時の果てに
第３話 『戦火』
暗い森の中、一人の男が光に向かって走りつづけていた。既に息はきれ、体力も限界に近い。だが、
男は決して走る事を止めようとはしなかった。
やがて光の元へ辿りつくと、男は涙を流しつつ叫びつつ斧を構えて人影に向かって走っていった。男の
接近に影が気がついたらしく向きを変え、片手を男に向けると同時に光が伸び心臓を貫いていた。
口から血を吐きつつよろめき、斧を握る手に最後の力を与えて影に向かって投げた・・・・。
斧は影に受け止められ当たる事はなかった・・・。
次の瞬間、男は空高く舞い上がっていた。眼下に広がる光の中に先程の影を見つけると急降下して、
蹴りを放つ。続けて背中の、右肩にしかない翼から羽を一枚取り影に向かって投げつけた。羽は槍と
姿を変え影を貫いた。
男は動かなくなった影を見つめて再び叫んだ。その声は正に獣の咆哮と言ってもいいだろう。
「・・・・っ！」
そこでアインは目を覚ました。何かを確認するかのように辺りを見渡したが、自分の部屋には何の
異変もなかった。
「また・・この夢か・・・。」
化け物に襲われたらしいあの日から、アインは毎晩同じ夢を見ていた。この夢が何なのか、アイン
には理解する事ができない。だが、何処かで感じる懐かしい思いが妙に心地良い・・・。
ふと時計を見ると、まだ午前２時だった。寝てからまだそんなに時間は経っていないらしい。寝なお
そうかと思ったが、そんな気になれなかったので着替えて少し外に出る事にした。なぜか、そうしなく
てはならない気がしていた。
気の向くままに歩いていると、湖まで来ていた。いつも来ている場所なので何となく来てしまったの
だろう。特にする事も無く湖を眺めてみると、背後に気配を感じた。それも近くに。
「こんばんは、アイン・シュラット君。」
「・・・！？」
突然声をかけられ焦りつつも振りかえり、相手を見ると自分の知らない人である事に気がついた。
「貴方は・・・？」
「私の名前はラムス・エルドリアと言います。」
「えっと、俺の名前は・・・。」
「あ、それは存じ上げております。アイン･シュラット君。」
いちいちフルネームで呼ばれるのがあまり好きになれそうになかった。
「あまり時間がありませんので手短に用件を言います。アイン･シュラット君、貴方は一度・・・。」
「・・・とりあえず、フルネームで呼ぶのは止めてくれないか。」
「あぁ、これは失礼しました。ええとアイン君、で良いですか？」
「うん」
「では話を続けます。アイン君、貴方は一度化け物に殺されています。」
「・・・だとすると、俺は幽霊って事か。」
「いえ、正確には死にかけた・・・と言うべきですが。」
「で、それがどうかしたのか？」
「はい・・・。実は・・・。」
ラムスの話はアインには信じづらい物だった。何でも自分が人間では無いと言われたからだ。そして、
その力が解放された事によりアインは死なずにすんだらしい。
「その話を信用しろってのは無茶だなぁ。」
アインにしてみると化け物に襲われた事自体が夢の出来事のような物。その事があるから余計に信用
する事ができなかった。ラムスはなぜか満足そうな笑みを浮かべると何かを指さした。その方向には
何かが居る事はわかるが、それが何かはわからなかった。
「・・・あれは？」
「えぇ、あれが先日貴方を襲った化け物です。・・・名前は量産型ダークファルスといった所ですね。
これは前に私が捕獲した物なんですが・・・。」
「・・・・・・。」
「ふふっ・・・私が何を言っているかわかっていないようですね。つまり、あれと戦え、と言っている
んですよ。安心してください、アイン君は死にはしませんよ。私がサポートしますので。」
「そんな事急に言われてもなぁ・・・。」
「相手は待ってくれませんよ？」
「ぐぉぉぉぉぉぉ・・。」
やる気の無い雄叫びを上げ化け物、量産型ダークファルスはアインに向かって走ってきた。
「ちょ、ちょっと！！こんなのとどうやって戦えば・・！！」
「アイン君の力は既に解放してあります。この程度の相手に負けはしませんよ。恐らく、ですが。」
「恐らくって・・・そんな無責任な・・！」
アインと量産型ダークファルスの戦いは数分にも及んだ。アインはほとんど攻撃らしい攻撃はせず、
回避に徹している。
「やれやれ・・・あまり遊んでいる時間は無いというのに・・・。」
ラムスはアインの足に向かってフリエリを放った。当然アインは量産型ダークファルスの攻撃を回避
する事に集中していたため直撃してしまう。
「うわっ！？足が・・・。何するんだ！！」
「私は鬼ごっこのためにソレを捕獲した訳ではありません。戦いなさい。」
「そんな事言われたって・・・足が動かないんじゃ・・・。」
アインの足は黒焦げになっており、既に感覚がまったくない。倒れたままの状態のアインに向かって、
