エスパーの館を離れた一行，その目指す先はデゾリアンの信仰の総本山，ガンビアス
大寺院である。
しかしその途中，ちょっと一休みにというのと、ラコニア製の武器を調達しようと
いうことで立ち寄ったジュットの街で、予期せぬ事件に巻き込まれることになった。
「き、聞いたんだ・・・俺，聞いたんだよおっ・・・」
一人のデゾリアンの若者が，群衆に向かってしきりと何かを力説している。その話に
耳を傾ける人々は，青い顔をしている者，ニヤニヤしている者など様々である。
「何だ何だぁ？一体何の騒ぎなんだぁ？」
群衆をかき分け，話をしているデゾリアンの前に進んで行きながらスレイが言った。
「お、おお！あんたパルマ人かい！？」
「・・・デゾリアンに，見えるか？」
「あ、いや、そ、そんな事はどうでもいいんだ。なあ、聞いてくれるかい？」
「何をだよ？」
「だから、俺の恐怖の体験だよ！」
「面倒臭え。」
「な、なあ、そんなこと言わずにさあ。な、な？」
「うっせえな！何が起きたかと思えば，どうせネズミの喧嘩くらいなモンだろ！
こっちは、忙しいんだ！」
「なあスレイ？」
スレイの話を遮るように，ルディが後ろからスレイの肩をチョンチョンと小突いた。
「なんだ、ルディ？」
「お前はいいかもしれないんだが・・・」
「しれないんだが？」
「チビ共が聞いてきたいって言って聞かないんだ・・・」
呆れ顔で親指で後ろを指しながらルディが言った。
「いいじゃないかよ，チョット話を聞くぐらい！」
そうルイが言えばナーシアも
「それともパパ，そこのおじさんの話を聞くのが怖いの？」
と言いスレイをからかっている。
「チッ・・・しゃあねえなあ・・・」
苦虫を潰したような顔で，頭をボリボリかきながらスレイが言った。
「お、おお？聞いてくれるのかい？」
「ああ。ただ・・・五分ですませろよ。」
そんなスレイの言葉を無視するようにそのデゾリアンは話し始めた。
「俺はな・・・そこのジュットの寺院の書庫、そこの司書見習いをしているんだ。
それであの日も徹夜で本の整理をしていたんだよ・・・」
男がそう語りだすとルイとナーシアはもう半身を乗り出して話に聞き入っている。
「明かりっていっても広い部屋にランプが２、３個しかない，そんな部屋で一人
本の整備をしていたら，地下からうめくような音が聞こえてきて・・・」
「聞こえてきて？」
「分かんねえ。」
「は？」
思いっきり肩すかしを食らったルイとナーシアは思わず気の抜けた声を出した。
「・・・それで・・・・・・おしまい？」
「ああ、俺，それで怖くなって逃げ出してきちまって・・・だけど信じてくれよ！
絶対，ネズミなんかじゃないんだよぉっ！！」
「じゃ、モウル系のバイオモンスターかなんかじゃないの？」
呆れ顔でナーシアが言った。
「まったく・・・どんな話が聞けるかと思ったら・・・とんだ道草ね。行こう？ルイ。」
「う、うん。けど・・・」
「けど、何よ？」
「なんかこのオッサン，嘘ついてないような気がする・・・」
「別に誰も嘘ついてるなんて行ってないでしょ！きっと何かを，聞き間違えたのよ。」
「俺，ちょっと見に行ってくる！」
そう言うとルイは，わき目もふらず，一直線に街の中の寺院に駆け出していった。
「行っちまったよ・・・あのガキ。」
呆れ混じりの声でスレイが言った。
「で、どうするルディ，ファル。放っておいていいか，お前らのガキ。」
「う〜ん，ま、飽きたら戻ってくるだろうが，それじゃ日が暮れるから連れ戻しに
行って来るか・・・」
そう言うとルディはルイを追いかけて寺院の中に入っていった。
「へ〜，ここか。書庫ってのは・・・」
寺院の中にいた僧侶に教えてもらい，ルイは書庫に来ていた。広い部屋の中に，
自分が一生かかっても読み切れないんじゃないかというほどの本が並んでいる。
そして所々には、デゾリアンの信仰の対象である炎が描かれている。
「ここのどっかから音が・・・？」
そう思いルイは一人，書庫の中をうろついていた。自分以外には誰もいないだだっ広い
部屋の中，ルイの足音だけがやたらと響いている。
「ったく・・・もう気はすんだか？」
「ルディ！」
突然後ろから声をかけられ，ルイはかなり驚いた様子である。
「さ、行くぞ。今日中には大寺院へ行かなくちゃ・・・」
「ルディ？」
「（シッ！！）」
「な、何だよ急に・・・」
「（いいから、静かにしろ！聞こえるだろ，変な、音が！）」
そう小声で言われ，ルイは耳を澄ました。確かに，地下から何か聞こえてくる。
「ルディ・・・これって？」
「わからねえ。ただ、何かいるのは間違いなさそうだな。」
そう言うとルディは礼拝堂の方に戻り司祭に地下から何か物音がすることについて
知っている事はないかと聞いてみた。
「書庫の地下ですか・・・」
司祭はオドオドしながら話し始めた。
