「行くのか・・・」
各々の傷の手当を済ませ、立ち上がった六人にティーズは言った。
「うん、ここまで来たら、やるしかないからね。」
「そうか・・・できる事なら私も行きたいが、今の私ではお前達の
足手まといにしかならん。」
アレンの顔を見ながら、残念そうな顔をしてティーズは言った。
「ま、その分これのカタがついたら頑張ってもらうさ。」
「そうだな・・・この老骨にこれからどれほどの事ができるのかは
分からんが、やれるだけはやってみるさ・・・だが、重ねて言って
おくが、私のような老いぼれができるのは地固めにすぎない・・・
真に未来を作り、切り開くのはお前達のような若い力だ・・・その事
だけは肝に銘じ、命を粗末にするんじゃないぞ・・・」
ティーズの言葉にアレンはコクリと頷いた。
「ところで、そのダーク・ファルスってのは何処にいるんだ？」
アレンとティーズの会話が終わるのを待ってギゾが尋ねる。すると
ティーズはゆっくりと立ち上がり、さっきまで自分が座っていた席
の横に行くとその椅子を横に動かす。すると床に扉があり、そこを
開けると地下へと通じる階段があった。
「これは・・・」
「何も言わなくても分かるな。この下から嫌な空気がプンプンと
漂ってきやがる・・・」
「この威圧感・・・私が千年前に戦った時のそれよりも遥かに強大
になっているようね・・・」
「この下に、ダーク・ファルスがいるのか・・・」
アレン達の、誰に言うとでもない言葉にティーズは首を縦に振った。
「私がヤツとの接触をした時、ヤツはまだ不完全形態だった。ゆえに
私を支配しようとする魔力も弱く、そこに私が抵抗し、コントロール
する余地が存在した。だが、今のヤツの力がどれほどの物なのか、
私にも想像がつかん・・・」
「想像がつかないんだったら、行ってみるしかないな。ついでに言う
のなら、行って、倒すしかないってワケか・・・じゃ、行こうか。」
ネイスピアのグリップのテープを巻き直しながらギゾがそう言うと、皆
無言のままに頷いた。
それから一行はその階段を降りた。相当に長い階段である。そしてそれ
を降りきった先はかなり広い、小さな家の一軒や二軒くらいは入りそう
な空間であった。そしてそのだだっ広い部屋にはほとんど何もなく、
ただ一つ小さな銀色の箱が置いてある。そして全ての邪気はその箱から
噴出していた。
「なるほど・・・この中にダークファルスがいるって事か・・・」
「ええ・・・魔力をもった箱を使い、世界の邪気を集める。そしてその
集積した力を破壊の力と化す・・・千年前もそうでした。」
「ふ〜ん、それじゃあ、この箱をガチガチに固めてシャトルで宇宙に
運んで捨てるってワケにはいかないのか？」
「いえ・・・そうするとダークファルスは全宇宙から”負”の感情を
集積する事ができます。そうなるとこのネオアリサどころかフレオ
や更には他の星系にまで悪影響が・・・」
「なるほど・・・じゃ、この場で倒すしかないって事か。」
ギゾの言葉にミューは無言で頷く。そしてギゾはそれをみると何歩か
後ろに下がり、まるでサッカーボールを蹴るかのようにダークファルス
が入っている箱を思い切り蹴り飛ばした。すると箱の蓋が開き、中から
青黒い煙が大量に噴き出す。そしてやがてそれは一つのまとまりとして
収束されていった。
「な、なんなの・・・これ・・・」
「ものすごい怒り・・・憎しみ・・・破壊の衝動、それに悲しみ・・・」
噴き出された青黒い煙から発せられる”負”の感情の凄まじさに六人は
しばし激しい頭痛に襲われる。そしてなんとかそれに慣れた頃にはその
青黒い煙は完全な形を持っていた。
「フッフッフッフ・・・クックックック・・・我・・・完全に蘇ったり！！
我が名はダーク・ファルス！破壊のためにもたらされし者・・・人々の
怒り！悲しみ！苦しみこそが我が喜び！！我ある限り、人間どもに
幸福などは掴ませはせぬ！！」
完全に形を持った青黒い煙・・・ダークファルスは六人を威嚇するかの
ようにそう言った。巨大な体躯を持ち、凶悪この上ない顔からは煙を
吐き出し、鋼鉄さえも造作もなく切り裂けそうな鋭く巨大な爪を持った
二本の腕の肩にはそれぞれ二つずつの顔が刻み込まれている。そして何
