ルディやルイ達がジュットの地下墓地での事件に巻き込まれている時，エスパーの
館に一人の男がやってきた。
「ルディ達が，ここに来ただろう？」
館の門番に向かって，その男は静かに言った。
「何だ、お前は！！」
「黙って質問に答えればいい。ルディは中か？それとも、もうどこかへ行ったか？」
「質問に答える前に，お前の名を言え！！」
「我が名は・・・ローク・・・ジオの、息子だ・・・」
「ジオの！？あの、アルゴルを滅ぼそうとした男のか！！」
「そうだ。」
「去れっ！！貴様もこの星に災いをもたらす魂胆だろう！！」
「フン・・・」
その言葉を聞くとロークは，唇に薄笑いを浮かべ，言った。
「ジオの息子というだけで，俺を排除しようとするか・・・エスパー等と言っても，
俗人と何ら変わりはない・・・いや、その事に気づかぬ分だけより悪い・・・」
「貴様・・・もう一度言ってみろ！！」
「もう一度というのなら，こちらも最後通告だ。ルディは，どこだ？」
「答える義務はない！！」
「そうか。ならば、中の者に聞くとしよう。」
「なっ・・・グッ・・・ハァッ！！」
ロークの膝蹴りが深々とにぞおちにめりこむと，門番は崩れるように倒れた。
当然，皆が騒ぎに気付き，数十人のエスパーが即座に駆けつけ，ロークを取り囲んだ。
「フン・・・大げさな・・・」
全く臆する様子もなく，ロークは言った。
「まあいい。ルディはどこだ？」
「貴様，状況を見て物を言うんだな。」
「状況？群れねば何も出来ぬクズが雁首そろえているだけじゃないのか？」
「きっ，貴様！ええい、行くぞ！！」
誰が言ったのかわからない合図とともに，エスパー達は一斉にロークに襲いかかった。
「群れねば，何も出来ないのか！！」
そう一声，雄叫びのような声をあげるとロークはエスパー達めがけて斬りかかって
いった。そのあまりの速さ，剣の鋭さの前に，皆ただ血を流し，倒れて行くばかりである。
「フン・・・他愛もない・・・？」
エスパー達の血の海の中で一人息も切らさずに立っているローク，その前にシェスが
立っていた。騒ぎに気付くのが少し遅れたようである。また、ロークの剣がエスパーを
斬り伏せるのが，それだけ速かったとも言えた。
「みんな・・・」
血の海で苦しむ仲間達を前に，シェスの顔は少し青ざめている。
「安心しろ。直接恨みのない連中，急所は外してある。」
「あ、あなた、一体何者なの？どうして、こんな事を！？」
「人に物を尋ねるときには，自分から名乗るのが礼儀だ。」
「あ・・・そうね。私はシェス・・・シェス・ウォルシュよ。さ、今度はそっちが，
私の質問に答える番でしょ？」
「シェスか・・・闇を滅ぼした者の一員として，その名は聞いたことがある・・・
道理で少しはマシに見えるはずだ・・・だが、俺が知っているのはシェス・ティアニー
という名前だったはずだが・・・？」
「そっちは旧姓ってヤツよ。」
「なるほどな・・・俺の名前はローク。ジオの、息子だ。」
「で、そのジオの息子がこの館に何の用なの？」
「ルディの居場所を，教えてもらいに来た。」
「へえ〜，何のために？」
「父の一方の仇だからだ。」
「一方？それじゃもう一方は？」
「父を惑わせた者・・・闇だ！！」
「（この男・・・敵の敵なのに、味方からも縁遠い・・・）」
「ケガをしたくなかったら，教えろ。」
「私の大切な仲間をこれだけ傷つけて，しかも仲間の命を狙うような人間に，仲間の
居場所を，あなたなら教えられる？」
「いや・・・」
「私は，あなたを許さない！絶対に！！」
「誰も貴様などに許しを請うつもりなどない・・・」
「そう・・・なら、あなたを倒すしかなさそうね。けど、これ以上仲間達に被害を
出したくないの。場所を，変えさせてくれる？」
「いいだろう・・・ジオの息子と言うだけで俺を悪としなかったことへの礼にな。」
「ふ〜ん。結構，義理堅いのね。」
そう言うとシェスはロークを館の中の道場へと案内した。もちろん，今は誰もいない。
「（こいつ・・・ハンパじゃなく強い！！）」
