「体で分からせる，か・・・くだらないな。」
冷徹に、見下すような口調でロークは言った。
「何だと？」
「言葉より，腕で示してみたらどうだ？その、落とし前とやらを。」
「言われなくとも見せてやる！喰らえっ！レジェオン！！」
シェスの放った物とは段違いの爆発が巻き起こる。その威力，生身の人間なら燃えカス
さえも残らないように思われた。
「成る程・・・確かに，さっきのよりはだいぶマシなようだ・・・しかし！」
「馬鹿な・・・こいつ、不死身か！？」
スレイ必殺の一撃の直撃にも微動だにしないローク。そして驚愕するスレイめがけ，
一気に間合いを詰めると，彼の凶剣は、スレイの脇腹を刺し貫いた。
「グ・・・ハッ」
口から血を吐き倒れるスレイ。そんなスレイに向け，ロークはまた一言言い放った。
「どちらもレベル外という事に関しては同じだったようだな。」
「スレイ！！」
「弱い・・・弱すぎる・・・こんな者達に父は殺され・・・！！」
「ヘッ・・・言ってくれるじゃねえか・・・けどこっちも、伊達に五代目ルツを
名乗ってるワケじゃねえんだよ！！喰らい・・・やがれ！！！」
そう言うスレイの掌から巨大な炎が生じ，そしてそれは一羽の巨大な鳳凰の姿となり，
ロークめがけて襲いかかっていった。
「フォイエ最終形態・・・炎火鳳撃弾！！」
「ヌゥッ！！」
自分めがけて襲いかかる巨大な火の鳥に、一瞬驚きを見せるローク，しかしスレイの
渾身の一撃も，紙一重でかわされ，ロークの服と髪を僅かに焦がしたにすぎなかった。
「今のは，なかなかだったぞ・・・しかし、当たらねば意味がない！」
そして次の瞬間，スレイはロークに五体を切り刻まれ，倒れた。そしてそれを見て
半べそかきながら飛び出していったナーシアも，ロークのソバットを腹にうけ吹き飛ば
され，そのまま立ち上がることが出来なかった。どうやら、肋骨をやられたらしい。
「よくも・・・よくもみんなを！」
今度はファルが斬りかかっていった。しかしロークのスピード，そして剣の鋭さは，
ファルに接近を許さない。
「なら・・・これだ！」
そう言うや途端にファルが数体に増え，ロークに一斉に斬りかかっていった。
「イリュージョン・・・ではないな。ディスラプト（分裂）か！！」
複数の敵に一斉に斬りかかる技、ディスラプト。いわば超能力である。
「なるほど・・・面白い大道芸だな。」
ファルに全身を斬りつけられても，ロークは至って平然としている。
「さあ、来い！もっともその時が，お前の地に伏すときだがな。」
「なんですって・・・なら、いくわ・・・」
そう言って斬りかかる分身達の中から，ロークは的確に本体を見つけだし，肘撃ちを
ファルのみぞおちにめり込ませた。
「何体分身を生もうとも，本体の持つ殺気まで消すことは出来ぬ・・・」
「ファル！！貴っ様ぁ〜！！！！」
「ようやく，真打ち登場。というワケか・・・ルディ・アシュレ・・・」
「やかましい！」
そう言うやルディはロークに斬りかっていった。しかし、そのスピード，そのパワー，
全てがナルバスで戦ったときとは明らかにレベルが違っていた。
「（馬鹿な・・・あれは昨日一昨日の話だぞ！なんで、こんな急に？いや、第一どう
やって、コイツデゾリスまで来たんだ？シャトルなんて，動かせるないハズだ！）」
「戦いの最中に考え事か？ルディ。」
「しまっ・・・」
ロークの剣が深々とルディの体を貫く，そして一気に剣を引き抜くと，おびただしい
血がルディの体から流れ落ちていった。
「フン・・・他愛もない。」
そう言うとロークはルディの首をつかみ，体を持ち上げると思い切り投げ飛ばした。
ルディは激しく壁に叩きつけられ，そのまま起きあがってこれなかった。
「ん・・・？まだ一人いたのか。まあいい，失せろ。」
「冗談じゃねえっ！」
全力でロークに斬りかかるルイ，しかしロークにはカスリもしない。
「無駄だと言っているのに・・・所詮はガキ・・・？」
そう言いかけたロークの頬に一筋の血が流れていった。
「小僧おおおおぉぉぉっ！！」
激怒を顔に表しルイに殴りかかるローク，彼の前にルイは殆どサンドバッグだと言えた。
体中に突き，蹴りの嵐をうけ，ボロ雑巾のようになったルイは，ロークの攻撃がやむと
同時に，地面に倒れていった。
