Phantasy star
〜Algol Final〜


第十二章 宿敵

四人はエスパーの館に帰ってきた。当然、重傷のロークも一緒である。ただ彼は
まだ意識が戻っていないので,ルディの背におぶられている。

「お帰りなさいま・・・そ、その背中にしょっているのは・・・」
「ロークだぜ、見ての通り。」
ルディは平然と答えた。
「おお!この憎き男を,ついに討ち取られましたか!!」
「いや。」
「いや、とは・・・どういう意味ですか?」
「討ち取るってのは、殺した相手に使うモンだろ?こいつはまだ生きてるから,
 その言葉は間違ってるって事だよ。」
「げっ・・・な、何故に!?」
「根っからの悪いヤツじゃない。手当、してやってくれないか?」
「じょ、冗談じゃない!!」
門番の男は強く反論した。
「この男はエスパーの館を半壊滅状態にした男ですぞ!しかもジオの息子!!そんな
 危険人物を館に入れ,まして手当など・・・正気の沙汰とは思われません!!」
強い口調でそう言い張る門番の胸ぐらを,ルディはグイと掴みあげた。
「お前・・・コイツの事どこまで知ってるんだ?」
「ルディ!!」
今にも殴りかからんばかりのルディを止めようと、スレイが口を挟んだ。
「仕方ないさ・・・それに、このままコイツを殴り倒して入ったって,ロークのヤツ,
 いつ殺されるか分からないぜ?」
「そっか・・・」
そういうとルディはパッと手を離した。門番は息苦しそうにせき込んでいる。

「みんな、何の騒ぎ?」
館の中からリシェルでの治療を終え一足先に戻ってきたたシェスとナーシアがやって
きた。館への帰り道に街によったところ,大体の人間は助かったとの事である。
「ああ、実はな・・・」
そう言うとルディは事の経緯をシェス達に説明した。
「ふ〜ん・・・なるほどね。」
話の大筋を聞き,シェスは一人うなずいている。
「構やしないわよ。さ、はやく手当しなくちゃいけないんでしょ?」
「シェス!お前までロークの肩を持つのか!!」
思い切り慌てた様子で門番はシェスに怒鳴りつけた。
「あんたね・・・いまの彼はケガ人でしょ!ケガ人に敵味方の区別はない,昔からの
 鉄則じゃないの!?」
「う・・・しかし・・・」
「ならいいわ、彼の面倒は私たちだけで見る,それで文句ないでしょ?」
「・・・・・・」
「返事がないなら,いいって事ね。さ、行きましょ?」
そう言うとシェスは他のメンバーを連れて部屋に行き,ロークをベッドに寝かせた。

「ひどいわね・・・これ・・・」
ロークのケガの様子を見てシェスが言った。
「ああ・・・これでも一応回復テクニックとかしておいたんだがな・・・」
「ひどい熱・・・それに両手両足計六ヶ所の脱臼に加えて腱とかも延びきってる,
 おまけに首の骨にもヒビが入ってるし・・・正直よく生きてるって感じね。一応
 リバーサーとかはしたんでしょ?」
「当然だろ?じゃなけりゃ死んでるぜ,コイツ。」
「そう・・・でも幸い,ギリギリの所で命に別状はないみたいだし,あとは彼の,
 気合い次第ってトコかしらね。もちろん、やれるだけのことはやるけど。」
「ああ・・・そうだな。」
それから六人,つきっきりの看病となった。ルディとルイは山中に氷のう用の氷を
取りに行き,スレイとナーシアは街へ買いだし,ファルとシェスは六人分の食事の
仕度にと皆大忙しである。全てが終わり一息ついた頃,時刻は深夜を回っていた。
しかも今日は全員戦いに治療にと一日中フル回転だったので,その日は皆死んだ
ように眠りについた。

