時の果てに
第１話 『何気ない一日』
惑星リアンにある大陸の一つアファールズ大陸にある大きな湖の側に小さな村がある。その村の名前は
クラグと言い名産は湖付近で採れる様々な薬草などで、アファールズ大陸に出まわっている薬はクラグ
産の物が多い。そのため、薬草を採りに来る人が多いので都市のように賑わっている。
このクラグに居る少年、アイン＝シュラット。彼の髪は鮮やかなまでの緑色をしていて長さは腰の辺り
まであり首の後ろで無造作に縛っていた。緑色の髪は珍しいので人ごみの中を歩いていても知り合い
などに簡単に発見されてしまう程目立つようだ。
アインが湖に面した草原で自分の腕を枕代わりにして寝転んで空を眺めていると髪が赤い少年に声を
かけられた。彼の名前はフォード＝ガーゼル。アインの緑の髪と同様にフォードの赤い髪も目立つ方で、
互いにはぐれたとしても発見するのはたやすい事だろう。
「なぁ、アイン。お前、良く飽きないな？」
「実は・・・腕が痺れて動かないんだよ」
長時間自分の腕を頭の下敷きにしていたので仕方が無い事だろう。フォードはアインの腕を取り頭の下
から退かした。
「腕の感覚が完全に無いし・・・」
一応腕を動かそうと試みたが、本人の意思を裏切り腕は一向に動く気配は無かった。それを見たフォー
ドは楽しそうに笑いつつポケットの中から小さな針を取り出してアインの腕に刺した。痛みは全く感じ
ないが、感覚が戻って来る気配も無い。
「どうだ？」
「何とも無いけど・・・？」
「完全に麻痺してるな」
「・・・動くようにしてくれたんじゃ無いのか？」
「俺にそんな技術があると思うか？」
最高の笑みを浮かべて笑うフォードをアインは殴り飛ばそうとしたが、腕が思うように動かず意味も無
く踊っただけだった。フォードはアインが何をやろうとしているのか察知したらしく射程外へ下がった
ので追いかけようと思ったが、同じ事を繰り返すだけだろうと思ったアインは何もしないで腕の回復を
待つ事にした。
「じゃぁ、何で刺したんだよ！」
「痛覚も麻痺してるだろうなって思ったからだよ」
その後、アインの腕に感覚が戻ってからフォードが殴り飛ばされたのは言うまでも無いだろう。
「・・・そう言えば、アイン。頼んでおいた物はできたか？」
「ん、できてるぞ」
そう言うとアインはポケットの中から円柱状の物体を取りだしフォードに渡した。その円柱状の物体を
見てフォードは満足げに笑うと、その物体から伸びている糸を引き抜いてから遠くへ投げた。投げ飛ば
された円柱状の物体は放物線を描きつつ飛んで行き、地面につく前に空気が弾ける音と共に煙に変わっ
た。
「おぉ！ちゃんとできているようだな！」
「まぁな。火が要らない爆弾を作るってだけでも難しかったけど、爆発しても火を出さないヤツを作る
のには苦労したよ」
「どうでもいいけど、そんな物をポケットの中に入れて持ち歩くなよ。糸が何かに引っかかったりした
ら、ポケットの中で爆発するんだぞ？」
「・・・それもそうだな。じゃぁ今度から別の入れ物の中に入れておくか」
アインはポケットの中に手を入れて先程と同様の物体を数本取り出した。その内一つは『導火線』が無
く、いつ爆発してもおかしくないと言う状態だったのだがアインは笑いながら「これは失敗作だから安
全だって」と言ったが、その直後に失敗作は爆発した。
「アイン・・・基本に忠実で嬉しいぞ。けどな、そう言うのは俺を巻き込まないようにしてやってくれ
ると嬉しいんだけど」
「好きでやったんじゃないって！」
などとやっていると日も沈んだので、そろそろ帰る事にした。クラグには街灯が無く、日が沈むと同時