「かすったというのか・・・こんなガキの剣が？いや、進歩しているのか？こんな，
短い戦いの間に！？」
ルイを倒した後も興奮が醒めず，息づかいを激しくするローク。彼には頬の小さな傷が
この上ない屈辱に感じられていた。
「ま・・・まだ・・・勝負はついちゃいねえぞ・・・ローク・・・」
「フン！」
地面に倒れ，立ち上がれなくても，両腕でロークの足をつかみ，なおも食い下がろうと
するルイをロークはもう一回蹴り飛ばすと，傍らでまだ気絶しているファルを担ぎ上げ，
いつもの冷たく，見下すような口調でルイに言った。
「取りあえず・・・全員急所は外しておいた。前回の借りがあるんでな・・・このまま
くたばったとしたら、所詮それまでの連中だったという事だ・・・俺はアルチプラノの
洞窟にいる。ルディが目が覚めたらそう伝えておけ・・・そしてその時は，遠慮なく
殺させてもらうとな！！」
「ま、待て・・・母さんを・・・」
「安心しろ。殺しはせんさ・・・」
そう言い残すとロークはリューカーを使い，一瞬のうちに姿を消していた。
「く・・・くっそおぉぉぉっ！！」
ルイは一人，大粒の涙を流し床に拳を激しく打ちつけていた。
エスパーの館に，死人は出なかった。重傷でない者も一人もいないと言っていいが，
それでもなお死人が出なかったのは，ロークが言ったとおり急所を外していたのと，
何よりあの後すぐにルイが体を引きずってミースの街に助けを呼びに行った事が
大きな理由だった。
その頃，アルチプラノの洞窟では・・・
「ん・・・」
冷たく，薄暗い見覚えのない風景の中で，ファルは目を覚ました。
「気が付いたか・・・」
「ローク！！」
慌てて身構えようとするファル。しかし後ろで何かに引っかかり，身構えることも
立ち上がることもできない。
「ラコニア製の手枷だ。鍵なしでは絶対に外せん。」
そう言われ，ファルはようやく自分が拘束されているという事に気が付いた。
「安心しろ。お前はルディを呼ぶためのエサにすぎん。ヤツを殺したら，すぐに
釈放してやる。」
「え？」
ファルには状況がまだ理解できなかった。
「そうか・・・ルディを血祭りに上げたのは，お前を倒したあとだったからな。」
「！！」
「なに、殺しまではしていない。一応，前回の借りがあるんでな・・・ルディを殺す
のは、次に奴に会ったときだ・・・」
「案外、義理堅いのね・・・一つ，聞いてもいいかしら？」
「何だ・・・？」
「私だって，ジオを、あなたのお父さんを殺したメンバーの一人なのよ？なのに、
どうして殺さないの？」
「リーダー格を一人殺せばすむ。それ以上，無駄な時間を仇討ちなんかに費やす
必要はないと思っただけだ。」
「本当は、人殺しをしたくないんじゃないの？」
ファルが優しく、少し哀れみを含んでそう言うと、ロークは一瞬言葉を失った。
「な・・・なんだと・・・」
「あなたは、人を殺したくないっていう心を持っている・・・それに、それだけの
腕があれば・・・この星がどうなりそうなのか，分かってるんでしょ？死んだ人の
供養とかじゃなくて，自分が剣を振るうことで喜んでくれる人のために剣を振るっ
たらどうなの？」
「だ・・・黙れ黙れ！！人質の分際で，知った風な口をきくな！！」
そう言うとロークは靴音荒く部屋を出て洞窟内の自分の部屋に帰っていった。
「どうしたローク・・・何故、急所を外すような真似をした・・・」
ロークの頭の中に，直接声が響いてきた。
「また貴様か・・・失せろ。戦いの最中も散々話しかけてきやがって・・・」
「まあそう言うな。モタビアでルディに破れ，絶望感に打ちひしがれていた貴様に
ここまでの力を与え，さらにデゾリスにまで送ってやったのは誰だと思う？」
「それは、貴様だが・・・一体何者だ？お前は？」
「クックックッ・・・協力者じゃよ。お前のな・・・」
再びエスパーの館・・・
「なに考えてるんだよルディ！！」
ルイの怒鳴り声が館に響きわたった。
「ケガも治ったんだろ！だったらすぐにでも行かないと！母さんを助けに！！」
興奮し語気を荒げるルイに対し，ルディは静かに言った。
「勝ち目・・・あると思うか？」
「怖じ気づいたのかよルディ！」
「な〜に、あの時ロークは，俺達を殺そうと思えば簡単に出来たんだ。それでも，
