時の果てに
第２話 『変貌する世界』
確かに化け物の爪はアインを貫いていたはずだった。そこまではアインの記憶にもある。だが、気が
つくといつもの草原にいた。貫かれたはずの部分には傷痕など残っていない。あの時の痛み、死に
直面した絶望感は夢とはとても思えなかった。何より、どうやってココへ着たのかという記憶が無い。
「一体何が…。」
いくら考えてもわからない。確かに自分はあの時死んでいたはずだったのに、なぜ生きているのか。
アインは必死に記憶の糸を辿って行ったが、一向に思い出す気配は無かった。
これは数時間前の出来事である。
化け物に胸を貫かれアインが地面に崩れ落ちた数秒後に、空から何かが降ってきた。一見黒い矢のように
見える物体が７本、化け物に刺さる。それと同時に恐らく矢を放った本人であろう人が降りてきた。
その人の姿は人の物とは思えないような黒い色をした鋼鉄のような…だが、生命感のある鎧らしき物を
身につけているようだった。
「見つけたぜ…。貴様もこれで終わりだな。」
右手を掲げると同時に化け物に刺さっていた７本の黒き矢は元のあるべき所へ戻っていく。右肩に、
まるで翼のように綺麗に並んで矢が戻ると、形を変えて羽のようになる。その姿は方翼の堕天使にも
見えるようだ。
「…ん？まだ生きていたのか。意外としぶといな…。」
左手で右肩の羽を一つ取り、軽く振ると羽は剣に姿を変えた。
「誰か居るな…？出てきたらどうだ？」
「さすがですね。ばれてしまいましたか。」
「ラムスか…。何の用だ？」
「今回は貴方に用がある訳ではありません。そこで倒れている少年に用があるのですよ。」
「…そいつは既に死んでいる。相変わらず物好きだな。」
「この少年はまだ死んでいませんよ、ヴォイドさん。」
「…まぁ良い。そいつがどうなろうと知った事じゃない。だが、俺の邪魔はするな…。」
「えぇ、わかっています。」
ヴォイドと呼ばれた人は剣を握り直し化け物へ向かって走りだした。
「さて、と…。ヴォイドさんではありませんが邪魔が入る前にさっさと終わらせましょうか…。」
そういうとラムスはアインの胸に手を当てた。
「はーはははは！貴様の力はその程度か！あの時程の力は無いようだな！」
ヴォイドは剣を化け物へ突き刺し、再び羽を一つ取り軽く振る。今度は剣では無く槍に姿を変えた。
「どうだ？痛いか？だが、この程度では死ねまい。」
槍も突き刺し、今度は残りの５枚の羽を取り化け物へ向けて投げた。
「ゆっくりと殺してやるよ…。行け、メッサーシュミット！」
５枚の羽はそれぞれが意思を持ったかのように動き化け物の体を少しづつ切り刻んでいく。
「トドメだ！己の生き様を悔いて死ね！」
ヴォイドが両手を前に突き出すと５枚の羽は化け物の体に深く突き刺さり、いや正確には貫きヴォイド
の右肩へ戻っていった。
「しかし、ヴォイドさんも『レプリカ』相手に随分はしゃぎますねぇ…。」
「…どういう意味だ？」
「そのままの意味ですよ。アレは本体ではなく、玩具みたいな物です。」
「何だと？貴様…それを知っていて…。」
「あー、そろそろ邪魔が入りそうですので私はこれで。」
ラムスの姿が消えたと同時にヴォイドのメッサーシュミットが何も無い空間を飛び回った。
「ち…逃げたか…。まぁ良い…。ならば『レプリカ』も全て破壊するまで、だ。」
片方しかない翼を大きく広げヴォイドは空へ飛び立っていった。
その後、何処からか鋼鉄の･･･ヴォイドとは違い明らかに金属と見てわかる体をした男と一見普通の
人間に見えるが、何処と無く違和感のある女性があらわれた。
「…なんだこりゃ。」
男が化け物の死体見てそう言った。背負っていた大型の銃を向け生きているかどうかを確認しようと
したが、化け物体はバラバラに切り刻まれているので止めた。
「誰かが戦ったんじゃない？」
「そりゃあ見ればわかるけど。何もココまでやらなくてもよー。」
「…ラーガが戦えば消し炭すら残らないのに？」
女性が笑いつつそういうとラーガと呼ばれた男は、特に何も言わず銃を背に戻した。
「あら、誰か倒れているわ。」
「なら死んでるんじゃないのか？」
「いえ…生きているみたい。」
「…止めとけ、噛みつかれるぞ。」
アインに触ろうとしていた女性は一瞬手を止めたが、ラーガに石を投げて再びアインに手を伸ばした。
傷口を探してみたが、特に外傷は無く呼吸も規則正しい。ただ気を失っているだけのようだ。
「生きてるわ…けど気絶しているみたい。」
「見ればわかる。さて、それじゃあ戻るか。」
「ここに放置して行くのも気が引けるけど…。」
「家に送り届けるか？住所知らんが。」
「えぇ…。あ、確かこの辺に湖があったわよね。あの辺に置いていきましょ。」
「結局放置するなら何処でも同じだと思うが。」
「そうでもないわ。あの辺って結構寝るのに気持ち良いの。」
「…俺にはわからないな。」
そういうとラーガはアインを持ち上げ歩き出した。
という経緯があったのだが、当のアインには気づくはずもなかった。
「まぁ、良くわからないし…帰るか。」
そしてアインは日も暮れてきていたので、そのまま家に向かって歩き出した。
続く
次回予告
ラムス「いえ今回は趣向を変えまして次回予告は無しです。その代わりと言っては何ですが『ラムス＝
エルドリアの質問コーナー』なるものをやってみようかと。では本編をどうぞ。」
ラムス「しかし、ヴォイドさんの羽って便利なんですね。」
ヴォイド「ふ…俺の羽が気になるか。ならば教えてやろう！掃除したい時には箒の変わりになるし、
メモを書く時にはペンにもなる。だが紙は無いがな。そして、料理等の時には包丁の変わ
りにもなる。まぁ、刃物なら何にでも変える事ができるから当然だが。」
ラムス「はぁ…そうなんですか。」
ヴォイド「驚くのはまだ早いぜ！全７枚の羽だが、これは俺の意思に従い自由に飛ばす事だってできる
んだ。言うなればファンネルみたいな物だな。だが、ビームは出ないぞ？羽自体が刃物と
なりぶつける事で敵を切り裂くんだ。だが、この間は俺自身の防御が弱くなるのが欠点だが、
まぁ、それはそれ。そして更に、片方しか翼が無くとも空を自在に飛ぶことも可能だ！これ
は原理は良くわからんが、とにかく飛べるんだ。」
ラムス（あぁ、なんかまだ喋ってますね…。聞いたのは間違いでしたか。）
ヴォイド「…何か言ったか？」
ラムス「いえ、何も。」
ヴォイド「それでだな…。」
ラムス（いつになったら終わるのやら…。）
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