Phantasy star
〜Algol Final〜


第十五章 決戦前日

ルイとナーシアが目を覚ましたのは,二人とも数時間眠ってからであった。どうやら、
ルイの方が少し先に目を覚ましたらしい。

「・・・ルイ,起きてたの?」
寝起きのまだ眠たそうな目をこすりながらナーシアが言った。
「うん・・・ついさっき・・・ナーシアも寝てたの?」
「ちょっとね・・・それよりルイ,最初にここに来たときから何時間くらい経ってるか
 わかる?・・・パパ達・・・怒ってないかなあ?」
「多分・・・怒ってるんじゃないかなあ・・・どう考えても・・・」
「やっぱり,そう思うわよね・・・」
二人とも後のことを考えると気が重い,ウェポンプラントを壊滅させたことによる喜び
が急にしぼみそうになった。

「けど・・・とりあえずエアポート行ってみる?まだ待ってるかもしれないし。」
「そうね。とりあえずそうするのがいいんじゃない?」

そして二人は急いでエアポートへと向かった。しかしそこはもぬけの殻で誰もいない,
一瞬もうみんなリュクロスへ行ってしまったのかと思ったが,幸い宇宙船はまだそこに
置いてあったのでそれではと二人はエスパーの館へと向かっていった。

「ナーシアじゃないか,シェス達が先に帰ってきたが,どこ行ってたんだ?」
館の前につくなりナーシア達は門番の男にそう言われた。
「あ,あの・・・ママ達・・・怒ってる様子とかなかった?」
「ん?なんだ〜?また何かやらかしたのか?いや,別に気が付かなかったなあ。」
「そう,ありがと。」
ナーシアは門番にそう返事をしたが,既に心ここにあらずというように感じられる。
ある意味確実に「いる」と分かると部屋に行くのが余計に怖い。もちろんルイもそれは
同じである。二人は恐る恐る部屋をノックした。

「どうぞ〜」
「(・・・ママの声だ・・・)」
二人は顔を見合わせると恐る恐るドアを開けた。
「あ・・・ただいま・・・」
そう言ってカチャとドアを開けたとたん,二人の頭上にファルとシェス,二人の母親の
げんこつが同時に落ちてきて,ゴンという鈍い音とともに二人は頭を抱えてその場に
うずくまった。

「まったく・・・道草にも程があるわよ!二人とも!!」
「痛たたた・・・不意打ちする事ないじゃないかよ母さん!って,あれ?そっちの人達
 は確か・・・写真で見た事がある気が・・・」
「フォーレンと言います。」
「フレナと申しますわ。以後お見知りおきを。」
「やっぱり,あんた達が・・・ルディや母さん達と一緒に戦ったっていう・・・」
「まあ,そんな所です。」
「あなた達が,ウェポンプラントで変な真似したから,わざわざ来たのよ!」
横槍をさすようにファルが言った。
「え・・・そうなの?」
「正直,最初は何事かと思いましたわ。まあ,廃棄処分同然の施設でしたから,壊して
 も一向に差し支えませんことよ?」
「あ・・・そりゃどうも・・・ところで母さん,ルディとスレイは?」
「二人とも,奥の院に行ったわ。何か取りに行くとかって言ってたけど・・・」
そうファルが言っているそばから,ルディとスレイが部屋に入ってきた。

「帰ってきたか・・・悪ガキどもが・・・」
そう言うとルディはルイの頭を一発ゴンと殴った。
「痛たたた・・・まったくみんなヒトの頭をゴンゴン叩きやがって・・・」
「ホント,あんまり叩くと,ルイが馬鹿になっちゃうんじゃない?」
ルイの様子を見て笑いながらそう言うナーシアだったが,彼女の頭もその一秒後には
スレイに殴られ,コブができていた。
「さ,二人ともさっさと仕度しろ!」
「仕度って・・・何の?」
スレイの言葉の意味が理解できず,ルイはオウム返しにスレイの言葉を繰り返した。
「リュクロスに決まってるだろ!明日の朝にはここを出るからな。」
「て事は・・・パパ!!私も行っていいの!?」
半ば自分の耳を疑うように,ナーシアはスレイに尋ねた。
「ああ・・・お前も,俺が思ってたより成長してたみたいだからな・・・」
「ありがと!パパ!!」
そう言うとナーシアはスレイに抱きついて喜んでいる。
「それはそうとルイ・・・お前,剣はどうした?」
「剣?何言ってるんだよちゃんとここに・・・あれ?ない!?あ,そうか!さっきあの
 変な機械に突き刺したままだったんだ!ちょっと,取ってくる!」
そう言うや慌てて駆け出そうとするルイを遮るようにルディが口を出した。