殺さなかった。今更ファルを殺すような真似はしないさ。第一，そんな事をして
煽っても損するだけだからな。」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ！！」
「待つしかないだろ。時がくるのを・・・」
「そんな悠長な事言ってられるかよ！第一、その『時』って何だよ！いつ頃来るん
だよそれは！！」
「それが特定できれば、苦労はない・・・」
「ばら尚更だ！俺は、一人でも行くぞ！！」
「一人で行くって・・・きちんとした場所は知ってるのか？アルチプラノも結構広いぞ。」
「う・・・だ、誰かに聞けば分かるだろ！！とにかく行くぞ！」
そう言ってルディの横を通り過ぎて行こうとするルイの首筋に，ルディがトンと
手刀を当てると，ルイはその場にバタンと倒れ込んだ。そしてルディはルイが完全に
気を失ったのを見届けるとルディはルイを抱えて部屋を出ていった。
「そういえば、ナーシアはどうした？」
スレイがシェスに尋ねた。
「だいぶ，ショックだったみたいよ。一撃でやられたのが・・・」
「そうか・・・」
「さっき部屋で大泣きしてたわ。悔しい、悔しいって。」
「無理もない、か・・・あれでも自分の力にそれなりの自信は持ってたから、ショックは
デカいんだろうな。」
そう二人が話している所へ，ナーシアが入ってきた。泣きはらした目はまだ赤いが
目つきをいつもより精悍さを増している。
「パパ、ママ！稽古つけて！！」
「ナーシア・・・」
「もうこれ以上、足手まといにはなりたくないからね！！」
「よし・・・けど時間はあまりない。やるなら徹底的にしごくぞ。」
「元から，そのつもりよ！」
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疲れが出たのであろうか、ロークは椅子に腰掛けたまま眠りだした。そして数日前の
出来事を夢に見ていた。
「敵に・・・情けをかけられた・・・クソッ・・・クッソォォォォッ！！」
「お主・・・力が欲しいか？」
「なんだ・・・？声が直接頭の中に！？」
「力が欲しいかと聞いておる。お主が倒そうとしている男など，余裕で倒せるほどの，
そんな、力が・・・」
「欲しい・・・欲しいさ！！ルディも，闇も，全てを葬り去る力が！！」
「なら・・・くれてやろうぞ。お主の欲する力を・・・」
「ウッ！！」
ロークの体中に凄まじい衝撃が駆け抜ける。しかしそれが一瞬のうちに過ぎ去ると，
溢れんばかりの力がみなぎるのを感じていた。
「この力・・・これが、俺か！？」
「さよう・・・さあ、行くぞ，デゾリスへ・・・」
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「ローク・・・ロークよ・・・」
「なんだ・・・お前か・・・」
「夢を、見ていたようじゃの。ワシが、お主と出会ったときの・・・」
ロークの頭の中にまた例の声が響いてくる。ルディとの戦いに敗れ，あろうことか敵に
情けまでかけられた屈辱感，それらに打ちひしがれている時の出会いのことを・・・
「ああ・・・そして確かにお前のおかげで力を得た・・・しかし・・・」
ロークはまた考え込んだ。
「俺が・・・人を殺める事を嫌っているだと？今は亡き人より、今を生きる者の為に
剣を取れだと？馬鹿な！俺を蔑んできた者の為に剣を振るうなど考えられぬ！！
しかし・・・俺がジオの息子だというだけで蔑む連中より，数は少ないながらも、
俺を人として見る者もいた・・・しかも俺が仇としてきた連中に・・・」
一人物思いにふけるローク，その顔にはハッキリと迷いが浮かんでいた。
「あの女の言った事が，そんなに気になるか？ロークよ・・・」
「今は貴様に用はない，失せろ。」
「まあそう言うな。気になるのであろう，お主の捕らえたあの女が・・・」
「・・・・・・」
「それがお主の甘さよ。寂しき生を送ってきたがゆえに、わずかな情にもほだされる。
その甘さがあるうちは、お主は永久に半端者じゃのお・・・」
そう言うと声はまた、ロークの制止を無視して消え去っていった。
「う・・・ここは・・・？」
どの位気を失っていたのであろう，ルイが目を覚ましたとき，夕方だったはずの空は
