ファンタシースターオンライン

不意にどこからか声が聞こえる。
「助けて・・・」
「やめてくれ、死にたくない！」
「もういやだ、殺してくれ！」
次々に悲鳴や絶望、恐怖に染められた声が聞こえる。
少年が目を覚ます。重たい頭を振り、天井を見上げる。しかし、目に映る天井は見たことのない天井だった。

「アレ？、なんでこんなところにいるんだろう・・・・」
少しずつ頭の中に過去が蘇ってくる。巨大な陽炎、光、殺された両親、瓦礫に埋まる妹・・・・
「！？、父さん？母さん？エレン？・・・・ハッ！」
夢であってくれ、ただの悪夢であってくれ、淡い期待とともに見知らぬ部屋を出る。かなうことの無い
祈りとともに・・・・

見覚えのあるレイマーが何かの資料に目を通しながら簡単な食事をとっている。そう、絶望の中から
救い出してくれたレイマーだ。
「起きたか・・・」
少年の方に目をやること無く、独り言のようにつぶやいた。どうやらパイオニア２のハンターズらしい、
いてほしくなかった。いなければ淡い期待に確信が持てたのに・・・、しかしレイマーは現実に引き戻す
事を聞いてきた。

「昨日のこと、覚えているか？」
「はい・・・覚えて・・います・・・。」
少年は震えながら答えた。記憶を探れば、まず浮かんでくるのは食い殺された両親だったから・・。
少年は強く目をつぶる、思い出したくない、しかし レイマーは、強く言い放った。
「現実を凝視しろ、たとえ逃げたところで現実はなにも変わらん」
さらにレイマーは問い詰めてくる。
「お前はパイオニア１の住人か？」
少年はうなずいた。
「あの爆発の時、何かを見たか？」
「大きな陽炎のようなものが見えて、光った、と思ってから記憶が無い・・・・」
レイマーは黙って聞いている。聞き辛かったが、少年はたずねた。
「ねぇ、ほかに助かった人はいないの？」
思い出された記憶のビジョンに、いるはずの研究者が消え、なぜか自分の家族だけが残っていた。
助かった人がいるなら科学者たちも爆発の後、逃 げたのだろう、しかし、レイマーの答えは予想を
裏切るものだった。

「助かったのはお前とお前の妹、それ以外は誰も見つかってすらいない」
「見つかっていない・・て？」
「言葉どおりの意味だ、発見されているのはお前たちだけだ」
なぜ、自分達だけしかいなかったのだろう・・・、爆発の起こる直前まで他の科学者達もたくさん
いたはずなのに、少年はこのことを聞いたがレイマーが知っているはずがない。彼はパイオニア２の
ハンターズである以外何者でもない。

「エレンは、妹は無事なのか？」
余り聞きたくなかった、安否は気になるが自分の記憶の中には、グッタリと気を失っていた妹しか
覚えがない。最悪の考えが頭に浮かぶ、もしあのままだったのなら・・・
「生きてはいるが、まだ目覚めていない。医者の話ならそう長くない内に目を覚ますそうだ」
少年は安堵感に包まれた、もし妹までも失っていたのなら立ち直りもできなかっただろう。せめて
妹だけでもでできるだけ幸せにしたかった。

妹とは血はつながっていない、パイオニア１の移住の時、両親が謎の奇病にかかりそのままエレン
ディラを残して死んでしまった。少年の両親が彼女を引き取り、その時から家族の一員となっていた。
血はつながっていなくても大事な妹だ、不幸にはしたくない。だが父と母のことはどう伝えればいい
のだろう、黙って隠し続けるべきなのだろうか、それともこの悲劇を伝えるべきなのだろうか。
少年が思いにふけっているのをよそに、レイマーが訪ねてきた。

「とりあえず政府にはまだお前達のことを伝えていない。お前が伝えて欲しくないのなら黙っておくが？」
「黙っていて下さい。妹を、さらしものにしたくない」
そう答えた途端、レイマーが銃、ウォンド、簡単な鎧とマグを取り出してきた。
「政府に伝えないのならお前は自分で金を稼ぐのだな、ハンターズとして登録すれば怪しまれずに
済むだろう。とりあえずフォニュームとして登録しろ、お前にはその才能があるようだ。このマグは
お前のいた研究所にあったものだ、始めから育てるよりも効率がいいだろう」

両親の仕事、マグの開発と研究、パイオニア１においては少ないハンターズの為だったが、まさか
自分が使うことになろうとは夢にも思わなかった。それだけに皮肉だった。
「もう一度聞くが本当にいいのだな、政府に言えば保護を受けられるが、ハンターズとなった以上
常に死と隣り合わせだ」
「構いません、たとえ死ぬことになっても妹さえ無事なら・・・」
「そうか・・・・だが」
レイマーはいきなり頭突きをしてきた
「！！！？？？？」
急なことで尻餅をついた少年に言う。
「ふ〜、命を粗末にするな、お前が死んだ時点でお前の妹を養うものはいなくなる。それに一人
残された者はどうなる。政府に頼らぬ以上、死んでもなどと考えるな！後、助けた礼ぐらいしろ！」
「あ、ありがとうございます。死なないように頑張ります！」
レイマーは手を差し伸べた。
「良い返事だ。だが自分の分は自分で稼げよ」
少年を起こすと手に持っていた依頼の書類を手渡した。
「そう言えば名前を聞いていなかったな、なんて名だ？」
「あ、俺、ゼルディ、ていいます」
こうして、ゼルディのハンターズとしての人生が開かれた。
これが後に、どんな悲劇が待ち受けているとも知らずに・・・・・

