「喰らええぇぇっ！！」
ルイの剣が唸りをあげると，数体の機械兵がルイの背後に無惨な残骸をさらしていた。
彼も前回ここに来たときよりは腕も上がっている。中堅クラスの機械兵が相手なら，
そうそう手こずるような事もない。
「へへっ，こんな連中なら，何体でも来い！ってトコだな！！」
鼻先を指でこすりながらそう言うルイの態度はいかにも自身に満ちあふれている。
けれどナーシアはそんなルイをむしろ危ぶみ，少しは力を抑えるように注意した。
「ルイ！まだものの十体と倒してないのよ！そんなに飛ばして，後でバテるわよ！」
「平気だよ，へ・い・き！おっ，また来やがった！」
喜々として機械兵をなぎ倒すルイに，ナーシアはまた注意した。
「ほらルイ！まだドミネータークラスの敵も出てきてないでしょ！そんな雑魚相手に，
無駄な体力消費してどうするのよ！」
「そんな時はそんな時！」
「・・・もう！」
そう言っているナーシアもルイの心配ばかりしているわけには行かない。当然ながら
ナーシアもメインコンピューターに侵入者として認識されており、機械兵達を相手に
戦っているのである。しかもルイと違い中型の敵の一撃でも，致命的になりかねない
ので、必然的にピンポイント狙いでテクニックを叩き込む戦法を取らざるを得ない，
そんな彼女から見て，ルイの向こう見ずな戦いぶりは、普段からの「そそっかしい」と
いうルイに対するイメージのせいもあって，見ていられないくらい危なっかしく思えた。
「マスター，マスター・フォーレン！」
「どうかしましたかフレナ？」
「デゾリス，ウェポンプラントに異常な信号が！」
「異常な・・・信号？説明してくれますか？フレナ。」
「ええ・・・数年前，何者かの手によってセキュリティシステムがダウン，それ以後
兵器の再生産等の情報もなく、アルゴルにとっても無用のため放置・・・」
「その通りですフレナ。それで、異常事態と言うのは？」
「はい。数分前，何者かによってセキュリティシステムが再起動・・・しかも中には
現在民間人と思しき人が二名，システムに侵入者と見なされ交戦中との事です！」
「なるほど・・・わかりました。フレナ，プログラムＮｏ．Ｔ−０１９を使いなさい、
システムを，ダウンさせましょう。」
「いえマスターそれが・・・」
フォーレンの命令に対しフレナは口を濁した。
「システムの解除及び再起動が正規の方法ではなかったようで、こちらの命令を受諾
しません！直接システムに介入しなければ，ダウンは不可能です！」
「なるほど・・・フレナ，ランディールの準備を。ゼランはプログラムＮｏ.ＭＰ４／６
によりオート委任，五分以内にゼランを出発します。」
「了解！」
「最後に・・・民間人の画像は割り出せますか？」
「ええ・・・出ます！」
「！まだ子供・・・急ぎましょう！」
そして二人は急いで宇宙船「ランディール」に乗り込みデゾリスへと向かっていった。
宇宙の中にあるゼランでのそのような様子など知る由もなく，ルイとナーシアは必死に
機械兵を相手に戦っていた。
「・・・ドミネーター！！」
「ナーシア！下がってて！！」
ルイはそう一声叫ぶと，ドミネーターめがけて斬りかかっていった。そして一瞬にして
敵の懐に潜り込み，相手の自分の方に突っ込んでくる速度も利用し自分の一撃の力を
倍増させると，ルイの一撃は軽々と相手を吹き飛ばしていた。
「へへっ、楽勝，楽しょ・・・」
「ルイ，危ない！」
真っ二つにされ吹き飛んだドミネーターのボディが突然爆発し，危うくその爆風に巻き
込まれそうになるルイ，しかし機体が爆発するであろう事にいち早く気が付いたナーシア
が彼を後ろから押し倒したことにより，ルイは軽い火傷だけで何とか事なきを得た。
「痛ってぇ〜」
押し倒されたときに顔を床にしたたかに打ちつけ，額から血を流しながらルイが言った。
「だ・か・ら、あなたの戦い方は危なっかしいって言ってるのよ！このくらいのケガ，
爆発に巻き込まれることを考えれば，安いモンでしょ？」
「そりゃそうだけど・・・ギグランツ！」
「どうしたのルイ？いきなり何もない方向にテクニック撃ったり・・・あ！！」
ルイがギグランツを撃った方を見るや、ナーシアは血の気が引く思いがした。ナーシア
が気が付かない間に天井の一部が開き，レーザーの銃口が顔を出していたのである。
「これでお互い様だよね，ナーシア？」
「え？あ、そ・・・そうね・・・ルイ・・・」
「何？」
「助かったわ。ありがと。」
「え？あ、うん。」
突然ナーシアにそう言われ，ルイは顔を少し赤くした。
「さ、こいつら叩きつぶしましょ！」
「うん！」