よりその者が持つ威圧感は、普通の者ならば卒倒どころか一瞬にして魂
さえも抜きさられるであろうように感じられる。しかしギゾは物怖じを
した表情も見せず、数歩前に歩み出るとダークファルスを睨み付けた。
「まったく・・・何エラそうな事言ってるんだか。」
「うん？貴様は・・・あの忌々しい血を受け継ぐ者か・・・」
「ああ、そうだよ。二千年前と千年前、二回にわたってお前を完膚無き
までに叩きのめしたリークの血筋のな・・・」
相手を思い切り馬鹿にした口調でギゾはダーク・ファルスを挑発した。
その罵声にダークファルスはその醜い顔を更に歪める。そして怒りを
露にした顔で鋭い爪を持ったその右腕でギゾ目がけて襲いかかった。
「かかったなアホが！」
ダークファルスの行動に「してやったり」の表情を浮かべギゾはその
攻撃をかわすようにその腕に飛び乗る。そして間髪入れずに敵の顔面
に自分の槍を突き刺しにかかった。ダークファルスの左腕はまだ攻撃
態勢が整っておらずガラ空きの顔面に一撃を叩き込める事をギゾは
確信していた。しかし、オーバードライブで威力を倍加させたネイ
スピアを根本までダークファルスの脳天に突き立てようとしたその
瞬間、ギゾはダークファルスの笑顔を目にした。
「青いな。」
「な・・・」
ギゾの顔が勝利への確信から絶望に変わった瞬間、ダークファルスの
目から放たれた物体がギゾを貫いた。超圧縮された液体、ルラキルが
使っていたバータと同系列の技だが、威力はそれの比ではない。その
威力でギゾは遥か後方の壁まで吹き飛ばされ、そしてその壁に全身を
強く叩きつけられる。全身がきしむ音がギゾ本人の耳にも聞こえた。
「う・・・うぐ・・・」
全身をかすかに震わせながら、声にならない声をギゾは出した。その
ギゾに止めを刺そうとダークファルスは再び魔力を蓄積させる。だが
それを阻止しようとアレンが一直線にダークファルス目がけて斬りか
かった。
「や・・・やめろぉおおおぉぉおおお！！！！」
「危ない！罠ですアレンさん！！」
顔中に汗を掻き、焦りで錯乱した状態でアレンはネイソードを手に
ダーク・ファルスに斬りかかる。しかし仲間のうちの誰かがそうした
行動を取る事こそが敵の狙いであった。ダークファルスはアレンの
行動に笑みを浮かばせながら、体をひねらせて目から発するバータ
でアレンの心臓を的確に貫いた。
しかし、ダーク・ファルスがそう思ったのは一瞬だった。つぎの瞬間には
その右腕がアレンのオーバードライブを使った一撃によって切り裂かれて
いたのである。その傷はかなり深く、右腕は体から取れかかっている。
そしてダーク・ファルスがその傷を治そうとした瞬間、その腕はアリスの
放った、魔力を込めたネイボウによって完全に破壊されていた。
「な・・・何が起こったんだ？」
アレンとアリスを除くその場にいた全員は状況を全く理解できなかった。
アレンの胸がダーク・ファルスの一撃で貫かれていたのは、アレンの服が
焼け破れている事からも見て取れる。しかし実際に一撃をくわえていた
のはアレンの方だったのである。
「ま、これがコンビネーションってヤツさ。」
得意満面な顔で言ったアレンのその一言で、テオ達はようやく何が起きて
いたのか理解した。アレンの錯乱は全くの演技だったのである。そして
ダーク・ファルスが隙だらけのアレンに対して無警戒に反撃を行う事も
計算の内だったのである。アレンの飛び込みに合わせてアリスが回復の
テクニックをアレンに向けて放つ。だからアレンの傷はダーク・ファルス
からの攻撃を受けた瞬間に塞がり、そのまま全力の一撃を叩き込めたので
ある。もっともこれは少しでもタイミングがズレたらアレンの命が危ない
連携であり、それをいとも簡単にやってのけたのは二人の息があってこそ
だったのであるが。
「テオさん、ギゾの怪我は？」
遠くのテオに心配そうにアレンが尋ねた。
「・・・ちょっと傷が深いけど、敵の攻撃が当たる瞬間に体をひねって
いたから命に別状は無いみたい。」
「そっか・・・良かった・・・」
テオの言葉にアレンはホッと胸を撫で下ろす。しかしそんなアレン達の
様子をダークファルスは一笑に付した。