もうとっぷりと暮れていた。
ルディの手刀をうけ，気を失ったあとに，誰かが自分をベッドまで運んでくれたらしい。
「そのまま・・・眠りこけちまったのか、俺・・・」
ベッドから跳ね起きるとルイはさっきまでのムシャクシャした気持ちを振り払うため、
剣でもふってこようかと思い、外に出た。そこでルイはルディを見つけた。
「（ルディ・・・？）」
遠目からではあるが，一人剣の練習をするルディの目は血走り，体は疲れ切っている
ように見えた。
「目、さめたのか，ルイ？」
「なんだ・・・スレイか・・・ビックリさせやがって・・・」
いきなりスレイに後ろから声をかけられ，ルイは一瞬だがかなり驚いたようである。
「ちょっと、言いたいことがある・・・ついて来い。」
そう言うスレイに連れられ，ルイは少し歩き、二人以外には誰もいない雪原に、腰を
かけた。
「なんだよ・・・言いたい事って・・・」
いぶかしげにルイが尋ねた。
「今、ルディを見ただろう？」
「え？あ、ああ・・・」
「分かってやれ・・・アイツも、苦しんでるんだ。」
「苦しんでる！？ルディが！？あの、人でなしの臆病者がか！？」
「ルイ・・・考えてもみろ。アイツは昔，エルシディオンに認められ、闇を倒した。
そんなアイツが軽はずみな行動に出ることは、エスパーの館全体に動揺を与える。
それに、もしルディが殺されでもしたら，今アルゴルを包む不穏な空気を打ち払える
者はいなくなる・・・それを考えての，苦しんだ末の決断だった・・・」
「で、でもその割にはルディの奴平然としてたぜ？」
「本当は，すぐにでも行きたかったんだろうがな・・・あのイノシシみたいな奴が
我慢するのは，並大抵じゃなかったと思うぜ。だからアイツは，今自分が出来る事，
鍛錬に気持ちをぶつけるしかないんだ・・・」
「そんな・・・そんな事言われても分かんないよ！俺は、その闇との戦いの時には，
生まれてもいなかったんだから！！」
「そうか・・・それもそうだな。なら、一つ聞きたいことがある。」
「何だよ？」
「お前がルディと会ってから，まあ、さっきの事は別として，だ。ルディを本当に、
心から憎いと思ったことはあるか？」
「え・・・？」
「わかってやれ、アイツの心情を。」
「・・・・・・」
「話ってのはそれだけだ。じゃあな・・・馬鹿娘が稽古をつけろってせがむんでな。」
「・・・・・・」
ルイはしばらく、ルディと会ったときから今までのことを思い返していた。その中で
何か，ルディを憎むに足る理由はないかと必死に探したが，何も，出てこなかった。
「これで、ルディが本当に記憶喪失だったら・・・ルディを憎む理由が俺にはない！？」
しかしそう考える事は、なんか悔しく、プライドが許さない気もした。
「ルイ・・・？」
数分後，ルイはルディの前に来ていた。
「ルディ・・・また、勝負してくれないか？」
「ああ。」
もう何十回目になるであろうか、二人が剣を交えるのは。ルイもルディももう正確な
回数は覚えていない。ただ、ルイがまだ一本も取っていないというのは，二人とも
覚えていた。
「うわっ！！」
今日もまた，ルディの前に散々弾き飛ばされるルイ。しかし今回は，いつもに勝る
しぶとさでルディに向かっていった。
「（へえ・・・今日はいつもよりやけに気合いが入ってるみたいだな・・・）」
「（俺が，ルディを憎んでいるか憎んでいないかなんて、この際関係ない！ただ、
一つだけ言えることがある・・・俺は、俺は戦士としてルディに勝ちたい！！）」
ルイの渾身の一撃がルディめがけて振り下ろされる。そのスピードに，かわすことは
出来ないと判断したルディは，剣でルイの一撃を受け止めた。
「クッ・・・」
衝撃がルディの全身を駆け抜け，ルディはガクッと片膝をついた。
「や・・・やった・・・」
片膝をついたルディを前に，茫然とするルイ，しかし次の瞬間，ルイの体は弾き飛ば
されていた。
「痛っ・・・痛ってぇ〜」
「片膝つかせたくらいで，闘気を納めるってのはまだまだだな、ルイ。」
笑いながらルディが言った。
「けど、相当に強くなったなあ，お前・・・」
と言いかけるルディに，ルイは再び斬りかかっていた。
「そっちこそ、勝ったと思うのはまだ早いんじゃないの？」
「言ったな・・・こいつ！！」