に辺りは暗くなるので、その前に帰らなくてはならない。別に月明かりを頼りにしても良いのだが、ク
ラグには場に似つかわしくない大きなビルが一つ建っているのだ。そのビルが月明かりを遮る場所もあ
り日が沈むと同時に何も見えないほど暗くなる。そのため日が沈む前には家に帰っていないと無事に帰
れなくなる。
このビルは『ラムセイド製薬』が建てた物らしい。クラグでは天然の薬草などが簡単に取れるので、ク
ラグ支部として手を伸ばしてきたようだ。当初、このビルを建造する際にクラグの住民はかなり反発し
たようであったが、それらを全て無視するかのように無理矢理ビルを建てたらしくあまり快く思ってい
る者は少ないようだ。だが、ラムセイド製薬がクラグに支部を作った恩恵を受け職にありつけた者も多
いのも事実だが・・・。
家に帰ってきたアインは自分の部屋へ直行し焦げた服を脱ぎ捨てた。体には火傷が少しあったので薬箱
を取りに居間へ移動するとアインに良く似た少女が居た。その少女の名はサヴィス＝シュラットと言い
髪は緑色で長く、後頭部でリボンを使い縛っている。サヴィスはアインの火傷を見て何も聞かず薬箱を
取り、妙に手馴れた手つきでアインに手当てをした。
「もしかして・・・また？」
「それ以外に何がある？」
「・・・はぁ」
アインは何も言えなかったのは言うまでも無いだろう。
なぜか妙に手馴れた手付きでアインを治療したサヴィスは薬箱を元あった場所に戻した。相変わらずの
手際の良さにアインは傷口に消毒液が染みて痛いと感じる暇すら与えない程だ。これも『いつもの事』
なんだろうか・・・？
「あ、アイン。ちょっと待って」
部屋に行こうとしたアインを呼びとめたサヴィスは最近・・・と言うより本日学校で教師が噂していた
のを立ち聞きして入手した情報を伝えた。
「あのラムセイド製薬の御曹司とか言うのが転校してくるらしいよ」
「・・・知ってるよ」
苦笑しつつ答えるアインにサヴィスは多少焦りつつも、いつ知ったのかを聞いて更に驚愕した。ゆっく
りとした口調でアインはこう語った。
「大体、半年位前だけど？」
「は・・・半年って・・・。まだラムセイド製薬のビルが建つ前じゃない！？」
「いや、僕もフォードに聞いたんだよ。何でも決して人には言えないような事をやって知ったとかで」
「・・・・・・・」
サヴィスはフォードの事を良く知らないが、アインに聞かされた範囲で知っていた。そして、フォード
ならやりかねない、と思ったようだ。
「納得してくれたようだから僕はもう寝るよ。明日は科学の授業があるからね」
「・・・・・・・。おやすみ」
「おやすみ」
それだけ言うとアインは部屋に向かって歩きだした。
次の日の朝、いつもなら遅刻寸前に目を覚ますはずのアインが３０分以上も前に家を出ていた。ちなみ
にサヴィスは既に学校へ行っているらしく家には居ない。一体、いつ頃家を出ているのか不思議に思え
る。そんなに早く行ってどうするんだろう、と疑問に思ったアインは以前に尋ねた事があった。そして
返ってきた答えは簡単だった。
「何となく」
「あー、そう・・・」
・・・としか言いようが無かった。
学校へついたアインは早速フォードに挨拶変わりに狙撃された。と言っても玩具の銃なので死にはしな
いが、結構痛い。何処から狙撃されたのか見当が付いていたアインは迷う事無くフォードの居る屋上へ
と向かった。そして予想通りにいたフォードに向かって文句を言う。
「痛いじゃないか！」
「悪い、ついやっちまった」
「つい、じゃない！」
怒るアインに向かってフォードは冷静に、アインの怒りを静めるかのようにモデルガンを構えた。
「アイン、これが本物の銃だったら・・・お前、死んでいるんだぞ？」