「実はこの寺院にはカタコンベがありまして・・・」
「カタ・・・何それ？ルディ，知ってる？」
「いや，知らん。」
「あ、地下墓地です。千年以上前，毒ガスで死んだラコニア鉱山の鉱夫達の・・・」
「んじゃ物音ってのは・・・」
「ええ。多分その時の，今も浮かばれない霊達の物音かと・・・」
「へえ〜，面白そうじゃないか。」
「お、面白いなんてとんでも！頼みますから余計な真似だけはしないでください！！」
司祭の怯え方はただ事ではない，しかし一般人が知らなかった事を見ると，多分この
寺院の中でも結構上の人々のみに伝わっている話なのであろう。それをルディ達が
教えてもらったのは，デゾリスでの彼らの活躍が依然一部の人間には覚えられている
という事を物語っていた。
「なるほど・・・そういうワケか・・・」
戻ってきたルイとルディの話を聞き，スレイは一人うなずいていた。
「で、どーする？ついでに人助けでもしておくか？」
そう提案したのはルディである。スレイとしてはこんな所で道草を食っていたくは
ないのだが、他の四人が乗り気なので多数決で押し切られる恰好となった。
嫌がる司祭から無理矢理カタコンベへの降り口を聞き出し，五人は地下にやってきた。
中はヒンヤリとしているが、少なくとも風や雪がないぶん外よりは暖かい。
中は意外に広く，綿埃が積もっている石畳の上には人の名前と思しき物が書いてある。
どうやら床の下に葬られたらしい。そして壁には，全身を葬る場所がなかった人達の
頭蓋骨のみが山のように積まれていた。
「これは・・・」
「確かに，何が出ても不思議じゃなさそうだな・・・」
そう話していると奥からカシャーンカシャーンという，機械的な音が聞こえてきた。
「何か・・・いる！」
皆の顔に緊張が走る，そしてすぐに，音の正体がやってきた。
「掘ル・・・ラキニアヲ掘ル・・・ジャマ、スルナ・・・」
「うわっ！何だ，コイツ？」
「鉱山の作業用ロボット！それに、鉱夫の霊が，取り憑いたらしいな・・・ルディ！」
「ああ！行くぞスレイ！！」
二人の複合技，「グランドクロス」が発せられる。しかし、全く効き目がない。
「くそ・・・なら、レイブレード！！」
ルディの剣が機体を真っ二つに切り裂いた。
「チッ・・・呆気ね・・・何！？」
「また・・・くっつきやがった・・・」
「なんだコイツ・・・不死身かよ！？」
「霊的な面と機械的な面，両方の良いトコ取りってヤツか・・・思ったより厄介だな。」
「ああ・・・」
「けど、今までこんなヤツが出たって話は聞かない。何か，理由があるはずだ！」
「理由！？」
「ああ・・・何か，封印みたいな物があるはずだ！そいつを探せば・・・」
そういうスレイの指示のもと，皆で「封印」を捜しはじめた。とは言っても，形も何も
まるで分からない物を捜すのだから容易ではない。しかも相手は相変わらず皆を
追いかけて来るのである。
「オレ，ラコニア掘ル！ジャマスルヤツ，殺スゥゥゥゥッ！！！」
「こいつは、俺が引き受ける！お前らはさっさと探せ！！」
そう言って迫ってくる敵を引き受けるルディ，しかし彼にしても限界のない敵という
ヤツは厄介この上ない相手だった。
「！！ねえ、これは？」
「何だ，何か見つけたのか？ファル！！」
慌てて他の三人が駆けつると、そこには一枚の石碑が倒れていた。そしてそれには
「鉱山で倒れた物の魂よ安らかに。」と書いてある。
「こいつが倒れたから・・・」
「霊が外に出たのね・・・」
そういうと四人で石碑を再び立て，そしてその碑に向けスレイが「エフェス」の
マジックを放つと，ロボットはガシャンと崩れ落ち，灰のように消え失せていった。
「ふぅっ、何とか，カタがついたな。」
手で額の汗を拭いながらルディが言った。
「けど・・・可哀想な霊ね。」
「ああ、そうだな、ファル。」
「ねえ、少しここを掃除していかない？だって，罪もないのに，皆から忘れられて，
あまりに・・・」
「ああ、そうするか。」
それからしばらく，五人は地下墓地の大掃除をすることになった。そして一通り
片づき，ようやく再びガンビアス大寺院に足を向けようとしたその時・・・
「ダメ・・・」
「！？何が駄目なんだ、ナーシア？」
「ねえ、戻ろう！！エスパーの館に！！！」
「何だ？怖じ気づいたんだったら，一人で帰れって言ったハズだぞ。」
「違う，そんなのじゃない！！すごく・・・嫌な予感がする。戻らないと！！」
そう言うナーシアの顔は青ざめ，とても尋常なものに見えなかった。
「ねえ、早く戻らないと！何か，ものすごく嫌な感じがする！！」
「おいスレイ・・・どうする？」
「ひとまず、戻る。それで何もなかったら速攻で引き返せばいい。どうせ、ここで
かなりの時間をロスしたんだから、あと数分違ったところで，大差ない。」
「そうだな・・・それじゃあ戻るぞ。エスパーの館に！！」