Ｐｈａｎｔａｓｙ　ｓｔａｒ
〜Ａｌｇｏｌ　Ｆｉｎａｌ〜

「ここが・・・デゾリス・・・」
生まれた初めてデゾリスの土を踏みしめるルイ，しかしどこか調子が悪そうである。
「どうしたの、ルイ？」
心配そうにファルが尋ねた。
「ウン・・・ちょっと寒くて・・・それに少し、めまいがして気持ち悪い・・・」
「大丈夫？」
「うん、なんとか・・・」
「少し、宇宙船酔いしたんだろ。それに、デゾリスは初めてじゃ無理もない。ほらルイ，
　コイツも着るか？」
そう言うとルディは自分がはおっていたジャケットをルイに差し出した。
「だ、大丈夫だっていってんだろ！！」
「人の好意は受け取っておくモンだぜ，ルイ？第一，そんな青白いツラして途中で
　ブッ倒れてもしらねえからな。」
「・・・やっぱり、借りとく。」

それから一行はしばらく歩き続けた，氷の壁は既に無く，道中に支障はない。そして
四人はエスパーの館の前に来ていた。

「んじゃ、俺はちょっと長老の所に行って来るわ。」
館に入るなりスレイが言った。
「なんだよ〜，後にできねえのか？シェスとかもお前に会ったら喜ぶだろうに。」
「いや、ちょっと急ぎなんで・・・」
そう言うスレイの様子は何か普段の彼とは違いソワソワしている。そんなスレイの
前に一人の女の子が走り寄ってきた。

「お帰りなさい，パパ！！」
年は十歳位だろうか，エスパーの修道服を着，青いショートカットのいかにも元気
そうな女の子は，間違いなくスレイを「パパ」と呼んでいる。
「パ・・・パパァ！！！？？？」
腰をぬかさんばかりに驚いたのは言うまでもなくルディとファルである，そんな
ことは全くスレイから聞かされていない。
「こっコラ，あっち行ってろ！！」
顔を赤くし，自分にまとわりついてくるその女の子を振り払うような手振りを
しながらスレイが言う。しかしそのこの方はスレイの慌てぶり全く気にしていない。

「ふ〜ん、だ・か・ら，さっさと逃げようとしたってワケだ。」
顔に満面の，意地悪そうな笑みを浮かべスレイを羽交い締めにするルディ，その間
ファルは膝をかがめその女の子に話しかけていた。
「ねえ？スレイがお父さんなの？」
「うん！！」
「じゃあ、お母さんは？」
「シェス・ウォルシュ！！」
二人が予想した通りの返事に思わず目を合わせてニヤリとするルディとファル，
そして今度は女の子の方からファルに質問してきた。
「ねえ、二人とも，パパの知り合い？」
「ええ、そうよ。」
「その耳・・・じゃあもしかしてあなたがファルおばさん？」
「え、ええ・・・」
「だとすると、向こうのがちょっと頼りないっていつもママが言ってる，ルディ
　おじさん？」
「あ、ああ・・・」
と、そうこうしているうちに向こうからシェスがやってきた。やはり大人びては
いるが，全体的な雰囲気からすぐに向こうから来るのがシェスだと分かった。

「ナーシア，どこに行ったのかと思ったら・・・え？ファル！？ルディ！？」
「・・・シェス・・・お前，俺達のことを自分の子供にどう説明してるワケ？」
「まったく・・・私だって十三でオバサン呼ばわりされたくないわよ！！」
「まあまあ、いいじゃないのそんな事，それより、そっちにいるちびルディ
　みたいなのは、やっぱり・・・」
「ああ、こいつか？ルイって言うんだ。ま、もろもろの事情で，俺のことは好きじゃ
　ないみたいだが、な。」
「ふ〜ん、かわいそうに。お父さんの遺伝子が勝っちゃって。」
「相変わらず言うことがキツイなあ・・・」
「まあ、ね。三つ子の魂百までって言うじゃない？」
「ま、そりゃそうだけど。しっかし・・・」
ルディは少し声を潜めた。
「（ルツと夫婦なんて事がばれたら大変なんじゃないのか？）」
「まあね、その事はここじゃ御法度だし。あ，そうそう、この子はねナーシアって
　言って，今十歳なのよ。けど、立ち話も何だから向こうで話さない？」
「ええ、そうしましょ、ルディ。」
「うん、じゃあそうしようか。」

それからルディ・ファル・スレイ・シェスの四人は部屋で雑談をはじめた。懐かしい
旧友との再会に、言葉は尽きない。
けれどそういった時間というのは得てして子供には退屈きわまりないものである。
ルイも暇を持て余し，エスパーの館の中をうろついていた。そんな時，後ろから
誰かが肩をポンポンと叩いてきた。