次の攻撃が来た。
「くっ・・・これまでか・・・。」
そう思いつつもアインは近くにある石を投げようとしていた。
「ふむ・・・。これは失敗でしたか・・・。」
と、ラムスが呟いたと同時にアインの体から黒い煙が噴出した。その煙はアインの体の周りで鎧の
ような形へと変化していった。
「おや・・・。」
黒い煙が消えるとアインの体は白い鎧らしき物を身につけていた。そして左肩にのみ翼を持っている。
「どうやら上手く行きましたか。さて、となれば・・・アレはもう用済みですね。」
ラムスが量産型ダークファルスへ向け右手をかざすと、量産型ダークファルスの頭上から雷が落ち一瞬
で黒焦げにした。
「あ・・え・・？」
アインには何があったかわからなかった。
「さて、これで私の計画を次ぎの段階へ進める事ができますね・・・。」
「計画？」
「いえいえ、貴方は気にする必要はありませんよ。」
「・・・・・。」
「では、私はこれで失礼します。」
そういうとラムスは何処かへ瞬間移動してしまった。
後に残されたアインは・・・。
「これ、どうやったら脱げるんだ・・・。」
と、困惑していた。
何処かの森の奥深くへ転移してきたラムスは、疲れたように腰を降ろした。
「困りましたね・・・。予定より時間が足りないというのは・・・。」
「ほぅ・・・。それはどういう事だ？それより、お前の計画が気になるんだが・・・。」
「ア、アルバートさん。いつからソコに？」
「・・・答えろ。」
「それはできません。答えると貴方は邪魔しますから。」
「・・・ならば、俺はこれからお前の邪魔をした方が良さそうだな。」
これ以上何を言っても無駄と判断したアルバートは森の奥へと歩いて行った。その後ろ姿を見つつ
ラムスは困ったような笑みを浮かべていた。
「余計な事を言ってしまったようで・・・。ですが、これも・・・丁度良い演出になるでしょう。」
湖には既にアインの姿は無く、変わりに別の人影が黒焦げになったモノの付近にいた。一人は全身が
金属で出来ているように見える。もう一人は何処にでも居るような普通の女性のような感じがするが、
どこか違和感がある。
「・・・また破壊されているな。」
「えぇ・・・。でも、こんなになる程の攻撃なんて人間業じゃないわね・・・。」
「ラーガルードなら可能だが・・・あいつは戦ってないらしいし・・・。」
「私達以外にも、対ＤＦ組織があるとは思えないし・・・一体誰が・・・。」
「これじゃぁ、メイランの報告通り・・・『通りすがりの強い人』が倒したとしか考えられんな。」
「・・・とりあえず、コレ。このままにしておく訳にもいかないし、回収しましょう。」
「了解。」
黒焦げになっている量産型ダークファルスを抱えた金属でできた人は、ふと何かを思い出したように
言った。
「そういえば、この辺にコイツが出現するのは２度目になるな。」
「そうね。それがどうかした？」
「・・・同じ地域に何度も出現したケースは今までに無いから気になってな。」
「じゃあ、ファルトガイスが巡回してみる？」
「いや、俺だと目立ちすぎる・・・。ベルセリアかメイランでやってくれ。」
「あまり気が乗らないわね・・・。スーラホルドじゃ駄目なの？」
「アイツは…確かに偵察用だが…。性格に問題があるしな・・・。」
「まぁ、帰ってからにしましょうか。」
そういうと二人は何処かへ去っていった。
続く
ラムス「さて、前回に引き続き・・・補足版と行きますか。作品中では、いちいち説明が面倒なキャラ設定
などの説明をさせて頂きます。さて、今回は・・・対ＤＦ組織とか言っている人達に関してやってみま
しょうか。・・・ええと、手元の資料によりますと対ＤＦ組織というのは・・・ええと・・・ええと・・・ええと
・・・ええと・・・。仮名、という事にしておいて下さい。
さて、構成員である方達の名前ですが、まず今回出てきた方から。機械兵の方はファルトガイスで
もう一人の方はベルセリアという名前らしいですね。前回出てきた方は機械兵の方がラーガルード、
この方はラーガと略されて呼ばれてましたね。それで女性の方はメイランといいます。そして今回は
名前のみのスーラホルドですが、この方も機械兵です。どんな方かは・・・登場してからに
しましょう。とりあえず、これくらいですね。」
次回予告
回を重ねる毎に影が薄くなっていく主人公アイン。最終回に出番が無くなる事を恐れたアインは突然、
全てを破壊し、強制的に最終回にしようと企む！アインの暴走をとめる事ができる人物は居ない！！！
次回『それでも主人公は俺だ！』
ラムス「・・・・。」
アイン「・・・・。」
第四話を読む
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