アルゴル太陽系第四惑星リュクロス・・・同太陽系に接近するのは千年に一度という，
長大な楕円軌道を持つこの惑星が，前回アルゴルに最接近したのはＡＷ２２８４，今
から１２年も昔である。ゆえに今となってはアルゴル太陽系のはるか彼方に存在し，
そこにたどり着くのはランディールの速度をもってしても丸一日以上かかる。
「なあフォーレン，あとどれくらいでつくんだよ。その，リュクロスってトコには。」
「あと３時間１５分と２秒です。ルイ・・・そう何度聞いたって，所要時間は縮まり
ませんし，あまりイライラすると心臓に余計な負担がかかりますよ。」
「ハイハイ分かってますって。ったく・・・みんなも寝てるのか・・・じゃあ俺も，もう
一眠りするか・・・」
何の娯楽もない狭い宇宙船の中で，ルイは退屈でしょうがないといった感じである。
暇つぶしといったら寝るくらいしかない。しかし目をつぶっても緊張でなかなか寝つけ
ないのである。
「リュクロス・・・一体何が待っているんだろう・・・」
「皆さん・・・間もなくリュクロスに到着します・・・起きてください・・・」
後部座席に座っている六人にフォーレンがそう言った時，皆の目はもう殆ど覚めて
いた。やはりみんな寝付きが悪かったらしい。
「いよいよか・・・」
そう誰にともなく言うルディの顔にも，さすがに緊張の色が浮かんでいる。むしろ何が
待っているのか見当がついていないルイとナーシアの方が落ち着いているようにさえ
見えた。そしてランディールは，静かにリュクロスに着陸した・・・
「ここが・・・リュクロス・・・」
「寂しそうな所ね・・・命とかが，まるで感じられない所・・・」
初めてリュクロスに降り立ったルイ達には，荒涼としたリュクロスの風景は何とも奇妙
な存在であった。そして星の中をあてもなくさまよっていると，皆の頭に直接に声が
響いてきた。
「お久しぶりですね・・・護り人達・・・」
「なんだ・・・この声？」
突然頭の中に響いてきた声にルイは戸惑いを隠せない。しかしルディにはすぐに，その
声の主がだれなのか思い出された。
「その声！レ・ルーフか！！」
姿の見えぬ声の主のに向かい，ルディは叫んだ。レ・ルーフ・・・リュクロスに住む，
実体を持たない語り部である。
「ええ・・・皆さん・・・よく深遠なる闇を滅ぼしてくれました・・・感謝します・・・」
「黙れ！何もお前の命令でやったワケじゃない！！俺達は，アルゴルに生きる人達の
為に，そして俺達の未来の為に戦ったんだ！！」
「・・・まあ，それもいいでしょう。それより，あなた方に会わせたい方がいます。」
「誰だそいつは！！」
「私達全ての生みの親・・・大いなる光・・・」
「！・・・光・・・だと！？」
「ええ・・・」
そうレ＝ルーフが言うや突如として七人の前に姿を現した大いなる光は，眩いばかり
の輝きを放ち，背中には光り輝く羽を持ち，黄金の鎧をその身にまとい，容貌は人間で
いうと三十代前半くらいに見える。容姿端麗だが口元には嘲るような笑みを浮かべ，
こちらを見下しているのがありありと感じ取れた。
「ようこそ・・・我が子らよ・・・歓迎する・・・」
大いなる光は静かにそう言った。
「あんたが・・・今回の黒幕ってワケかい！」
「まあそう言うな。勇者達よ，お前達は選ばれたのだから・・・」
「選ばれた・・・？」
「そう，我に仕え，光の一員となり，永遠の命と，不滅の肉体を持つ究極の生命体と
なるためのな・・・闇の死後にお前達の前に姿を現したダーク・ファルスといい、
ラ＝シークといい，全ては私がお前達 にその資格があるか試すために仕組んだもの・・・」
それからも光は何か話し続けようとしたが，ルディがそれを遮り，怒鳴りつけた。
「ふざけるなっ！！何が光だ！人に尻拭いをさせておきながら，貴様は，一体どこを
