「ああ、一体我々はどうすればいいのだろう・・」
病室のドア越しに苦悩の声が聞こえる。世界を救った狂人、ゼルディ、いや｛MASTER OF RUIN｝の話である。彼はダーク
ファルスを倒した直後、変貌し、さらに総督を襲って弱みを握り、今となっては完全な独裁者になっていた。刃向かう者が
くれば魔法で消滅させ、団体を組むような動きがあればアンドロイドの兵隊に襲わせ、惨殺した。当初は刃向かう者が
絶えなかったがあまりに多くの死者をだし、あまりに強力な力の前に反抗する気力も失われていった。
病室の二人のレイマーはこの話を聞き、神妙な顔で話し合っていた。
「ゼルディの奴、一体どうしちまったんだ・・・」
「十中八九、ダークファルスに取り付かれている」
「・・・・何とか救えないのか？」
「・・・・殺害以外に方法はないだろうな」
ゼクドの言葉にラーディスは納得がいかなかった。彼は危機に直面すると必ず瞬時に最高の方法で切り抜ける。だがそれは
ほとんどが犠牲をともなっていた。
「なんとかできねぇのかよ？、前みたいにダークファルスと分離させるとか？」
「あの場合はダークファルスがリコを媒体にしていた。だが今回はゼルディの中に潜み、精神を乗っ取っている。憎しみの
力でダークファルスを滅ぼし、その憎しみ故に取り付かれた。皮肉な話だ・・・」
「本当に何とかできないのかよ？。お前、前にゼルディの親に「二人を守ってくれ」って依頼されたんだろ？」
そう、ゼクドは数年前にゼルディの両親に依頼をされていた。
「マグの実験、改良は非常に危険だ。一歩間違えればフォトンブラストを発動させ、暴走することがある。もし我々に
何かがあったらゼルディとエレンディラを守ってくれ。報酬は幾らでも払う。研究開発したマグを可能な限り提供する。」
ゼクドはこの依頼を引き受けた。だが今となってはゼルディは守れるどころか生かせる状態ではない。
「状況が状況だ。依頼を破棄する。」
「お前がそんな奴だったとは思わなかったぜ・・・・」
ラーディスは怪我をした体をひきずり、病室を出た。そしてゼクドはゼルディを抹殺するための準備に取り掛かった。
「アイツ一人を生かせば、全てが滅ぶ。アイツを殺せば、全てが元に戻る。考えるまでもないだろうが・・・・・」
ゼクドは用意を整え病室を出た。傷はまだ深いが治るまでにはどうなっているかわからない。ゼクドは一人MASTER OF RUINの
もとに向かった。
「危険分子発見、排除スル」
アンドロイドの兵隊が一斉に向かってきたが、ゼクドの敵ではなかった。戦闘能力は高いが実戦経験が少ないことを利用し、
次々とアンドロイドの兵隊を同士討ちにさせ切り抜けた。そして総督の部屋にたどり着くと、体格はそのものだがあきらかに
表情がちがうゼルディを発見した。
「ゼルディ、いや、MASTER OF RUIN！。この世の平和のため貴様には死んでもらう」
「ゼクドか・・・、ククククク、貴様ごときが我を倒せるのか？」
「いくぞ！」
ゼクドは一瞬で銃を抜き、MASTER OF RUINの心臓目掛けて数発の弾丸を打ち込んだ。あまりの速さに銃声は一つに聞こえる
ほどだった、しかし当たる瞬間に弾ははじかれた。
「クククク、無駄だよ。」
「これならどうだ！」
トリッキーな動きで間合いを詰め、剣を降り下ろした。しかし剣はMASTER OF RUINに当たる直前で見えないバリアに阻まれ
とどかなかった。
「今度はこちらの番だな」
MASTER OF RUINは強力なギバータを唱えた。数多の氷牙がゼクドに向かっていったが、ゼクドは飛んでくる氷牙を見切り、
鮮やかに避けた。
ゼクドはMASTER OF RUINの後ろにまわり、片手でラフォイエを唱え、片手で銃を撃った。反撃を許さないほどの速さで撃ち
続け、MASTER OF RUINのバリアに亀裂が入った。
「小賢しい！！」
MASTER OF RUINはラフォイエを唱えた。部屋中に大爆発が起こり、ゼクドには避ける術がなく直撃を食らい、吹き飛ばされた。
「ガハッ！」
大量の血を吐き、以前に斬り裂かれた傷口が開き、ゼクドの服は赤く染まっていった。しかし怯まずに銃を撃ち続けとうとう
バリアを破壊した。更にMASTER OF RUINの両腕、両足を撃ち抜き自由を奪う。
「これで終わりだ！」
「甘く見るなよ！！」
ゼクドが眉間を撃ち抜こうとした瞬間、MASTER OF RUINの傷が一瞬で回復し、更に数多の光の矢を放った。放たれた光の矢は
ゼクドの両腕、両足、復部を貫いた。
「グハァッ！！！」
ゼクドは仰向けに倒れ、大量の血を吐き身動き一つ取れなくなった。止めをさそうとした瞬間、一人の少女が現れた。
「もうやめてお兄ちゃん！、こんなの・・こんなの・・・もう止めて・・・・」
エレンディラは泣きながらMASTER OF RUINにすがりついた。
「なんだ貴様は・・・うぐ！？・・・うおおおおおおおおおおお！？！？！？！？」
突如MASTER OF RUINは頭を抱えもがき苦しんだ。表情が微妙に変化し、そこにはゼルディの意識が戻っていった。
「エレン・・！？・・・・ヨセ！近ヅクナ！・・・・エレン、俺は、俺は・・・・ヤメロオオオオオ！」
MASTER OF RUINはエレンディラの首をつかみ力を込めた、しかし殆ど力は入らず簡単に振りほどけるほどだった。
「エレン、離れろ・・・・キサマガシネバ・・・・早く、俺を殺せ・・・・ダマレコゾウ・・・・」
ゼクドは瀕死の体で立ち上がり、ゼルディに銃を向けた。
「ゼクドさん、早く俺を・・・ヨセ、ヤメロォ！・・・・早く・・・」
「やめてぇぇぇぇ！、お兄ちゃんを殺さないで！」
死を求めるゼルディ、そしてそれを抱き締めて庇うエレンディラ、ゼクドは一瞬迷った。だが狙いを定め、引き金を
ひいた。部屋中に乾いた音が鳴り響いた。弾丸はゼルディの眉間を正確に貫いた。ゼルディの頭から血が吹き出し、
仰向けに倒れた。
「いやああああああああ！、お兄ちゃん！、お兄ちゃん！！、死なないで！、私を一人にしないでぇ！！」
エレンディラはゼルディに向かい泣き叫んだ。ゼクドは瀕死の体を引きずり、二人の側までよってきた。
「ゼ・・・クド・・さん、今ま・・・で・・・・・ありがとう・・・ござい・・まし・・た・・・」
その言葉を最後にゼルディは動かなくなり、塵のように消え去った。
「いや・・いやぁ・・・いやああああああああああああ！！」
エレンディラはその場で半狂乱に似た状態で泣き叫び続けた。そしてゼクドは振り替えることなく病院へと向かった。
投稿の広場に戻る
トップページに戻る