その後も皆の必死の手当の甲斐あって,次第に熱もひき,三日目にはようやく,
意識を取り戻し,ロークは目を覚ました。

「痛っ・・・う・・・ここは?」
「エスパーの館だよ、ローク。」
「!!お前は・・・ルディ・アシュレ!!」
とっさに起きあがり身構えようとするローク,しかし体中に激痛が走り,そのまま
再びベッドにうずくまってしまった。
「普通なら死んでるケガだ。無茶するな。」
ぶっきらぼうな口調でルディは言った。
「ダーク・ファルスに随分と全身の筋肉をコキ使われたみたいだなぁ。ええオイ?」
からかうような口調でルディはロークに言った。
「・・・何故・・・殺してくれなかった・・・」
ロークは静かに語りだした。今,部屋にはロークとルディ以外誰もいない。
「幼い頃は父に殺人術を教え込まれ,父亡き後は悪魔の子と罵られ、ついには闇に
 飲み込まれ数多くの罪無き命を奪った・・・こんな男のどこに、この世に存する
 意味があるというのだ!あるというのなら・・・教えてくれ!ルディ!!」
「ないな。」
いともあっさりと,吐き捨てるようにルディは言った。
「けど、最初から存在意義のある人間なんているのか?作れば・・・いいんだよ、
 ロークという男が,この世に存する意味ってヤツを。」
「・・・似たようなことを,ファルにも言われた・・・嬉しかった・・・初めて,
 自分に人としての道を説いてくれたことが・・・」
「そうか・・・」
「その優しさへの喜びが愛情に変わり,そこをダーク・ファルスにつけ込まれ,
 俺はファルを殺そうとした・・・そんな俺にも、これから生きる価値を見い出せる
 と、お前は言うのか?いや、それ以前に,お前は俺が憎くないのか?」
「憎くないわけないだろう,俺は聖人君子でも何でもない普通の人間なんだから。
 けどなローク・・・」
「けど?」
「人が人として生きるために怒りや憎しみもまた必要な要素だって事を忘れるなよ。
 ま、今は怪我の治療に専念するんだな。お前がまた剣を握れるようになったら,
 その時にはファルを殺そうとした罪を、万倍にして償ってもらうからな。ま、そうで
 なくともお前とはもう一度サシで勝負がしたいと思ってたしな。」
そう言い残すとルディは部屋を出ていった。

「ローク!気が付いたの!?」
「え、あんたは確か・・・」
「シェスよ。シェス・ウォルシュ。前にも言わなかったっけ?」
「あ、ああ・・・すまない・・・シェス・・・」
「なに?」
「人とは・・・ありがたいものだな・・・」
「え・・・?」
「いや・・・ふとそう思っただけだ・・・しかし皮肉なものだ・・・かつては仇として、
 この上なく憎かった人々を、今はこの上なくありがたく感じている・・・」
そうシェスに言うと,ロークはまた深い眠りについた。そしてその晩・・・

「・・・・・・」
「ん・・・?どうしたんだ?スレイ?」
「小便。」
「そっか・・・急に起きあがるから何かと思ったぜ・・・お休み・・・」
そうルディに言うとスレイは部屋を出た。しかしトイレには行かず,そのまま館を
出ていった。静かな夜である。空には満月が輝き,時々する何かの遠吠え以外には
物音一つしない。そんな中を,スレイは一人,しばらく歩き続けた。

「いいかげん・・・姿を現したらどうだ・・・?」
一見誰もいない方向に向かって,スレイは言った。
「クックックッ・・・」
スレイの呼びかけに対し,一人の男が暗闇の中から姿を現す。黒い装束に,黄金の
鎧,そして裏地は赤の青いマントを身にまとい,青い兜をかぶり手に持つは一本の杖,
二千年前と変わらぬその姿,魔王レイバード・ラ=シークその人である。

