「どけえぇぇぇっ！！！」
ルディの雄叫びとも言えるような声が塔の中に響きわたる，ルディは一瞬にして
敵の一角を切り崩し，ファルと、ルイの所へやってきた。
「あ・・・・・・・」
自分の目をにわかには信じられないファル。目の前に，ルディがいる，長い間
捜し続け，最近は死んだものと諦めていたルディが，間違いなく目の前にいるのである。
「おいルディ！！感動の対面は後にしろ！！とりあえず奴らをブチのめすぞ！！！」
スレイがルディにどやしつける，確かにまだ敵は雲霞のごとく残っており、見た目
圧倒的不利な状況に何も変わりはなかった。
「チッ・・・なら、さっさとカタをつけようぜ，スレイ！！」
「るせぇ、おれに命令すんじゃねえ！！」
昔と同じように口ゲンカをしながらも、スレイは呪文を唱えはじめた。
「聖なる加護の力よ・・・破邪の青き光となり、我が前にその力を示せ・・・エフェス！！」
スレイの掌からルディに向け，「エフェス」のマジックが発せられる，ルディはその力を
全身に受け，剣を十字に切った。
「グランド・クロス！！」
ほんの数秒前まで，百を数えるほどいた魔物達は，断末魔の叫びをあげることもできず
一瞬にして消え去って行く。唯一，ギ・ル・ファーグだけは耐えたが，それも次の瞬間
には，ルディに袈裟掛けに切り捨てられていた。
「ルディ・・・・・・」
「ファル・・・・・・」
互いに涙を流し，堅く抱きしめ合う二人に、言葉はなかった。今の二人の気持ちは，
とても言葉では表しきれない，無言は百万の言葉にも勝っていた。
しかし、ルイだけはこの状況が嫌だった，ただひたすらに嫌だった。
「（・・・こいつが・・・父さん？今まで会ったこともない，会いたいとも思わな
かった・・・しかも、ずっと母さんを放っておいたヤツが！？）」
見ず知らずの人間を，急に「父」という最も身近な存在として押しつけられた戸惑い，
今まで独占してきた母親の愛情を，急に第三者に奪われた嫉妬感，全てが嫌だった，
「（僕には、母さんがいればいいんだ。あんなヤツ・・・・・・いらない！！！）」
そう自分に言い聞かせると，ルイは再び剣を手に取った。
「おい、ルディ！！！」
ルイの言葉にハッと我に返るルディとファル，ルイの目は明らかに殺気立っている。
「ルイ！！やめなさい！！！」
そう言いファルはルイを叱ったが，ルイの耳には全く届いていない。
「何が・・・父さんだ！！こんな・・・どこの誰とも知らないヤツを父さんだなんて，
オレは・・・・・・認めない！！」
そう興奮気味に怒鳴り，ますますいきり立つルイに，ルディはゆっくりと近づいていった。
「そうか・・・ルイって言うのか・・・」
「それが、どうした！！」
「よしとけ、今のお前は，立っているのが精一杯だろう。ムリはするな。」
「そんなの・・・関係ない！！お前を、倒す！！！」
「そうか・・・なら，仕方ないな。」
そう言うとルディはルイに「ラレスタ」のテクニックをかけた。
「どうしてもやりたいって言うのなら，これでやれるだろ。さ、はじめようぜ！！」
「ちょっ・・・ルディ！！！」
慌てて二人を止めようとするファル，しかしそんなファルの肩をスレイはポン
と叩き，言った。
「やらせておけよ・・・初めての，親子ゲンカくらい。」
「いくぞ、ルディ！！」
「ああ。」
しかし、ルディは剣を抜くと，それをスレイに預け，剣の鞘の方を武器とした。
「なんのつもりだ、ルディ！！」
「な〜に、自分の息子を，殺したくはないんでな。」
「黙れ！！お前なんかに，息子呼ばわりされたくない！！！」
怒髪天をつかんばかりの形相でルディに向かって突撃するルイ，しかし彼の攻撃は
カスリもしない、それどころか逆にあっさりと背後を取られた。
「武器に振り回されすぎだ！ただブン回せばいいってモンじゃないぞ！！」
「くっ、何を偉そうに！！」
「あと，もう少し言葉遣いには気をつけるんだな。エアスラッシュ！！」
真空の刃がルイに直撃する，１、２メートルほど吹き飛ばされ、ダウンするルイ。
「どうした？もう、おわりか？」
「くっ・・・まだまだ！！」
再び立ち上がりルディに斬りかかるルイ、しかしその実力はあまりにも違いすぎる。
立ち上がっては倒され、また立ち上がっては倒されの繰り返しで、とうとうルイは
力尽き，地面にうっ伏したまま大粒の涙を流し悔しがった。
「ちくしょう・・・なんで、歯が立たないんだよ・・・ずっと、修行してきたのに，
ずっと・・・頑張ってきたのに・・・」
「ま、しょうがないさ。キャリアが違う。けど、思ってたより強かったぜ，俺が
お前くらいの時とは比べものにならないしな。どうだ、立てるか？」
そう言うとルディはルイに手を差し出した。けれどルイはそれを払いのけ，
「一人でたてる！！」
と言い，ヨロヨロしながらも何とか立ち上がった。
「ねえルディ・・・教えてくれる？あなたが九年もの間，何をしていたのか・・・」
「ああ・・・あの時，ダーク・ファルスとの戦いで海に吹き飛ばされた時は，正直，
『死ぬのか』って思った・・・けど、助けられたんだ・・・セリアの人に・・・」
「セリア！？」
「ああ、モタビアの北端，地図にも載らないような小さな島の村だ・・・俺は，
