Phantasy star
〜Algol Final〜


第四章 二つの声

ハンターギルドへからファルが戻ってきた,どうやらまた、新しい仕事が入ったらしい

「行くわよルイ!仕度して!!」
「はいっ!!」
ファルが引き受けてくるハンターの仕事が,ルイの一番の楽しみである、今回は
どんな冒険が,出会いが自分を待っているのか,考えるだけで胸が躍るし,それに
仕事となれば大嫌いな勉強からも解放されるからである。

「ね、ね、今回はどこいくのっ?」
興奮を抑えきれずファルに行き先を聞くルイの様子は,まるで遠足気分である。
ファルも毎回「遊びに行くんじゃないんだから」と注意するのだが,こればかりは
ルイも一向に直そうとはしない。

「今回は,テルミってトコよ。」
「テルミ・・・?テルミって、あのテルミ?」
壁に貼ってある一枚の少し古そうなペナントを指さしながらルイは言った。
「ええ,テルミか・・・何年ぶりかしらね・・・ルディと,あなたのお父さんと
一緒に旅したときに行ったっきりだから、もう十年以上か・・・」
少し遠くを見るような目で,誰に話しかけるともなくファルは言った。

「父さん・・・」
ルディ・アシュレ・・・写真でしか見たことがない自分の父親・・・いや、「父」
という実感のカケラも、ルイには感じられない,ただ「何となく自分に似た人」が
写っている程度にしか思わなかった。

「どうしたの,ルイ?行くわよ。」
「あ、うん。」
ファルに声をかけられると,ルイはそれ以上父のことは考えなかった,
「(どうでもいいや、父さんの事なんて、僕には母さんがいる,それで、十分だ)」

それからしばらくの後,テルミについた二人を待っていたものは,「風光明媚」
とはかけ離れた,この世の地獄のような光景であった。

「これは・・・・・・」
「なんて、ひどい・・・」
崩れた家,傷ついた人々・・・目を覆いたくなるような光景である,明らかに
人間業ではない。しかも何か、食糧等の略奪を目的としたものではなく,「破壊の
ための破壊」が行われたあとのような感じである。

「伏せてっ!!ルイっ!!!」
殺気を感じ取ったファルはそう叫ぶとルイに飛びかかり,彼を押し倒した。
その直後,二人の頭上を光の槍がかすめてゆく。
「敵!?」
土まみれの顔を上げるとそこには、ルイが今まで見たことのない,明らかに
バイオモンスターとは趣を事にしたモンスター達が周りを取り囲んでいる。

「母さん!!こいつら、いつものと違う!すっごく・・・気持ち悪い!!!」
敵の異質さを肌で感じ取ったのであろう,その声はひどく動揺している。
「わかってるわルイ・・・行くわよ!!」
ファルの目にも明らかに焦りと戸惑いが浮かんでいる,それら全てを振り払うように
ファルは敵めがけて斬りかかっていった。
「なんで・・・こいつらが!!」

「母さん・・・?」
鬼神の形相で戦うファルに、ただならぬものを感じるルイ,しかし,敵の
執拗かつ激しい攻撃は,ファルが何故ここまでムキになるのか,ルイに考える
余裕さえ与えない,
「とにかく、こいつらを倒さないと。話は、そのあとだ!!」
そう気合いを入れ直し敵に斬りかかるルイ,二人は苦戦を強いられながらも,
何とか敵を全滅させることに成功した。

「ねえ母さん・・・こいつら、一体何物なの?」
肩で息をしながらルイが尋ねる。
「こいつらは・・・・・・魔族!!」
「魔族?」
キョトンとした様子でファルの言葉をオウム返しするルイ,まるでおとぎ話にでも
出てきそうな言葉である。
「そう、私やお父さんが12年前に戦った相手,それが魔族よ。」
「けど、何でそれが今頃?」
「わからない、ただ・・・」
「ただ?」
そう聞いてくるルイに対しファルは西を指さして言った。
「あそこに塔があるでしょう?『ラデアの塔』って言うんだけれど、あそこから、
 感じるわ。『黒い波動』を!!」
「黒い・・・波動?黒い波動って,さっきからするこの嫌な感じのこと?」
「ええ・・・あなたにもわかるのね、ルイ。行くわよ!」

ラデアの塔・・・かつてジオを倒すための武器「サイコウォンド」を手に入れるために
行った場所である。そこに巣くっている敵,カオスソーサラー,セントール・・・
どれもファルの嫌な思い出を再び思い起こさせないものはない,それらの敵を
なぎ倒し,やっとの思いで頂上にたどり着いた二人を待っていたのは,赤装束の
魔導師,「魔界の指揮官」ギ・ル・ファーグであった。

「来たか・・・愚か者どもが・・・」
さげすみに満ちた声で敵が言った。
「なんで・・・またあなた達が・・・」
「フン、知る必要もなかろう,死に行くものにはな!い出よ!!!」
そう叫ぶとギ・ル・ファーグは右腕を振り上げた,そしてその合図に応じ多量の
モンスター達が姿を現す。

「こんの野郎っ!!!」
大剣を振り回し斬りかかるルイと、クローで果敢に斬りかかるファル,個々の
戦闘能力では明らかに二人の方が勝っている。しかし、二人がいくら敵を
倒そうと,その間に敵は増殖を続け、ついに二人は背後は壁で逃げ場はなく,
正面は何層もの敵に囲まれ,もはや戦う力は一切残されていなかった。

「ち、ちっくしょう!!言うこと聞けよ俺の体あっ!!!」
傷だらけの体で剣を杖にし,涙を流し悔しがるルイ,ファルにも彼を励ます力は
残っていない,静かに、覚悟を決めた風さえあった。
「どうやら私も・・・ここまでみたい・・・」
そして,もはや戦う力を完全に失った二人に,ギ・ル・ファーグが最後の攻撃の合図を
しようとしたまさにその時,モンスター達の断末魔の叫び声が下の階から聞こえてきた。

「な、なんだ!?なんの騒ぎだ!?」
「て、敵が・・・人間が凄まじい勢いで・・・間もなくここに・・・」
下の階から傷だらけでやってきたモンスターの一人はギ・ル・ファーグに
そう伝えると事切れた。
「馬鹿な!!一体何が来たというのだ!?」
予期せぬ事態に動揺を見せるギ・ル・ファーグ,何か異変が起きているということには
ファル達もすぐに気がついた,しかしそれが何なのかまでは,わかるはずもない。
「(な・・・何が起きてるの?)」
傷だらけの体で,その腕の中にしっかりとルイを抱きしめながら様子を伺うファル,
その耳に下の階からやって来たらしい二人の話し声が聞こえてきた。

「ふぅっ、どうやら,間に合ったみたいだな。」
「ったく、こんなベタな登場は,好きじゃねえんだがなあ。」
「よく言うぜ、スタンドプレー大好きな,目立ちたがり屋のくせに!」
「んだとぉ!黙れこのチビ!!」
そう語り合う懐かしい二つの声に、一瞬己の耳を疑うファル、しかし聞き間違うはずの
ない二つの声に,ファルはうれし涙に満ちた歓喜の声をあげずにはいられなかった。
「スレイ・・・ルディ!!!」

第四章 終わり
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