ほっつき歩いてた！それに，何が選ばれただ！貴様のくだらない試験の為に，一体
どれだけの人が犠牲になったと思ってるんだ！」
「犠牲？フン・・・ならば聞くが，お前達は誰かが自分で作った泥人形を，その者が
自分で壊したからといって，非難したりするものなのか？」
「なっ・・・泥人形だと！貴様・・・！！！」
「違うのか？少なくともお前達は、私が泥から作ったのには間違いないのだが。」
「かつてそうだったとしても今は命を持ち、一生懸命生きている人達を・・・許せない・・・
闇以上に！貴様は、絶対に！！」
「物分かりの悪い子達だ・・・お前達がどう否定しようと，我が子であるという事実は
決して否定出来ぬのに・・・お前達は，強くなりすぎた。我が予想を超えてな・・・」
「それが，どうしたっていうんだ！」
「もう一度だけ言おう。我に、従え！！」
「ならこっちは何度でも言ってやるさ・・・断る！！」
毅然とした口調でルディは光にそう言い放った。それに対し光は一瞬残念そうな顔を
したが，すぐにまたさっきの，いやそれ以上の冷たい顔つきになっていた。
「そうか・・・ならば貴様らを消さねばなるまい。我を脅かす可能性のある者は全て，
この世から抹消する。これが私のやり方だ・・・数億年の間，ずっとな・・・」
「面白い・・・こいや！光！！」
「クックックッ・・・」
ますますいきり立つルディ達に対し，光は唇に薄笑いを浮かべ，また話し出した。
「そう簡単には殺さんよ。そうだな・・・お前達の何も出来ぬところで，お前達が慈しみ
愛してきた我が封印・・・アルゴル太陽系をまずは粉微塵にしてくれよう・・・」
「！！なんだと！」
「アルゴルは封印であると同時に，万が一封印が完全に破られそうになったら，闇
もろとも破裂する爆弾でもある。そしてそれは，我と，このリュクロスの聖霊達
全員の強制破壊コードにより発動する・・・」
「やめろ！光！！」
皆がそれを阻止しようと光に向かい一斉に攻撃を仕掛けたが，光の周囲には強力な
結界が張り巡らされているらしく，全ての攻撃は無情にも阻まれ，なす術がなかった。
そんなルディ達の前に，大いなる光は現在のアルゴル太陽系を映し出した。無論そう
する事が彼らの絶望感をより煽るであろうことを，計算しつくしての行動である。
「さあ，わが僕，リュクロスの聖霊達よ！アルゴル崩壊コードを発動するぞ！！」
高らかに笑いながら光はそう叫んだ。ルディ達は己の無力さを呪い，ただ見ている事
しかできないかと思われた。しかし，光が呪文を唱え終わってからいくら経っても，
空間に映し出されたアルゴル太陽系の様子に何ら変化は見られない。
「馬鹿な・・・何故爆発しない！？・・・リ・フェーズ！貴様，裏切るのか！！」
光が顔色を変えて叫んだ次の瞬間，怒りの塔の番人，リ・フェーズが姿を現した。
「ああ・・・ワシはこの者達が気に入ったんでな・・・聖霊が一人でも欠ければ，
アルゴルの強制破壊コードは発動しない・・・さあ，あとはお前達次第じゃ・・・」
「ありがとう・・・リ・フェーズ！」
「愚かな・・・確かにアルゴルを瞬時に破壊することは不可能になったが，我に，光に
かなうと思っているのか！さあ，残る三聖霊達よ！我と同化せよ！！ともに愚かなる
わが失敗作，護り人達を葬り，ついでに不要の封印も破壊し尽くそうぞ！！」
そう光が叫ぶと力の塔の番人デ・ヴァーズ，勇気の塔の番人サ・リュース，そして目に
は見えないが恐らくレ・ルーフの三体が光の体の中に吸い込まれてゆくのを感じた。
そして，その瞬間，大いなる光から感じる圧迫感が，それまでよりも桁違いに膨張し，
見ているだけでも気を失いそうである。
「これからお前達が味わう苦しみ・・・わが記憶に永遠にとどめておいてやろう・・・」
「上等だ・・・人間の力！未来を創る力を！！お前に見せてやる！いくぞ・・・みんな！」