そしてその頃エアポートでは，延々と帰ってこないルイを待つ五人の姿があった。
「遅い！」
「な〜にやってんだか，あのガキどもは。」
ルイがエアポートを出ていってから，既に一時間以上経とうとしている。どうせすぐに
帰ってくるだろうと思っていたので、いささかうんざりとした表情がその場にいる全員
の顔にはっきりと浮かんでいた。
「ったく・・・五分や十分の説教じゃすまさんぞあいつら。」
「けど・・・いくらなんでも遅すぎない？」
「う〜ん、それもそう・・・ん、何だこの音？」」
「ルディ！外！！」
「ラン・・・ディール！？」
あっけに取られる皆をしり目に，エアポートのハッチが開き、ランディールは吸い込ま
れるように着陸し，ドアからフォーレンとフレナが出てきた。
「フォーレン・・・フレナ！！」
奥から出てきた二人を驚き見つめるファル，しかしフォーレン達の方がもっと意外だっ
たらしい。
「皆さん・・・どうしてここに？」
「ああ・・・実は・・・」
そういうとルディは二人にこれからリュクロスへ向かう事と、子供を待っているという
事を手短に説明した。
「子供？ではもしかしたら・・・」
そう言うとフォーレンはフレナにさっきゼランが捉えた映像を見せた。
「ルイ！ナーシア！！」
「あなた方の子供でしたか・・・急ぎましょう，一刻の猶予も許さないかもしれません。」
再度ウェポンプラント・・・
「大丈夫？ルイ？」
ややバテ気味のルイを心配して，ナーシアが声をかけた。
「な〜に、平気平気！」
そう口では言うルイだが，膝は笑い，肩で息をしている。どう見ても平気には見えない。
そんなルイに「メディス」のマジックを使いながらナーシアは言った。
「私も，あんたの回復だけやってればいいってワケじゃないんだから，ホントもう少し
落ち着いて戦ってよね！」
「わかってるよ！けど、のんびり戦ってたらやられちゃうんだから仕方ないだろ！」
「誰ものんびりなんて言ってないでしょ！ったく・・・また来た！ギサガージ！！」
しかし大型の敵相手にはルイの一撃が必要なのもまた事実である。二人で小・中型の
敵をテクニックで撃破し，大型の敵はナーシアの援護でスキが生じた時にルイが渾身の
一撃を叩き込む・・・お互い，役割分担はできていると言えた。
しかも慣れてきたとでもいうのであろうか，機械兵の動きを，二人ともだんだんと，
傷つきながらも読めるようになってきており，時折余裕さえも見せるようになってきた
のである。
ウェポンプラントに駆けつけたルディ達は，そんなことは夢にも思わず，ただただ二人
とも逃げ惑うばかりであろうと考えていた。しかしそんな予想とは裏腹に，プラントの
モニターには獅子奮迅の様で戦う二人の様子が映し出されていた。
「あいつら・・・」
「・・・強い・・・」
天井からぶら下げられているモニターを食い入るように見ながらルディ達は言った。
「こりゃもう少し，本当にやばくなるまで様子を見ておいた方がいいな・・・」
「そうだな・・・下手にうちらが手本を見せるような真似をしなくても，あいつらは
もう、自分で戦い方を見つけて，実戦で磨くことができるのかもしれないな・・・」
「いや、むしろ俺達と一緒に戦っている時より，のびのびと戦っているように見えない
か？・・・おっあいつらまた一体ドミネーター倒したぞ。」
喜々として我が子の活躍を見るその様子は，まるで運動会の子供達の活躍を見ている
ようである。皆，子供達の活躍に見入っていた。
「なあ、今までで、何体くらい倒した？」
「もう・・・３ケタはいってるんじゃない？完全に。」
「そっか・・・少しは，強くなったかな？」
「そうじゃないと、割が合わないわよ。」
体はクタクタなのに笑いながらそう話し合う二人，もう機械兵を倒し尽くしたのであろう
か，少しの間音沙汰もない。しかしそう思っていると二人の後ろの扉が開き，今までの
敵のどれとも明らかに違う敵が出てきた。巨大な戦闘機のようなその形，体中に重火器
を装備した殺戮兵器，アイレティーアである。
「まずいですね。」
モニターを見ながらフォーレンが言った。
「アイレティーア・・・ドミネーターとは比較にならない装甲，火器を備えています。
あまりに危険なので処分しておいたのですがまさかこんな所にまだいたとは・・・」
そう言うフォーレンの言葉を聞くファルの顔は少し青ざめている。そして大急ぎで助太刀
に行こうとしたが，ルディに止められた。
「いや・・・これくらいの相手に勝てないようじゃ，リュクロスでは役に立てない・・・
助けに行くのは本当に二人が危なくなってからだ・・・ただ、その時に備えて，すぐそば
