが見えると言ってもその読みをも上回るパワーとスピード
を彼は持っていた。そしてそんなティーズに対してアレンもまた自分の
限界以上の力を振り絞り立ち向かう。そして打ち合う事数十合、ティーズ
の動きが止まった。
「返す返すも惜しい男だ・・・アレン！どうしても我が志、理解できぬか！！」
「できるわけないだろ！虐殺の上に成り立っている理想なんて！！」
「このままではお前は世の狡知に長けた愚物どもにより、あたらその才を
浪費させる事になりかねんのだぞ！それが何故分からん！！」
「オレはお前ほど結果を急いでいないし、人間を蔑んでもいない！！」
アレンの言葉にティーズは顔を更にいからせた。
「青二才が・・・所詮貴様は世の人々の誹りを恐れ！後世の歴史家の
筆を恐れ！！現実逃避をしているに過ぎん！」
「黙れ！！」
ティーズの声に負けじとアレンも怒鳴り返した。
「現実逃避をしてるのはどっちだ・・・自分の気に入らない人間を片っ端
から殺して行って、それで何とかなると思ってるのかよ！！」
「！！」
アレンの言葉に、ティーズは一瞬呆気に取られたような顔をし、闘気を
収め、そして自嘲気味に笑い出した。
「そうか・・・現実逃避をしているのは私だったという事か・・・職務の
多忙、なかなか上がらぬ成果、その中で結果を早急に求めすぎて
現実を無視した手段を取ろうとした、と・・・しかし！」
そこでティーズはネイソードを構え、かつて無い程に闘気を噴出させた。
「今更道を変えるわけにはいかんのだよ！」
そう言うとティーズは凄まじい速度でアレンの方へと向かい、アレンも
またティーズの方へと向かっていく。そして・・・
・・・
・・
・
「ティーズ！」
「・・・見事だ、アレン・ハランツ・・・」
勝ったのはアレンだった。最後の激突の瞬間、間合いからすれば完全に
ティーズの間合いであった。そのままネイソードを振り下ろせば、アレン
を一刀両断にする事は簡単な事であった。しかしそこでティーズの動きは
止まり、逆にアレンの一撃を喰らっていたのである。
「なんで、止めた？あのまま行けば、完全にあんたの勝ちだったのに・・・」
「フ・・・止めようと思って止めたのではないさ・・・」
「え？」
「どうやら、ネイソードに見放されたらしい・・・私が私なりに世界を案じ、
己の正義を貫こうとしていた時はソードも力を貸してくれていたが、過ち
に気がついてもそれに固執したところで見捨てられた・・・」
「・・・・・・」
「しかしアレン、貴様こそ何故私の急所を外した・・・？」
ティーズはアレンにそう問いかけたが、アレンはそれに答えずに懐から包帯と
傷薬を取り出した。
「！？何をするつもりだ！？」
「ティーズ・・・今のネオアリサを作り出したのはあんただ・・・その狂った
部分を直すのにはあんたがやるのが一番手っ取り早い・・・」
「なるほど・・・そういう事か・・・だが、私にそんな事をさせたらまた邪神の
協力を仰ごうとするかもしれんぞ？」
ティーズがそう言うと、アレンは一瞬その手を止めた。しかしすぐにまた彼の
手当を再開しながら口を開いた。
「信じるさ・・・あんたの事を・・・第一、自分の気に入らない連中を片っ端
から殺していっても何にもならない、って言った直後にそう言った相手を
殺しちゃ、説得力のカケラもありゃしないからな。」
「アレン・・・」
アレンの言葉にティーズは初めて優しい微笑みを見せた。
「どうやら、お前は・・・私が思っていた以上の器の持ち主だったようだな・・・
だが・・・私はお前の期待には応えられんのだ・・・」
ティーズがそう言った瞬間、彼の腕の血管が破れ、血が噴水のように噴き出した。
「ティーズ！？」
「・・・私も、ダーク・ファルスの”芽”を植え付けられていたのだよ・・・あの
ガルムらと同様にな・・・年老いた私が若いお前と五分に戦えたのもそれによる
力があってこそ・・・今まではそれが精神まで蝕むのを精神力で抑えこんでいたが
どうやらそれも限界らしい・・・」
「そんな！」
「だからアレン、私を殺してくれ・・・あと一分もしたら、私の体は化け物となり
果ててしまう・・・その前に・・・私が認めたお前の手で・・・」
「そんな・・・そんな事・・・くそ、どうすりゃいいんだ・・・」
アレンは迷った。たしかにこのままではティーズの体は所々変色をはじめて
おり、また非常に苦しそうにも見える。このまま苦しませ、挙げ句に邪神の