「行くぞルディ！こっちはまだまだ序の口だ！！」
こうして二人は，その後も延々と打ち合い続けていた。
その頃，アルチプラノの洞窟では，ロークは依然として思い悩んでいた。
「復讐を遂げ・・・己の人生を歩む・・・そう心に決めていたはずだ・・・
しかし、どうやって？」
ロークの心の中に，またファルの言った言葉が響いてくる。自分が戦う事で，誰かが
喜んでくれるというのが本当ならと・・・
「また、迷っておるのか。ロークよ・・・」
「ああ・・・」
「何度も言っておろうが。それともお前は、力が欲しくはないのか？」
「そんな事はない！断じてない！！俺は力が欲しい！この世の誰よりも、だ！！」
「ならば迷うことはあるまい？お前は我を受け入れて力を得た、それは今回もだ。」
「・・・・・・」
「ローク・・・？」
いつもとは明らかに違うロークの表情に、ファルは少し異様な感じを覚えた。
「・・・ファル！！」
そう言うとロークは血走った目つきで、ファルの首を絞め付けた。
「ローク・・・苦し・・・やめ・・・」
抵抗のしようがなく、声もロクに出せないファルの必死の呼びかけも、ロークはまるで耳を
貸さず、そしてファルの意識が深い闇へと落ちそうになった瞬間、ロークはその手を離した。
ファルは苦しそうに何度か咳き込んだ。
「・・・すまない・・・気が動転していたようだ・・・もう誓ってこんな真似はしない。」
そう言い残すとロークはまた自分の部屋に戻っていった。
「ローク・・・どうした？何故、我が忠告に従わなかった？何故、殺さなかった？」
「ええい、黙れ！！」
ロークは自分の中にいる相手に頭を抱えながら怒鳴りつけた。
「さっきの俺は、俺じゃなかった！いや、さっきだけじゃない、お前と会ってから，
時々俺が俺じゃない気がするのは何故だ！そもそも貴様は何者なんだ！！いや、もう
答えもいらん、とっとと失せろ！！」
「そうはいかん・・・ようやく，お前という上等な宿主に根を張ることが出来たのだから・・・
そろそろ我が名を教えてやろうか。我が名はダーク・ファルス。人の心に巣喰う悪魔よ！！」
「・・・貴様が、ダーク・ファルスだと！？父を惑わせた，いわば仇の張本人！！」
「貴様の体，これからは有効に使わせてもらうぞ・・・」
「馬鹿な・・・それじゃ俺は・・・俺の体、貴様などには使わせはせん！！」
そう言うとロークは自分の体に剣を突き刺そうとした。しかし、急激に力が抜け，
力なく剣を落としてしまった。
「クックックッ・・・ワシの大切な体，傷つけはさせんさ・・・」
「ちくしょう・・・不覚・・・ならばせめて・・・」
「ローク！！」
引きずるような足取りで，再度ロークはファルの前にやってきた。そして，手に持って
いた鍵で、ファルの手枷の鍵をを外した。
「・・・・・・？」
何がなんだか分からないファルに，ロークは話し始めた。
「頼む、逃げてくれ！俺の、絶対行けない所に！！」
「え？」
自分で人を拘束しておいた挙げ句，急に「逃げてくれ」もないもんだ。ファルがそう
思ったのも無理はない。そんな釈然としない様子のファルに、ロークは語り続けた。
「俺は・・・ダーク・ファルスに魅入られた。もう、自分が自分でいられなくなって
きている・・・」
「そんな・・・どうして・・・？ダーク・ファルスを最も憎んでいたはずのあなたが？」
「ルディに破れた悔しさにつけ込まれた・・・あと少ししたら，完全にダークファルスに
この体を支配されそうだ・・・ただ、最後に一つだけ言わせてくれ・・・ファル，お前が
父の仇だろうが，ルディの妻だろうが、お前の投げかけた言葉は嬉しかった・・・叶わぬ
想いだろうが・・・愛してると・・・」
「ローク・・・」
「さあ、逃げてくれ！！俺が今言った言葉に偽りはないが，次に会った時にはファル、
俺はお前を喜んで八つ裂きにしてしまう！！クローは・・・隣の部屋にある！！
それを持って逃げてくれ！！」
「う・・・うん・・・」
そう言い残してファルが洞窟をあとにしてから間もなく，ダーク・ファルスはロークの体を
完全に支配していた。
「この小童が・・・手こずらせおってからに・・・まあ、いい。この体を使い，この星を，
いや、アルゴル全てを，闇に染め，破壊し尽くしてくれようぞ！！」