「まあ待てルイ,そんな爆発に巻き込まれたような代物,もう使えないだろ。さ,ルイ
 コイツを使え・・・」
そう言うとルディはルイに一振りの剣を手渡した。いつものルイの剣より剣身は長いが,
大分細い,いわゆる普通の大人用の剣のサイズである。

「ルディ・・・何?これ?」
「いいから,持ってみろ。」
「うん・・・」
そうしてルディから手渡された剣は,驚くほど軽い,そして,まるで手に吸い付くよう
である,初めて握る剣なのに,いつもの自分の剣のサイズとは違うのに,まるで自分用
にあつらえたような気さえしてきた。
恐る恐る鞘から抜いてみると,パッと光輝く剣身が現れ,しばらく見とれる程である。
「ルディ・・・これは?」
「ネイ・ソード・・・エスパーの館に伝わる,二大聖剣のうちの一つだ・・・」
そうルイに答えたのはスレイである。そこでルイはスレイに尋ねた。
「二大・・・聖剣?じゃ,じゃあもう片方は・・・?」
「コイツさ,十二年かかって,ようやく甦ってくれた俺の剣・・・エルシディオン!」
そう言ってルディが抜いて見せたエルシディオンは眩いばかりの光を放ち,その美しさ
といったらどんな美術品もかなわないほどに感じられた。

「エルシディオンの方が上だが・・・お前の剣もアルゴル屈指の名剣・・・ま,お前みたい
 なチビガキには,十分すぎる業物だ。」
スレイはルイにそう言い足したが,ルイはまるで聞いていない。喜々として数回素振り
すると,剣を振っているという感じさえしない。剣が自分の腕の一部になった,そんな
気分である。

「これ・・・本当に使っていいの!?」
「そりゃ,何が待ってるかわからない所だからな。剣も,お前のことを気に入ってる
 みたいだし・・・頑張れよ!」
「うん!!」
そう返事して無邪気に喜ぶルイの表情はまさに喜色満面を絵に描いたようであり、その
様子を見ているだけで他の人達もなんか嬉しくなってきた。
「良かったわね,ルイ!」
「え?あ・・・」
急に自分の顔の真横,くっつきそうな距離からナーシアにそう言われ,ルイは言葉に
詰まった。急に顔が熱くなり,ナーシアの事を正視すらできない,自分でも何が何だか
分からず,ルイは部屋から逃げ出した。何で自分が逃げるのか,それすらもルイには
理解できなかった。

「ねえ・・・私,何かルイに悪い事した?」
ルイの様子に一瞬呆気に取られた後,ナーシアは部屋の誰に聞くともなく尋ねた。無論
その理由を部屋の中のほぼ全員が気が付いていたが,その物ずばりをナーシアに言う
気にはなれなかった。

「ちくしょう・・・どうしちまったんだ?俺・・・」
雪林の中で,ルイは一人さっき貰ったネイソードを振り回しながら原因を考えていた。
ナーシアと一緒にいるときの嬉しくも苦しいような気持ち,出会った直後からそれは
あった。しかしさっきのウェポンプラントでの戦いから一息ついた今,その感覚の強さ
は,それまでより更に強くなっている。心臓の強い鼓動も,まだ収まらない。