細胞に体を支配されるより、今ここで止めを刺した方があらゆる意味でいい。
しかし、なんとかティーズを、しかも早急に助ける方法は無いのだろうか？
アレンはそう考えた。そしてそんなアレンは背後に気配を感じ振り返った。
「あれ？ネイソード？さっきまでティーズのそばにあった筈なのに・・・」
アレンはいつの間にか自分の所まで移動してきたとしか思えないネイソード
に目をやった。そして、その剣からさっきの気配が来ている事も感じた。
そしてアレンに見られるとネイソードは急激にその輝きを増しだした。
「オレに・・・使えと言っているのか？でも、今はそれどころじゃ・・・」
アレンはそう言ってまたティーズの方を向こうとした。しかし、彼の右腕
は無意識のうちに、まるで引き寄せられるかのようにネイソードをその手に
つかんでいた。
「馬鹿な・・・ネイソードが、オレを呼び寄せたっていうのか？しかも、
この感覚・・・今までの剣とは全然違う・・・！！」
ネイソードを手に持ったまま、もはや体の半分が怪物化した総督の方を
向き直したアレンはそこで初めて気付いた。この剣を手にしていると、
ティーズの体の中に一カ所、特に強い邪気を放っている箇所がある事が
分かるのである。そこにネイソードを突き刺せば助けられるかもしれない。
しかし、そこはティーズの心臓がある部分である。もし違えばティーズは
確実に死んでしまう。だが、もう時間は全く残されていないアレンは、
その一か八かに賭けるしかなかった。
「・・・すまない、ティーズ・・・他に方法は無いんだ・・・頼むぞ、ネイ
ソード・・・」
アレンはそう言うとティーズの心臓の真上にネイソードを突き刺すように
して構えた。
------------------------------------------------------------------
「アリス！ガズニさん！！」
「おお！お前達も無事だったか！」
その少し前、回廊の途中でアリスとガズニのグループとギゾとテオ、
それにミューのグループはばったりと出会った。お互い少なくない
手傷を負っている。しかしそんな事は今は構っていられなかった。
「ねえ！アレンは見なかった！？」
焦り気味の口調でアリスがギゾ達に尋ねる。しかしギゾは首を横に
振った。
「そんな・・・大丈夫かしら・・・！？」
「どうしたアリス？」
「今・・・アレンの感覚がした・・・こっちの方から・・・」
アリスはそう言うと少し先の階段の方を指さした。
「あっちって・・・総督室？そこにアレンがいると言うのか？」
「わからない・・・でも、とにかく行きましょう！」
そう言って駆け出すアリスを先頭に五人は一気に階段を駆け上る。
そして総督室の扉を開けた所で彼らが目にしたのは、ティーズの胸
に剣を突き立てるアレンと、微動だにしないティーズだった。
「アレン！」
アリスは目に涙を浮かべながらアレンの元へと駆け寄ろうとする。
しかし、それより先にガズニがアレンの胸ぐらを掴み上げていた。
「アレン！お前閣下を殺したのか！！」
「・・・・・・」
「何故・・・何故殺した・・・他に、方法は無かったのか・・・」
ガズニがアレンの胸ぐらを掴みながら発する声は次第に小さくなって
いった。彼の心中を複雑な思いが駆け巡る。しかし、そんなガズニの
背中に手を置く者があった。
「よせ、ガズニ・・・勘違いをするんじゃない・・・」
「か・・・閣下ぁ！！」
ガズニはアレンを掴んでいた腕を放すと大粒の涙を流した。そして
ティーズは自分の胸からネイソードを引き抜いたが、不思議と血は
一滴も流れず、傷跡も残らなかった。
「すまなかったガズニ・・・お前には迷惑をかけた・・・」
「め、迷惑などとそんな・・・ただ、無念でした・・・私が閣下の
心中を吐露するに足りぬ者であった事が・・・」
「・・・もうよせ、私の事を”閣下”などと呼ぶのは・・・私は、これまで
結果を求め焦り過ぎていた・・・しかし、次代を担う力は私の予想
以上のスピードで成長していた・・・この若い芽が大木となるまで
の間、私は私の犯した過ちを償い、希望を未来に託すための捨て石
になろうと思う・・・」
ティーズは静かにそう言った。これからティーズを待っている仕事は
少なくないし困難も多いだろう。しかし今の彼はそれを静かに受け入
れ、しかし焦燥の表情は既に無くなっていた。
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