「こんなかすり傷にもならないダメージを与えられた事が、そんなに
嬉しいのか？」
アレン達を嘲りの目で見つめながらダークファルスは言う。そして次の
瞬間には傷口から新たな手が生え始め、すぐに元通りになった。
「・・・ヤモリかトカゲだな、まるで・・・いや、そんな言い方をしたら
ヤモリやトカゲに失礼か・・・」
少し困った顔をしながら、右手の人差し指でこめかみのあたりをポリポリ
と掻きながらアレンは言った。
「ええ・・・でも、無からの再生はどのような生物でも不可能・・・必ず体内
の何らかのエネルギーの備蓄を使っている筈です。アレンさんの攻撃は
確実に効いていますよ。ただし、体力が減っても攻撃力その他に衰えを
見せないとなると厄介ですが・・・だからこういう相手には・・・」
「何をゴチャゴチャ言っている！」
自分の能力を冷静に分析し、それをアレン達に説明するテオをダークファルス
は次の攻撃目標とした。そして巨大なフォイエをテオ目がけて放つ。しかし
テオはそれを軽くかわすとダークファルスの胴体に蹴りを叩き込んだ。
「こういう相手には！一気呵成に責め立てるのみ！！」
そう言いながらテオはダークファルスの胴体の一点に集中して突きや蹴り
を立て続けに叩き込む。ダークファルスの巨体の中でその一点は相当に
反撃がしづらい部分であると言えた。それにしてもテオのこのような攻撃
というのはアレンもあまり見た事がない。これまでアレンが見てきたテオ
の戦い方はもっぱらカウンター狙いの戦法だった。相手の力を利用し、
最小限の消耗で最大限の効果を得るのが彼女の戦い方だった。アレンは
一瞬テオのその様子に呆気にとられていたが、しかし自分もボケッと
してはいられない事をすぐに悟り、アリスとガズニを後衛にミューと
ともに近接攻撃をしかけた。
「いくわよ・・・全方位型クリスタルスプラッシュ！」
アリスの呼びかけにより作り出された水晶の如き輝きを持つ氷のつぶて
がダークファルスの全身にめり込み、ガズニのネイショットがその腕に
命中する。さらにムーンアトマイザーで傷を完治させたギゾも加えての
多方向からの波状攻撃に対してダークファルスはなかなか反撃の糸口を
掴めず、もはや陥落寸前であるように思われた。
「こ・・・小うるさい人間どもが・・・」
苦悶の表情を浮かべながらダークファルスが言う。しかしそれはただの
負け惜しみにしかアレン達には聞こえなかった。そしてテオの攻撃を
皮切りとしていた、ダークファルスの体の中で最も損傷の激しい部分に
狙いを付け、アレンは呼吸のリズムを変えた。
「いくぞ！ダークファルス！オーバードライブ・・・ブランシングホース！」
一撃一撃でも十分すぎるほどの殺傷力を持つ横斬り、縦斬り、跳ね上げ
斬り、そして突き刺しの連続技、その攻撃はダークファルスの弱まった
部分を完全に切り裂く。そしてダークファルスは轟音とともに崩れ落ちた。
「終わった・・・のか？」
ダークファルスの屍を前にしてつぶやくようにアレンは言った。これで
勝ち、これで終わりならこんなに嬉しい事はない。しかし、あまりに
簡単すぎたのではないかという疑問が残る。これではルラキルやティーズ
の方がよっぽど強かった。しかもこの場に張りつめる独特の張りつめた
空気は、少しも和らいでいないのである。
「まだ、何かいる・・・」
その場の不気味な静寂にやりきれないプレッシャーを感じながら、六人
は敵の襲来を待った。そして、間もなく「それ」はやってきた。どこ
からともなく飛んできた、巨大な、青黒い光を放つ球がダークファルス
の内部へと入り込むと、ダークファルスの傷は一瞬にして塞がり、先程
までとは比べ物にならぬほどの圧迫感を持ち立ち上がったのである。
「覚えたぞ・・・」
唸るような声でダークファルスは言った。
「我に二度も苦杯をなめさせた人間の力・・・それは過小評価できぬ物が
ある事は認めよう・・・故に我は本体に魂の一部のみを残し、それに
ほぼ無抵抗に攻撃を受け続けさせる事によってお前達の持つパワー、
スピード、そして攻撃パターンがどのような物であるのか探る事に
した。そして、お前達は見事に全力をもって我が望みに応えてくれた
・・・礼を言うぞ・・・」