「ル〜イ〜!!」
すぐ後ろで,ナーシアの呼ぶ声がする。ルイは木の陰に慌てて隠れようとしたが,雪の
中にクッキリと残る足跡は隠しようもなく,すぐナーシアはルイに追いついた。
「あ・・・何?ナーシア・・・」
なんとか平静を保とうとしながらも少し声をうわずらせながらルイは言った。
「さっき,ちょっとビックリしちゃった。急に逃げるんだもん。何か・・・気に障る事
 言った?わたし・・・」
「う,ううん!!そんな事ないよ!全然!!」
強く首を横に振りながらルイは言った。そして何か話を切り出そうと思っていると,
ナーシアの腰に見慣れぬ物があるのに気が付いた。
「ねえ,どうしたの?その・・・銃みたいなヤツ・・・」
「ああこれ?フレナさんから貰ったの。ソニックバスターって言う銃だって。あ,そう
 そう,明日のリュクロスはフォーレンさんの宇宙船で行くんだって。で,フォーレン
 さんも一緒に戦うって言ってたよ。ゼランとかって所の留守番は,フレナさん一人で
 十分なんだって・・・ちょっと!聞いてる!?」
「え?う,うん!」
慌てて口ではそう言ったが,実は殆ど聞いていない。ナーシアが話している間,ただ
ボ〜ッとしながらナーシアの顔を見つめていたのである。だからその直後ナーシアに
「じゃあ今言ったこと繰り返してみて」と言われたのだが,殆ど何も言えなかった。

「ったく・・・ちょっと変だよ!ルイ!!」
「え・・・そう・・・?」
「そうよ〜さっきからボケーッとしちゃってさあ。何か悪い物でも食べたんじゃない?」
「いや・・・別にそんな事はないけど・・・」
「大丈夫なの?そんな調子で。明日はリュクロスに行くってのに。」
「うん・・・多分・・・」
「ったく・・・らしくないわよルイ!!あ,今日の夕食はごちそうだから,遅れない
 ようにって,ママが言ってわよ。」
そう言い残すとナーシアは先にエスパーの館に帰って行き,入れ違うようにルディが
ルイの前にやってきた。

「どうしたルイ,エラく元気が無いじゃないか。」
「ルディ・・・俺,病気かもしれない・・・」
「病気ねえ・・・フフッまあ,一種の病気には違いないがなあ。」
「分かるのか!?俺が何のこといってるのか。」
藁にもすがる思いで,ルイはルディに食らいつくような口調で尋ねた。しかしルディは
あえて明確な答えをいわなかった。
「ま,心の病気ってトコだな。」
「心の・・・病気?」
「ああ。けど,心配いらない,誰でも一度はかかるモンだからな。他の人,お前の場合
 はナーシアと,一緒にいたいとか,自分にとって大事な人だって思う気持ちが,人一倍
 強くなって,だからお前はナーシアと一緒にいる時,苦しくなったりする・・・それ
 だけと言えばそれだけだが,その気持ちってのは人が生きる上で一番大切な気持ち
 の一つだからな。」
「分かんないよ!もっとハッキリとした言い方できないのかよルディ!」
「それは,自分で考えるんだな。じゃ俺は先に行ってるぜ。」
「あっオイ!」
ルイの制止を完全に無視して,ルディはスタスタと行ってしまった。一人残されたルイ
は雪の上に座ったままルディの言葉の意味を考えていた。

「ナーシアと一緒にいたいって気持ちが苦しみになる・・・?よく,分かんないや・・・」
ルイはまた考え込んだ。もしかして今までで一番頭を使ったかもしれない。それくらい
頭を使って考えに考えた。
「俺は,ナーシア・・・いやそれだけじゃない・・・母さん,ルディ,スレイ・・・俺の周りの
 すべての人達と,いろんな事をやっていきたい。そしてそうするためには,リュクロス
 ってトコにいる,今回の騒ぎの親玉を倒さなくちゃいけない・・・そう!倒さなくちゃ
 いけないんだ!」
そう自分に言い聞かせ,ルイはグッと拳を握りしめた。
「やってやる・・・敵の親玉をブッ潰して,自分の未来を創ってやる!!全てはそれから
 考えるとするか!!」
ルイ以外には誰もいない林の中でルイはそう叫ぶと一回,二回とネイソードを振り回し
剣を鞘に収めると両手で顔を数回,パンパンと叩いた。その顔にはついさっきまでの
迷いはなく,それどころかどこか精神的に成長したかのようにさえ見えた。

そして一夜が明け,早朝まだ薄暗いうちに,ルイ,ルディ,ファル,スレイ,ナーシア,
ローク,フォーレンの計七名は,ランディール号に乗り込み,リュクロスへと飛び立っ
ていった・・・

 

第十五章 終わり

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