幻之星学園番外編
〜知られざる人々〜
第一部 アバンチーノ氏
第２話 学園式典序曲作曲秘話
アバンチーノ氏はいつものようにまた作曲をしていた。
今度は、後にお世話になる夢幻之星学園から、創立記念式典用に吹奏楽部で演奏する曲を作曲して
欲しいという依頼だった。
「うーん。バロック調にするか、ロマン派調にするか」
またしても悩む彼。
以前は教会音楽だったため、曲調はバロック風でなんとかなったが、今回の依頼は特に細かい指定
はなにもなく、どうやって作曲すればいいのやら、まったく見当もつかない。おまけに、期限は３
週間以内という、シビアさである。
「また、バロック調でいこうっと。それも、王宮音楽みたいなやつで」
考えに考えた末に、彼はそう結論を出し、作業に取りかかった。
作業に取りかかると、彼のペンは早い。
各パートの楽器の楽譜を見る間に、それも同時に書いていった。
そして、彼は出来上がった楽譜をピアノを使って試しに弾いてみる。
ピアノから各パート（ピッコロ、フルートのパートから始まり、低音金管楽器チューバのパートに
至るまで）を丹念に弾き、細かい修正を施すと、見事な王宮バロック音楽が完成した。
まるで神業である。
しかし、彼はそれで満足せず、ついでにその曲の姉妹編を作曲し始めた。
この姉妹編の曲もやはりバロック音楽で、最初に作曲された曲同様、神業のような彼の手によって
たちまちできあがった。
「最初の曲の題名は・・・『学園式典序曲』にして、これは『献呈序曲』としておこうか」
と、言いながら楽譜に題名を書く、一仕事を終えた氏。
ここで、氏はとんでもない間違いを犯した。
「あれっ・・・。しまった。題名を。うおお、間違えた」
題名を書き終えた後、自分のミスに気付く氏。
「学園式典序曲」と書くところを「献呈序曲」と書き、「献呈序曲」としなければならないのに
「学園式典序曲」としてしまったのだ。要は、それぞれの楽譜の題名を書き間違えたのであるが、
作曲者の氏としてはショックだった。
これに固まってしまったアバンチーノ氏。
しかし、書き直すとすれば、期限に間に合わないのは確実である。
氏は困ったが、泣く泣くそのまま、学園記念式典用の曲ができたと、学園に連絡した。
後日、夢幻之星学園の創立記念式典に招待された氏は、どきどきしながら最後列の席に着席した。
「ただいまより夢幻之星学園創立××周年記念式典を挙行いたします」
アナウンスが流れると、吹奏楽部の演奏が始まった。
トランペットの華やかなファンファーレに続いてバロック調の音楽が講堂一杯に広がった。
それを聞いてほっとするアバンチーノ氏。
「献呈序曲」にする予定だった曲に、間違えて「学園式典序曲」と題名をつけた曲が、記念式典に
ぴったりと合っていたからだ。
偶然がここでも彼を救ったのだった。
で、本来「学園式典序曲」とされる予定だった曲は後にピアタ市民交響楽団によって演奏され、
その華やかな王宮バロック音楽の調べに、公演先の村や街の人々は聞き入ったということである。
（つづく）
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