までは行っておいた方がいいかもしれないな。」
「ルディ！そんな悠長な！！」
「いや・・・これは推測だが，あいつらは自分でセキュリティを解除したんだろう・・・
二人の戦い方は，逃げるための戦いというより、むしろ相手を全て倒そうっていう
戦い方に見える・・・」
「けど・・・」
「ま，しばらく様子は見ておこうぜ？」
その頃二人は苦戦を強いられていた。巨大な重火器の猛攻の前になかなか手を
活路を見いだせず，物陰に隠れていた。
「くそっ！反則だぞあんなヤツ！！」
「ルイ・・・ここも長くは持ちそうにないわね・・・」
「うん・・・第一こんな所に隠れてちゃ，いつまでたっても勝てないもんな。」
「じゃ、何かいい考えある？ルイ。」
「う〜ん・・・」
そう言われるとルイは考え込まざるをえなかった。
「そうね〜私がありったけの力をあなたの防御に注ぎ込むから，あとはルイ，あなた
次第ってのはどう？」
「ちょっ・・・冗談だろオイ！」
「冗談なんかじゃないわよ〜，私にあいつを叩き壊す力があると思う？」
「な・・・威張って言うなよそんなこと！」
「とにかく，ここはあんたの一撃に頼るしかないんだから！頼むわよルイ，あんたが
やられたら、私もあいつになぶり殺しにされるだけなんだから。」
そう言われるとルイも引き受けるしかない，全身に気を集中させ、敵に備えた。
「信頼・・・してるからな。」
「まかせてよルイ，あいつの砲弾の一発や二発、防いでみせるわよ。」
「よし・・・いくぞ！」
正面からルイはアイレティーアに突っ込んでいった。そしてそのすぐ背後で，ナーシア
は「ワーラ」のマジックを唱え，アイレティーアの銃口をふさぐように巨大な空気の壁
を作った。そしてルイめがけ放たれた砲弾は全てワーラの壁に阻まれルイに届く手前で
爆発し、ルイにはカスリもしない。
「くたばれぇぇぇっ！！」
そう叫ぶとルイは跳躍し，アイレティーアの機体の背中の部分に柄以外の剣身全てを
深々と突き刺した。
「やったか！？」
「ルイ，跳んで！！」
剣を突き刺した瞬間，アイレティーアは大爆発を起こし，ルイの体は弾き飛ばされ，
あわや体は壁に直撃するかと思われた。しかし激突の直前で，ナーシアが再び放った
ワーラがルイの体を受け止め，そのルイを受け止めようとナーシアは走っていったの
だが，受け止め損ない，落っこちてきたルイはナーシアの背中に体当たりをする恰好に
なった。
「痛たたたた・・・」
「大丈夫？ナーシア？」
「あんたねえ、心配する前にヒトの上から降りなさいよ！」
「あっ、ゴ、ゴメン！」
「ったく・・・そうそう格好良くはいかないもんね。」
そう語り合う二人の耳から、さっきまでけたたましく鳴り響いていた警報のアナウンス
が消え，そしてセキュリティが全滅したことによるアナウンスが流れ出した。
「セキュリティオールダウン・・・セキュリティオールダウン・・・本システムは、これ
より全ての回路をダウンします・・・セキュリティオールダウン・・・」
「聞いた・・・ルイ？」
「うん・・・けど、飛び上がって喜ぶ元気もないや・・・」
そう言うとルイはペタンと地面に座り込み，眠りだした。
「ルイ？・・・しょうがないわね，まったく・・・」
呆れた口調で，しかし口には笑みを浮かべながらそう言うと，ナーシアは自分のローブ
をルイにかけた。
「今だけ，貸しといてあげるわよ。お気に入りだけどね。フフッ・・・こうして見ると，
寝顔は結構，可愛いのね・・・」
そしてナーシアも疲れがどっと出て，ルイの隣で，寄り添うようにして眠りだした。
「信じられませんね・・・ウェポンプラントのセキュリティが全滅とは・・・」
一部始終をモニターで見ていたフォーレンはやや驚きながら言った。
「そりゃフォーレン，誰の子供だと思ってるんだよ？」
そうフォーレンに言うルディの態度は，いかにも我が子自慢といった感じである。
「う〜ん・・・結構いいコンビなんじゃないのか？あいつら。」
「そうだな，あそこまで強力なワーラはちょっと見たことない・・・お互いの支えよう
とする力が，潜在能力を引き出しているのかもな。」
「連れてくか？二人とも。」
「連れて行かないワケには行かないだろう・・・な，ルディ？」
「ああ、けど，あいつらも今しばらくは休ませておくか。」
「そうね・・・私達の出る幕なかったわね、今回は。」
そうファルが言うと，大人達は皆プラントをあとにした。
ルイとナーシアは，ルディ達が自分達の戦いぶりを見ていたことなど知る由もない。
ましてこの後，リュクロスで何が待っているかなど頭の片隅にもなく，ただただ
クークーという寝息を立てながら眠りこけていた。