Phantasy star
〜Algol Final〜


第六章 魔を受け継ぐ者

「いくぞ、ルディ!!」
「ああ・・・来いっ!!」
アイードの近くの山林の中を今朝も威勢のいい声が響きわたる。テルミでの一件
から一週間,ルディとルイが早朝にここで戦うのは,既に日課となった感さえある。

「ふぅわ〜あ,まったく,飽きもせずよくやるぜ。」
様子を見に来たスレイも若干呆れ顔である。
二人はスレイが来ていることにまったく気づいていない,天地には己以外の何者も
いないかの如く,一心不乱に剣から火花を散らしている。
「(こいつ・・・日増しに強くなっていやがる・・・けど、そう簡単に一本取らせる
 わけには,いかない!!)」
ルディは楽しんでいた,我が子の恐ろしいほどの天賦の才を。ルイが自分を追い抜く
のもそう遠くはないだろうことも薄々感じている。ルディにそれを妬む気持ちは全くない,
けれどかといってすんなりと後進に道を譲る気もない,ルイの存在は戦士としての彼に
この上ない刺激となっていた。

「みんな、朝ご飯できたわよ!!」
むこうからファルの呼ぶ声がする,二人ともその声に気づき,汗を拭いながら家の方に
向かっていった。

「・・・(いける!!)」
ルイは手応えを感じていた,確実に自分が強くなっているのを感じる,相変わらず
一本すら取れないが,だんだんと良い勝負をするようなってきた。
「(これなら、ルディを叩き出せるのもそう遠くはない・・・けど・・・)」
そこでまたルイは考えた。
「ルディのヤツと戦うのも,あれで結構,楽しいんだよなあ・・・」
依然としてルディと口をきく気にはなれない,けれど何か最初に会った時の嫌悪感
みたいなものとは明らかに違う感情が自分の中に少し芽生えてきている気もした。

「で、ルディ,これからどうするつもりなんだ?」
ティーカップを傾けながらスレイが尋ねる。
「あれから一週間,幸い敵さんは音沙汰なしだが,まさかこれで終わりなワケはないって
 事ぐらい、わかってんだろ?」
「ああ・・・」
「なら、出かけようぜ,ここにいても事態は変わらないし。」
「居候の食いぶちもかさむし、な。」
「んだとぉ!!」
「事実だろ!!」
「まったく・・・仲がいいわねえ・・・」
朝っぱらからの、ルディとスレイの口げんかに、ファルは止める気も起きず、平然と
紅茶を飲んでいる。

「とにかく、デゾリスにでも行ってみない?何か手がかりがつかめるかも?」
そう提案したのはファルである。
「デゾリス!?デゾリスって・・・あのデゾリス?」
驚きファルに尋ねるルイ。
「ええ。」
「”ええ”って・・・どうやって?」
「ナルバスに行けばなんとかなるでしょ。」
「ナルバス?」
「このモタビアを管理するシステム全てのエネルギー供給基地,臨時のシャトルも
 まだ残ってるかもしれないわ。」
「よし、決まり・・・だな!!」
「ああ!!」

それから数時間後,四人はナルバスに着いていた。
「妙だな・・・」
「妙って、何がだよスレイ?」
「ここの入り口は土でフタがしてあったんだぜ、けど、掘り起こされた跡がある。」
「掘り起こすって・・・誰が?」
「知らねえよ!ただ、多少の警戒は必要ってコトだな。」

そして地下に潜り,ほどなくメインシステムまであと少しと言うところについた,
しかし入り口の件があった以上,その静けさはかえって不気味であった。そして、
最深部のメインシステムにつくと、一人の男が立っていた。

年齢は16、7であろうか、黒甲冑に身を包み,髪と瞳の色も黒,腰には一剣を
携えている。体格は同年代のパルマ人と比べ,ごく平均的であるのに、醸し
出される殺気は尋常ではない,まるで氷のような殺気である。