[ふむ・・・・じゃ、この依頼にいってきな」
そういってレイマーはゼルディに依頼書を手渡した。依頼主は同業者、つまり同じハンターズである。
実力の高くない者や道楽でハンターをしている者もいる。今回の依頼はドラゴンを一緒に倒して欲しい
とのことだった。レイマーの話ではそう大した相手ではないらしい、道楽ハンターの類だろうと話して
いる。実戦経験のないゼルディにとってもちょうどいい相手だ、と判断したのだろう。

「依頼が終わったら妹さんに顔でも見せてやりな」
そう言ったレイマーは自分の依頼人の方へ行った。レイマーは自分のことを話そうとしない、名前ですら
未だに教えてもらっていない。そんなところに少し不信感を抱くことがあるが、まあ悪人でもないようだ。
「俺も行くか・・」
ゼルディは用意を整え依頼人のもとへ走った。依頼人のもとには複数のハンターズがいる。どうも自分と
同じ初心者ハンターのようだ。
「え〜と、ゼクドさんですか？」
女性ハンターから不意に話しかけてきた。依頼書の写真をみるとこの女性が依頼人らしい。どうやらあの
レイマーの名前はゼクドという名前らしい。通称なのか偽名なのかもしれない。
「代理としてきたゼルディだ。」
「わかりました、じゃ〜いきましょ〜」
ほかのハンターを引き連れ一同は森へと向かっていった。初めての戦闘、震えはこないがそれよりも
ゼクドの方が気になっていた。偽名や通称ぐらい教えてくれてもいいのに・・そんな思いをよそに戦闘は
始まる。覚えたてのフォイエやゾンデを駆使し次々に敵を倒していった。どうやらマグの能力が初期の
状態より遥かに強くされているようだ、しかもMINDを中心にあげている、エリア一階の敵を倒しきって
もまだ少し余裕がある。
「さっすがゼクドさんの代理だけあって、とっても強いです〜。」
よこで肩で息をしている依頼人の女性ハンター、シャロンが話しかけてきた。しかしこの言葉は余り
気分がよくない、ゼクドの代理、しかも強いのはあらかじめ育てられたマグの力が大きい、自分の力
だけではそう簡単に倒せない、そんな思いが掛けめぐりしかしそれでもこれが強くなるには一番の
近道だということを疑わなかった。両親の仇を討つため、どれほど卑怯なことであっても強くなら
なければならない。決意を新たに進んでいった。

エリア２階も攻略したが肝心のドラゴンがいない、そう思っていた矢先ドームの中から凄まじい雄叫びが聞こえた。
「この中か・・」
壊れたドームのドアを壊し中に入っていった。しかしそこでみた物は予想を遥かに越える巨大なドラゴンだった。

ドラゴンは大きく息を吸い、首を天井に届かんばかりに高々と上げる。
「伏せろーーーー！！！」
同行してきたレイマー、リミテドが叫ぶ。戦闘中ですらほとんど喋ろうとしなかった彼が大声を上げることに
戸惑ったが、そんな彼がここまで叫ぶのだ何か危険がある、全員が同じようなことを思い、伏せる。全員の頭と
背中に熱風が通る、後ろを見ると、さっきまで立っていた場所からすぐ後ろが火の海になっていた。全員に緊張が走る。

「こ、こんなのに勝てるの？」
シャロンがおびえた顔で声を上げる、だれもがそう思った。予想を遥かに越えるドラゴンの強さと危険性、しかし
逃げることはできない。放たれた炎で入り口が閉ざされている。同行しているハンター、フィレトが叫んだ。
「皆怯むな、倒せない相手じゃない！全力でいくぞー！」
その言葉に反応したのか、リミテド、シャロンもドラゴン相手に向かっていく。
（そうだ、こんなところで死んでたまるか！）
ゼルディは恐怖を振り払い、ドラゴンにありったけの魔法をぶつける。ドラゴンは集中攻撃に耐えれず、上空へと
一時的に避難する。全員に（勝てる！）という意志が宿る。しかし次の瞬間、ドラゴンは上空から火の玉を吐き
出してきた。全員が逃げ惑う、上空にいては剣は言うまでもなく、銃ですらなかなか届かない。

「チィッ、ゾンデ！」
ゼルディの放ったゾンデがドラゴンに命中する。
（これなら届く！）
ゼルディは次々にゾンデを放つ、ドラゴンは繰り返されるゾンデに耐えかね落下する。激しい音とともにドラゴンは
地面に叩きつけられた。
「いまだ！」
リミテド、シャロン、フィレトがドラゴンの頭に集中攻撃をしかける。ドラゴンは呻き声を上げた後、動かなくなった。

「勝った・・の・・・？」
シャロンがしんじられない、という顔で話しかけてきたがまぎれもなくドラゴンを倒していた。
「やった・・・・やったぜーーーー！！！」
フィレトが歓喜の雄叫びを上げる。全員が勝利を確信し、はしゃぎながら抱きついてきた。
「みんな、みんなありがとう」
よほど感動したのかシャロンは涙を流しながら礼を言った。いつのまにか出口の炎も消え、ドームの外へ出てテレパイプを
使ってパイオニア１へと戻る。シャロンは依頼料を配り、全員笑みを浮かべながら帰っていった。ゼルディも例外ではない。
他人の力添えもあったが、恐怖に打ち勝ち、巨大なドラゴンに勝った。余韻に浸りながら笑顔で妹のいる病院へと向かって
いった。

「ようし、起きてたらたっぷりと武勇伝を聞かせようっと」
満面の笑みを浮かべ、病院の階段をかけ登った。もし起きていたのなら、両親の話もしなければならないことを忘れて・・・・

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