夢幻之星学園番外編
〜知られざる人々〜
第一部 アバンチーノ氏
第５話 （第一部最終話） それから
歴史ある学園の別館が新築されたのは、アバンチーノ自身が大学を卒業する時だった。
その当時を振り返る彼。
すでに何年経っているだろう。
歴史を振り返ってみても、この学園の存在が不思議である。
いつ創立されたのか・・・。少なくとも子供の時には存在していた。
彼のおじは別館に設置するオルガンの受注を受けて、毎日でかけていたっけ。
すると甥の自分はそれを弾いているということになる。
運命とは不思議なものだ。
「わしは、心残りがしてならん」
おじが死ぬ数日前に彼に言った。
それは何か、と聞くと、おじは
「オルガンを作ったのはよいが、誰が奏でてくれるのか、ということだ」
と答えた。
職人一筋に生きて来た者にとって、これほど寂しいことはないのだろう。
「誰かが、きっと奏でてくれますよ。作者がどなたでも、名前がわからなくても」
アバンチーノがおじにそう答えておいた。
おじはしばらくして、違う仕事場で倒れた。
脳卒中らしい。病院に運び込まれたが、そのまま帰らぬ人となった。
葬儀が終わって、彼は学園の別館に赴き、おじが作ったというオルガンを見てみた。
実際は古くなって動かなくなったのを改装修理されたということだったが、おじが
本当に作ったように見えたものだ。
彼が貧乏作曲家としてデビューし、後に学園の音楽講師として招かれたのはこれまた
偶然だった。もしかしたら、亡くなったおじがここに呼び寄せたのだろうか。
それは神の知るところではあるが、そう思わざるを得ない彼だった。
曲の調べが変わり、コラールに変わり、やがて鎮魂歌になり、そしてまたコラールが
別館に鳴り響く。
荘厳な調べはやがて大きくなり、テンポも徐々に遅くなって終わった。
壮大かつ長い、オルガン交響曲のような作品を弾き終えた彼は、席を立つと送風機の
スイッチを切り、そして演奏台の１３階段を下りてゆく。
どてっ・・・・。
どたたっ・・・。
階段を踏み外し、転げ落ちる彼。
最初も最後も彼の場合、変わらない。
人知れず、学園のオルガニストにして音楽講師の彼はたぶんにもれず、理解しがたい
人物とされるだろう。
しかし、後にこういう人がいた、ということぐらいは語り継がれるでありましょう
（おわり）
第二部を読む
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