六人に悪魔の微笑みを見せながらダークファルスは言う。そしてその
言葉を口から吐き終えてからものの一秒もしないうちに、その太い腕が
テオの体を弾き飛ばしていた。
「テオさんっ！？」
あまりに一瞬の出来事に、アレン達は瞬時にその状況を理解する事が
できなかった。ただ、さっきまで自分の隣に立っていたテオが今は
壁に叩きつけられ、血を流しながら地面に倒れ伏しているという事実
だけが彼らの目の前に残されている。そしてアレン達に体勢を整える
猶予を全く与えず、ダークファルスは次の攻撃に移った。
「ミュー・・・次はお前だ・・・」
「くっ！・・・なめるなぁっ！」
ダークファルスの攻撃を持ち前のスピードでなんとかかわす。しかし
攻撃をジャンプで上空にかわしたその瞬間、ミューは背後に強い衝撃
を感じて地面に叩きつけられていた。
「な・・・何が・・・」
よろよろと立ち上がりながらミューは自分の後ろに目をやると、そこ
には巨大なコンクリートの塊があった。そこでミューはさっきの一撃
が自分ではなく背後の地面をえぐり取るための物であった事を悟った。
「どうだね？お前達の行動パターンを完全に見切っているという言葉、
あながち嘘ではあるまい。」
まだ足がふらついているミューを前に自信に満ちあふれた声でダーク
ファルスは言った。
「ええ・・・それは認めるわ・・・でも、自信過剰は足下をすくわれるわよ。」
全身に傷を負いながら、しかし不敵な笑みを浮かべてミューは言う。
そしてダークファルスの背中にガズニのネイショットの一撃とアリスの
ネイボウの矢が同時に迫っていた。
しかしその行動も完全にダークファルスの予定の範囲内だったらしい。
ダークファルスはその巨体からは想像できないほどのスピードで平然
とそれをかわした。そしてアリスとガズニの放った攻撃は、そのまま
一直線にミューへと向かって行く。ミューはネイショットの方は辛う
じて回避できたが、アリスの放った矢は彼女の左腕の付け根に深々と
突き刺さった。
「ミューさんっ！！！」
絶叫にも似たアリスの叫びがあたりにこだまする。アリスは我を失った
瞳でミューの元へと駆け寄った。その間は隙だらけだったし、アリスの
その行動もダークファルスの予定内であったのだが、ダークファルスは
自分の圧倒的な優位ゆえの余裕から何も手出しはしなかった。
「ミューさん！・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
涙で顔をくしゃくしゃにしながらアリスは何度も何度もミューに謝った。
無論回復テクニックをかけながらではあるが、矢傷がかなり深い上に
矢自体にも魔力がこめられていたので、またミューがアンドロイドで
あるがゆえに、アリスの全力のサンフォースをもってしても傷の治りは
普通の矢傷より遥かに遅かった。
「アリス・・・戦いにアクシデントは付き物だと何度も教えたでしょう・・・」
「でも・・・でも・・・」
「大丈夫よ、ちょっと、治りは遅いけど古代アンドロイドの頑丈さは
人間とは比べ物にならないんだから。」
『古代アンドロイド』その言葉がミュー本人を指しているという事に
気付くのにアリスは少し時間を要した。ミューが自分の事をそう言う
事はほとんど無い。稀にそう言う時があったとしてもそれは今みたい
にミューが他の人を気遣うために使う時だけである。だからミューの
言葉の意味にアリスが気がついた時、更にアリスの瞳から涙が溢れ
出てきそうになったが、そうするとミューのせっかくの心遣いを無に
しかねないと悟ったアリスは必死に涙をこらえた。ミューはそんな
アリスの顔を見て、ニコと微笑んで見せた。
「そう・・・それでいいのよ、アリス・・・悪いけど、私は少しだけ休ま
させてもらうわ・・・」
「ミューさん・・・」
「ほら！私なんかに構わないで、早くアレン君達を助けに行ってやり
なさい！！あなたにはそれができる力があるんだから。」
「・・・うん！」
アリスは力強くそう返事をすると、アレン達の方へ駆け戻っていった。
そしてそのアレン達の方であるが、やはり旗色はかなり悪い。テオと
ミューを一撃の下に叩きのめした相手である。三人がかりでも苦戦は