「・・・・僕は別に日常生活において誰かに命を狙われる覚えは無いんだけど・・・」
「ま、そりゃそうだけどな。だが、数メートル離れた距離から銃口を向けられても・・・狙撃されても
回避できるようになってもらわないと俺が困る」
「なんで？」
「何となく」
「・・・」
などと馬鹿な事をやっていると予鈴がなったので教室へ向かう事にした。無論アインは途中で後ろを歩
くフォードの足元に円筒状の物体を投げた事は言うまでも無い。円筒状の物体は炸裂したと同時に無数
のプラスチックの破片をばらまいた。当然、かなり痛い。当たる場所によっては、それで済む問題でも
無くなる。
「腕を上げたな、アイン・・・。今のがプラスチックの破片じゃなくて金属片だったと思うと・・・」
「油断大敵ってね」
「その言葉、そのままそっくり返してやるよ」
なぜか笑いを堪えつつ言うフォードを見て一体どうしたのかと聞こうかと思った瞬間に、その理由を理
解した。突然ポケットの中で『何か』が炸裂して無数のプラスチックの破片をばらまいた。
「・・・・・・なるほど、確かに」
「また暴発したな。その辺をもう少し何とかしないとな」
「あぁ・・・。けど、それよりも・・・」
「ん？どうした？」
「僕達って頑丈だな」
「いや、威力が無いだけじゃないか？」
「あー・・・。そう言う事にしておこうか」
教室に入った二人は早速席に付いた。それと同時に教師が入室してくる。どうやらギリギリ間に合った
らしい。教師が出席をとると同時に後ろの席に居るフォードが話かけてきた。
「・・・なぁ、アイン。もう『危険な物』はポケットに入って無いだろうな？」
「ん。さっきので全部だけど・・・？」
「授業中の暴発だけは勘弁してくれよ」
「あ・・・あぁ・・・。それは、もう、やらない」
以前にやった事があるのだろうか？
放課後になり、帰宅準備をしていたアインにフォードは部活があるから一人で帰ってくれ、と言われて
アインは仕方無しに一人で帰る事にした。その帰宅途中に言い表す事ができない何か…違和感を感じ、
辺りを見回した。いつもの風景、何も変わった所は無い。
「・・・気のせいかな？」
独り言を言い再び歩き出すと、前方に伸びたアインの影の一部が盛り上がり人の形になった。
「な、なんだ？」
状況が理解できずに居ると影は更に膨大し、黒い殻を破り姿をあらわした。その姿は左腕に無理やり金
属製の腕を付けたような化け物だった。とっさにアインは懐から『爆弾』を出そうとしたが、既に暴発
により全部爆発しているので何も出てこなかった。
「ぐぎゃー。」
やる気の無い雄叫びを上げると化け物はアインに向かって走り出した。それと同時に左腕から金属製の
爪が伸び、間合い内まで近づくとアインに突き刺した。
「がは・・・。」
口から大量の血を吐き、アインの意識は闇の底に沈んでいった。
続く
次回予告
フォード「と言う訳で、時の果てには主人公が死んだから次回からは・・・魔法少女・・ぐは。」
アイン「やめれ。」
フォード「殴る事無いだろう。冗談に決まってるだろーが。」
アイン「冗談でもやめれ。魔法少女プリティ☆フォードとか・・・考えただけでも・・・ぐは。」
フォード「誰がやるか！」
アイン「殴る事無いだろう。冗談に決まってるだろーが。」
フォード「冗談でもやめれ。」
アイン「だからって僕も魔法少女に覚醒する気は無いぞ？」
フォード「誰がやらせるか！」
アイン「それを聞いて安心したよ・・・。一体誰を魔法少女にしたかったんだ？」
フォード「言ってみただけだ、該当者まだ居ないしな。」
サヴィス「・・・・・・・。」
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