「あ、あんたは・・・」
気を呑まれそうになりながらもルイが男に話しかけた。
「私の名はローク,ジオの血を受け継ぐもの・・・」
「てことは・・・ジオの息子!?」
「はい。」
「ジオに,息子がいたのか・・・」
「おいルディ!!なんだよそのジオってのは!!」
「アルゴルを滅ぼそうとした男、そして、俺の師であった,ライラを殺した男だ。」
「ええ・・・けれど、そんな男にせよ父には変わりはなかった・・・」
静かな口調でロークは語り続ける,
「父を惑わしたのはダーク・ファルス,そして父を殺したのはルディ、あなただ。」
「・・・・・・」
「父は私に子供の頃から剣術を教えてきた,きっと私もダーク・ファルスのしもべに
 したかったのでしょう、そして,父の死後,私は人々から排除され,母も逃げ,
 己の力のみで生きてゆくしかなかった。そして、自分をそうさせたのは,ダーク・
 ファルスとルディ・・・父の,そして自分の人生を破壊した者を討ち滅ぼすこと
 から、私の人生は始まる・・・死んだと思ったあなたと、滅んだと思った闇,
 双方が再び世に出るは我が喜び,そして、魔族が再び出たことはあなたを必ず
 デゾリスに向かわせるだろう・・・そう思い,ここ、ナルバスで待たせてもらった。
 そして、案の定やってきた。あなたが父を殺めた所で私があなたを殺めるのも
 何かの縁・・・仇,取らせてもらう!!」

「悲しい・・・男だな」
「哀れみなどはいらない!!いるのはルディ、お前の首!!」
「残念ながら,こっちもハイどうぞって渡せるような,安っぽい命は持ち合わせちゃ
 いないんでな・・・勝負ならうけるぜ。」
「では・・・いざ!!!」
「尋常に!!!」
二人の体から気合いが発せられる,その衝撃に、ルイは思わず後ずさりをした。
「なんだよルディのヤツ,俺と戦ってるときと全然違う!!」
「当たり前だろう・・・見ておけルイ・・・これが、お前の親父の本気だ。」
ルディとロークの剣がぶつかり合う,実力は伯仲,一進一退,その戦いは,まさに
龍虎のぶつかり合いと言うに等しい。しかし途中からロークの方が押し気味に戦いを
進め、ルディは防戦に回ってきた。
「もらったぞ・・・ルディ!!」
ロークの剣が凄まじいばかりの速度と破壊力をもって振り下ろされる,それに対し
ルディはピクリとも動かない。
「危ない!!」
思わずルイが声に出して叫んだ。
「もらったのは・・・こっちだ!!」
ルディはロークの剣を紙一重でかわすと,その無防備に開いた脇腹に強烈な一撃を
叩き込んだ。
「ぐふっ・・・!!」
声にならない声をあげて吹き飛ばされるローク,しかし彼は苦しそうな声をあげ
ながらも生きていた。
「貴様・・・剣の腹で・・・何故だ、何故殺さない!!」
「なんとなく・・・さ。」
「今は退くが、俺を生かしておいたことを・・・後悔するな!!」
「のっけから,そのつもりだ。」
その言葉を聞くとロークは「ヒーナス」を使いフッと姿を消した。
「ひでえや・・・」
ルイがポツリとつぶやく。
「ようやく、あんたの背中が見えてきたと思ったら,また引き離されちまった・・・」
「ああ・・・けど、差は縮まってきてるぜ,確実にな。」
「・・・・・・」
「なあルディ,一つ,教えてくれないか?」
「なんだ?」
「最後のアレ,なんで直前までかわさなかったんだ?」
「ああ、あれか。カウンターってヤツだよ、相手の力を利用して威力を倍増させる,
 ただ、実戦での冷静さが何より必要だがな。」
「へえ〜,昔大暴れしてシャトル一つブッ壊したヤツが冷静さねえ・・・」
「るせぇ!!あん時はお前も似たようなモンだったろ!!けど・・・どうしたんだ
 ルイ,いつもは俺に戦術のコトなんて聞かないのに。」
「お前、ムカつく奴だけど強いからな!見てろ,お前からどんどん吸収して、すぐ
 にお前を追い抜くからな!!」
「ああ・・・けど、そう簡単にはいかせないぜ?」
「フン,せいぜい首を洗ってまってろ!!」

「おい・・・どうしたんだファル?」
ルディとルイの会話を涙を流しながら見ているファルにスレイが言った。
「うん・・・ルイったら,今までルディと口もきこうとしなかったのに,初めて
 ルディに,自分から話しかけてるのが嬉しくて・・・」
「ああ・・・まだ,わだかまりはあるが、これも、時間が解決するだろ,それより
 何か使えそうな宇宙船はあったか?」
「ええ、オート操作でデゾリスまで行けるのが!!」
「よしっ!!じゃあ行くかデゾリスへ!!おいルディ!ルイ!!行くぞ!!」
「行くぞルイ・・・準備はいいか?」
「あ、当たり前だ!!お前こそ,ついてこられなかったら置いて行くからな!!」

第六章 終わり
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