「ワシが一瞬だけ放った殺気を、よくぞ感じ取ってくれたな・・・ルツ!」
「あんな雑魚のダーク・ファルス一匹倒したくらいで,今回の事件がすべて終わる,
 なんて思っちゃいないんでな。ったく、神経過敏で不眠症になりそうだぜ。」
「フッフッフッ・・・成る程な・・・ならばその不眠症から、ワシが永遠に解き放って
 やるとするか。」
「遠慮しとくぜ。しかし貴様・・・何故ここにいられる!?いや、その体,ゾンビではない
 その肉体はどこで手に入れた!?」
「ルツ・・・貴様を憎しと思う力が,我を復活させた・・・それだけだ・・・死ね!!」
そう言うやラシークの杖から閃光が発せられる。しかしスレイは平然とそれを受け止め,
両手で閃光を握り潰した。
「こんな技で,俺を殺せると思っているのか?ラシーク?」
「フ〜ム,さすがに闇を滅ぼしただけのことはある・・・ならば我も!!」
そう言うや怪しげな魔法を使い,急激に魔力を増幅させるラシーク,しかしその力も
一瞬のうちにスレイにかき消されていた。
「ヌゥッ!リーインフォースを打ち消すとは・・・その杖,サイコウォンドか!!」
「くだらねえ小細工はなしにしようぜ、ラシーク。力比べといこうじゃないか!!」
「フフッ,ルツ・・・いやスレイ!血がたぎるのを感じるぞ!!この新たな体に!!」
「よし・・・勝負だ!ラシーク!!」

巨大な魔力と魔力のぶつかり合いが始まった。二人の力がぶつかりあう度に,木々は
揺れ,倒れ,大地は激震し,異変に気が付いた動物達の慌ただしく逃げる鳴き声が
彼らの周囲を包む,しかしそんな事は二人の目には入らず,耳にも入ってこない。
生きるか、死ぬか,そんな極限状態の死闘を,二人は心底楽しんだ。二千年も昔から
続いてきた,ラシークとルツの戦い,その歴史の中で,今回ほど激しいものはない。
にも関わらず,二人の表情は生き生きと輝き,生死の境がこの上ない快楽のように
さえスレイとラシークには感じられていた。

「くらえ・・・レジェオン!!」
スレイの奥義の一つ,レジェオンが炸裂し,辺りは更なる轟音と爆風に包まれる。
しかし普通の相手ならば必殺となる一撃も、ラシークは余裕で耐えた。
「ヌルいぞ・・・死ねい!サンダーハルバード!!」
濛々たる煙の中,ラシークは杖から巨大な雷撃を放とうとした。しかしスレイは
ラシークがすぐ反撃するであろう事を見抜き,すでに新たな呪文を唱えていた。
「我が周囲にあてなく漂う規律無き雷の精よ・・・我が招きに応じ,大いなる雷と
 化し、眼前の敵を焼き尽くせ・・・タンドレ!!」
スレイが呪文を唱えると,巨大な雷が振り上げられたラシークの杖めがけ落ちてきた。
瞬時のことにラシークは反応できず,タンドレの雷と唱え損ね己に跳ね返ってきた
サンダーハルバートの雷,あわせて数億ボルトもの電撃が体中を貫いていった。
「フフ,タンドレ・・・初代ルツの最も得意とした技・・・味な真似をしおる・・・」
ラシークはそう言うやにこやかに笑い,そして口から大量の血を吐き出した。
「ラシーク!!」
「また・・・眠りにつく時がきたようだ・・・ただ、今度こそは,未来永劫,醒める事
 のなき眠りであろうな・・・ワシも、疲れた・・・今度こそは,誰も我を起こさぬ
 ようにしてくれ・・・」
「ラシーク!教えてくれ!!お前を三度目覚めさせたのは誰なんだ!!」
「リュクロス・・・第四惑星に行け・・・先に,地獄で待っているぞ・・・スレイ・・・」
そう言い残すとラシークは死んだ。スレイは地面を掘り起こし,ラシークを埋葬すると
再びエスパーの館に戻っていった。

「リュクロス・・・第四惑星か・・・」

第十二章 終わり

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