免れられない所であった。
「くそ・・・この図体でこの動き・・・反則だぞ反則！」
「同感だな・・・だが、愚痴ってもどうにかなる問題でもなさそう
だな・・・行くぞアレン！ガズニ大佐は援護を頼む！！」
「おう！任せとけ！！」
かけ声とともにギゾとアレンが左右に飛び出す。そしてダークファルス
の攻撃をかわしながら接近し、その巨体の眼前に近づくと左右から一斉
に斬りかかる。そしてダークファルスが彼らの攻撃を上空にかわした
ところで、ガズニがネイショットの引き金を引いた。
「閣下を惑わしこの世界に大いなる災いを招いた罪！その身で詫びろ！」
その一言とともに放ったガズニのネイショットの一撃がダークファルス
に命中する。今度こそその一撃はダークファルスの胴体に命中した。
しかし、それでもダークファルスは表情一つ変えなかった。
「・・・ネイの武器の中でもソードに次ぐと言われるショットを以て
してもその程度のダメージしか与えられないのか？」
『蚊に刺されたほどにも感じない』というような顔でダークファルスは
言った。ガズニの一撃は、たしかにダークファルスの腹部に命中を
したのにも関わらず、そこにはかすり傷程度の傷しかついていない
のである。そしてその事実は、三人に大なり小なりの動揺を与える
のには十分であった。
「なんて、ヤツだ・・・」
「あのスピードと攻撃力だけでも反則じみているのに、更に防御力も
ここまでとは・・・」
「我々は、こんな化け物を相手にしていたのか・・・」
三人は今更ながら突きつけられたその事実に驚愕した。そしてその時
生じた一瞬の気の緩みをダークファルスは見逃さなかった。音速とも
言うべき速度でアレン達三人との間合いを詰めると、全員の胸をその
鋭い爪で切り裂いた。ただし、その傷はどれも致命傷にしなかった。
ただし、それでも相当に深い傷ではあったのだが。ダークファルスは
今の一撃で先に倒したテオとミューも合わせ六人中五人までが身動き
できなくなっているのを確認すると満足そうに微笑み、そして残るアリス
の方にその目を向けた。
「これで残るはライアの小娘一人となったわけだ・・・」
「・・・・・・」
「本来ならば、今この瞬間にお前を倒すのも、実に易しい事なのだ。
だが、何故それをしなかったか分かるか？」
ダークファルスの問いかけにアリスは少し体を震わせながら首を数回
横に振った。
「どうやら人間と言うのは、時として己が傷つく事よりも己の仲間が
傷つく時の方が強い絶望を覚えるようなのでな・・・その時の顔を
見てみたくなったのだよ・・・」
「！！」
「いい表情を見せてくれよ・・・」
そう言った瞬間、ダークファルの体から五つの巨大な暗黒の球が放た
れた。スピードこそ速いとは言えないがどれも直撃したら自分達の体
など跡形も残らなさそうなほどに強大なエネルギーを持っている。
しかし今の自分のいる距離ではどう足掻いても、誰一人として救出が
間に合いそうになかった。
「くそ・・・これまで、か・・・」
地面に仰向けになった自分目がけて上から落下してくる邪気に溢れた
物体を前に、アリスを除く全員がそう思った。そして・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「ぐ・・・ぐぅおおおぉぉぉおおお！！！」
「・・・え？」
次の瞬間、アレン達は自分がさっきまで倒れていた場所から少しだけ
ずれている場所にいる事に気付いた。しかも何やら呻き声が聞こえる。
そしてその声の方向に目をやると、頭部に一本の矢が深々と刺さった
ダークファルスが苦悶の表情を浮かべていた。
「どうやら、頭は石頭じゃないようね。」
そのダークファルスの目の前で、不敵な、相手を見下した笑みを
浮かべながらアリスは言った。
「ば、バカな・・・あの距離からではお前の速度では誰一人として
救出は不可能な筈・・・それを全員避難させ、しかも我に一撃を
加えるだと・・・？貴様・・・一体何をしたと言うのだ・・・」
「さあ？ただ、そのタネあかしができない限り、あなたは私に絶対
に勝てない！！」
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