「あれ、君は確か・・・」
「ねえ、あなた、確かロイって言ったっけ？」
「違うよ！ルイ，ルイ・アシュレ！」
「あ、そうそう。ねえ、そっちこそ、自分の名前間違えられて怒るくらいなんだから
　もちろん、私の名前くらい覚えてるわよね？」
「え・・・え〜と・・・・・・」
「なによ〜，そっちなんてカケラも出てこないじゃない。いいわ、もう一回だけ教え
　てあげる、ナーシアっていうんだから、ちゃんと覚えてよ！！」
「う、うん・・・」
「ところであなた、年いくつ？」
「八歳。」
「へ〜，ガタイの割にはあたしより年下なんだ。ま、そんな事はどうでもいいわ，
　それより、あなたもヒマみたいだから、ちょっと外でない？」
「外って・・・どこへ？」
「ま、それは行ってみてのお・た・の・し・みってヤツよ。」
「けど・・・」
「まったく・・・だらしないわよ！！男のくせに！！それとも何？ママと一緒じゃ
　なくちゃ、出られないなんて言うんじゃないでしょうね？」
「だ、誰もそんなこと言ってないだろ！！」
「じゃあ、行きましょ。」
「あ、ああ！行ってやるさ！誰も行かないなんて言ってないだろ！！」

ルイは人付き合いというものが苦手である。幼い頃から常人とは明らかに違う成長
の早さから，そしてハンターという職業柄もあって，同年代の友達は全くいないと
言ってもいい。そんな彼にナーシアのような存在はかなりの戸惑いを伴うもので
あったが、同時に，新鮮な嬉しさをも与えていた。ルイが何のかんの言ってついて
いったのもそれだからである。

「さ、ついたわ。」
エスパーの館を抜けだし，三、四十分程歩いたであろうか，ルイは、今までに見た
こともないような機械的な建物の前に来ていた。
「これは・・・？」
「ウェポンプラント。あたしのお気に入りの遊び場よ。さ、入りましょ？」
そう言って中に入ったその感じは，ナルバスによく似ている，しかし、兵器と
思しき機械の数は先のナルバスの比ではない。
「すごい・・・」
思わず感嘆の声をあげるルイ。
「ここのセキュリティシステムは、あらかじめ止めておいたわ，だから別に動かない
　から，心配しなくて大丈夫よ。」
「セキュリティを止めたって・・・どうやって？」
「趣味よ趣味，館には結構古代超文明に関する本もあるからね，機械関係も結構，
　面白いのよ。ほとんどのエスパーは，興味ないけど。」
「ふ〜ん。」
そんなので、こんな巨大な建物のロボットを動けなくできるのかと思うと，妙に
ナーシアのことを感心したりもした。

「ん？」
「どうしたのルイ？」
「いや、今何か地響きみたいな音しなかった？」
「さあ・・・」
「本当に，全部止まってるんだよね？ここのロボット達・・・」
「バッカねえ、そんなの決まってるじゃ・・・！！」
壁の一角が爆風で崩れ，一体のロボットが姿を現す，巨大な体に金色のボディ，
最強のガードロボット，ドミネーター（支配者）である。
「な、なんだよコイツ！！」
「シンニュウ者，二体カクニン・・・ＴＥＲＭＩＮＡＴＥスル・・・」
「冗談じゃないわよ，こんなヤツに殺されてたまるか！プロセダン！！」
ナーシアの掌から「プロセダン」のテクニックが発せられる，しかしドミネーターの
ボディには，何一つ変化がない。
「外した！？」
「ＯＦＦＥＮＣＥ−フォノン・メーザー・・・」
機械特有の無機質な声とともに肩が開き衝撃波が発せられる，
「くっ・・・」
全身を防御に集中させ，何とかこらえる二人。しかしその隙にドミネーターは
間合いを詰めナーシアを蹴り飛ばしていた。
「ぐっ・・・」
ガードの上からの蹴りであるにも関わらず，体重が軽いせいもありナーシアは
後ろの壁まで吹き飛ばされ，激しく体を打ちつけられていた。
「ナーシア！！」
慌ててナーシアの元へ駆け寄るルイ。息はある，しかし腕の骨を折られ気を
失っている。ドアまでは遠い，とてもナーシアを担いで逃げるなんて，できそう
にない。