そこの漁船に助けられたらしい，そして、なくしてたんだ，記憶を・・・」
「そんなことが・・・」
「それから俺は九年の間，名前すら思い出せず，村の人からアレンって名前を貰って
ごく普通の村人として過ごしてきた、けど、今日・・・」
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「死んだと思ったら、こんな所にいたのか。ルディ・・・」
いつもと変わらず，クワを持ち畑を耕していたルディの前に，不気味な，この世の者
とは思えぬ茶色い装束を着た男が言った，彼の背後に控えている面々も，とても尋常
な連中には見えない。
「お、お前達は一体？それに・・・ルディといったか？それが俺の本当の名前なのか？」
相手の，えもいわれぬ不気味な雰囲気におののきながらルディは尋ねた。
「ほう・・・何故にこのようなところにおるのかと思えば・・・記憶を失っていると
見える，ならば好都合というもの・・・闇をも倒した貴様の首をあげれば，我が
栄達は疑いなし！！かかれ！！者ども！！！」
茶装束の男の合図とともにルディに襲いかかるモンスター達に対し，ルディはワケも
分からないまま手に持ったクワを振り回した，しかしそのような物が魔族相手に通じる
はずがない，いとも簡単に叩き折られ，敵の手から発せられた光線の直撃を食らうと，
そのまま吹き飛ばされ，道具小屋に体を激しく叩きつけられた。
「うっ・・・くくっ・・・！！！」
ルディに止めを刺さんと駆け寄り，刀を振り下ろすキング・セイバー，しかしその一撃は
逆にルディに白刃取りに受け止められていた。
「オラッ！！！」
ルディは座ったままの体勢でキングセイバーを蹴り飛ばすと，敵の剣を奪い取り、
キングセイバーを一撃の下に葬っていた。
「俺は・・・アレンなんかじゃない！！俺の名はルディ！ルディ・アシュレだ！！！」
天地を揺るがすような大声で叫ぶルディ，その声は周囲の敵さえも怯ますほどである。
「バカな、今の衝撃で！？しかし敵は一人，者どもかかれ！！」
完全に勝利を確信し，余裕を気取っていたカオス・ソーサラーは，事の急変に非常な
戸惑いを見せながらも，なお配下の魔族を指揮し，ルディに襲いかからせた。
「お前ら雑魚なんて・・・何匹かかろうが同じ事だ！！」
そう言うや敵に向かい突撃するルディ，その勢いは活動を再開した休火山の如く
激しいものがあり，十数匹いた魔族は皆，ただ彼の前に屍血山河を築くばかりである。
「こ、こんなバカな・・・」
目の前で起きている事態にただ言葉を失うばかりのカオス・ソーサラー，そして
その一言が彼の最後の言葉だった。
「お前で、終わりだ！！」
全ての敵を片づけたルディは，一瞬にして間合いを詰めると，その一声とともに
カオス・ソーサラーを真っ二つに斬って捨てた。
「・・・・・・」
魔族の屍の中，暴風のような息をつくルディ，その目にはファルと、まだ見ぬ我が子
への慚愧の気持ちにあふれていた。
「記憶が、戻られたようですな。アレン・・・いや、ルディ殿。」
「長老・・・」
「今はもう何も隠しますまい，実は貴方はハンターギルドから尋ね人として、とうに
人相書きが来ておったんじゃ・・・」
「え・・・？」
「しかしなあ、村のものは皆，あんたに行ってほしくなかった，Ｎｏ.１ハンター
だからとかは関係なく，一人の人間として，去ってほしくなかったんじゃ・・・」
「・・・・・・・・・」
「けれど、もう止めることもできますまいのお・・・」
「俺・・・正直言って，記憶が戻るのが怖かった，みんなとの今の生活が，記憶が
戻ることで失われるのが怖かった・・・けど、記憶が戻ったからには，そんな
ことも言ってられない・・・アイードにいるファルにも、また、ファルのお腹の中
にいた子供にも，まだ、世の父親らしいことは，まだ、何一つしちゃいないから，
みんな・・・ありがとう・・・。」
そう言い残すとルディはリューカーのテクニックを使い，一瞬にして村人の前から
姿を消していった。
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「・・・それで、アイードに行ったら，二人がテルミに行ったってことを聞いて，
テルミでスレイに会ってここまで来たってワケさ。」
「ふ〜ん、じゃ、俺や母さんがハンター仕事をしている間，お前はのほほんとその
何とかって村で暮らしてたってワケだ，記憶喪失だか何だが知らないけど。」
目一杯の皮肉を込めてルイが言った。
「まあ・・・な。」
「そんなヤツを，父親としてなんか認められるか！！」
「ルイ、いい加減にしなさい！！」
傍らからファルが再びルイを叱りつけた。
「いいさファル・・・無理もない・・・けどルイ，」
「なんだよ！！」
「お前，”そんなヤツ”に歯が立たなくて悔しくないのか？」
「悔しい・・・悔しいさ！！お前は・・・絶対に倒す！！お前を，越えてみせる！！」
「いいだろう。けど、それだったらいつでも勝負できるほうがお前にも好都合
なんじゃないのか？」
「う・・・」
「いつでも、勝負はうけてやる，だから、一緒に暮らそう？な、ルイ？」
「ああ・・・すぐにお前なんか抜いてやるから，覚悟しとけよ！！」