静かな口調の中に潜む，凄まじい闘気をシェスは感じ取っていた。今の自分には、到底
かなう相手ではない。けれど、多くの仲間を傷つけたロークを，シェスは許せなかった。
そして、仲間を売るような真似も，当然出来なかったのである。
「行くわよ・・・」
「いつでも・・・」
「（全開で、行く！！）ラグラブト！！」
重力の渦がロークを包み、ロークの足下が目に見えて陥没していった。
「２０Ｇ・・・５０Ｇ・・・１００Ｇ！！」
額に汗をにじませながらロークにかける重力を強めていくシェス。しかしロークの方は
重力の渦の中で，至って平然とした顔をしている。
「ハッ！！」
と気合いを入れるだけでシェスのテクニックを打ち破ると，今度は一瞬で間合いを詰め
シェスに斬りかかっていた。
「クッ！！」
紙一重でロークの攻撃をかわすシェス，しかし凄まじいスピードで立て続けに攻撃を
しながらも，一切の疲れを見せず、シェスにテクニックやマジックを使う隙さえ与えない。
「こいつ・・・人間じゃない！」
ロークの猛攻の前に為す術もなく，シェスは徐々に体力を削り取られていった。
勝つ事はもちろん，相討ちさえシェスには望めそうになかった。
「わかったか？」
急に剣を納めてロークが言った。
「え・・・？」
「お前には絶対に勝ち目がないという事が，だ。いいか，これが最後通告だ。元仲間の
お前なら，ルディ達がどこへ行ったか，知っているだろう。さあ、言え！！」
「あんたも・・・物覚えが悪いわね・・・言えないって言ってるでしょ！！」
「そうか・・・ならば望み通りに・・・なっ・・・か、体が、動かん！？」
「お主・・・ロークとか言ったな・・・理由は何であれ，館を破壊せし貴様の行い，
許すわけには行かぬぞ！！」
「・・・貴様は・・・」
「・・・長老様・・・・・・」
「今じゃシェス！ワシの呪法でコイツの動きを封じている間に奴を倒せ！！」
「ハイッ！！・・・悪く、思わないでねローク・・・」
身動きの出来ないロークに一言そう言うと，シェスは呪文を唱えはじめた。
「我が周囲に存する地水火風の全ての力よ・・・結集せよ！大いなる破壊の力となりて
我が前にその威を示せ・・・レジェオン！！」
凄まじい轟音とともに爆発が起こる，道場はまるで地震が起こったかのように揺れ，
レジェオンの爆発がやんだあとも，部屋には濛々と煙が立ちこめている。
そして、ルディ達五人がエスパーの館に到着したのは，ちょうどその時であった。
「ウッこれは・・・」
「なんて・・・ひどい・・・」
「ナーシアの予感，当たっちまったみてぇだな・・・」
苦しそうにうめき声を上げる負傷者の群を前に，五人は一瞬絶句した。そしてすぐ、
ケガ人の中にシェスがいないことに気が付いた。
「ママが、ママがいない！！」
「一体どこ・・・ねえ！今向こうから爆発音が！！」
「ホントか？ファル！！」
「ええ！！」
「あの方向は・・・道場か！行くぞ！！」
そう言うスレイを先頭に，五人は脇目もふらず道場へと向かっていった。
「来たか・・・ルディ・・・」
「お前は・・・ローク！！どうやってデゾリスに！？」
「フン・・・聞いたところで，どうにもなるまい。」
そうルディに向けて言い放つロークの足下に，ボロ雑巾のようになったシェスと長老が
倒れ伏していた。
「みん・・・な、逃げ・・・こいつ、レジェオンさえ・・・きかな・・・」
「ママ！！」
「五代様・・・お役に立てず・・・申し訳・・・」
「長老・・・」
「貴様・・・どうしてこんな事を・・・」
「コイツらがお前の居場所を素直に教えぬからだ。しかし、図らずもそちらから
出向いてくるとは・・・ありがたいことだ。」
「なっ・・・貴様！貴様だけは許さな・・・」
そう言いかけるルディをスレイが遮り、ロークの正面に出た。その表情はいつもと
変わらないが，内に秘められている闘気は，いつもを更に上まっている。
「ローク・・・俺の女と部下に手を出したんだ・・・覚悟は，出来てるんだろうな！！」
「覚悟？フン・・・何の覚悟だ？」
「今、わからせてやるぜ・・・お前の全身にな！！！」