「せっかく・・・初めてできた同い年くらいの友達・・・死なせはしない，俺が，
　俺が守る！！！」
剣を持ち直しドミネーターと対峙するルイ，しかし何をすればいいか分からない。
ドミネーターを巧みに誘導し，注意を完全に自分に向けさせることは出来た。
けれど，自分の剣であんな巨大な相手を切れるのか，自信はなかった。
「どうする・・・どうすればいい・・・こんな時，ルディだったら・・・」
ルディがロークとの戦いの後言っていた言葉が頭によみがえる。「カウンター」
それを使えば，比較的脆そうな上下のジョイントなら切れるかもしれない。
「冷静さだ、冷静になれ・・・」
ドミネーターは速度を上げて迫ってくる，それを直前まで引きつけるのは非常に
危険な賭と言えた。
「！！何っ！！」
かわしが間に合わず強烈なパンチをくらいルイは吹き飛ばされた。全身に激痛が
走る。しかし剣を杖とし，何とか立ち上がった。
「く・・・くそ・・・まだ、まだだ！！」
「戦闘イシ未だＣＯＮＴＩＮＵＥ・・・排除スル・・・」
そういうとドミネーターは再び迫ってきた。
「俺が・・・俺が死んだらナーシアも死ぬ・・・それは、させない！！」
確たる決意を胸に秘め，ルイは敵が射程距離にはいるのを待った。
「まだだ・・・まだ・・・」
ドミネーターの機械的な足音が迫る，ルイは依然と剣を構えたまま，一歩も
動かない。額を汗が走る。この一撃だけは，絶対に外すわけにはいかない。
「・・・・・・見えた！！」
ドミネーターのパンチを紙一重でかわし，ルイは懐に潜り込む、そしてその勢い
で、ドミネーターのジョイント部分を一気に切り裂いた。
「ガ・・・」
ドミネーターはその活動を完全に停止した。
「ハア・・・ハア・・・くっ」
緊張の息が切れ、急に傷が痛み出す。ルイはそのままその場に倒れ込み，急速に
意識が薄れていった。

「う・・・ここは・・・？」
「や〜っと，目が覚めたか。この悪ガキが。」
「え？ルディ？てことはここは・・・」
「エスパーの館だよ。ったく、ドコに行ったかと思えば・・・けど、あの
　ドミネーター，お前らが倒したのか？」
「え？うん、まあ・・・」
「そいつは、大したモンだ。自信を持っていいぜ。」
「なあ，ナーシアは・・・？」
「ああ、あいつか？心配しなくていい，お前よりは軽傷だ。」
「そっか・・・」
その言葉を聞いてほっとするルイ。けれど何か他に妙な気分がした。
「（何だろう？この感じ・・・？）」
ナーシアという名前を言うだけで胸がドキンとし、プラントでの会話を思い出す
だけで何か，嬉しいような，締め付けられるような気がした。
「どうした、ルイ？」
「な、何でもない！！」
ルディの一言で我に返り，慌ててさっきまでの妙な気分を振り払うかのように
ルイは返事をした。
「んじゃ、出るぞ。」
「出るぞって・・・？」
「ここにとどまっていても事の進展は見られそうにないんでな，どっか他の所に
　行って情報収集しなくちゃな。」
「そっか・・・じゃあナーシアとも・・・」
「ちょっとお別れだな。ま、今回のカタが付いたらまた会えるさ。」
「うん・・・」
「どうした，寂しいのか？」
「そ、そんなことない！！さ、行こう！！」
そうして４人はエスパーの館を後にした。ルイは後ろを振り向けなかった。
後ろを向くと涙が出そうで，泣くのは悔しいから振り向けなかった。

「パ〜パ〜！！ル〜イ〜！！」
「え・・・？」
後ろからする声にドキッとし、慌てて後ろを振り向くルイ。そんなルイの動揺を
よそに，ナーシアはしゃべり続けた。

「ひっどいわねもう！！黙って行くなんて！ま、とにかく，私もついてく事に
　決めたから，よろしくね！！」
「あ、う、うん！！」
相変わらずナーシアの勢いに圧倒されながらもルイは心底嬉しそうである。
「ついてくって・・・ダメに決まってんだろ！ナーシア！！」
「ママのＯＫは貰ってるわよ！第一，いつもいるママのＯＫと、留守ばっかりの
　パパのダメと，どっちが確実だと思うの？」
「な・・・」
あれから十二年，スレイは相変わらずあちこちを放浪している。館に帰ってくる
のはせいぜい一年に二、三回位，父親らしいことをロクにしていないのはスレイ
も十分に分かっている。そしてそれでも自分になついている娘を心底かわいくも
思っているのである。何か一つ，ルディのように父親らしいことをここでするのも
悪くない，そんな気がした。
「そうか・・・なら、ついてくるか？」
「もっちろん！！」
「けど、足手まといになるようなら，すぐに，帰れ。いいな？」
「うん！！」
スレイの手厳しい言葉も上の空に，ナーシアは館を出て旅にでれることが嬉しくて
仕方なかった。
デゾリスに着いたときに降っていた雪ももうやんでいる。雪の後の晴れ渡った空の下，
ナーシアを加え，五人は再び歩き始めた。

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